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81 引き金


 サンタナ砦へと帰還したグレンとイザーク。

 先に帰還していた秋斗達は客室で休んでいると侯爵から報告を受け、2人は秋斗のいる客室へ向かった。

 室内のソファーで休む秋斗と彼を世話する女性達。

 グレンは何度見ても「アイツがハーレム……」と賢者時代の研究一筋だった秋斗とのギャップになんとも言えない気持ちになるが、そんな事よりも秋斗から理由を聞く方が重要なので我慢した。


「で、大丈夫なのか?」


「ああ、すまん。疲れてはいるが大丈夫だ」


 秋斗はソファーに座りながら、この時代に目覚めてから1番と言えるほどに体力を消耗していた。

 本人としてもその理由はわかっており、理性が無くなる程の狂気に身を染めたのが原因だろう、と皆に語る。


「あれだけ暴れればな。それで今回、ああなった理由は何だ? アークエルの報復作戦の時はお前の仲間が殺されたからだと思っていたが、今回はそうじゃないんだろう?」


 グレンは秋斗の対面に座り、腕を組みながら言葉を濁すこと無く問う。2人の間柄は既にそういった気遣いをするほど浅いものではない。

 報復作戦の件でグレンが気付いた事も含めて告げて、秋斗の答えを待った。


「ああ……。お前の言う通り、仲間の死がトラウマなんだろう。今回は……あの拷問を受けていた騎士の姿が、嘗ての仲間と重なったんだ。部隊の仲間が殺されている光景を思い出したのまでは覚えてるんだが……」


「そこからは覚えてない?」


「ああ」


 やはり、最初に参戦した戦争で出来たトラウマがトリガーとなるのか、とグレンは推測が当たっていた事へ内心舌打ちする。

 原因は戦争。そして当時の無能な政治家達に苛立ちを覚える。奴らが過ちを犯さなければ秋斗は狂わなかった。だが、結果論に過ぎず既に終わった事を考えても仕方ないと考えを切り替えた。


「お前が内に狂気を抱えているのは知っている。トラウマがあるのだろうとも予想していた。原因はお前が最初に学徒兵で徴兵された戦争、だな?」


「そうだ。俺はあそこで部隊の仲間を失った。共に夢を語り合った親友達を殺された。グーエンドの兵士が俺の仲間を切り刻んで笑う姿は、俺は忘れられないだろう」


 戦争という地獄の中で、共に身を寄せ合って眠った。共に背中を守り合いながら生き抜いた。戦争が終わり、平和な中央区に戻ったら何をしようかと語り合った仲間であり親友の彼らはもういない。


「俺が技研で知識を得た後に軍へ技研の協力員として復帰したのもそれが理由だからな」


「復讐か」


 秋斗の根底にあるもの。今の秋斗を形作った最大の理由。


「ああ、そうだ。あの地獄を作った元凶……。仲間を笑いながら殺した奴らに復讐するために俺はアークマスターとなったッ! あの時のように……仲間が殺されるのを、理不尽な力に押し潰されないようにッ! 俺は圧倒的な力を創り上げたんだッ!」


 秋斗は声に怒気を含ませて叫ぶ。

 

