覚悟完了
「つまるところシグナエも被害者だった――ってことですよね。
ん?
この場合被害者というか被害国?」
「まぁ…………。
そういう言い方も……あるのか。
実際……どうなんだろうな……。
被害か……どうかと言えば……加害国……。
うーむ……。
まぁ……そんなことは……ともやかく…………。
我は美しい…………」
「あー、はいはい……。
分かりました分かりました。
またこのくだりやるんですか?
そんな事聞いてないですよ」
「そうか…………」
少し寂しそうな顔を真黒は浮かべるがもう慣れているのか遠い目をして話を続けようとする。
「やっぱりはじめからこの戦争全てがセンスウェムが仕組んだものだったんですねよね。
センスウェムの正体って結局何なんです?」
「さあ……な。
我ら“核”に……存在意義を……与えてくれる……。
そんな……存在であることは……確か…………」
「確かに――うん」
真黒の言葉に蒼は適当に返してあくびをひとつした。
昼下がりの午後、太陽は既にてっぺんから西へゆらりと傾いていた。
気温は太陽と共にのんびりと上がり、兵士が釣る魚を求めて野良猫が鳴いて周りをうろつき回っている。
シグナエとの戦争も無事に終わり平和な空気がのんびりと流れていた。
ちゃぽちゃぽと海水が桟橋の柱に当たって砕ける水音が周囲に響いている。
桟橋は自立型で船に弾薬を補充し、修理が必要だと自己的に判断したらドックへと送り込んでいた。
そのドックの近くにある壁の頂点にはそこらの戦艦にも勝るような要塞砲が空を睨みつけていた。
セウジョウの周囲には過去の戦争で沈んだ地盤がかろうじて残っており、ビルの残骸が海中から所々顔を出している。
《ネメシエル》達軍艦が出航する付近はその残骸全て排除されているが、それ以外の所にはまだまだ残骸が残っているが基本押しつぶせるため気にする軍艦はいない。
遠くにいる小さな船が離陸のためにスピードを上げていく。
水飛沫を吹き上げて急激に高度を上げていく小さな船は飛行機雲のようなものを引いて遠くへと消えていく。
軍帽の唾に手を当てて、蒼はその光景を眺めていた。
「やっぱり小さな船はいいですね。
機動力が違いますよ」
軍帽を脱いで一度またかぶりなおしつつ、蒼は目を細める。
空のように青い目が光を失ってすっと暗くなる。
「仕方ない……そういうもの…………だ」
手を自分の顎に当てつつ、蒼はあくびをする。
「ふぁーあ……。
ん、そういえば真黒兄様はああいうの乗ったことあるんです?」
「ない」
即答だった。
それが普通なのだ。
「まぁ、そりゃそうですよねぇ……。
そういうもんですよね……」
シグナエにソムレコフを送り出した時の事を思い出し、蒼はやるせない気分になる。
自分の船以外に乗るのは駆逐艦や巡洋艦の“核”の仕事だ。
ベルカの《超空制圧艦隊》の旗艦クラスがやる仕事ではないことは確かだ。
マックスもなぜわざわざそんな任務を蒼にやらせたのやら。
「それがまぁ……そうですよねぇ……」
納得いかない、と言うように蒼は真黒の顔を見た。
真黒は手をヒラヒラさせ、知らんぷりをのんびり決め込む。
そこに蒼は追加で話しかける。
「我は……《ヴォルニーエル》一筋…………。
蒼も嫌なら……断ればよかったんだ……よ…………」
正論に蒼はぐっ、と黙り込む。
苦し紛れにマックスのせいにする。
「マックスの頼みでしたからね。
断るのも申し訳ない気がしてしまって」
「……そういうものか」
「はいな。
そういうことですよ」
真黒は桟橋に横付けされた自艦を見て惚れ惚れした表情を浮かべる。
ここから凡そ五百メートルは距離があるというのに、すぐそばに浮かんでいる通常戦艦より遥かに大きい。
《超極兵器級》の持っている特徴の全てを一番初めに身につけた姿は非常にスタイリッシュだ。
事実《ヴォルニーエル級》は全ての《超極兵器級》の基礎となった設計を更に高めるために作り上げられたものだ。
艦橋や艦首、その形全てが後の《超極兵器級》に通じており、特に完成度が高い。
《ネメシエル》の艦橋を研究する為に二番艦の《ニジェントパエル》だけは艦橋が《ネメシエル》のように改造されている。
また艦橋だけでは無く、他の所も《ネメシエル》と少し似ている所もある。
「プロトタイプってかっこいいですよね。
響きが!」
「……うむ。
我が艦は……全ての……起源……。
だから…………崇め……称えて………くれ……」
「えぇー。
流石にそれはダルいですよ。
あっちいってください」
「なんだそれは…………」
今まで種類も数も今まで多かった軍艦の姿は確実に減ってきており、色んなことが通常のセウジョウへ戻ってきていた。
自動迎撃システムが一日何度も起動する事もなくなり、非常時のサイレンの数も減少している。
領空侵犯の報告もない平和な空だ。
「はー……。
平和ってのも考えもんですよねぇ。
私達が暇になるじゃないですか。
センスウェム仕事してくださいよ」
