表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

102/171

第99話 まさかの再会

 誰なの。広い街中でばったりエンカウントなんてないないって笑った能天気なやつは! 私だよ!


 密かに拳を振るわせて、一人ノリツッコミで冷静さを取り戻す。

 すー、はー。……よし。いや、全然よくはない。


 現実逃避をやめて、改めて視線を上げる。

 いる。まんまるな目に、勝ち気に上がった眉。腰まであるふわふわの茶髪。

 はあ、間違いなく梨里杏だわ。

 服装は流石に制服じゃなくて、清廉な司祭服を着ている。ちょっと裾が汚れているから随分と使い込んでいるみたい。


 当の梨里杏はフルフル震えながら、お化けでも見るかのように私を見ている。心なしか顔色も悪い。なんなのよ。


「リリア? どうしたんだい? 彼女は誰だい?」


「ブライアン……いいえ、なんでもないわ。ちょっとした知り合いよ」


 梨里杏の後ろには、少しうねりのある淡いブロンドヘアを靡かせる見るからに王子様と思しき青年が立っていた。鼻が高くてまつげまで金色にキラキラ輝いている。いや、まつ毛なっがいな。


 ブライアン。その名前は聞いたことがある。

 ドーラン王国の第一王子で、勇者として聖女・梨里杏と共に魔王討伐の任に当たっている。

 王族、つまり、聖女召喚に関与していた人物というわけで、関わりを持ちたくない人物最上位だ。


 なんて思ってたのに、そもそも私のこと知らないんかい! 無責任にも程があるわ!

 まさか、あのローブ軍団の魔道士たち、私を聖女召喚に巻き込んだ失態を隠蔽しやがったわね!

 いや、ギルドに身を置いているから、流石に報告は上がっているはず。


  窺うようにチラリと視線を向けるも、ブライアン王子はずっと梨里杏を見ている。心なしかうっとりしていて、さながら恋する乙女のよう。


 ……ふむ、この様子だと、この王子様は梨里杏以外に興味がないと見た。


 そもそも、どうして勇者と聖女である二人がこんな庶民的な宿にいるのよ。


 ツッコミどころは満載だけど、とにかく、この場を穏便に乗り切ることを考えよう。

 私は拳を口元に当てて、わざとらしく「コホン」と咳払いをした。


「久しぶりね! 元気にやってるみたいで何よりだわ。私もそれなりに充実した毎日を送ってるから、お互いこれからも頑張りましょう! じゃ、そういうことで」


「え、いや、ちょっと! 待ちなさいよ!」


 爽やかな笑顔で一呼吸で捲し立てて梨里杏の横を通り抜けようとしたのに、すれ違いざまにガッシと腕を掴まれてしまった。作戦失敗であります。


 こっちは話すことなんて何もないんだけど、何か用事でもあるのかしら。


 捕まったものは仕方がないので、ため息をつきつつ梨里杏に向き合った。

 その時、梨里杏の腕からモヤリと真っ黒な何かが立ち上ったように見えた。


「え……?」


 今のは見間違い? 錯覚?

 私は目をゴシゴシ擦ってから、再び梨里杏を凝視する。


 いや、見間違いなんかじゃないわ。

 それにこの感じ……間違いない。


「梨里杏、あなた……」


 私が何に気づいたのか察したらしく、梨里杏は激しく目を泳がせている。さっきよりも顔色が悪い。私を見て青ざめていたわけじゃないんだわ。よく見れば首筋に汗が滲んでいる。きっと、随分と無理をしているのね。


 チラリと梨里杏にピタリと寄り添うブライアン王子に再び視線を向ける。

 一体お前は誰なんだ? と訝しげに私を見ている。


 はぁ……この人はずっと梨里杏と一緒にいるのに、何も気づいていないわけ?

