表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/160

18 王都へ出発!

 シールドマシンのお披露目と効果の実証を終えた後、昼食を取った秋斗達はついに王都へ向けて出発する事となった。全ての資材や山のように積まれた秋斗の材料も無事全て積み込む事ができたので遺跡に留まる騎士はおらず、全員で王都を目指す。


 秋斗、リリ、ソフィアの3名は王族専用の馬車に乗り込む。本来ならばアランも一緒に乗り込むはずだったのだが、秋斗の材料となっている試作品を見てみたいと秋斗に申し入れ、秋斗も特に触って危険な物も無いので許可を出した。


 その為、アランとケビンは残った食料やテーブル等と材料を積み込んだ馬車の荷台に乗り、移動しながら古の遺産とも呼べる魔道具を観察する事となった。

 騎士達は馬に乗り、馬車を中央に前後左右を囲みながら護衛する陣形。

 

 護衛する騎士達に見守られる中、秋斗達は馬車へと乗り込む。全員が乗り込むと、ドアを開けてくれていた隊長であるジェシカから王都へ向かうまでの行程を説明する。


「ここから王都までは途中で休憩を挟みながら向かいます。今日、明日と野営をして明後日の正午には王都に到着する予定です」


「わかりました。安全重視で向かいなさい」


「ハッ!」


 ソフィアの言葉にジェシカは敬礼し、言葉を続ける。


「私は馬で馬車と並走致しますので、何かございましたら窓から声をお掛け下さい」


 ジェシカの言葉に馬車内の3人が頷きながら返事をすると、ジェシカは馬車の扉をゆっくり閉める。その後、出発する! とジェシカの凛々しい声が聞こえ、ゆっくりと馬車は王都に向けて進み始めた。


 馬車が進み始めると、秋斗は腕を組んで窓から見える景色に目を向けながら目的地であるエルフ王国の王都を話題にする。


「王都か。どんな所かワクワクしてきた」


「ふふふ。楽しみにしてて下さいね」


 秋斗の言葉に、ソフィアは胸に秋斗から渡されたシールドマシンを抱きながら笑みを浮かべて答える。


「ここから王都までの道に街や村は無いのか?」


 秋斗は窓から未だ続く森に目をやりながら、質問を投げかけた。


「うん。ここは他の街に続く街道から外れてる。丁度、街と王都の中間みたいな場所だから街に向かってから王都に行こうとすると大回りになる」


「ですので、申し訳ないのですが野営になってしまうんです」


 窓の景色から秋斗の対面に座るリリとソフィアに視線を移し、会話を続ける。


「いや、気にしないでくれ。2日間あるし、その間に今の時代の事を少し聞いておこうかな」


 2日も行程があるのだし、王都に到着する前に周辺にある国くらいは聞いておこうと考える。後は存在する種族も聞いておきたい。


「わかりました。何でも聞いて下さい」


 こうして質問タイムが始まった。


「まずはエルフの国周辺の国についてかな。敵か味方かは知っておいた方が良さそうだ」


 秋斗の事をケリーから聞いていて、ケリーが知識を授けたのだからエルフ達は味方だろう。ヴェルダ帝国が敵、東側にある国は味方と大まかな情報は知っているが、おさらいも兼ねて説明を受ける事にした。


「そうですね……。まずは今いる大陸ですが、大陸の大体中央に国境があります。そこを境目に東側と西側に分けます。東側が今現在いる場所です」


「ん。西側には前に言った帝国がある」


 ソフィアが大筋を話、リリが補足を担当するように2人の講義は続く。


「まずは東側の国ですが、私達の国であるエルフニア王国。これは代々エルフ族が王として国を治めています。大陸東側の南側にエルフニア王国が存在し、大陸中央には人族の王が治めるレオンガルド王国。北側には獣人族とドワーフ族が共に生活する獣王国であるガートゥナがあります」


「ん? ガートゥナは獣人とドワーフの2種族なのか?」


「はい。ガートゥナ王国の王は赤狼族という獣人族が王として国を治めています。元々はドワーフ族も王権を持っていたのですが……ドワーフ族の王家が国の運営よりも鍛冶や研究を優先したいと言い出し、獣人族に国の運営を任せたので……」


