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第26話 いざ!クエストへ!

「随分と重装備だな」


「えっ!? そうですか!?」


 仕事と準備に追われ、あっという間に2日が経過した。

 そして魔物解体カウンターが開く時間、マリウッツさんは約束通り私を迎えに来てくれた。


 そして開口一番の言葉を受け、私は自分の装備を確認する。


 髪は高い位置でしっかりと結い上げ、先日購入した冒険者向けの装備を身に纏っている。

 上は長袖、ズボンは膝丈だけど、膝上までのハイソックスを履いて膝当てもつけているので肌の露出はない。指の部分が抜けたタイプのグローブを装着し、靴もしっかり山岳ブーツを履いてきた。腰には武器を携帯できるベルトを巻いていて、小型ナイフを2本刺している。

 もちろん腕にはアルフレッドさんからもらった魔除けの腕輪もつけている。どこからどう見ても気合十分よ。


「服装はいい。その背の荷物だ。必要なものは俺が用意すると言っただろう」


「え? ああ、これですか」


 私はリュックタイプの鞄を背負っていて、中には私が個人的に必要だと判断した荷物が入っている。最小限に抑えたし、ちょっとしたハイキングに行く程度のサイズだと思うけどなあ。


 私からすればマリウッツさんこそ軽装備すぎると思いますが。

 冒険者の魂である剣を背負い、所持品と言えば腰から下げた巾着袋ぐらい。

 え? 今日から数日のクエストに出るんですよ?

 逆にその巾着には何が入っているんですか?


「ピィィッ!」


「ははっ! まあまあ、いいじゃねえか! ほら、ピィ助が待ちくたびれたって言ってるぞ」


 ドルドさんの言葉通り、ピィちゃんがピュィピュィと鳴きながら、急かすように私たちの頭上を旋回している。


 アルフレッドさんの見立てだと、ピィちゃんはまだ子竜のようなので、外に出るのは危険かと思い、留守番してもらうつもりだった。

 でも、当のピィちゃんが付いていくと言って聞かないのだ。

 どれだけ説得しても言うことを聞いてくれない。毎日一緒に暮らしているから、言葉は分からなくても何となく言いたいことは分かるようになっているし、この子の性格も大体把握している。ピィちゃんは意外と頑固なのだ。


 ということで、折れたのは私。ピィちゃんも今回のクエストの同行者となったのだった。


「サチ、仕事は俺たちに任せておけ。お前さんは、しっかりナイフの素材を採集してくるんだ。それに、せっかく王都の外に出るんだ。この世界を存分に学んでこい」


「はい!」


 ピィちゃんの催促とドルドさんの激励を受け、私とマリウッツさんは不毛なやり取りを切り上げて、出口へと向かった。

 ピィちゃんは私の肩に乗って楽しげにユラユラ身体を揺らしている。外出できるのが嬉しいみたい。


「サチさん」


「あ、アルフレッドさん! おはようございます」


 出口の扉を前にしたところで、私たちを待っていたらしいアルフレッドさんに呼び止められた。

 アルフレッドさんは、私の手首を一瞥すると小さく微笑んだ。


「きちんと着けてくれていますね。サチさん、約束通り、無事に帰ってきてください。ピィちゃんさんも、サチさんから離れてはいけませんよ? ……マリウッツ殿、どうか、サチさんをよろしく頼みます」


「ああ、言われなくてもサチは俺が守る。お前はお前の仕事をしろ。立場上、特定のギルド職員に肩入れしすぎは良くないんじゃないか?」


「あなたこそ、ソロプレイヤーを貫いていたかと思えば、大事なうちの職員をクエストに連れ出すなんて……横暴が過ぎるのでは?」


 お、おおう……バチチ、と2人の間に火花が飛び散っているのが分かる。

 この2人、実は仲が悪いとか? とにかくここはさっさと出発しよう。


「さ、マリウッツさん、行きますよ! アルフレッドさん、行ってまいりますね!」


「ん、おい。押すな」


「え、ああ、行ってらっしゃい」


 ぐいぐいとマリウッツさんの背中を押して、私たちはようやくギルドの外に出た。


「んもう。今から行くぞって時に喧嘩はやめてくださいね。さ、気を取り直して、しゅっぱーつ!」


「ピピッ!」


「いや、別に喧嘩をしていたわけでは……はぁ、行くか」


 おー! と拳を突き上げて歩き始めると、大きなため息をつきながらマリウッツさんも動き始めた。


 朝靄が晴れて清々しい朝の街並みを手庇(てひさし)を作って仰ぐ。

 煉瓦造りが基調の街並みは色鮮やかで目を楽しませてくれる。


 まだ朝早いので、あちこちの店では開店準備のため人が忙しなく出入りをしている。石畳の通りには人はまばらで、家から出て仕事に向かう人もいれば、酒屋帰りなのか大きな欠伸をしながらフラフラ歩いている人もいる。


 私ももうこの街の一部になれているのかな、なんて思いながら南門を目指した。



 ◇◇◇


 王都の東西南北に位置している城門は、関所の役割を果たしている。

 王都への人の出入りを記録していて、王都に入るには身分証明が必要となる。


 私とマリウッツさんは、クエストのため王都の外に出ることを門番に伝えて記録を残し、城壁に守られない吹きっ晒しの大地を踏み締めた。


 王都サラディンの街は、ぐるりと高い城壁に囲まれている。

 城壁は魔物から街を守るものであり、それ以外にも魔除けの魔道具や、【結界】の【天恵(ギフト)】によって何重にも守りを固められている。


 だからこそ、王都の街は平和で、多くの人が安心して生活できている。

 しかし、その街を一歩外に出ると、もう我が身を守るものは何もない。

 見渡す限りに広がる草原。遠くに森やうっすらと山の影が見えている。


 ビュウッと吹き付けた風に、魔物の唸り声が乗っている気がして、私はブルリと身を震わせた。

 ピィちゃんが心配そうに顔を覗き込んでくる。安心させるように喉をひと撫でしてやると、ゴロゴロと気持ちよさそうに喉を鳴らした。


 1日歩いてようやくマルニ山脈の麓に辿り着く道のりだ。

 付与術師によって、冒険者の装備には疲労軽減の効果が付与されているとはいえ、ハードな道のりには違いない。


「ここからはいつ魔物が襲いかかってきてもおかしくはない。俺から離れるなよ」


 マリウッツさんは、私を守るように半歩前を歩いてくれている。

 私は神妙に頷くと、五指で地面を掴むようにしっかりと歩を進めた。


 いよいよ、初めてのクエストが始まったのだ。

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