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第48話 宿泊先ってここですか?

「な、なんじゃあこれは!!」


 解体に没頭していた私たちのところに、アルフレッドさんとミィミィさんが戻って来たのは、西陽が差し込む頃だった。

 ドーラン王国を出たのがお昼過ぎだから、だいたい3時間ぐらい作業していたのかな。


「ふう、頑張りました!」


 流石に全部は無理だったけど、倉庫内の魔物の山は3分の1ぐらいは片付いていた。

 幸いなことにドーラン王国でもよく持ち込まれるコカトリスやホーンブルなどの低ランクな魔物がほとんどだったので、【解体再現】でスムーズに作業を進めることができた。

 魚介系はすぐに傷むので即日処理が必要だから、魚介系を優先的に処理をした結果獣系が後回しにされているみたい。


 むしろ困ったのは解体した素材の管理だ。


 何せまともに使える作業台が1つだったから、一気に解体してしまうと素材の置き場がない。無計画に魔物の山に突撃したら、きっと素材に生き埋めにされてしまう。

 なので、マリウッツさんが魔物の山を掻き分けて、どうにかもう1つ作業台のスペースを確保してくれた。


 極力種類をまとめて解体して、空いた作業台に素材を並べていく。一気に解体しすぎてしまうと素材が溢れてしまうので数頭ずつ。

 魔物の運搬はマリウッツさんが協力してくれたのでとても助かった。片手でヒョイヒョイと身体の何倍もの大きさの魔物を抱えるものだからビックリしちゃった。


 持ち込まれて日が浅い魔物は血抜きもされていなかったので、まずは全部の魔物に【血抜き】をした。血抜きをしないと鮮度がガクッと落ちるからね。


 そうして2人で素材の置き場所を掘り起こしながらの作業だったので、思ったよりも進まなかったのが悔しいところだ。今日のうちに半分は片付けたかったのになあ。


「けぷぅ」


 魔物の切れ端を片っ端から食べて処理してくれていたピィちゃんは、ぽっこり膨らんだお腹を上向けて満足そうにしている。


 そんなピィちゃんの頭を撫でていると、元々丸い目をこれでもかとまんまるに見開いたミィミィさんが駆け寄って来た。


「た、たったの3時間じゃぞ!? どんな魔法を使ったのじゃ!?」


「え、それは……」


 【解体】の【天恵(ギフト)】のおかげだと説明しようと口を開いたところで、ミィミィさんの後ろで激しく首を振って腕でバツ印を作っているアルフレッドさんが目に入った。


 ん? 能力のことは言うなってこと?

 能ある鷹は爪を隠す、的な? ちょっと違うか。


 とにかくうまく誤魔化しておこう。


「こ、効率厨なので……?」


「なんじゃあ、それは!」


 うまく誤魔化せなかった。


 ミィミィさんは「信じられん信じられん……!」とキュートなツインテールをブンブン揺らしている。サラサラで羨ましい。どんな洗髪料を使っているのだろう。


「さ、さっき説明したでしょう? サチさんは、人より()()解体作業が速いのです」


()()で済まんわい!!」


 苦しまぎれのアルフレッドさんの説明も一蹴されてしまった。


「と、とにかく! 今日はこの辺りにして休みませんか?」


「え? まだできますよ?」


 アルフレッドさんの提案に、私は首を振った。けれど、さらにアルフレッドさんが首を振る。


「ダメです! 僕はあなたたちの健康管理も仕事のうちなのですから。無理してサチさんまで倒れたら、解体できるものもできなくなってしまいます。毎日コツコツ積み重ねていけば、いずれ終わりはきます」