つまらなくなったのは兵器だ。
平和で喜ぶのは人間しかいない。
兵器として産まれたからには平和を一番嫌み嫌わなければならない……らしい。
「それに関しては私は何ともですね……」
蒼は平和のままで構わないが心の奥底ではとてもガッカリしているタイプだ。
「戦争は……終わっていない…………。
まだ残党狩りが……残っている…………。
前線が…………遠退いただけ……。
それだけの話……」
どうやら気持ちは蒼だけのようで真黒は純粋に戦争が終わりに向かっていることを喜んでいるような口ぶりだ。
「分かってますよ。
《バードエイジ》もいることですし……。
ぶっちゃけ今の連合に敵はいないんじゃないですか?」
冗談のつもりで言ったのに真黒はやけに真剣な表情をする。
「………………。
夏冬や紫……気になるな……」
「紫……ですか。
まぁ、彼のことが気にならないと言ったらそれは嘘になりますね。
本来なら《ネメシエル級》の二番艦になる予定だったのに……。
勿体無いですよね。
国の名前を背負い、期待に応えるはずだったんですよね。
…………私のように」
波の音が船の機関音にかき消される。
暫くして船が行ってしまうと波の音はまた響きはじめた。
船が近くを通っている間、真黒と蒼の二人の間だけ時間が止まったようだった。
波の音も、兵士達の話し声も聞こえない空間は前にコグレにいたことを思い出させるのだ。
今やセウジョウよりも前線に近いコグレはセウジョウには劣るもののオンボロ基地は拡張、整備がなされはじめているのだった。
「………名前も…………《ウヅルキ》なんかじゃない……。
ちゃんとしたものが……あった…………」
急に二人の間に音が帰ってきた。
声は小さめだが魚を釣り上げた兵士が歓喜の声をあげる。
それに群がる猫の声が波の音に混ざる。
猫と戯れる兵士の笑い声も混ざりこむ。
さっきまで低かった波が一気に高くなる。
近くを一隻の巡洋艦が通っていった
からだ。
元々海に浮くように作られているベルカの軍艦と違って今近くを通ったヒクセスの軍艦は地上基地に停泊するように作られている。
海に浮かんで大丈夫なように造られてはいるらしいが、とても波の抵抗を考えられたようには出来ていない。
それを証拠にヒクセスの艦が海面を通ると海が必要以上にかき回されて白く濁るのだ。
其の姿は溺れかけのカバのようだ。
「え?
《ウヅルキ》にちゃんとした名前ですか?」
「うむ……。
《ノーザンシエル》。
これが……本当は《ウヅルキ》につくはずだった…………名前…………」
「《ノーザンシエル》……《晴天楼》ですか。
なんです、私の《陽天楼》よりかっこいいじゃないですか。
《晴天楼》……羨ましいですね……」
蒼は真黒に対して半分笑いながら言ってみた。
真黒は静かに頷き、腕を組むとタバコを胸ポケットから取り出し火をつける。
「やれやれ。
どうして、タバコなんて吸うんですか?
百害あって一利無しですよ」
「癖……みたいなものだ。
分かっていても…………やめられない」
「私絶対吸わないようにします」
風に流され、飛んでいったタバコの灰は海の色の境目付近で見えなくなる。
遠くに見えている粘りの出てくる辺りから海水の色は大きく変わる。
大量のプランクトンが発生するが、食べるもののいない世界は緑にも似た汚い色になる。
その海水は一年後ごとに陸地に過ごしずつ近づいてきている。
あと何十年かすれば陸地にまで粘りはやって来て、やがて海は生命がひとつとして存在しない世界になるだろう。
そうならないように連合が調査を進めているが原因は明らかになっていない。
「その昔……海には…………大量の生命体が…………存在していた……らしい……。
今では……考えられない……くらいに…………」
「そうなんですか?
でもそんなにいたところで食べられる魚が増えるわけじゃ……」
「やれやれ……。
我が妹は……こんなに、バカだった……か」
「うるっさいですね!」
ピピピ、と二つの着信音が蒼と真黒の二人から流れる。
二人はほぼ同時に招集がかけらことを悟る。
「暇は嫌ですがいざ仕事となると面倒ですよね」
「……ふん。
よく分からん奴だ……我が妹ながら……。
とりあえず……行くぞ……」
※
「もぉおおおおおおおおおおお!!!
寒すぎますよシグナエは!!!!」
「……うるさいぞ。
仕方がない……だろう……?」
既に蒼の苛立ちは噴火寸前だった。
シグナエの寒すぎる気候は順調に《ネメシエル》を凍てつかせていくのだ。
既に船体にはがっつり雪が積もりたまに風で吹き飛ぶ欠片が地上へと落ちていく。
人の頭に当たればその人は気絶してもおかしくない大きさだ。
『まぁそういうな蒼。
今回だけだ……たぶん。
だから許してくれ』
マックスも通信で蒼のご機嫌を取りに来る。
蒼は苛立ちを孕んだ視線をマックスへ向けた。
「マックスが持ってくるシグナエ関係のミッションはいつもこんなんばかりじゃないですか!
