えくすとら! その三十八 人の振り見て我が振り直せ。浩之、お前は反省しる。
「くぅー! 惜しい!」
「ふふ! まだまだ甘いわよ!!」
「そんな偉そうな口も今だけですよ! もう一本、お願いします!」
「そんな大口も何時までかしらね? 良いわ、一本と言わず、二本でも三本でも相手してあげる!」
そう言って俺の目の前でバスケットボールをダムダムと付く桐生さん……と、そんな桐生の前で両手を広げて腰を落とす構えの瑞穂。
「……」
……。
………。
…………ええっと……
「っ! こっち!」
「甘いです!」
「――と、見せかけて!」
「な! 背中を回すドリブル!? 彩音先輩、どこで覚えたんですか、そんな技!」
「ふふふ! 私だって常に成長しているのよ! 舐めないで貰えるかしら! これで――っ! 上手いわね!」
「当たり前です! 負けるわけには行きません!」
ドリブルで抜きに掛かった桐生の目の前に腰を低く落とした瑞穂の姿が現れる。驚愕、後、獰猛な笑みを浮かべて瑞穂を見つめる桐生。
「……」
……ええっと……
「……なにこれ?」
話は今朝まで遡る。
◆◇◆
本来は遊園地にでも……と思っていたのだが、桐生の『どうせなら、二人で行く先を決めたい』の言葉に従い、遊園地は次回以降のデートに持ち越しとなった。
『……嬉しいんだけど……折角なら、一緒に予定を立てて、ドキドキを楽しみたいから……明日遊園地も嬉しいけど、なんだか勿体ない気がして……だめぇ?』
なんて可愛らしくおねだりする桐生に一発ノックアウト。遊園地は今度のデート、となった。まあ、『次の約束もあるなんて幸せ……』なんてほっこりした表情で言う桐生にオーバーキルされたのだが。
まあ、そんなこんなで俺と桐生の土曜日デートはアラウンド・ワンでカラオケ、昼食を適当に取って、図書館デートという……なんというか色気のないデートになってしまった。若干不満は残るものの……まあ、桐生が『活動的じゃないなら、可愛い服も着れるから……格好いい浩之の隣、歩きたいな……』という意見を尊重する事にした。ただまあ、夕ご飯だけはちょっと良い所をこっそり予約したが……まあ、これぐらいのサプライズは良いだろう。
そう思い、若干ワクワクしながら睡眠に付き、土曜日の朝を迎えたのだが……朝一に届いたメッセで事態は大きく……つうか、急変する事になる。
『……あれ? メッセが届いてる』
『誰から?』
『瑞穂。ええっと……は?』
『どうしたの?』
『いや……なんか、取り敢えずリハビリが一区切りしたらしくて。ボールを使った練習して良いらしい』
『良かったじゃない!』
『まあな。それで……もし、今日予定が無いならちょっと付き合ってくれないかって』
『……』
『まあ、予定はあるしな。断りのメッセでも――』
『……待って』
『――送り……なんだ?』
『今は七時でしょ? アラウンドワン、十時からだし……少しぐらい、付き合って上げたら?』
『……いや、でも』
『……瑞穂さんには……その、ちょっと申し訳ないと思ってたのよ。なんて言うか……瑞穂さんの怪我の……言い方は悪いけど、お陰というか……』
『……まあ、言わんとしている事は分かる』
『だから、せめてもの罪滅ぼしと云うか……その、もしかしたらこれも感じが悪いかも知れないけど……せめて、バスケットには付き合って上げても……』
『……』
『……でも、やっぱり二人っきりで行かれるのはイヤだから……わ、私も一緒で!』
◆◇◆
……なんて会話があって、八時から俺らの家の近くの公園でバスケ練習……というか、バスケを始めたんだ。ちなみに桐生が来る事については『申し訳ないですけど……彩音先輩も来てくれたら嬉しいです! 理沙と雫から上手って聞いてますし! リハビリ相手で浩之先輩はちょっとしんどいので、凄く助かります! 胸を借ります!』という返答があった。うん、こいつ、間違いなくバスケする為だけに来たな。
「……はぁ……上手いですね~、彩音先輩」
「……何を言っているのよ。瑞穂さんの方が上手でしょ? 結局、私負けちゃったし」
「そりゃ、私は経験者ですし……でも、経験者の私がこれだけ追い詰められてたら問題ですよね~。やっぱり、もっと練習が必要です!」
「リハビリ開けだから仕方ないでしょ? それより、無理はし過ぎないようにね? また怪我したら元も子もないんだから」
「はい!」
「よろしい」
そう言って笑いあう桐生と瑞穂。うん、まあ……仲が良いのは良いんだけど……
「……んじゃ、そろそろ良いか、瑞穂? 桐生、帰るぞ」
「ええー! もうちょっと付き合って下さいよ、浩之先輩!」
「もうちょっとって……」
現在時刻は九時半。一時間半も練習って、流石にやり過ぎだろうよ、おい。リハビリ開けだろ、お前。
「……ダメだ。怪我したら元も子も無いし……それに、用事があるんだよ、こっちも」
「そうなんですか? あちゃ……それは申し訳なかったです。その、お付き合い頂きありがとうございました」
俺の言葉にペコリと頭を下げてにっこり笑う瑞穂。こいつ、こういう所は素直なんだよな。若干寂しそうにしているが……でも、心を鬼にしてだな?