 あるいは、梨里杏がブライアン王子に気づかれないように痩せ我慢をしているのか。いや、それにしてもでしょうが。


 とにかく、気づいてしまったものは仕方がない。放っておくことはできないので、少し話を聞きたいんだけど……


 そう思って口を開こうとした時、突然梨里杏が「うっ」と呻き声を上げて前のめりに倒れてきた。


「わっ、と……危ない。大丈夫?」


 咄嗟に梨里杏を抱き止めて驚いた。

 びっくりするほど身体が軽い。しっかり食事を摂っているのかしら? 身体は資本だというのに、これじゃ体力も回復しないわよ。


 それに、腕を掴まれたときには気づかなかったけど、この子、熱があるわ。それもかなりの高熱。


「リリア!? 大丈夫か? やはりまだ湖を浄化した疲労が残っているんだね……君が偉大な聖女とはいえ、大仕事だったからね。もう少し休めばきっと回復するよ! 何せ君は聖女様なのだから!」


 キラキラと曇りなき(まなこ)で梨里杏を見つめるブライアン王子。その目は組合長のミックさんや、酒場で聖女の話をしていた人たちと同じ、聖女に絶大なる信頼を置いている目だ。もはや崇拝に近い。


 私の腕の中で、梨里杏の身体が僅かに強張った。


 浄化の疲れ、ねえ……

 私はブライアン王子のことを何も知らないけど、この男に梨里杏を任せられないことだけはよく分かったわ。


 私の勝手なイメージだけど、あの日の梨里杏だったら、私が抱き止めた後すぐに突き飛ばすように身体を離して『気安く触らないで!』なんて言いそうなものだけど、実際の梨里杏はむしろ私に助けを求めるように縋り付いているようにも見える。

 そっと背中に腕を回すと、梨里杏はビクリと肩を跳ねさせた。はてさて、どうしたものか。


「はあ……もう! 仕方ないわね。梨里杏、危ないから騒がずにちょっとの間大人しくしててよね」


「えっ、なに、きゃあっ!?」


 私は、フンッと気合を入れて梨里杏を横抱きに担ぎ上げた。これでも毎日過酷な魔物解体カウンターで勤務しているのよ。力はそれなりにあるんだから。


 ポカンと口を開けるブライアン王子の横を素通りして、そのまま一息に階段を駆け上がる。


 遅れてブライアン王子が「ま、待て!」と追いかけてくるけど、あんたに構ってる暇はないのよ。


「少しこの子を預かります」


「お、おい! 無礼者! 彼女が誰か分かっての所業か!? 聖女だぞ! この世の救世主である聖女リリアだぞ!?」


 梨里杏の体調不良を察することもできない男にキャンキャン吠えられて、ブチリと眉間に青筋が浮かんだ。


「ええい、うるさい! 病人に障るわ! 明らかに体調が悪いってのに、あんたには分からないの!? 私が介抱するから、あんたはちょっと黙ってなさい!!」


「へっ、は、はいっ」


 ワッと一喝すると、ブライアン王子は虚を突かれたように固まって、そのまま廊下の真ん中で突っ立って私たちを呆然と見送っていた。


 ……つい頭に血が上ってしまったけど、もしかしてやってしまったのでは?


「あー……もし後から不敬罪に問われたら、あなたからフォローしておいてくれる?」


 自室の前に到着してそっと梨里杏を下ろした際に歯切れ悪く頼むと、梨里杏は目をパチパチ瞬いてから「あはは!」と声を出して笑った。

 その笑顔は、年相応の女の子の笑顔だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
୨୧┈┈┈┈┈┈ 11/14 発売┈┈┈┈┈┈୨୧

html>

୨୧┈┈┈┈┈┈好評発売中┈┈┈┈┈┈୨୧

html>

html>

マッグガーデンお知らせページ

୨୧┈┈┈┈┈┈ 好評連載中┈┈┈┈┈┈୨୧

9r4wdepn6n3j66qi3ysmgza021d1_98x_xc_hi_538d.jpg

୨୧┈┈┈┈┈┈ 好評発売中┈┈┈┈┈┈୨୧

html>
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