そりゃ怒りますよ私も」
『すまんて。
そう怒るなよ、な?
今蒼達がいるチョプレーチャシチイ地方は万年吹雪がやまない上に世界で一番寒いところなんだ』
「知ってますけど」
『怒るなよ。
そこにシグナエの残党が逃げ込んだんだ。
シグナエ臨時政府の勧告を無視してな。
今回はその掃除だ』
「はーん。
掃除、ですか。
わざわざ《超極兵器級》を動かす意味あるんですか?
しかもこんな寒いところに派遣して。
自分はぬくぬくとセウジョウの椅子に座って……」
『それを言うと何もいえなくなるじゃないか。
全く、すまんて』
「プリン」
『え?』
「セウジョウに帰ったらプリンおごってください。
百個。
必ずですよ」
『やれやれ……。
分かったよ。
だから機嫌直してくれ……ん?
百個?』
「何にしようか迷いますね。
楽しみにしていますですよ」
蒼が息をする度に白い靄が口から出てくる。
艦橋の窓には水分を含んだ重たい雪がべったりと張り付き、外が全く見えない。
空は真っ白な雪雲が覆い尽くし、地上も雪で真っ白で方向感覚が狂う。
それだけでもやる気が起きないというのにそれ以上に寒さが艦隊全体の士気を下げていた。
ヒクセスとベルカ、シグナエの臨時混合艦隊十二隻は残存兵力を押し潰すのには過剰とも言える兵力だが、何事にも慎重なマックスだ。
間違った判断ではない。
前線を行く駆逐艦達は文句こそ流してこないがひたすら寒さに我慢していることだろう。
唯一文句を言わないのはシグナエの元から寒さに耐えることができるように作られていた艦だけなのではないだろうか。
『一応寒さの対応として部屋に防熱材を張り巡らせたんだが……考えが浅はかだったな。
うーむ、すまない。
まさかそこまでとは思っても見なかった』
“レリエルシステム”を通じて暖房を最大出力にする。
エンジンで暖められた空気がパイプを通ってたどり着く前に完全に冷えてしまい、出てくる空気は冷たいものばかりだ。
「《ネメシエル》!
あったかい風が全然出てこないですよ!?
いったい何をしているんですか!?」
(暖房これ以上強くするなんて難しいぞ蒼副長……。
これでも最大なんだ。
ひたすらに耐えてもらうしか――)
「鬼ですか!」
寒さで蒼の口から出た靄が髪を濡らし、寒さによって凍りつく。
椅子に通っている電熱線からの微かな温もりだけが今の蒼の救いだった。
「こんなに寒いなんて……。
完全に油断していましたよ……。
うううう。
あと四枚くらい重ね着するしか……」
軍服の上から四枚ほど予備の軍服を重ねる。
肌を刺すような冷たさは和らいだがそれでもまだ服の繊維の隙間から寒さはひしひしと入ってくるのだった。
「ううう……まだ何とかマシですね。
さっきのは指先まで凍るところでしたから」
冷たい指と指の腹を擦り、感覚が段々と戻ってくるのを待つ。
手を口に持っていき、暖かい息を吐いて掌を温める。
しばらくして重ね着がようやく意味を成してくる。
少し寒さが和らいだのを見計らってマックスが話しかけてくる。
『まぁ、残存兵力なんて大した量ではないはずだ。
ぱっぱと片付けて、帰ってこい。
な?』
「はいはい。
真黒兄様、さっさと仕事をこなさないと私達きっと凍え死にますよ」
『…………………………』
返事がない。
「あれ?
もう死んでますか?」
『生きて……いる……。
何とか……な……』
「旗艦はあなたですから。
私は真黒兄貴に従いますよ。
真白姉様は今日休みですし、羨ましいですよね。
さっさと終わらせて帰りましょうですよほんと」
雪の降る日には何か悪いことが起きそうな気がするものだ。
蒼のそんな気持ちはすぐにレーダーに反応となって表れた。
すぐに回避を促す声が《ネメシエル》から流れる。
(正面よりエネルギー光線の接近を検知!
数は五十を超えなおも増大中!
“イージス”展開後、発射地点を計測。
そこに“三百六十センチ六連装光波共震砲”をお見舞いしてやる)
「おいでなさいましたね……!
真黒兄様、命令を!」
『うむ……。
全艦全兵装解放……!
攻撃開始……!』
発射された予測地点へと味方艦隊の攻撃が殺到する。
備え付けられていた対空要塞砲が炎上し、砲身が融解する。
燃える炎は雪に隠れて見えない。
『《ドーバー》被弾!
戦線を離れます!』
味方が一隻艦首に被弾し、ぐらりと傾く。
残存兵力も駆逐艦程度を落とす力は残っている、ということですか。
蒼は全艦を三隻程度の集まりにして散らばらせ、各個撃破することを真黒に提案する。
「旗艦、どうです?
