【コミカライズ第2話更新記念SS】新人求む ◆ドルド視点
サチが異世界召喚に巻き込まれる前のお話です
「ぷっはぁ! あー、疲れた身体にエールが沁みるぜ」
「あはは、いい飲みっぷりね。お疲れ様」
仕事終わりに帰宅途中のアンと出くわした俺は、行きつけの酒屋でキンキンに冷えたエールを煽った。
最近魔物の持ち込み量が多く、息抜きをしたいと思っていたので元々飲んで帰る予定だったのだが、話し相手ができて僥倖だった。
ギルドマスターの娘であるアンとは彼女が子供の頃からの付き合いで、もはや実の父娘のような良き関係を築いている。
「ホーンブルの縄張り争いだっけ? 結構な頭数がいたみたいね。討伐依頼はようやく落ち着いたみたいだけど、魔物解体カウンターも大変だったみたいねえ」
「ああ、そりゃもう大変だったさ。ナイルとローランもかなり仕事を任せられるようにはなってきたが、ナイルは隙あらばサボろうとするし、ローランは腕はあるのにどこか遠慮したところがある。もう一皮剥けりゃ、解体師としての誇りも持てるんだろうがなあ」
ついさっきまでヘロヘロになりながら業務をこなしていた部下二人の顔を思い描く。
どちらも過酷な魔物解体カウンターで長く働いてくれていて、根性はあると認めているのだが、どうしても日々の仕事に追われてその日を乗り切ることが目標になっている節がある。要領よく仕事をこなすことも大切だが、常に向上心を持って仕事に向き合って欲しいと思ってしまうのは求めすぎなのだろうか。
雪が溶けて穏やかな気候の季節となってきた今日この頃であるが、冬場に身を潜めていた魔物が活動し始める季節でもある。それに、数ヶ月後には大収穫祭も控えている。これからどんどん忙しくなる一方だ。
「はあ〜……せめてもう一人、腕のいい職員を増やしてくれねえかな」
「万年人手不足だものねえ。常に募集はしているんだけどね……やっぱり重労働だし過酷な仕事内容だから、誰にでも簡単にできるわけじゃないのよお」
「それは俺が一番よく理解しているさ」
魔物の解体にはそれなりに知識が必要だし、もちろん腕力や体力も必要不可欠だ。
どんどん持ち込まれる魔物に臆することなくナイフを入れ、的確に素材別に解体する技術が求められる。
魔物肉は市井でも一般的に食されるし、ツノや牙といった素材も武器や防具に加工されて冒険者の一助となっていく。
俺たちはただ魔物を捌くだけではなく、そうした需要にも応える必要がある。
魔物を解体する者がいなければ、肉は食えないし素材も活用できない。
俺たちの仕事は、それだけ重要な仕事なのだ。だからこそ、生半可な覚悟で飛び込んで来れるような場所でもない。
「だが、このままだといずれ業務が回らなくなる。それこそスタンピードでも起きてみろ。処理しきれなかった魔物はどうする?」
「それはそうだけどお……パパも魔物解体カウンターの人員不足には頭を抱えていたものねえ」
「そのギルドマスター様は一体どこにいるんだよ。どでかい仕事を抱えて、もう数年は帰ってきていねえじゃねえか。アルフレッドのやつがよくぼやいているぞ」
「困ったパパよねえ。そろそろ片がつきそうとは言っていたけど、いつ帰ってくるのやら……ママも寂しがっているわ」
「そりゃそうだろう。あいつは愛妻家のくせして仕事となると没入しすぎていけねえ。帰ってきたら縄で縛り上げてしばらく外に出られないようにしてやれ」
「あははっ! それいいかもお〜」
お互いに酒が進み、気分が良くなってきた。仕事の愚痴や、父親に対する小言。すっかり話し込んでしまい、夜も更けてきた。そろそろお開きにするべきか。
「ま、自由なギルドマスターの代わりに、今日も俺がナイトを務めるとするか。歩けるか?」
「大丈夫よお〜今日はそんなに飲んでいないから」
「どうだか」
勘定を済ませ、足元のおぼつかないアンが転ばないように適度な距離で見守りながら、街灯に照らされた夜道を歩く。
しかと彼女を家まで送り届け、俺も我が家へと向かう。
「はあ、真面目で一生懸命な凄腕の解体師がやってきてくれりゃあなあ……」
チカチカと遠くで瞬く星々を見上げながら、思わず溢した本音。
そんな人材、この世にいないのではないかと、ついつい自嘲する。
だが、しばらくして、異世界から召喚されたという女性がとんでもない【天恵】を引っ提げて魔物解体カウンターにやってくることになろうとは――この時の俺は知る由もなかった。
マグカンさんにて魔物解体嬢コミカライズ第2話が公開されました!
無料だよ!無料で読めるよ!そしてサムネに!いる!!笑
コミカライズは原作を少しアレンジしていただいているので、
原作より彼が早めに登場しますよ!!
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