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30 閑話:宮廷魔法使いと近衛騎士


「うう~む。全くもって構造が謎じゃ」


 宮廷魔法使い筆頭。ただの歴史学者である私には過分な地位だと自分でも思う。

 そんな私は賢者様である御影秋斗様が製作した魔道具を弟子であるケビンと共に拝見している。


「そうッスね。自分が持ってる魔道具と作りが似てるけど、なんか中身が多いッスね」


 ケビンは箱に詰められた魔道具を片手に中身を引っ張りだして眺めたり、カチカチと突起を押したりしていた。

 賢者様が別に壊してもいいよと、言われたがそんな雑な扱いをするんじゃない。見ていてヒヤヒヤする。


「とりあえず言える事はワシらが魔道具を作る際に使われる技術とは違う。今の時代の魔道具はこんなにも細かい部品は無い。それに魔石が存在しなかったと秋斗様が言っておったしのう」


 きっとこの板に取り付けられた細かい部品が、複雑な動きや多くの機能を付与しているのだろう。

 秋斗様の作ったシールドマシンという物も、今の時代に作られる魔道具と比べたら月と沼亀くらい違う。


 ドワーフ族と共同で作り上げた街に設置された給水魔道具や洗面所も、賢者時代の文献を調べ上げてようやく作れた代物。しかも1台作るのすら大変な苦労だった。

 原動力となる魔石は頻繁に変えなければいけないし、欠点は山ほどある。


「しかし、これは魔石を原動力にせず動く……。秋斗様がお作りになるところを見たが作り方も理解不能じゃ。やはり伝説の魔工師という称号は凄まじい」


 あのシールドマシンと呼ばれる魔道具を作った時を思い出す。

 あれはまさに魔法だった。


 現代には無い、失われた技術そのものがあった。

 思い出すだけでも、凄まじさに鳥肌が立ってしまう。


「やっぱり、秋斗様に今の技術を見てもらうのが良さそうッス」


 ううむと私が唸っていると、ケビンが手に持った魔道具を箱にしまいながら呟いた。


「そうじゃなぁ。王都に行って落ち着いたら陛下に頼んでみよう」


「秋斗様も魔石について研究したいって言ってたから新技術が生まれるかもしれないッス!」


 確かにケビンの言う通りだ。賢者時代には存在しない素材だという魔石。

 秋斗様も大変興味を持っていた様子。新たな魔石の利用方法が確立されれば、街の給水魔道具も欠点を改良できるかもしれない。


 そんな事を考えていると馬車が止まった。今日はここで野営じゃろうか。

 今日は秋斗様に色々質問してみよう。


 賢者時代の事も聞きたいし、魔道具の事も聞きたい。私の歴史学者としての血が騒いでしょうがない。

 いつかは秋斗様と共に遺跡に行って発掘もしたい。

 しかし、伝説の魔工師を求める声は多いだろう。お優しい秋斗様は、きっと手を差し伸べる。


 各国の王族が集えば一度は自国に訪れて欲しいと言うじゃろうし、我が国が独占して良いような存在ではない。

 

 じゃが、幸いにも私はエルフ。まだまだ死にはしない。

 秋斗様がお暇になるのをじっと待ち、秋斗様に賢者時代の様子を深く教えてもらうのじゃ。

 そして、孫や妻に自慢しよう。


「先生、ニヤニヤしてないで早く火起こしするッスよ」


 おっと、姫様が秋斗様へ手料理を振舞うのを手伝わなくては。

 


-----



 私はジェシカ。ジェシカ・オーバーン。子爵家の次女です。

 うちには男の跡継ぎがいません。ですが、姉様が婿養子を貰ってきたので私が跡継ぎ問題に駆り出される事がなく安心してます。


 私には政治をどうこうするよりも剣を振るう方が向いてます。

 小さい頃から父親に剣を習い、今ではエルフニア王国近衛騎士団第3中隊の隊長です。


 父も私が近衛騎士になった時は喜んでくれました。近衛騎士になれたのは私の自慢です。

 しかも、第3中隊は姫様付きの護衛騎士隊なので女性騎士が多く、職場環境にも満足しています。


 第3中隊の隊長に抜擢されるまではむさ苦しい男性騎士と遠征したり、魔獣狩りに出たりと大変でした。魔獣狩り任務でB級魔獣のウッドモンキーを単機討伐した功績が騎士団統括の目に留まり、隊長になったのです。ふふん。


 隊長になって、男性騎士が命令に従ってくれるか不安だったけど6割は女性騎士。

 最初は男性騎士達も私の実力を疑っていたようですが、模擬戦での実力と他の女性騎士達による女の眼で訴える圧力に負けたのか、アッサリ命令を聞いてくれるのにも助かっています。

 

 姫様の警護が主な任務である私達は、姫様が外へ出掛けるのであれば当然同行します。

 今回は賢者様がお目覚めになったとの報告を受け、姫様が迎えに行くのです。


 しかも、お目覚めになったのはあの伝説の魔工師、御影秋斗様!