この数ならば正面から挑んだところで戦力の無駄だと思います。
三隻ほどの分艦隊を作り、遊撃に移ることを提案します」
『かまわない……。
よろしく頼む……』
「了解です!
《アルズス》、《タケシナ》私についてきてください。
敵の殲滅を開始しますよ!」
『了解っす、蒼先輩!』
『了解。
今そちらの分艦隊に加わります』
「旗艦、《ネメシエル》以下三隻遊撃隊になり敵の後方から蹴り上げます。
もし何か罠があったとしても対処することが出来ますし。
では行ってきます」
《ネメシエル》と二隻の巡洋艦は艦隊とは九十度反対の方向へと進路をとった。
敵艦隊がいると思われる地点の後ろを取り前と後ろでサンドイッチを作り上げる。
敵は正面から《ネメシエル》が来ると思っているだろう。
今回はその裏をかくのだ。
「《ネメシエル》ステルス防御展開。
目視も出来ない今、レーダーにさえ映らなければ大丈夫なはずです」
(そうだな。
基本使わないこの機能もこういうときぐらいは使えるからな。
アクティブステルス展開。
これで敵に私達は小鳥ぐらいにしか見えないだろうよ)
すでに遠くでは主力と敵が撃ち合っている轟音だけが響き渡る。
時折、レーザーの光だけがちらりと垣間見える。
地上に設けられた対空要塞砲にも限りがある。
「ん?」
ちらり、と進路に影が五つ見える。
『前方に敵!
このまま突っ込んで倒しましょう!』
『蒼先輩やっちまいましょうっすよ!
ここで逃したら五隻は流石に面倒っす!』
「ですね。
やってしまいますか。
全速前進。
敵艦隊を殲滅しますよ」
ステルスをかなぐり捨て、スピードを出し始めた《ネメシエル》はその巨体ゆえすぐに敵に見つかった。
飛んでくるレーザーを弾きつつ、高度を下げて比較的攻撃力の薄い真下へと潜り込む。
それを追うために進路を下げた敵艦隊だったが……。
「今ですよ!」
《ネメシエル》に注意が向いている隙に《アルズス》と《タケシナ》の二隻が上空から敵艦隊五隻へと襲い掛かった。
それぞれが一隻ずつを至近距離から装甲をぶち抜き、機関を破壊する。
落ちたエンジン出力ではその船体を支えられずに地上へと二隻が落ちていく。
「そっちばかりに気をとられていていいんですかね?」
《ネメシエル》の“三百六十センチ六連装光波共震砲”が雪を払い仰角をとる。
ほぼ真上の敵を狙うために艦首を上げ、船体ごと砲を回す。
第一、第二、第三でそれぞれ別の目標をロックオンする。
「撃て!」
距離凡そ二千という近距離から放たれた光波の光は敵艦の装甲をものともせずに噛み千切ると、そのまま内部にまで歯を食い込ませた。
熱でシグナエの緑色の鉄を溶かした光はエネルギーを弱めつつも船体を貫通する。
「っち、過貫通ですか。
まぁ、かまわないですけど。
《アルズス》、《タケシナ》瀕死の敵の撃破をお願いします」
止めのためにわざわざ《ネメシエル》の砲を使うのも面倒で後始末を二隻に投げる。
(蒼副長!
地面に近づいている!
高度をあげるんだ!)
ビープ音と《ネメシエル》の警報が艦橋内に響く。
「はぁ?
《ネメシエル》何をいっているんです?
高度凡そ八千メートルにさっきまでいたんですよ?
それが何でまた……」
レーダーにさっきまで写っていた落ちたばかりの敵艦が近づいてくる。
地面と共に。
「そんな…………。
え、さっきまで高度は……」
混乱する蒼の頭の中に更に混乱する話が舞い込んでくる。
『《ネメシエル》聞こえますか!?
こちら《ヴォルニーエル》艦隊!
現在敵不明兵器の起動により、艦隊の半分がやられました!
直ちに戻ってきてください!』
蒼は通信を聞きながら“三次元パンソロジーレーダー”を起動する。
「了解、直ちに戻ります!
……《ネメシエル》、これってもしかして」
“三次元パンソロジーレーダー”は周囲を立体的に写し出す。
“レリエルシステム”を通じてその結果を眺めた蒼は思わず息を呑んでいた。
(ああ、間違いない……。
地面かと思っていたがまさか船だったとは……)
《ネメシエル》達の位置から《ヴォルニーエル》の位置まで凡そ二十キロはある。
そこで交戦中と言うことは今蒼達の下に浮かんでいる兵器はそれぐらい、もしくはそれ以上ということになるわけだ。
「敵は私達に気が付いているんでしょうか?
