【コミックス①巻発売記念】アルフレッドの魔物図鑑
※時系列はスタンピード後あたりのほのぼの日常。
魔物解体カウンターはギルドが開いている限り稼働しているため、休日はシフト制で順番に取得している。
そして今日は私がお休みをいただく日である。
いつもよりちょっぴり寝坊をし、近くのカフェでモーニングをテイクアウトして自室でピィちゃんと楽しんだ後、私は机の上に置いていた『魔物図鑑』を手に取った。
パラパラとページを捲りながらベッドに腰を下ろし、食後の二度寝を決め込んでいるピィちゃんの無防備なお腹を撫でる。まったく、食後すぐに横になると太りますよ。
「プピィ……」
「ふふっ」
スタンピードで運び込まれてきたサラマンダーのお腹から出てきたピクシードラゴンのピィちゃんは、すっかり私の部屋やギルドに馴染んでくれたようで、弱点であるはずのお腹を上向けて寝てくれるまでになっている。
流石に野生の心を忘れすぎでは? と思わなくもないけれど、心を許してくれているのだろうと思うと笑みが溢れる。
ピィちゃんのお腹を撫でながら、図鑑に視線を戻す。
「魔物って言っても、本当にたくさんの種類が存在するのね」
よく魔物解体カウンターに持ち込まれるホーンラビットやワイルドブルなどはすっかり見慣れてしまったけれど、この世界にはまだ見ぬ魔物がたくさんいるのだろう。
実際、アルフレッドさんがまとめたというこの『魔物図鑑』に記されている魔物の半分もまだ出会ったことがない。
「そういえば、アルフレッドさんはどうして魔物図鑑をまとめようと思ったんだろう?」
不意に疑問に思った私は、翌日ギルドでアルフレッドさんに直接聞いてみることにした。
◇
「どうして、ですか?」
両手いっぱいの書類を抱えていたアルフレッドさんに声をかけ、半分運ぶのを手伝いながら早速話題にあげてみた。
アルフレッドさんはキョトンと目を瞬きながら、器用に肩でずれたメガネを押し上げている。両手が塞がっているもんね。
「そうですね、どうしてかと聞かれると、やはり冒険者たちの生存率を上げるため……でしょうか」
アルフレッドさんは少し視線を上に向けながら、呟くように答えてくれた。
「生存率を……」
「ええ。情報というものは非常に大切なものです。こと戦闘になれば、相手の弱点や習性を知っているかどうかで戦い方も戦略も変わってきますからね。特に駆け出しの冒険者は無茶をしがちです。しっかりと知識を得て、事前準備を整えることができれば、経験不足をカバーする武器にもなり得ます」
「へえ……アルフレッドさんって冒険者についても詳しいんですね。って、ギルドのサブマスターだから当たり前か。すみません」
「はは……気にしないでください」
私は当然のことに感心してしまったことを詫びたけれど、アルフレッドさんは眉を下げて少し寂しげな表情を見せた。
「僕の【天恵】は魔物の詳しい生態や特徴を知るのにうってつけでしたしね。それに、知らないことを知るということはとても楽しいものです。知的好奇心が掻き立てられると言いますか……やってみると案外熱中してしまいまして。楽しく研究したことが、誰かのためにもなる。我ながらよくまとまった図鑑に仕上がったと思っていますよ」
「はい。とっても分かりやすいですし、仕事にも役立っています! あ、これ『魔物図鑑』で見たやつだ! って気づいた時はいつもアルフレッドさんに感謝の気持ちを捧げているんですよ!」
「ええっ、そ、それは少し照れくさいですね……うわあっ!」
「あーっ! 書類がっ!」
ニコリと微笑んで見せたら、アルフレッドさんは少し頬を赤らめながら右手で頬を掻いた。両手に書類を抱えていたから、まあ、あとはお察しの通りである。
ズザザーッとアルフレッドさんの腕の中から書類が雪崩のように溢れていく。
私も両手が塞がっているので、あわあわ狼狽えてしまう。とにかく、目前に迫っていた目的地であるアルフレッドさんの執務室に駆け込み、執務机に書類を置いてから再びアルフレッドさんの元へと駆け戻った。
そして一緒に散らばった書類を片付けていく。
「あれ、これって……?」
あらら、と書類を拾ってはトントンと端を揃えていた私は、とある書類に目が留まった。
「ああ、ピィちゃんさんの生態についても少しずつまとめているんです。何せ目撃例がほぼない幻の種族なのですから!」
そっか、私がピィちゃんを保護したのは、スタンピードで魔物の生息地が乱れた状態で野に放つと、またサラマンダーのような外敵に狙われてしまうのではないかと危惧されたから。そして、希少なピクシードラゴンの生態を解き明かすため。
アルフレッドさんはしっかりとピィちゃんについて観察して記録を取っていたというわけね。
始めこそ興奮した様子で鼻息荒くピィちゃんに迫るものだから、かなり警戒されていたんだけど、何度も顔を合わせているうちに二人(一人と一匹)はすっかり顔馴染みとなっている。
「読んでもいいですか?」