 戦場から帰った秋斗の心には狂気が生まれた。その狂気を身に潜ませながら、グレゴリーを師として誰にも負けない力を求め創り上げた。

 数多くの殺戮兵器を統率する右目と相手を粉砕する右腕がその証拠であり、その復讐の道具を持って理不尽を突きつける相手を全て殺す。

 あの時の敵兵と同じように、笑みを浮かべて相手を蹂躙する。

 それこそが秋斗の復讐。仲間を助けられなかった秋斗の贖罪。


「秋斗」


 リリが秋斗の背中を摩り、気持ちの高ぶる秋斗を落ち着かせる。


「理由はわかった。だが、理性を失うのはやりすぎだ。対策は後々一緒に考えよう」


 グレンは秋斗が今語ってみせたモノが全てではないと察するが、気持ちが高ぶる秋斗を見れば包み隠さず全てを話せとは言えなかった。

 また少しずつ聞き出す機会を作るべきだとして、この話は終わりにする。 


 ともかく秋斗の暴走となるトリガーだけでも把握しておけば事前に策は打てる可能性が高い。

 今回の拷問された味方という条件がわかったのも大きいとグレンは考える。


 王家の女子達も顔を見合わせて頷き、リリが口を開く。


「秋斗。今後は私達が傍にいるから、今日みたいになりそうだったら言って。もう1人で辛いのを抱えないで私達を頼って欲しい」


「そうだ! 私が旦那様を守るのだからな! 安心するといい!」


「ええ。私達も秋斗様の隣にいますから。もう1人にはさせません」


「私も、その……傍にいます」


 背中を摩るリリ、腰に手を当てて気合を入れるオリビア、秋斗の手を握って微笑むソフィア、そして控えめながら自分の意思を伝えるエルザ。


「すまん……。ありがとう」


 秋斗が今まで友人や恋人を極力作らなかったのは失うのが怖かったから。必要以上に人と接するのを避けてきた。

 だが、自身を支えると言う彼女達はとても温かく心地良い。

 この温もりを失わないように、次こそはと決意する秋斗であった。



-----



「それで、イチャコラしているところすまんが秋斗にはもうひと働きしてもらわなければいけなくなった」


 秋斗と女性達を茶化すように言うグレンであるが、彼の表情は言葉とは反対に真剣なものであった。


「秋斗、アークエル軍の西部基地を覚えているか?」


「西部基地? お前が勤めていた基地か?」


「そうだ。どうやら帝国は基地に奴隷を集め、基地に格納されている兵器を掘り起こして軍事利用するつもりらしい」


 グレンは生き残りだった奴隷商から聞き出した内容を秋斗達へ説明する。

 奴隷になっているのが東側の住民だけ、という点は秋斗も驚いて周囲の者へ聞かなかったのを反省していたが救出はやりやすくなったと少し表情が和らぐ。

 説明も終わり、グレンは早期救出の提案と秋斗を無理させてでも向かう理由の核心へと迫る。


「秋斗、アークエル軍西部基地――フィノイ陸軍基地の地下には高圧縮魔素弾頭ミサイルが眠っている」


「……なるほど。確かにそれはマズイ」


 グレンと秋斗が脅威とする高圧縮魔素弾頭ミサイルとは、旧時代にあった核弾頭に代わって君臨した賢者時代における最大兵器の1つ。

 効果は核弾頭の魔法版と言うべきか、着弾と共に顕現される超大威力の殲滅魔法によって街の1つや2つ簡単に吹き飛ばし大陸に穴を空ける程の威力を持つ。

 さらには高圧縮された魔素の残滓が広範囲に広がり、残滓による魔法阻害で数十年は魔法やマナマシンが使えなくなるし人体にも影響が出る最悪の兵器。害あるそれらを除染しようにもマナマシンも魔法も使えないので自然に任せるしか手は無い。

 

 だが生産には高い技術力を要する。所持していたのはアークエルとオーソン、他に2ヶ国が所持していたが当時は条約やらがあったので所持していたとしても実際は抑止力としての意味合いが大きく使われた例は過去に1度だけ。

 グーエンドは生産を試みたが失敗し、一部の噂ではアークエルへ侵攻した理由は弾頭を奪うためという噂も囁かれていた。  


 賢者時代では法律と国際条約などによって使用を禁止されていたが、そのような縛りの無い現代で使われてしまったら。

 帝国が手に入れれば、長年侵略を続けているにも拘らず防衛されてしまっている東側へ撃ち込むのは確実だろう。


「地下に格納されている弾頭は強固な扉と認証システムで厳重に封印されているが、システムは既に機能していないだろう。オリハルコン合金の分厚い扉はあるが、それも時間を掛ければ破られる。よって、準備が出来次第に現地へ向かって情報収集を行った後、私と秋斗の2人で奴隷となった人々を救出、基地地下に格納されている弾頭を破棄する作戦を展開したい」


「わかった。弾頭を帝国に渡すわけにはいかない。すぐに準備を始めよう」


 秋斗はソファーから立ち上がり、準備をしようとするが隣に座っていたリリが立ち上がった秋斗の手を握る。


「大丈夫?」


「疲れてはいるが大丈夫。次はちゃんとするよ」


 確かに疲れ頭は重いし、また理性を失うのではと思うと不安な気持ちはあるがそうも言っていられない。

 

「次は私も一緒に突入する。必ず秋斗を無事に帰すと約束しよう。それに、君達には奴隷となった人達の救出や搬送を頼みたい」


 グレンも不安は抱えているが、もはや迷っている暇は無い。騎士団を連れて大人数で基地へ押しかければ、西側の者達は必ず奴隷達を盾にするだろう。

 犠牲を出さない為にも秋斗とグレンの2人で潜入して敵兵を無効化して行くしかないし、弾頭の破棄を行える者は秋斗しかいない。


「確かに不安もあるだろう。しかし、私に任せてほしい」


 グレンはもう一度全員を見渡した後で頭を下げた。


「わかりました。これが終わったらしばらくはゆっくり休みましょう」


「そうですね。壁の設置も終わりますし、グレンに現代の街も案内したいですから。賢者と軍将が奴隷解放を行って街に凱旋したら、きっと街が大騒ぎになりますよ」


 ソフィアが微笑みながら提案すると、イザークもソフィアの提案に乗って秋斗とグレンをからかうように未来を語る。


「うむ。ならばガートゥナの王都にも寄ろう。母様も喜ぶ」


 オリビアが腕を組みながらうんうん、と頷く。

 

「みんなで協力すれば上手くいく。終わったら豪華で美味しいご飯」


「はは、そうだな。美味いもん食おう」


 相変わらずな食い気の多いリリの言葉に秋斗もようやく笑顔を浮かべる。

 各々がやるべき事を成す為に作戦に向けての準備を始めた。

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