もしついていないなら、装甲をぶち破って中を破壊し尽くしてやります」
そう息巻いた瞬間、《ネメシエル》の船体がぐらりと揺れる。
敵巨大艦のアイドリングだろうか。
空を覆っていた雪雲がその勢いに飲まれ吹き飛び穴蒼天が覗く。
差し込んだ太陽のお陰でその全貌を眺めることが出来た。
まるでパンケーキのように丸く、薄っぺらい構造の船だ。
目のようなものが合計八つ、艦の外壁を覆うように取り付けられており砲搭のような兵装は見受けられない。
不可思議な模様が船体には刻み込まれており、兵器と言うよりまるで彫刻のような印象を強く受ける。
その端では《ヴォルニーエル》の巨体が味方艦隊を守りながら奮闘しているのが見えた。
『なんだ……こいつは…………』
しかし、真黒の《ヴォルニーエル》とこの円盤が交戦状態に入っていることは明らかだった。
パネルのように裏返ったり、格納された砲がせり上がって来ることによって現れるらしい。
まるでヒクセスの軍艦のように格納式にしてあるのはきっとなにか意味があるのだろう。
ただ、機関音といい、砲撃といい大きさといいシグナエやヒクセスのものではないことは素人目にも分かる。
フェンリアや副司令がいたら確実にデータには無い、的な発言をするだろう。
『至急司令部に……連絡を…………。
これは…………アンノウンすぎる…………』
「今援護に行きます。
《アルズス》、《タケシナ》。
《ヴォルニーエル》の援護に向かってください。
私はここでこいつに攻撃してみます」
『了解!』
『うっす、了解っす!
まぁやることをやるだけっすね!』
「そういうことです」
敵は《ネメシエル》に対してまだ攻撃してこない。
攻撃してきた相手にのみ反応するタイプだろうか。
とりあえず今のうちに近づき、隙があれば主砲を叩き込むつもりの蒼だったが敵はどうやら勘づいたらしい。
目のようなものの眼孔に当たる部分のシャッターが開き、中からレンズが現れる。
それが砲身だと気が付くまでに既に《ネメシエル》は撃たれていた。
「っ、なんですかこれ!?」
目にも見えない速さで飛んでくるそのレーザーは性質は“光波共震砲”に似ているようだ。
そのためか“イージス”に対しての衝撃はあまりない。
「でもずっとくらい続けるのは勘弁です!
高度を上げて、敵と少し距離を――」
しかしそんな動きを読んだように、敵艦は《ネメシエル》を集中して狙ってくる。
小規模の爆発が“イージス”の外で起き、《ネメシエル》を包む。
大したこと無い攻撃も何度も貰えば致命傷になる。
蒼は舌打ちをして艦首を敵へと向け直した。
三キロを超える巨体が軽々と旋回し、飛行機雲を曳きながら敵へと向き直る。
【っち、《鋼死蝶》!
お前まで来ているとはな……!
流石にそれは予想外だったぞ!】
距離凡そ三百キロ付近にて新しい反応が一つ現れた。
その大きさは通常戦艦並みの大きさだったが、識別信号は違った。
今まで何度も見たことのある憎らしい《236》番。
「《ウヅルキ》!?
また貴方ですか案の定……何なんですか?
ストーカーじゃないですか最早ここまでくると」
もはやここまで会うと《ウヅルキ》に対する態度も変わらなくなる。
簡単に言えば飽きている。
【知らんなぁ!
とにかくこの《方舟》は我々センスウェムのものだ。
手を引いて貰おうか?】
「《方舟》……ですか?
なんかセンスウェムに言われると手を引く方が間違いだと思ってしまいますよね。
それが普通では?」
【くだらん私情だ、《鋼死蝶》!
引いた方がいいぞ!?】
「そう言われると引きたく無くなるのが道理ってもんです。
邪魔をするなら《ウヅルキ》貴方も排除します」
【はっ、そうかよ!
なら俺様とやろうってのか!?
ああぁ!?】
『おおっと、そこまでだ。
《ウヅルキ》、空からの攻撃は怖くはないのか?』
【――――!
っち、全く面倒な……!!】
「こちらには《超極兵器級》が、二隻ですよ?
貴方、その通常戦艦の船体で我々とやりあうつもりですか?」
圧倒的優位を《ウヅルキ》に見せつける。
悔しそうに唇を噛む《ウヅルキ》だったがその表情はすぐに変わった。
【そんな事言ってていいのか?
もう二隻が一隻になるみたいだぜぇ?】
「へっ?」
自分でも情けないと思うような声が蒼の口からは漏れていた。
慌てて振り向いた蒼の視界に写ったのは《方舟》の甲板に燃え盛りながら突き刺さる《ヴォルニーエル》の姿だった。
『くそ……なんだこの船は……!』
悪態をつきながらも真黒の声はまだ元気そうだ。
しかし《ヴォルニーエル》が落ちるとは思いもしていなかったまさかの事に蒼は思わず息を飲んだ。
「真黒兄様!?」
冷や汗が背中から吹き出し、状況の確認が遅れたその一瞬をついて敵弾が《ネメシエル》の装甲を削りに来る。
“イージス”の展開を命じつつも距離を少し離すが、敵艦がいかんせん大きすぎる。
「っく、真黒兄様一体何にやられたんですか!?」
『目だ……蒼、目に気を付けろ……!
