第73話 討伐完了
私たちがポイズングリズリーと戦っている間、一人でマンティコアを相手取っていたマリウッツさん。
もはや彼の戦いは、ここにいる他の誰かが手を貸せる次元ではない。
「あの……マンティコアって、ランクはいくらになるのですか?」
恐る恐るアルフレッドさんに尋ねると、彼はキュッと唇を引き結んでから答えてくれた。
「成体となれば、Aランクに分類されます」
Aランク!?
まさかのランクに私は思わず生唾を飲み込んだ。
マリウッツさんは防戦一方に見えていたけれど、私たち全員が結界の内側に入ったタイミングで攻めに転じた。誰かを巻き込まないように、力を抑えていたのかもしれない。こうして全員が結界に守られている今、ようやくマリウッツさんは全力を出せるのだろう。
「【反芻・獄炎】」
マリウッツさんの剣の刀身が青白い炎を纏った。
随分離れた場所にいるはずなのに、ジリジリと肌を焼くような熱気が立ち込めている。
森で火を使うのは危険では!?
そう思って気が気じゃなかったけれど、驚くべきことに、マリウッツさんの剣の炎はマンティコアのみを焼いている。周囲の木々に延焼する様子はなく、対象を指定しての技なのかと驚く。
「【反芻・電雷】」
今度はバチバチと激しい雷を纏いながら、マンティコアに切り掛かっていく。
地獄の業火に焼かれ、天の雷に貫かれ、マンティコアは既に満身創痍である。白目を剥きながらズシンと前脚が折れて頭を垂れた。その好機を見逃すマリウッツさんではない。チャキン、と剣を持ち替えて、下から切り上げるようにマンティコアの首を落とした。
ぐしゃりと落とされた首が地面に落ち、続いてぐらりと焼け焦げた巨体が傾いた。
ズウン、と地面が大きく揺れ、一呼吸置いてからワァッと大歓声が上がった。
マンティコアが息絶えたことを確認して、マリウッツさんがこちらに手を上げた。
ようやく長かった討伐作戦が終わったのだ。
「サチ」
「んん? もしかして……呼ばれてる?」
へなへなと座り込みそうになったところで、マリウッツさんが私を手招きしていることに気付いた。なんか呼ばれているっぽい。
「僕もついていきます。先ほどのことがありますので、警戒しておいた方がいいでしょう」
「お願いします」
また不意に魔物が飛び出してくるかもしれない。そう考えたアルフレッドさんの申し出をありがたく受け入れる。
大斧を担いだアルフレッドさんと共に、マリウッツさんのもとに駆けつける。
「マリウッツさん! お疲れ様です! 凄かったです!」
「ああ。こいつはまだ成体ではなかったからな。ラフレディアにぬくぬく育てられて実戦経験が足りなさすぎた。獲物も自分で狩らずに与えられるがままに育っていたのだろう。図体が大きいだけの子供だ。大したことはない」
「はあ……」
あの恐ろしいマンティコアを大したことないだなんて……そんなことを言えるのはあなただけでは?
傷ひとつなく澄ました顔をしているマリウッツさんの凄さを思い知る。
「それで、どうして私を?」
無事に討伐を終え、あとは帰還するだけだと思うのだけど、なぜ呼ばれたのかが分からない。本当になんで?
「こいつを解体してくれ」
「こいつ、って……ええっ!?」
だらりと舌を出して事切れているマンティコアの亡骸を指差しながら、マリウッツさんはサラリととんでもないことをおっしゃる。
「いやいや、Aランクでしょう!? 私の手には負えません!」
瞠目してブンブン手を振る私を見て、マリウッツさんはゆるりと首を振った。
「早くしろ。その効果が残っているうちに」
「え?」
マリウッツさんが指さしたのは、背中のホルダーに刺さったオリハルコンのナイフ。その効果ってなんぞ? とホルダーからナイフを取り出す。
すると、オリハルコンのナイフはエクストラスキルを発動した時の光をまだ纏っていた。
言われてみれば、確かにまだ身体の芯が熱く燃えたような感覚が残っているし、ほんのり私の手も光っている。
もしかすると、もしかするのかもしれない。
私は急いでナイフを構えると、マンティコアに向き合った。
「やってみます。ふぅ……【血抜き】、そして【解体】っ!」
『エクストラスキル継続発動中。【解体】対象、マンティコアを確認。スキルを実行します』
「わあっ!?」
深く息を吐いてからスキル名を叫ぶと、カッとオリハルコンのナイフが光を放った。
ぶわりとものすごい情報量が頭の中に流れ込んでくる。ナイフが私を導くようにクンッと動いた気がした。
マンティコアの巨体に刃先が触れると、皮が、肉が、道を譲るようにするすると裂けていく。導かれるがままにひたすらナイフを入れていく。
そしていつものごとく、様々な素材と部位に解体を終えたところで、ナイフが纏っていた光がシュウンッと収束して消えた。
「【解体】……できちゃった」
綺麗に解体されたマンティコアだったものを前に、パチパチと目を瞬く。
アルフレッドさんも信じられないと言いたげに私を見つめている。マリウッツさんだけが当然だとでも言うように腕組みをして満足げだ。なぜ。
『レベルアップに必要な経験値を獲得しました。能力レベル8にアップします』
「えっ!!?!?」
もう何が起きても驚かないというぐらい色んなことがあったけれど、不測の事態から始まった討伐作戦は、頭の中で響く機械的な声によって締め括られたのだった。




