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第74話 帰還と後始末①

「つっかれたぁぁ……」


 ボフン、とふかふかのベッドに倒れ込んだ私は、無事に生きて帰ってこれた喜びを噛み締めていた。


「ピィ……」


 流石のピィちゃんもぐったりと布団に突っ伏して溶けている。

 手を伸ばしてピィちゃんの頭を撫でると、グルル、と喉を鳴らして擦り付いてきてくれる。


「ふふ、ピィちゃんもお疲れ様。大活躍だったねえ。ありがとうね」


「ピッ」


 次第に重くなってきた瞼を閉じながら、私はぼんやりとマンティコア討伐後のことを思い返した。




 ◇◇◇


「サチィィィィィッ!!! 無事じゃったか!!!」


「ぐっふぅ」


「おお、マリウッツにアルフレッドも無事か。ああ、本当によかった……」


「はい。ご覧の通り、無事に戻りました」


 ジェードさんの【転移】により、ギルドに帰還した私たちは、弾丸のように飛び出してきたミィミィさんの突進を辛うじて受け止めた。そして、まじまじと私たちの具合を確認するミィミィさんを安心させるように笑いかけた。


「サチッ!!」


 討伐隊の無事を喜び騒つくギルドに血相を変えて駆け込んできたのは、第一王子のヘンリー様だった。


 よろりとふらつきながら私の側までやってきたヘンリー様は、ほーっと深く息を吐くと、額を押さえて蹲ってしまった。


「よかった……無事で……本当にすまない。すまなかった」


 何度も何度も謝罪の言葉を口にするヘンリー様に、(なんでヘンリー様が謝るんだろう?)と、首を傾げながら、顔を上げてもらうように促す。青白い顔をしながらゆっくりと立ち上がったヘンリー様は、とある人物に視線を向けて、表情を強ばらせた。


「ジェード」


「っ! は、はい」


「分かっているだろうな」


「……っ!」


 怒りを抑えるような低く冷たい声音。蛇に睨まれたカエルのように、ジェードさんは真っ青になってすくみ上がっている。


「全員の無事を確認したらお前に聞きたいことがある。逃げようなんて思うなよ。あらかたの事情については調べがついている。あとはお前自身の証言を得るだけだ。その前に、お前も治癒師の診察を受けてこい」


「わ、分かりました……」


 ジェードさんはチラリと私たちに視線を向け、くしゃっと表情を崩した。


「本当に……すみませんでした」


 そして深く深く頭を下げたジェードさんは、他の冒険者たちの後に続いて、背中を丸めながら医務室へと向かっていった。


「ジェードさん……」


 思い返せば、先遣隊が出立する時からジェードさんの様子はおかしかった。思い詰めたような表情をして、顔色も随分と悪かった。私やアルフレッドさんを【転移】に巻き込んだのにも、何か理由があるのかもしれない。


「サチ、君たちを巻き込んだのはこちらの責任だ。なんと詫びればいいのか……首謀者にはきっと、相応の罰を与える。だから、原因究明は僕に任せてほしい」


「もちろんです。よろしくお願いします」


 首謀者。私たちはどうやら誰かの悪意に巻き込まれたらしい。

 ズン、と心が重くなるけれど、今は全員が無事に帰れたことを喜ぼう。


「やれやれ……ヘンリーの取り乱しっぷりは凄かったのじゃぞ? サチにも見せてやりたかったわい。もう少しお前たちの帰りが遅かったら軍隊を投じる勢いで動いておったのじゃぞ」


「ええっ!?」


「とにかく、やってくれたのじゃな。戻ってきて早速で悪いが、医務室で手当を受けたらワシの部屋まで来てくれんか? 詳しく話が聞きたい」


「分かりました」


 私たちも医務室に向かい、簡単な手当を受けた。ポイズングリズリーの毒を受けたアルフレッドさんが一番念入りに治療を受けていたのだけれど、身体に毒は残っておらず、綺麗に排出されていると驚かれていた。


 その後、ミィミィさんの部屋で討伐時の状況について、アルフレッドさんとマリウッツさんから報告した。


「――なるほど。マンティコアか……随分と珍しい魔物が生まれていたものじゃ。ラフレディアは氷漬けにして核も破壊したようじゃが、地中に他の子株が残っていないか早急に調査を進めねばならんな」


「ええ。散りばめられた種子は、ラフレディアの死によってやがて枯れ果てるでしょうから、次第に魔物の出現量も落ち着いてくるかと思います。それから……ミィミィさんに折り入って頼みがあります」


「む? なんじゃ? なんでも言うてみるがよい」


 今後の方針について考え始めたミィミィさんに、アルフレッドさんが神妙な顔をして向き合った。


「お伝えの通り、不測の事態でしたので、サチさんが【解体】を使用するところを現地にいた冒険者たちは目の当たりにしています。あの時のサチさんは……いつも以上に常識離れした力を発揮していました」


「うむ、そうじゃな。すぐに箝口令を敷かせよう」


 ミィミィさんは立ち上がって部屋を出ていき、外で控えていたネッドさんに指示を出すと戻ってきた。バタバタと廊下を駆ける音がするので、ネッドさんがすぐに動いてくれるようだ。


「ありがとうございます。これ以上、サチさんの身に危険が降りかからないよう、できることはしたいのです」


「うむ。こちらの不手際で巻き込んだも同然じゃからな。残る滞在期間、二度と先のようなことが起こらぬように警備を強めよう」


 こうして、ミィミィさんへの報告を終えた私たちは、装備を解くために解体作業場である倉庫へと移動した。

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