あの目は……艦のコントロールを乗っ取りに来るぞ……!』
「目……?」
目のようなもの、それは全方位を見渡せるように《方舟》にはついている。
そして話しているその目が《ウヅルキ》を見た。
【っち、《方舟》め――!
自立制御に入ってやがる、話を聞こうとしやがらねぇじゃねぇか!!
おい!
話を――!!
っち、このガラクタめが――!!
夏冬、解除コードを――!!】
紫の乗る通常戦艦が次の瞬間熱暴走でも起こしたかのようだった。
機関部のノズルが高温に耐え切れずに溶け出し、バターのように形が崩れる。
続いて主砲が自分の艦橋を向いたかと思うと、その砲門が火を噴いた。
自分で自分を破壊していくその様はまさに自殺といっても過言ではない。
ドンドン機関部から侵食していく熱が装甲をぶち破り、やがて艦の姿勢を維持出来ずに地面へと落ちていく。
「いやぁ、あんなのでは沈みたくないですよ私流石に……」
軍艦が自殺するという稀有な状況を目の当たりにした蒼の背中にまた新しい冷や汗が流れる。
背筋が凍りつく、とはまさにこのことだろう。
【ダメだこりゃ……。
まぁ、何だ《鋼死蝶》。
せいぜいがんばれ!】
紫はこれである。
「え、ちょっと!
《ウヅルキ》あいつの弱点とかをせめて……」
こちらのことを無視して自分だけ逃げようとしている紫にすがる蒼だったがばっさり紫はこちらを切り捨てた。
【無いに決まってるだろうが!
“旧人類”の兵器だぞ!】
「えぇ……。
どうしようもないじゃないですかそれじゃあ!
さっき夏冬に言った解除コードを私達に渡せばいいんですよ!
そうすれば――」
【この空域に来たお前の負けだな】
「ちょっと!
クソ、切りやがりましたねあいつ……!」
(どうする、蒼副長!?
っ、謎の電波が送り込まれてぁああああ!
な、なんだこれは!
とてつもない演算スピードで艦の制御が奪われる――!
第二百防壁まで展開するがこれは――!)
《ネメシエル》が呻きを上げる。
既に《方舟》からのクラッキングは《ネメシエル》のコントロールを奪うために第三深層へまで潜り込んでいた。
もし《ネメシエル》の処理速度があと少しでも遅れていたら確実に船は《ヴォルニーエル》や《ウヅルキ》のようになっていただろう。
「《ネメシエル》、私の脳内処理を使ってください。
あなたと私の脳は同じもののはずですから。
少しでも時間が稼げるなら――」
『蒼……。
俺はなんとか…………生きれるが………………。
艦隊が…………心配だ…………。
旗艦になって…………逃げろ…………。
こんなの…………戦いようが…………無い…………!』
「《ネメシエル》!
防壁が突破されるまであとどれぐらい時間がありますか!?」
(くっ……細かいことは分からんが後三分持つかどうか――!)
《ネメシエル》の艦首を再び敵に蒼は向ける。
あの目さえやってしまえば艦の制御を奪い返すことが出来るはずだ。
『蒼、《バードエイジ》からの狙撃で《アイティスニジエル》の気を逸らす!
その隙に――』
マックスの提案を蒼は一蹴する。
「ダメですよ!
そんなことしたら《バードエイジ》まで乗っ取られてしまいます!
そうしたら連合はセンスウェムに対抗できなくなってしまいます。
それだけはなんとしてでも避けなければならないんです」
《ヴォルニーエル》が甲板に刺さっていることから敵兵器には“イージス”のようなものがないことは見て取れた。
それが唯一の救いだ。
「《ネメシエル》、突撃を慣行します。
あの目さえやってしまえば後はどうとでもなるはずです。
《アルズス》、《タケシナ》、援護を」
『っ、申し訳ないっす蒼先輩!
二隻して制御を奪われそうでそれどころじゃ――』
「っく……!
しょうがない私達だけでやるしかないです……!
機関全速と同時に艦のコントロールをアナログへ。
アナログなら制御を奪いようがないはずです。
まだコントロールを奪われていない兵装全てを奴の目に集中させます。
万が一のバリアに備え、距離は二百にて斉射します。
それでダメなら新しい方法を考えます!」」
(了解した。
艦のコントロールをアナログへ変更。
蒼副長、後二分だ。
頼んだぞ)
「任せてください。
私を誰だと思っているんですか」
機関を回し、艦首に“イージス”を展開しつつ《ネメシエル》は敵兵器へと近づく。
巨大兵器や《天端兵器級》に比べ薄い弾幕は《ネメシエル》を食い止めるには至らない。
しかし、制御を奪い取りに来ている敵艦はまず《ネメシエル》の第一主機を奪い取ることに成功した。
たちまち回転数が一気にレッドゾーンにまで達し、もはや意味を成していないリミッターが悲鳴を上げて弾け飛ぶ。
機関融解の危険をアナウンスするサイレンが鳴り響くが蒼は無視する。
エネルギー脈動管が破裂し、高熱と光が第一機関室の隔壁をぶち破る。
たちまち吹き上がった炎が《ネメシエル》のノズルから噴出し黒煙となる。
「っ、クソやりやがりましたねこんの……!」
こみ上げる痛みをこらえ、蒼はまだ前進する。
ここで引いたら負けるしかないのだ。
(後一分!