「……ねえ、東九条君?」
「……なんだよ?」
ああ、嫌な予感。
「その……もしあれなら、もう少し瑞穂さんにお付き合いしても……わ、私は構わないんだけど」
「……」
「え? い、いえ! 彩音先輩、無理はしなくて良いですよっ! その、勝手にこっちからお願いした事ですし……そ、それに浩之先輩にも彩音先輩にも用事があったんですよね? むしろ、ごめんなさい! 我儘言って!」
慌てて両手をわちゃわちゃ振って見せる瑞穂。な、桐生? 瑞穂もこう言っているんだ。
「……でも」
「……」
「……瑞穂さん、折角……」
……。
「……あのな、きりゅ――彩音」
「……え? ひゃ、ひゃい!」
「……俺は今日、彩音とデートしたかったの。そりゃ、彩音がデートより、瑞穂とバスケしたいんだったら……別に今日のデートは無しでも良いけど」
俺の言葉に、驚いた様に目を見開く彩音。
「な、無しじゃなくても……そ、その……ちょっと、遅らせるとか……」
「……」
「……え、ええっと……」
彩音の声にならない言葉が口から漏れる。そんな彩音と――それと、俺を見ながら、瑞穂がため息を吐いた。
「……はぁ。彩音先輩。その、そこまで気にかけてくれるのは嬉しいですけど……ダメですよ、デートのお誘いなら優先しないと」
「で、でも……」
「気を使ってくれたのは分かりますけど……もうちょっと構って上げないと、拗ねますよ、浩之先輩」
「ば! べ、別に拗ねねーよ!」
「はいはい。まあ、それじゃ私は帰りますね~。お二人とも、ありがとうございました~」
もう一度、ペコリと頭を下げると瑞穂は『それじゃ!』とボールを持って公園を後にする。残された俺らは目を見合して。
「……一旦、帰るか。汗も流さないといけないし」
「……そうね。その……ご、ごめんなさい。わ、私……」
俺の言葉に、動揺した様におろおろし出す彩音。
「……いや、俺も悪かった。瑞穂の言葉じゃないけど、ちょっと拗ねてたかもしれん」
「拗ねてって……べ、別に貴方の事をどうでも良いって思った訳じゃないのよ!? そ、その……」
「ああ、いい。なんとなく、理解も出来るから。それに……」
……なんとなく、彩音の気持ち……つうか、今までの事が理解できた気がするし。自分を放っておいて、他の人と仲良くされるって、こんな感じなんだな。マジで反省するわ、俺。
「……悪かったな」
「……ううん、こちらこそごめんなさい。その……」
落ち込む彩音の頭をポンポンと撫でる。
「……いいよ。それじゃ……改めて、デート、行こうぜ?」
「……うん!」
そう言って、綺麗な笑顔を彩音は見せてくれた。
新作を始めました。
『百貫デブで動画配信者の僕が、学校一の美少女と同棲する事になった』
霊長類最強ポンコツ系お嬢様と百貫デブが繰り広げるラブストーリーです。宜しければそちらも応援、宜しくお願いします。




