真の力
【これが《鋼死蝶》ですかぁ?
クククク……俺に沈められるんだぁ。
幸福に思ってくださいよぉ?】
落ちた味方を助けることすら止めさせ、とにかく新しく被害を受けないように下がらせる。
凡そ八十キロ彼方に全艦隊は避難することに成功した。
「わざわざ逃げるまで待ってくれるなんて親切ですね?」
通常の戦いならば戦艦が三隻もあったら、その艦隊はほとんど無敵とも言ってもいい。
それでも勝てないのはただただ、《超極兵器級》やこの《天端兵器》が異常すぎるだけなのだ。
五分の一もの戦力を一瞬にして静めたこの異常な《天端兵器級》なら逃げる味方を追いかけ、落とすことすら簡単に出来ただろう。
しなかったのは嫌味か、下らない騎士道の持ち主だからか。
嫌みと少しの感謝を含ませて蒼は《ソウイワン》へと話しかけた。
【雑魚なんてどうでもいいのですよぉ。
俺はお前だけを落とすことが出来ればそれでいいんですからぁ】
どうやら嫌味だったらしい。
小さなため息を蒼はつく。
(自己修復機能に優先的にエネルギーを回してもまだ半日は修理に時間がかかる。
間違いなく間に合わないだろう)
【まーそもそもぉ?
シグナエの力にあなた方ルシア程度の人間がぁ?
勝てるわけないんですよぉ?】
ベルカ人の蔑称まで使ってきた敵はやる気満々のようだ。
「そりゃまた大層な妄想ですね……」
《ネメシエル》からの報告を聞きながら少しでも時間を稼ぐためにお話を続ける。
敵の全長は凡そ二キロと少し。
六キロを超える大きさの《ヴェザーダウン》とやりあった今からしたら少し物足りなく感じる。
緑色の装甲を纏っている《天端兵器級》は今回いつものシグナエの作り出す物とは少し違っていた。
兵装などが全て船体の中に入っているのではなく、多数が露出しているのだ。
エンジンの噴射口も丸出しで蒼の経験値なら一発でそこを射抜くことが出来る大きさだ。
弱点を敵に晒しているのにも関わらずここまで自信満々なのはいったいどうしてなのだろうか。
艦橋は細長くシグナエの持ち味である機動力も備えているだろう。
事実、この艦は《ネメシエル》の上空を取ったのだ。
誰にも気づかれることなく。
レーダーにも反応しなかった、というのは一体どういうことだ。
【妄想かどうかは……やってみなきゃわかんねぇだろ?】
「はっ、そうですかね?
私が負ける未来が見えませんよ」
一言でまとめるなら、シグナエらしくない。
新設計だとしたら納得できるが、それでも今までのスタイルをシグナエがここまで完全に捨てたものを蒼は見たことがない。
「これって……フェンリアさんどう思い……」
仲間でも比較的敵に詳しいフェンリアに聞こうと後ろを振り返る。
だが、フェンリアはそこにはいない。
「そうか……そうでしたね……」
少しでも情報が欲しいというのに。
右手に少し力を入れ、少しだけうつむく。
(全長二千二百メートル。
総重量……不明。
なにやら薄気味悪い艦だ。
重さがまるでないような、そんな艦だ)
情報が欲しい、という重いを蹴り飛ばすような《ネメシエル》の報告。
今までそのような事態が無かっただけに一気に不安に駆られる。
「総重量が、不明って……どう言うことですか《ネメシエル》?」
(わからん。
総重量を図るためのパンソロジー波が返ってこないんだ。
いったい……)
強烈な赤の発色と共に“イージス”が敵の攻撃を弾く。
【一体どこまで傲慢なんだ《鋼死蝶》ぉ。
実に不愉快な奴だよお前はさぁ……】
なぜか敵は怒っていた。
理由は全く見当がつかなかったが、攻撃を受けた、ということが蒼の闘志に火をつけた。
「そいつはありがとうございます……よ!」
ギアが火花を上げて旋回し、砲門が敵へと向く。
その砲門内部でオレンジ色の筋が発光すると、溜め込まれてたエネルギーがシリンダーによって押し出され“三百六十センチ六連装光波共震砲”の光が敵艦へと飛翔する。
【全く……】
敵は避けようともしない。
シグナエ特有の“グクス荷電障壁”の展開も認められない。
それなのに動かないのはいったいどうしてなのか。
(敵に着弾まで三、二、一……今!)
「よし、命中――?」
しかし、当たらない。
間違いなく敵を貫いたはずの光は敵艦を通り過ぎるとそのまま虚空へと消えていく。
【次は俺の番だねぇ?】
(敵艦内部に高エネルギー反応!
まずい!)
【これで沈んだら面白くないから出来れば沈まないでねぇ!】
「“イージス”全開!