蒼副長、早く――!)
「大丈夫です、まだ五秒ほど余裕があります!」
『五秒って――!
蒼先輩無茶っすよ!』
「無茶じゃないです!
やるしかないんですよ!」
(っく、ダメだ!
“イージス”や“強制消滅光装甲”系統AIとの連絡が途絶した!
すまない!)
“イージス”の消えた《ネメシエル》の船体に敵の攻撃が次々と突き刺さる。
装甲で弾けるものは弾きつつも、やはり柔らかい艦橋構造物にはダメージが入る。
“六十ミリガトリング光波共震三連装機銃”や“三十センチ三連装光波共震高角速射砲”が主にその餌食となる。
次々と攻撃を受け、破壊され、炎上するが《ネメシエル》の歩みは止まらない。
(あと十秒だ!
頼むぞ!)
「任せてくださいよ……!
ターゲットを敵艦の目に固定。
機関逆回転と同時に攻撃を加えます。
合図と同時に逆噴射……今!
撃て!」
がくん、と《ネメシエル》の船体が機関の逆噴射で前のめりになる。
《方舟》と、《ネメシエル》の距離は凡そ三百にまだ近付いていた。
お互いの視界にお互いの艦しか写らない、そんな近距離で逆噴射を行った《ネメシエル》のスピードが一気に落ちる。
固定されていないもの全てが艦橋前部へと飛んでいき、蒼の帽子もその中の一つに含まれた。
「頼みますよ……!」
ほぼゼロ距離と言っても過言ではない距離で《ネメシエル》のありとあらゆる兵装が光を放った。
一瞬にして敵へと届いた攻撃は敵の目を破壊……しなかった。
「っ、そんな!」
直前、“イージス”のような幕が目に展開され攻撃が弾かれてしまったのだ。
(もうダメだ……!
あと三秒しか――)
「くっ……!」
(コントロールが乗っ取られるぞ!)
「回線緊急切断!
どうにかアナログだけで動かせるものを――」
(ダメだ!
切断システムすら乗っ取られるぞ!
クソ――!)
敵の目の周りをくりぬくようにして、レーザーが何枚も貫通する。
乗っ取られかけていた《ネメシエル》のシステムが回復し、消えかけていた各部分の状況を示す光が点灯し始める。
「えっ?」
『何とか……間にあったか……。
流石に……零距離は……この《方舟》もはじけない……』
「真黒兄様!
本当にいいタイミングでしたよ……!」
『もう……撃てないぞ……。
蒼……がんばれ……!』
《ヴォルニーエル》の砲門が加熱し、赤く光っていた。
あの砲門から放たれたレーザーが《方舟》の体内を食い破りながら突き進みその延長にある目の周囲をぶち抜いた、ということか。
「何とかなるもんでしたね……!
これより《方舟》を攻撃します。
何が《方舟》ですか、嫌な名前をしやがって――!」
蒼はそこから更に船の舷側を向ける。
後部スラスターが噴射し、ドリフトするように《ネメシエル》の船体が回った。
すべての砲を右に向け、舷側最大火力を投射する。
「喰い破ってやりますよ!
撃て!」
次々と撃ち込まれるレーザー。
しかし、敵へ有効になるようには見えない。
「っ!
何なんですかあの装甲は!」
敵の表面に着弾したレーザーはまるで水のように表面を這うだけだった。
そのままむしろエネルギーが敵に取り込まれているようにも見える。
(わからん!
だかこのままじゃ……!)
「せっかく真黒兄様が……道を拓いてくれたのに……!
それなのに……」
敵のレーザーは《ネメシエル》の装甲を削り次々と兵器を潰せるのに対し、こちら側は何も有効打がない。
(蒼副長!
まただ!
敵からのシステムへの介入が――!)
「ふざけんなですよ!
そんな、どこから!?
目は真黒兄様が潰してくれたはず!」
《ネメシエル》が放っていたレーザーの影に隠れ、目七つがこちらに集合していた。
「っ!?
あれって移動できたんですか!?」
(それは……まずい!
うあああ!
キングストン弁コードが入力される!
まずいぞそれは!)
「私を……自沈させるつもりですか……!」
艦橋内部が赤色の非常灯へ切り替わり、ブザーが鳴り響く。
《ネメシエル》の全兵装がオフラインになり今まで見れていた外の景色が消える。
徐々に傾く船体、バランスを調節するためのトリムすら狂い出す。
「こんな結末って……!
あってたまりますか!」
(だが……!)
ぎゅっ、と拳を握り蒼は俯く。
打つ手は全て打ち尽くした。
もう何も出きることはない。
『蒼先輩!