「……はい、分かりました」


 そうだった。

 睡眠時間や休憩時間を削ったところで、効率が下がって仕事のクオリティも下がる。元の世界で散々痛感してきたことなのに、規則正しい生活のおかげですっかり忘れていた。


 とにかく、今日はサルバトロス王国に来たばかりだし、早めに休ませてもらうことにしよう。しっかり寝て、食べて、元気モリモリな状態で明日からまた頑張ろう。


「うむ。色々根掘り葉掘りと聞きたいとこじゃが、オーウェンからも企業秘密だと詮索することは禁じられておるしな。この速さで解体できることも他の者には伏せておいた方がよいじゃろう。素材の運び出しは別の倉庫を空けるから、そっちを使うといい。作業量が外に見えんようにワシが調整しておこう」


「ご配慮に感謝します」


 納得してはいなさそうに肩をすくめてはいるものの、さすがはギルドのマスター。必要以上に詮索はしない。これはどこの国にも通じることらしい。


「それにしてもなんとも頼もしいものじゃ。サルバトロスには、自国のことは自国で片付ける風習があるのじゃが、ここまでくればそうも言っておれんからのう。冒険者ギルドが国を滅ぼすことがあってはならんのじゃ。サチに助けを求める判断は間違っておらんかったのう」


「えへへ、ありがとうございます。困った時はお互い様ですよ。明日からも頑張りますね」


 そう答えると、ミィミィさんはとても優しい笑みを浮かべた。


 その後、ミィミィさんが手配してくれた倉庫に今日解体した素材をみんなで運んだ。この先は明日各業者が買取に来てくれるようなので、明日はもう少し解体量を増やしても良さそう。


「サチさん、それにマリウッツ殿も聞いておいてください」


 移動が終わり、ミィミィさんが宿泊先の確認に出ている間、アルフレッドさんが声を顰めた。なんだろうか、と耳を傾ける。


「サチさんの【天恵(ギフト)】のことですが、我々以外の人の前では、決して使わないように気をつけてください」


「えっ、何でですか?」


 私は素直に疑問に思ったので、アルフレッドさんに理由を尋ねた。


「いいですか? サチさんの【解体】は普通ではありません。先ほどのミィミィさんの反応でもよく分かるでしょう? この倉庫の3分の1の量をたったの数時間で解体できる人物は、この世界中のどこを探してもサチさんしかいません」


「そ、そうですかね?」


 世界で唯一とか、少し照れてしまいますな。

 深刻なアルフレッドさんに対して、へらりと頬を緩める私。隣のマリウッツさんは合点がいったとばかりに頷いている。


「なるほど。無闇矢鱈とひけらかすものではないというわけか。サチの身の安全のためにも」


「そういうことです」


 なんか2人だけで頷き合っている。

 え? つまりどういうこと?

 もしかして、私の能力を狙う人が出てくるとか……そういうこと?


「そういうことです」


 あ、また口に出てしまっていた。


「ですので、いいですか? 決して人前で【解体】の能力を使わない。これだけはどうか約束してください。そして、極力1人で行動はしないこと。ここは見知らぬ国です。できる限り、僕かマリウッツ殿と一緒にいること。いいですね?」


「は、はい。約束します」


 ビシッと鼻先に指を突きつけられて、たじろぎながら頷いた。


 ちょうど話が終わったタイミングで、ミィミィさんが戻って来た。


「さて、宿泊先の準備が整ったようじゃ。案内するから付いて来るのじゃ」


 私たちは各々の荷物を持って(相変わらずマリウッツさんの荷物は少ない。また【圧縮】してるんだろうな)、ミィミィさんに案内されるがままに外に出た。


「ここじゃ」


「え、ここ……って」


 ギルドを出て間も無く、ミィミィさんが立ち止まって指差した建物を見上げて呆然と立ち尽くしたのは私だけではない。マリウッツさんも、アルフレッドさんも予想だにしていなかったのかポカンと口を開けている。


 目の前に聳え立つのは、月明かりを反射する美しくも巨大な白亜の城。


「そうじゃ! 我がサルバトロス王国が誇る王城じゃ!」


 えっへん! と両手を腰に当てて威張る姿はとても可愛い。


 可愛いんだけども。


 なんということでしょう。

 私たちの滞在先が……え? お、お城!?

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