「ドワーフ族は寝る間も惜しんで武器を作ったり遺跡を発掘したり、発掘で見つかった古の魔道具を研究する人ばかり。何よりもそちらを優先する」


 なんとワーカーホリックな種族なんだろうというのが秋斗の感想だった。確かに物作りや未知なる研究の楽しさというのは理解できるが、寝る間も惜しんでというのは自分以上じゃないかと思う。


 確かに過去に勤めていた研究所では徹夜しながら研究を続ける者達もいたし、彼らの言い分や気持ちも理解できる。ドワーフに対しては根っからの研究野郎が多い種族なのかという第一印象を持った。

 

 秋斗がなるほどと納得したのを確認し、ソフィアは説明を続ける。


「そして、大陸東側から海を挟んで更に東側に魔人族が治める島があり、そこがラドール魔人王国です」


「魔人族は海を挟むのか。遠いのか?」


「ううん。船で30分くらい。レオンガルドの東端にある港町から島が見えるし、船が定期的に出てるからあまり遠さは感じない」


 リリはそう言いながらソフィアを見る。ソフィアもリリの言葉に頷いた。


「そうですね。あまり遠くはないかと。東側の国は以上ですね。他にも大陸の外には小さな島に国を作っている場所もあるのですが、そこは閉鎖的な所が多いのでまずは4ヶ国を覚えて頂ければ大丈夫です」


 秋斗は2人の説明を受け、顎に手を当てながら大まかな地理を思い浮かべる。昔の大陸――自分が所属していたアークエルという国が存在していた際、ソフィアの説明と同じように大陸中央に国境が存在し、西がヴェルダの前身であるグーエンド、東がアークエルとなっていた。


 そして、アークエル中央には魔法科学技術院があった。恐らくその辺りがレオンガルド王国だろうと当たりを付ける。

 更に北側には山脈が存在していて鉱石類などを採掘する採掘場や鉱山があった地区なのだが、鉱山があった辺りがガートゥナだろうかと推測する。


 魔王国については、かつての自宅から徒歩1時間程度の場所が海へと変貌していた事実から、現在の東端がどの位置なのか判断できなかったので保留とした。王都に着いたら東側の地図を見て比較しようと考えた。


「西側についてですが、まずはヴェルダ帝国。こちらはリリから説明されたと思いますが、西側の中では一番東寄りにあるので我々にもっとも一番近い国です。特徴としては皇帝を頂点とし、軍事力に力を入れています」


「軍事力ねぇ。後は奴隷制度があるんだな?」


「はい。ですが、奴隷制度は西側にある国全てに存在します」


「帝国だけじゃなかったのか」


 秋斗のウンザリしたような顔を見て、苦笑いを浮かべながらソフィアは説明を続ける。


「西側にはヴェルダ帝国の他に、リンドアース聖教国と魔法都市アルデマがあります。リンドアース聖教国は聖教会という宗教団体が国のトップ組織で、教皇を頂点として成り立っています。特徴ですが……人間至上主義というモノを掲げていて、私達のようなエルフや獣人、ドワーフや魔人族といった種族を亜人と呼んでいてあちらの国では討伐対象になっていますね。その流れが帝国にも影響して、討伐するならば労働力として使えば良いのではないか、という事で奴隷制度が出来上がったらしいです」


「西側にいた異種族のほとんどは東側に逃げてくるか、討伐されるか、奴隷にされるかでもう存在しない。あっちは普通に暮らしている異種族は存在しない。あと、レオンガルドに住む人族も異種族と交わる異教徒って言われていて人族でも奴隷にしてる」


「魔法都市アルデマは国というか…。複数の組織が集合して暮らしている感じでしょうか。国のトップは民の中から選挙で決まるらしいのですが、どの国とも交流を持たず、鎖国状態なので情報が無いのですよね」


「魔法使いが偉い。使えない人は人権が無い……って話をギルドで聞いた事があるけど噂程度だから本当なのかは不明」


「西側の国で大きいのはこの3国ですね。東側は常に一番近いヴェルダ帝国と睨み合いを続けています。人族至上主義を掲げるリンドアースとは戦争をした事はありませんが、東側の人々を奴隷として扱うという事から西側の国には好意的な印象がありません。西とは国交断絶状態で東側の国のみで交流しています。アルデマは鎖国状態なので断絶という表現が合うかは微妙ですが。」


