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第24話 クエストに向けて

「なるほどなあ、考えたもんだ」


 3日間の祝勝会が終わり、久しぶりの出勤日。

 私は朝一番に、ドルドさんにナイフの素材を採りに行きたいと申告した。


 最初は渋っていたドルドさんだけれど、同行者にマリウッツさんの名前を挙げた途端に了承してくれた。


「ナイフ作りも大事だが、一番大切なのはサチの身の安全だ。俺は雇用主として、従業員を危険に晒したくはない。だが、マリウッツが責任を持ってサチを守ると言うのなら、許可しよう」


「ああ、サチには傷ひとつ負わせはしない。必ず守り抜くと約束する」


「ま、マリウッツさん……!」


 突然マリウッツさんの声がして、慌てて振り返ると、マリウッツさんは涼しい顔をしてカウンターの外に佇んでいた。いつの間に……!


「ピィィ?」


 カウンターの横のカゴで微睡んでいたピィちゃんが、マリウッツさんを見上げて、「誰だコイツ?」と首を傾げている。「ほう、お前が『ピィちゃん』か」とマリウッツさんも真面目な顔でピィちゃんをまじまじと見ている。


「い、いらしていたのですね」


「ああ。ドルドに話すなら今日かと思ってな。クエストの話をするのなら、俺がいた方が話が早いだろう。お前1人に任せていては時間がかかりそうだしな」


 私が駆け寄ると、ピィちゃんから私に視線を移したマリウッツさんが、至極真顔でそう言った。


「ぐうう……図星なのが憎い……!」


 私たちのやり取りを後ろで見ていたドルドさんが、「ワハハ!」と豪快に笑った。


「いつの間にか随分と打ち解けたようだなあ。あいつも、うかうかしてられねぇぞお」


「あいつ……?」


 一体誰のことを言っているのだろう?


 私が頭を捻っている間にも、ドルドさんはマリウッツさんの前まで歩み出た。


「サチはもう、俺の娘のような存在だ。必ず無事に帰してくれ」


「ああ。この名にかけて、必ず守り抜くと誓おう」


 Sランク冒険者にそう宣言されては、ドルドさんも認めざるを得ない。早速業務の調整のためにシフト表を開き始めた。


「スタンピード明けだしな、もうしばらくは魔物も大人しくしているだろう。冒険者たちも休息を取る奴が多いだろうし、うちへの依頼もかなり少ないはずだ。問題は休む期間だな……目的地はどこなんだ? 何日のクエストに出る予定だ?」


 そういえば、肝心の行き先を聞いていなかった。

 私もてっきり日帰りかと思っていたけれど、王都から一番近い鉱山に行くにしても日帰りでは難しいと耳にしたことがある。


「マルニ鉱山に行く」


「マルニか……なるほどなあ。確かにここらで一番素材が豊富な鉱山だ」


 ふむ、と頭の中で王都周辺の地図を思い描く。


 王都の南門を出て真っ直ぐに南下した先には、標高の高い山が連なっている。マルニ鉱山といえば、その一角に位置する鉱山だったっけ。


「マルニ鉱山は資源が豊富な分、高ランクの魔物も生息している。だからこそ人の立ち入りが少なく、希少な鉱石がまだまだ残っている。魔物の少ない鉱山はほとんど資源が掘り尽くされているから、多少危険でもマルニが最適だろう」


「そうだなあ。マリウッツがいればある程度の魔物も襲っては来ないだろう。スタンピードの影響もあって、魔物たちが引っ込んでいそうだし、絶好の採掘機会というわけか」


「そういうわけだ。採れるだけ採ってくるさ」


 ドルドさんとマリウッツさんでどんどんと話が進められていく。

 私はふんふん、なるほど、ととにかく必死に話を聞いておく。


「それだと……最低でも3日は必要か」


「ああ。採掘にてこずれば5日ほどかかるかもしれん。その間、サチを借り受けて大丈夫か?」


 マリウッツさんがチラリと魔物解体カウンター内に視線を投げる。

 中では、ローランさんとナイルさんがせっせと解体道具の手入れをしてくれている。私も話が終わったら手伝わなくては。


「ははっ! 舐めるんじゃねぇぞ。サチが来るまでは3人で回してたんだ。どうってこたぁねえ。ま、あいつらにも気張ってもらうさ」


 ドルドさんがそう言ったタイミングで、ナイルさんが「ハックショーン!」と豪快なくしゃみをし、ローランさんもブルリと身震いをして首を傾げていた。


「では、2日後。期間は最短3日から最長で5日。俺とサチの即席パーティでクエスト受注の手続きを進めておく。いいな?」


「は、はい! ふ、不束者ですが、よろしくお願いします!」


 マリウッツさんに同意を求められ、もちろん承諾する。勢いよく頭を下げると、跳ね上げられたポニーテールの毛先が額をくすぐった。


「必要な道具は俺が揃えておこう。サチは冒険用の衣服を用意しておけ。山を歩くから、山岳ブーツも忘れずにな。冒険者向けの装備店は――」


「わわっ、ま、待ってください!」


 私は慌てて近くのメモとペンを引っ掴み、言われた内容を走り書きする。

 ありがたいことにオススメの店まで教えてくれたので、後でアンに場所を聞いておこう。早速、お昼休みと仕事終わりの時間を使って見に行かなきゃ。


「では、2日後の朝、ここまで迎えに来る。しっかり準備しておけよ」


「は、はいっ!」


 目的地はマルニ鉱山。

 期間は3〜5日間。


 まさか初めて王都の外に出るのが、クエストになるだなんて思いもしなかった。


 私は用件を済ませて颯爽と去っていったマリウッツさんを見送ってから、ローランさんとナイルさんの作業を手伝うためにカウンターの奥へと駆けていった。

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