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第64話 古代種の記録

 アルフレッドさんは、私とマリウッツさんに過去を打ち明けてから、どこかスッキリとした面持ちとなっている。


 私の解体作業はスキルのおかげであまり血を流さないけれど、資料の解読の合間に少し離れた位置で解体を見学して、血を克服しようと努力している様子が見られる。

 私も彼の力になりたいと密かに考えているので、見学の気配を感じた際は、ほんの少し【血抜き】を加減している。


 私は続々と運ばれてくる魔物を一心不乱に解体し、アルフレッドさんは古い文献の解読に没頭する日々が数日続いた。


「こ、これは……!」


 そしてとうとう、アルフレッドさんが目ぼしい記録を見つけた。



 ◇◇◇


 場所を移してミィミィさんの執務室。


 集うは、ミィミィさん、ネッドさん、アルフレッドさん、マリウッツさん、そして私の5人である。あ、肩にピィちゃんを乗せているので6人か。

 ピィちゃんは最近よく姿をくらますようになっていて、こちらのギルドでもおやつをくれる親切な人と出会ったのだろうかと踏んでいる。世渡り上手なドラゴンだよね。まあ、危ないことにさえ首を突っ込まなければ、基本は自由にしてもらっている。


 そして今、テーブルをぐるりと囲むように立つ私たちは、テーブルの上に広げられた地図と茶色くなった古い文献を覗き込んでいる。


「さて、お忙しい中お集まりいただき、ありがとうございます」


「ええい。もったいぶらんと本題に入らんか!」


 集まった面々を見渡すアルフレッドさんに対し、ミィミィさんは痺れを切らした様子で可愛く地団駄を踏んでいる。


「はは……では、早速。今回のことに似た事象が、何百年も前に発生していた記録を見つけました。かつて絶滅したとされる古代種。その植物型の魔物の名は『ラフレディア』。魔物を引き寄せる強烈な香りを放ち、実を食べさせることで魔物に種子を取り込ませる。そしてその種子は魔物に()()()()()を起こさせるようです」


「ふむ、先日魔物の腹から見つけた種子のことじゃな。寄生性ということじゃから、食った魔物を操り、人里を襲わせる……といったところか」


 ミィミィさんの言葉に、その場の空気がピンと張り詰める。

 しかし、アルフレッドさんはミィミィさんの考えを緩やかに否定した。


「いえ、もしそうであれば森を全て焼き払ってでも該当の植物型魔物を一掃すべきでしょうが、ラフレディアの種子が取らせる行動はただ一つ。()()()()()()()()()()()()()()()ことなのです」


「なんじゃと? 訳がわからん。香りで引き寄せたかと思うたら、今度は遠ざける? 一体何が目的なんじゃ」


 ミィミィさんは、イーッと歯を食いしばりながら頭を掻きむしっている。


「ええ。一見矛盾しているように感じられますが、ラフレディアの真の目的がそうさせているようです」


「真の目的? それはなんじゃ」


「ラフレディアは前述の通り、寄生性の魔物です。対象の魔物の表皮を破り、その身体に根を下ろして、文字通り寄生する。過去の記録によると、小さなものでも馬車ほどの大きさがある花を咲かせるようです。そんなラフレディアが寄生できる魔物は恐らく限られてきます。自身を守ってくれるような、より強く、大きな魔物が必要になる。ラフレディアは、より強力な個体に寄生するために、対象が十分に力をつけた成体となるまで守り育てる特性があるようです」


「なんと……」


 一同が口をつぐむ。アルフレッドさんの言葉の意味を理解するべく頭を回転させる。


 つまり――


「なるほど、記述の通りであると仮定すれば、そのラフレディアという魔物は、寄生先の魔物の脅威となる外敵を遠ざけ、まさに今この時も、安心してその魔物が育つ環境を整えているということだな」


 腕を組み、眉間に深い皺を刻みながら、マリウッツさんが重々しく言った。


「ええ。ラフレディアと寄生先の魔物は共生関係にあるのでしょう。安全な環境で力を付けるためにラフレディアを利用する魔物、そしてその見返りにラフレディアに身体を間借りさせるというわけです。両者に利点があるからこそ成り立つ関係です」


「ということは、今、ラフレディアは絶賛子育て中――?」


 思わず溢した言葉に、アルフレッドさんが神妙な顔をして頷いた。


「ええ、そう考えて然るべきでしょう。ラフレディアの寄生先となりうる魔物にまで成長してしまっては、きっと世界的な脅威となります。魔物が育ち切る前に討伐してしまうべきでしょう。太古の記録には、ラフレディアは絶滅したと記されていましたが、何百年もの時を経て、地下深くに眠っていた種が芽吹いたのか……はたまた先祖返りによるイレギュラーが発生したのかはわかりません。ミィミィさん」


「うむ。準備は大方整っておるぞ。お前さんの助言通り、極力森への被害を抑えるため、氷雪系の【天恵(ギフト)】持ちを召集しておる。いつでも出陣できるようにギルドで待機させておるわ。森への侵入を阻むように立ちはだかっている様子から見て、森の奥深くに大元のラフレディアとその魔物がおると見て間違いないじゃろう」


「そうですね。まずは森に踏み入るために、入り口を氷漬けにして突破。その先は未知数ですが、主戦力となる冒険者も同行させつつ、可能であればそのまま討伐に移れるように隊を編成すべきでしょう。あまり大人数を派遣しては相手にバレてしまいますし、少数精鋭がいいでしょうね」


「ああ、そうじゃな。ひとまずは先発隊として派遣はするが、万一ターゲットとなる魔物と邂逅して戦闘になった際に立ち回れる人員を配置しよう。ネッド、人選は済んでおろうな?」


 ニヤリと口角を上げるミィミィさんに、同じくニヤリと口角を上げたネッドさんが深く頷く。


「もちろんですとも。アルフレッド殿が文献にあたってくれてる間、時間は十分に確保できましたからね。目ぼしい冒険者には特別クエストとして本件を発注、ギルドに待機させております」


「うむ。では、明日にでも先発隊を派遣しよう。マリウッツ」


「なんだ」


 あっという間に魔物討伐に向けて動き出したミィミィさんだったけれど、不意にマリウッツさんの名を呼んだ。マリウッツさんも話の矛先が急に自分に向いたことで、僅かに眉を上げている。


「お主がサチの護衛として滞在してくれておるのは承知の上で頼む。先初隊に万一のことがあった場合、討伐部隊として後発部隊に参加してはくれぬか?」

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