 ソフィアは、ふぅと息を吐いて説明を終えた。


「なるほどねぇ……」


 秋斗は彼女達の説明を受けて、この時代に対する自分なりの考えを巡らせる。説明からすると、自分の事を好意的に受け止めてくれるのは東側のみだろう。西側の話を聞いて行ってみたいという感想が微塵にも浮かばないし、どの国も何かしら面倒そうだ、というのが一番に頭に浮かぶ。

 

「俺の意見としては、東側で暮らしていければ問題無いかな。西側に行こうって気持ちが微塵も起きない」


 ソフィアとリリの説明を受け、秋斗は己の考えを2人に伝える。秋斗自身はエルフという種族に保護され、好意的に接してくれるので異種族に不快感は無い。

 意思疎通が出来るのだから文化の違いや姿の違いはそういうモノとして受け入れてしまい、交流できないにしても放っておけばいいのに、というのが秋斗が思う西側への総合的な感想だった。


「あとは、敵国……東側が西側を敵とする理由はわかった。俺としてはチョッカイを掛けられなければ放置かな。人攫いの対策はするけど。」


「チョッカイ?」


 秋斗の言葉にリリが可愛く首を傾げる。その様子を見ながら、笑みを浮かべて秋斗は問いに答える。


「うん。戦争を仕掛けてくるとか。強引に奴隷にしようとしてくるとか。あちらの賢者が攻撃してくるとか」


「仮に秋斗様が仰る事が起きたらどうなさるのですか?」


 リリに続いてソフィアからの質問に、秋斗は口に三日月を浮かべながら告げる。


「滅ぼすよ。全力で」


 秋斗の浮かべた表情と発せられた言葉に、ソフィアはビクッ震える。

 何度も読み返してきた英雄譚。魔工師の戦いが語られている内容が真実なのか100% 信じているかと言われれば嘘になる。だが、目の前にいる秋斗の表情と当たり前のように告げられた言葉が本の内容に信憑性を与えた。


 ソフィアの、王家の姫としての直感が告げる。きっと、この人は物語のように国を滅ぼすのだろう、と。

 だが、不思議と恐怖感は抱かない。この人がいれば安心だ、という漠然な安心感がソフィアに湧き上がる。


 むしろ、秋斗の表情を目にしてジワリと下半身に熱を覚える程にソフィアにとっては魅力的で魅惑的な表情だった。 


「ハァハァ……秋斗カッコイイ……」


 ソフィアは耳に届いた声の主の方を向くと、頬を赤らめて恍惚とした表情を浮かべて股の間に両手を挟みこむ従姉妹がいた。


(私達……マゾなのかしら)


 ソフィアは自分と同じ感情であろう表情を浮かべているリリを見て、嬉しいような恥ずかしいような複雑な心境だった。


-----


 時間的には秋斗達が出発するよりも少し前。


 エルフ王国の王都には2人の騎士が目の前に見える大きな城門へと馬を走らせていた。

 城門前には王都へ商売しにやってきた商人や、各国に存在する傭兵ギルドの傭兵達が入場しようと荷物検査と身分証検査の順番待ちの列を形成しているのが見える。


 馬を走らせる2人の騎士は、いつもの光景を目にしながら騎士団専用の入り口へ馬のスピードを落す事無く走らせる。


 騎士団専用の入り口前にいる門兵も、馬に跨っている2人の騎士が身に着けている鎧を遠目に確認し、サッと体を通過する馬の邪魔にならないよう移動する。

 そして、大きな声で開門と叫ぶと重厚な門が開いていく。


「すまない!」

 

 馬に跨る1人の騎士が門兵に声を掛け、門が完全に開ききる前に門を通過していき、2人の騎士は脇目を振らずに王都の奥に聳える城へと急いだ。


 2人の騎士は城に到着すると、城の入り口で馬から降りる。馬を警備兵に任せ、城の内部へ入ると中はいつも以上に騒がしくなっていた。


 廊下を歩いていた騎士の1人を捕まえ、騒がしい理由を尋ねる。


「賢者様が目覚めたというのもありますが、大公閣下のご息女が行方不明との報告が入りました」


 2人の騎士はなるほど、と頷き、階段と廊下を急いで進む。目指した先は王と大公がいるであろう大会議室。

 予想通り、大会議室前には騎士が扉の前で2人立って警護していた。


「すまない。中にいらっしゃる陛下と大公閣下に至急のお話がある」


 扉の前で警護していた騎士は、声を掛けてきた騎士2人を見る。2人が身に着けているのは王家直属の近衛騎士用の鎧。騎士団内部でも最上位に君臨する騎士団である彼らを見て、返事を1つするとキビキビとした動作で会議室の扉を開けた。