諦めちゃダメっすよ!』
『その通りだ……!
蒼……いいか……よく聞け…………。
もうこれしか残っていない……。
ごほん……。
お前の主砲で《方舟》を破壊しろ。
いいか……我の突っ込んでいる所……。
ここなら敵の奥深くにまで我の艦首が刺さっている……。
敵の装甲でエネルギーが弾かれることはない……!』
「そんな事言ってもどうしろっていうんですか!
私のコントロールはもう……」
無線にノイズも混じり始めた。
キングストン弁コードの入力も終わりに近いのだろう。
コントロールを失いこのまま地面に叩きつけられ……それで終わりだ。
『これでどうっすか!
喰らいやがれっすよ!』
ふと、《アルズス》の声が聞こえた。
(システム、回復!
敵の目から私達が外れたぞ!)
微かな起動音を立てて、奪われたコントロールやオフラインの兵装がオンラインへと戻っていく。
「そんな……どうやって……?」
回復したカメラが写し出した外の景色は一変していた。
《アルズス》が敵の目の前をうろちょろと動き回り、煙幕を展開していたのだ。
真っ白の視界を遮るような煙幕は、風で流されつつ敵の目を確実に奪っていた。
煙幕のお陰で切れたクラッキングのお陰で《ネメシエル》のシステムが回復する。
すぐに機関を回し、敵の目の範囲から逃れるために雪雲に潜る。
「《ネメシエル》、主砲準備!
せっかく作ってくれたチャンスをここで終わらせてたまりますか。
奴はここで沈めてさしあげますよ!」
(了解!
敵艦を補足、主砲装填開始!)
艦首が上下に開き、《ネメシエル》の主砲発射シークェンスが始まる。
雪雲の中は雷がうねり、氷点下にまで下がっている気温が《ネメシエル》の船体を凍らせていく。
「真黒兄様、直前になったら離脱お願いします。
装填が完了し次第直ちに発射します。
私から合図はするので……お願いしますよ」
『わかった……。
心配するな……ちゃんと脱出する……』
進んだシークェンスにより《ネメシエル》の主砲が展開されていく。
『煙幕がそろそろ切れるっす!
蒼先輩、注意っすよ!』
「わかりました。
《ネメシエル》、《ヴォルニーエル》と位置を共有してください。
このまま雲の中から主砲を放ちます」
《ネメシエル》の変形は既に終わり、エネルギーの装填も完了していた。
だがまだ撃つときではない。
《方舟》が回転し、《ネメシエル》達を探すために高度を上げ始める。
《ネメシエル》が隠れている雪雲を削るようにしてゆっくりと《方舟》は接近してくるが、《ヴォルニーエル》のお陰で破れている装甲の位置は見失わない。
「そろそろ斜線軸に乗りますね!
《ヴォルニーエル》、離脱を!」
『気にするな……すぐに離脱する……。
早く撃て……』
「わかりました……!
絶対に避けてくださいよ!」
『わかってる……。
構わんから……やれ』
「《ネメシエル》……ターゲットスコープオン。
主砲モード切り替え、精密射撃起動。
距離は凡そ五千……………」
蒼は片目を閉じ、円が《ヴォルニーエル》へと当たるように射軸を固定する。
「早くどいてください……!」
『何をやっている……早く撃て……』
「でも!」
渋る蒼を怒鳴り付けるように真黒が吠えた。
『撃て!』
いつも物静かな真黒がはじめて怒鳴ったのを聞いた蒼はびくっ、と体を震わせる。
「は、はい!
《ネメシエル》、射撃します……。
発射!」
《ネメシエル》を隠していた雪雲が散らばる。
砲撃は強烈すぎる衝撃波を纏いながら《方舟》へと一本の筋となって飛翔した。
「真黒兄様!
早く!
何をしているんですか!?」
『……蒼。
お前なら……センスウェムを潰せる。
《陽天楼》なんだから』
「真黒……兄様……?」
『我が退いたらすぐに装甲が閉じる。
そうしたら……勝ち目は無くなる』
その台詞で蒼はようやく全てを悟った。
「え、真黒兄様!?
嘘、え、あの!」
『最後まで……諦めるなよ……。
妹みんなに……よろしく頼む……』
《ヴォルニーエル》が最後の力を振り絞って《方舟》の装甲内部に砲撃を慣行する。
内部に被弾した《方舟》の装甲がさらに捲れ上がり、隙間が広がる。
「真黒兄様!!」
『ベルカに……。
そして我の妹達に……万歳……ってな.
柄でも……ないか……やれやれ……だ……』
《ネメシエル》の主砲の光が《ヴォルニーエル》を瞬間的に蒸発させる。
突き破った光はその後ろの《方舟》の装甲内部へと吸い込まれていった。
This story continues
ありがとうございます。
更新が遅くなってしまって申し訳ありません。
何とか更新することが出来ました。
一ヶ月更新何とか守れて……ないですね……。
許してください。
ではでは!