「ええ、もちろん! サチさんの目から見ておかしな記述があれば教えてください」
断りを入れると快諾してもらえたので、早速読ませてもらう。
ええっと、身長や体重、胴回りや頭周りの大きさ。うん、この間測定していたもんね。
それから、見つかった時の様子に、身体的な特徴と描画。
続けて色々な魔物や食べ物の名前が連なっており、その横には全て丸印が付けられている。
「これは?」
「ああ、ピィちゃんさんがどの食材を好んで食べてくれたかどうかを記録しているんですよ!」
「おおう……」
ピィちゃんは雑食だし、なんでも残さず喜んで食べる食いしん坊さんだ。
現に、アルフレッドさんの書類にはびっしり食べ物の名前が記載されている。
そしてその全てに丸印ということは、まあ、そういうことよね。
「本当に食いしん坊なドラゴンで……」
思わず苦笑しながら、拾い集めた書類を持って立ち上がると、残りの書類を集め終えたアルフレッドさんもゆっくりと腰を上げた。
「はは……まあ、外敵が多いと十分に食事を取るのも難しかったでしょうから、これからが成長期かもしれませんね」
「まだまだ大きくなるんでしょうか?」
あんまり大きくなると、今のベッドじゃ心許ないよね……。
「ううむ……成竜でもそのサイズの小ささが特徴的な種族ですから、今と見違えるほど大きくなることはないかと」
私の不安を見透かしたように微笑むアルフレッドさん。
「魔物の肉を食べることでより強力な力を得るという説もありますし、能力的な面でも成長途上なのでしょう。まあ、これからの成長度合いも含めてしっかりと記録して、いつか図鑑に収録したいと考えていますよ!」
爛々と目を輝かせるアルフレッドさんに続いて執務室に入り、さっき置いた書類の横に抱えていた残りの書類を置いた。
「お手伝いありがとうございました。助かりました」
「いえいえ、これぐらい朝飯前ですよ。では、私はカウンター業務に戻りますので!」
「ええ、頑張ってくださいね」
「はいっ!」
アルフレッドさんと笑顔で別れ、私は自らの職場である魔物解体カウンターへと足早に向かう。
ピィちゃんの話をしていたからか、なんだか無性に会いたくなっちゃったな。
「ただいま戻りました!」
「おう、お疲れさん」
カウンター内に滑り込むと、双頭狼の頭を落としていたドルドさんが出迎えてくれた。
可愛い相棒の姿を探してキョロキョロとカウンター内を見回すと、すぐに会いたかった小さなドラゴンがこちらに向かって飛び出してきた。
「ピピィッ!」
「わっ、ふふ、ただいま。ピィちゃん」
「ピュワッ!」
勢いよく私の胸に飛び込んできたピィちゃんをしっかりと抱き留める。
どこに行っていたのか、遅かったぞ、とでも言わんばかりにピィピィと苦言を呈している。
「ごめんごめん、アルフレッドさんのお手伝いをしていたの。お腹空いた? もうちょっと作業を進めたらお昼ご飯に行こうね」
「ピュァッ!」
置いていかれてプリプリしていたのが一転、ご飯というワードを聞いてパァッと顔を輝かせるあたりが単純で可愛いなあと思う。
「じゃあ、もう少しだけ待っててね!」
「ピィッ!」
私は素早くエプロンを腰に巻き、真っ二つに割れた愛用のナイフの代わりに使っている予備のナイフを手に取って、私の帰りを待っていた魔物の山に切先を向けた。
ご無沙汰しております!(土下座)
本日11/14についに【魔物解体嬢】のコミックス①巻が発売となりました!
活動報告に見本誌の写真を載せておりますので、ぜひ素敵なデザインをご覧ください〜!( ´ ▽ ` )
紙で手に取ると、改めて書き込みがすごい…!と感動します。
1巻にはスタンピードのあのシーンまで収録されております!
そう、ピィちゃんが出てきたところまでですね!
ということでコミックスに合わせた時系列でSSを書いてみました^^
そしてありがたいことにコミックスには色々と特典が付いておりまして、ぜひご愛顧の書店様でご購入いただけますと嬉しいです!!!
↓ ↓ ↓
https://magcomi.com/article/entry/benefits/genkaiol01
そしてそして、ゲーマーズ様では「巻き込まれて召喚された限界OL、ギルド所属の【魔物解体嬢】として奮闘中 THE COMIC①」発売記念サイン入り複製原画展&プレゼントフェアが開催されるようです!!!
↓↓↓
https://www.gamers.co.jp/contents/event_fair/detail.php?id=6889&srsltid=AfmBOoqqh4UUHqWTtG2Wuz-FQ2fXhO7_FPDQJ-gV67wP5kwaRatTVrHx
複製原画展はAKIHABARAゲーマーズ本店様にて実施です。
私は遠方で見に行けないので、ぜひお近くの方は私の代わりに見てきてください;;
書籍②巻も来年の暖かくなる頃の発売を目指して絶賛製作中ですので、コミックスともどもよろしくお願いいたします!!!