 会議室内へ入った2人の近衛騎士は席に座っている王と大公を目で確認し、敬礼をしながら言葉を発した。 


「会議中、失礼致します! 陛下。賢者様と大公閣下のご息女の件でご報告がございます」


 近衛騎士の1人が発した言葉に、会議室内で議論していた貴族と王族の2人は声の主へと視線を集める。


「リリの事か!?」


 騎士の言葉にガタリと椅子を傾けさせながら立ち上がる中年エルフ。彼はリリの父親で現エルフ王の弟でもあり、国の宰相を務めるエルフィード大公家当主であるロイド・エルフィード。


「ロイド、落ち着くんだ。報告を聞こう」


 弟であるロイドに声を掛けたのは現エルフ国王であるルクス。ルクスは2人の近衛騎士へ視線を送って彼らへ報告をするよう促す。


「ハッ! 姫殿下は問題無く賢者様をお迎えになりました。王都へと一緒に帰還する予定です。次に、大公閣下のご息女であるリリ様の件ですが……」


 そう言うと、報告をしている近衛騎士は若干言いづらそうな態度を取る。


「なんだ? 何があった? 言ってくれて構わないッ!」


 会議室にいる全員が最悪の事態を想像し、近衛騎士に視線を集める中でロイドは拳を強く握りながら近衛騎士へと声をかける。


「そ、その……。リリ様は賢者様に保護されておりました! 理由は、帝国のエルフ狩りに遭ったところを救って頂いたと……」


 近衛騎士の言葉が終わると、室内は静寂に包まれる。そして、静寂を破ったのはルクスだった。


「ちょ、ちょっと待て……。リリがエルフ狩りに遭い、それを賢者様が救って下さった……?」


 嘘だろうと言わんばかりに頭を抱えて再度、事実確認を行う。大公の娘が奴隷狩りに遭う。それはあの忌々しい首輪を付けられたという事だ。


 連れ去られず、賢者に救われたという事実がルクスの心を少しばかり和らげる。


「ハッ! 陛下。その通りにございます。幸いにして、リリ様には大きな怪我は無く。小さな怪我はあったようですが、我々が到着した時には既に賢者様が治療して下さっておりました。更に、リリ様は首輪を嵌められたようですが、賢者様が首輪を外したとおっしゃっておりました。リリ様の体調にも何も無い様子。いつも通り、元気なご様子で姫殿下や賢者様とお話をされておりました」


 近衛騎士の報告を聞くと、静寂に包まれていた会議室内はザワザワと騒がしくなる。


「あの首輪を外した……?」


 報告を聞いて、ルクスは不思議そうに頭を上げる。ルクスは従属の首輪という物の効果を部下からの報告で当然ながら知っている。無理矢理外そうと思えば対象の命を奪い、外さなくても対象は弱っていくという最悪の代物だ。だが、報告によれば軽い怪我のみでリリは生きているし変わりないという。


「はい。賢者様は何事も無いように外したとおっしゃっておりました。無理矢理外そうとした際の代償は語っておりませんでしたが……先ほど申し上げた通り、リリ様の体調も問題無いようです。それとアラン殿が首輪をどう思うか、と質問しておりました」


「賢者様は何とおっしゃっていたのだ?」


 ルクスは興味深そうに報告を待ち、近衛騎士はルクスをしっかりと見て告げる。


「ガラクタ、と」


 近衛騎士の言葉を聞き、ルクスは口を大きく開けて盛大に笑い出す。


「ははははは!! ガラクタとおっしゃったか!! という事は、お目覚めになられた賢者様はやはり!!」


 ルクスは笑いながら席を立つ。

 自分の姪が助かった事。憎い敵国の魔道具をガラクタと呼んだ事。そして、目覚めた賢者がアランとケビンから受けた報告通りの人物である事。全てが嬉しくてたまらなかった。 

 