 姫様にとって秋斗様という存在は城の廊下をルンルンとスキップし、目の中にハートマークを浮かべるくらい憧れる人です。


 もちろん、私や一般人から王族まで秋斗様に憧れない人はいません。

 豊穣の賢者ケリー様監修である秋斗様の活躍を描く英雄譚は、発売してから今までずっとベストセラー。


 男の子から女の子まで、誰もが寝る前に読んでもらう物語 第1位! 演劇の題材になる物語 第1位!


 国のため、仲間のため、自分が傷つくことを厭わずに果敢に敵を殲滅する秋斗様に憧れない人はいません。


 ですから、姫様が秋斗様のお嫁さんになるのを妄想して涎を垂らしまくっていても何もおかしくないのです。

 私は剣を振るのが好きですが、結婚したくないわけではありません。

 姫様のように秋斗様と……とは言いませんが、誰かステキな人はいないものでしょうか。




「ほげええええええええええ!!」


 いけません。姫様が賢者様の前で白目を剥いて気絶しました。

 挨拶している時に姫様が必死で雌の顔を隠して、王族らしく振舞っていたのにこの結果。


 まさか私も大公家令嬢であるリリ様が秋斗様の嫁宣言をするとは思いませんでした。と、いうかリリ様が首輪を嵌められ、秋斗様に助けられたとか。


 もうヤバイです。一歩間違えればヴェルダと全面戦争でした。リリ様を助けた秋斗様に感謝ですね。しかも首輪を外しちゃうとかヤバくない?


 とにかくヤバイ顔で気絶している姫様を移動させなくては。このままでは姫様のヤバイ顔を見た秋斗様が姫様の好感度を急降下させちゃいます。もう直角に急降下しちゃうくらいヤバイ顔ですからね。


 近くに待機していた男性騎士も姫様の顔にドン引きしていますが、忘れるよう命令しました。私マジ有能。


 気が付いた姫様は現実に耐え切れず、口から闇の波動を放つ呪詛をブツブツと呟き続けています。

 顔は治りましたが今度は目がヤバイです。


「姫様。そろそろ戻ってきて下さい」


「フフフ……フフフ……」


 私が何を言っても立ち直りません。


 この状態になった姫様は本当に面倒なんですよね。はーメンドイ。

 と、思っていたらリリ様が姫様を回復させました。さすが従姉妹であるリリ様。今日もクールなお顔がステキです。リリ様マジ有能。


「ジェシカ! 私、やるわ! 手料理を作って秋斗様にアピールするわ!」


「その意気です! 姫様の超絶美味しいと評判の手料理を振舞えば秋斗様もイチコロです」


「ふへへ! ふへへ!」


 さすが姫様。立ち直ったらすぐに雌の顔です。その調子!




 どうやら秋斗様は姫様を受け入れた様子。

 秋斗様とリリ様が姫様の天幕に入っていった後、アラン殿とこっそり聞き耳を立てていた甲斐がありました。


 今夜、お目覚めになった賢者様が秋斗様だった事と合わせて陛下にご報告できるでしょう。

 リリ様がエルフ狩りに遭われた件を聞いたらロイド様は卒倒するかもしれないけど、報告しないわけにはいかない。


「王都へ報告に向かいなさい。賢者様が秋斗様だったこと、リリ様の件、あとは帰還の大まかな日程も騎士団長へ伝えなさい」


「ハッ!」


 私が王都への報告に向かうよう指示を出した後、お茶を飲んでいると秋斗様が天幕から出てきた。

 おや? 姫様と一緒に寝ないのかな?


 私が疑問に思っていると、アラン殿が秋斗様をお誘いして一緒にお話することに。家族に自慢することが増えました。みんな羨ましがるだろうなぁ。ふふん。


「壁ですか?」


 アラン殿と一緒に西側の奴隷問題について話すと秋斗様が国境付近に壁を作ると言い出しました。

 しかも秋斗様自ら作ってくれるという。壁の説明を聞いたけど凄い物が出来上がりそう。これで被害が無くなってくれたらいいなぁ。


 それに、秋斗様は奴隷問題について積極的に力添えをしてくれると言ってくれました。やっぱり賢者様は偉大でお優しい。

 

 王都に向かう際は姫様もゴキゲンで秋斗様にくっついている。あのクールなリリ様でさえ秋斗様にメロメロ。

 2人して雌の顔を浮かべて馬車の中で甘えているのを見るのは目に毒です。


 でも、秋斗様はちょっと遠慮しているように見える。姫様にコッソリ聞いたら、一夫多妻という今の時代の娶り事情に戸惑ってるようだと教えてくれました。


 確か賢者時代は1人の嫁を娶るのが普通だったって本に書いてあった気がする。ケリー様も1人しか娶らなかったって話だし。


 でも、秋斗様は姫様とリリ様を娶るようだしお世継ぎがいっぱい産まれるのは良い事だよね。

 姫様とリリ様の胸が当たっていると秋斗様も嬉しそうな顔をしているし、嫌じゃなさそう。

 これでエルフニアは安泰!

 

 でも、いきなり斬りかかって来いって言うのはやめてほしい。心臓に悪いです。

 あと、あの見えない壁を殴って壊せるっておかしい。

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