「はい。お目覚めになられたのは魔工師 御影秋斗様。ご本人にございます! 姫殿下とアラン殿がご確認し、レオンガルド王家より渡された賢者様しか知りえないと言われていたカードについてもご理解しておりました」


 続く報告に、会議室内のボルテージは最高潮まで上昇する。貴族達も立ち上がり、隣にいる者と喜びを分かち合う。感涙して涙を流す者さえいた。


 王であるルクスでさえ、ガッツポーズを決める程に。皆の心に浮かぶは1つ。

 早く、英雄譚に出てくる賢者に会いたい。会議室内の大人達は童心に帰ったように、子供の頃からの憧れである人物に会いたくて笑顔を浮かべながら大騒ぎする。


「陛下。私はこの時代に生まれて良かったですよ。まさか、本物の賢者様とお話できるなんて……」


 報告をしていた近衛騎士も嬉しそうに笑顔を浮かべる。


「そうだろうな。全く! リリも無事で、賢者様もお目覚めになられた!! これ程までにめでたい事はあるか!? なぁ、ロイド!!」


 ルクスはテンションMAX状態で隣に座るロイドを見る。

 先ほどから室内は騒がしいというのにピクリとも動かない弟は、きっと感涙しているのだろう。そう思っていた。声を掛けるまでは。


「ロイド……?」


 声を掛けても反応を示さない弟の顔を覗きこむ。

 すると、彼は鼻水を垂らし白目むき出しでピクリとも動かない。


「き、気絶している!?」


 エルフ王国宰相。ロイド・エルフィードは娘が奴隷狩りに遭ったという報告を聞いた辺りから静かに気絶していたのだった。


-----



 どうにか気絶状態から再起動したロイド。だが彼の苦悩は尽きない。


「私の娘が賢者様にご迷惑をおかけしていなければ良いのだが……。いや、もう首輪を外して頂いた事で十分ご迷惑をお掛けしているのだが……」


 ロイドは頭を抱え、ブツブツと念仏のように何かを唱える。もはや彼の精神的疲労はピークだった。


「妻に報告しなくてはああああああああああ!!!」


 そして、上限突破した精神は自分の愛すべき妻に相談するという選択をした。500を超える歳だと思わせない程のスピードで会議室から飛び出し、どこかの宮廷魔法使いを思い出すかの如く、雄たけびを上げながら城を疾走していく。


 自分の弟の行動に口を開けながら声を掛ける暇もなく見送る事しか出来なかったルクスは、咳払いを1つしてから報告に戻って来た近衛騎士に視線を戻す。


「騎士団長を呼んでくれ」


「ハッ!」


 近衛騎士2名は王の言葉に敬礼をしてから騎士団長を呼びに行く為に退室していった。

 未だに騒がしい会議室の中でルクスはこれからの事を考える。まずは騎士団長に、今回の件に関して友好国への使者を出さなくてはならない。特に豊穣の賢者ケリーの子孫がいるレオンガルド王国への報告は最重要案件である。


 各国の王がこの件を知れば王自ら、もしくは王族の者が賢者へ挨拶をしにエルフニア王国に集まる事は確実。各国全て者が建国に携わった賢者という人物を敬愛しているのだから。

 だが、まずは賢者をこの王都で出迎える準備をしなくてはいけない。どのような出迎えにするべきかと思案していると、会議室の扉が開く。


「陛下。参上致しました」


 ルクスの近くまで歩み寄り、礼をする男は近衛騎士団長。エルフ王国に存在する騎士団の中でもトップの位置にいる。それぞれ役割がある複数の騎士団や隊を纏める騎士団の統括と言ってもいい立場にある。

 王族の護衛をするのは当たり前だが王命を彼が聞き、適切な騎士団に割り振るのも彼の仕事でもある。


「お目覚めになられた賢者様が、魔工師である御影秋斗様だというのは聞いているか?」


「ハッ! こちらに来る前に、報告に戻った部下より聞き及んでおります」


「では、各国に使者を出すぞ。私はこれより各国への書状を書く。騎士団も準備が出来次第、出発せよ」


「ハッ! すぐに準備致します!」


 近衛騎士団長は王の言葉を聞くと礼をして退室する。

 

「よし、次は出迎えの準備だが……ロイドが行ってしまったからな。どうするか……」


 ルクス王は相談相手が飛び出していった事を思い出し、大きな溜息を零した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