機関最大船速で、回避運動を!」
次の瞬間、《ネメシエル》の真上を業火が通り過ぎた。
仲間を葬ったあの業火は、《ネメシエル》の“イージス”の展開すら間に合わず、艦橋の光波測定儀を一つ奪い去る。
もう少し反応が遅れていたら間違いなくそのチリの一つに蒼も含まれていただろう。
確実に艦橋を狙って撃ってきているその光は、《ネメシエル》の装甲ですら耐えることが出来るのかどうか、といったところだった。
「っく、何なんですかそれ……!」
こっちの攻撃は当たらないのにあっちの攻撃は当たるときたものだ。
舷側に浴びた《ウェザーダウン》の弾の痛みまでぶり返すような痛みが蒼の体を蝕む。
とっさに舷側の“三百六十センチ六連装光波共震砲”を動かし、敵へと放つ。
今度こそ、命中――のはずだった。
【無駄なんだよぉ?】
光は敵艦を貫いたはずだった。
(なぜだ!?
なぜ当たらない!?
質量も確かにそこに存在しているはずだと言うのに……!)
「《ネメシエル》少し距離をとりましょう。
味方艦隊ももう少し後ろに下がらせてください。
きっと何か秘密があるに違いないんですから」
蒼は敵艦の様子をじっと眺めつつ機関を吹かし、距離をとるようにする。
敵のバイタルパートさえ見つけてしまえばこちらのものなのだ。
バイタルパートは、弾薬庫など重要な区域の事だ。
最近の艦艇はレーザーの発展により弾薬庫が無いにしても機関部を射抜かれたら死ぬ。
その場所は《天端兵器級》の丸見えである噴射口からあらかたの場所は分かる。
「《ネメシエル》標的セット。
敵艦機関部に自動追尾装置をロックオン。
二秒に一発づつ撃ってください」
(了解)
敵艦の機関部にターゲットマーカーが並ぶ。
轟音と共に《ネメシエル》の“三百六十センチ六連装光波共震砲”の砲身一本一本から二秒おきにオレンジ色の筋が延びる。
「………………」
(おかしい……どうしてだ?)
どう見ても命中。
しかし、敵艦は止まることはない。
破口すらその装甲には見受けられない。
攻撃を受けた跡が無いのだ。
はじめからそこに存在していないように。
【俺の番だぁ。
オゥルァ!!】
またあの閃光だ。
あらかじめ展開していた“イージス”を回す。
(“イージス”過負荷率百パーセントを突破した。
再起動を開始するが――)
「とにかく、再起動を」
(了解)
このままでは敵艦に押しきられて終わりだ。
なんとか敵の秘密を解かねばなるまい。
当たっても全くダメージを受けていない理由を。
「とにかくあらゆる角度で相手を狙うしかないですよねぇ?
《ネメシエル》フルファイアー用意。
多数の攻撃により敵艦を攻撃してください」
(了解!)
取った距離を一気に詰め、距離三キロにまで接近する。
すれ違う一瞬で敵の砲塔、機関部に狙いを定める。
「撃て!」
敵艦を穿つための矢が放たれる。
しかし、撃った数百の弾は全て敵艦を素通りしてしまう。
「敵艦周辺に特殊な何かしらは起きましたか?」
(いや……何も起こっていない。
計測できなかったわけでもなく、本当に何もない)
再びすれ違い、遠くへと逃げる《ネメシエル》に敵艦は何もしてこない。
逆にそこが不気味だ。
その巨大な船体に乗っている砲塔やミサイルハッチからいつ、山ほどに攻撃が来てもおかしくないというのに。
敵艦の艦橋はくだらない、とでも言うようにこちらを見下ろしている。
その敵艦のガラスの奥にいるであろう敵は姿も見えない。
「…………?」
(敵艦に高エネルギー反応!
来るぞ!)
「敵艦の発砲と同時に高度を下げます!
“イージス”全面に展開!」
(了解!)
【もう分かっただろォ?
やるだけ無駄なんだってばぁ】
高度を下げた《ネメシエル》の真上をビームが通過していく。
「《ネメシエル》」
(どうした?)
「少し試したいことがあります。
舵を全て私に預けてくれませんか?」
(……なるほどな。
わかった、いいぞ)
「ありがとうございますです」
“レリエルシステム”で繋がっている二人は本当はわざわざ口に言葉を出さなくともお互いの意志が伝わる。
《ネメシエル》は蒼の考えを頭の中を読んで理解してくれた。
「再び敵艦に突っ込みます。
“イージス”最大出力で全面に展開。
最近はどうも接近戦に持ち込んでしまいがちですが……」
(しょうがないさ。
そういうものだよ)
【何度来ても同じことだぁ!
さっさと沈みやがれ脇役がぁ!】
敵艦との距離は三十キロ。
それを一気につめる。
「機関全速。
舵とトリガーを私に」
(舵とトリガー渡すぞ。
三、二、一、今)
巨体がAIの統制を失い、少し揺らぐ。
蒼はそんなこと気にしない、というように機関の出力を百に引き上げていく。
紫色の光が強く後部を覆い、翼の光が輝く。
艦首の紋章も機関出力が上がるたびに強く光っていく。
「敵艦にぶつけるつもりで。
私達の質量ならば負けるわけがないのですから!」
【さぁ、来いぃ!
射抜いてぇ!
終わりよぉ!!】
(敵艦に高エネルギー反応!
発射まで十秒!)
「構いません。
進路このまま」
《ネメシエル》が敵艦へと飛ぶ。
【死ねぇ!】
発せられた閃光が《ネメシエル》の艦首を覆い尽くす。
(“イージス”過負荷率再上昇!
だが……耐えれるぞ!)
“イージス”によりバラバラに閃光が砕け散る。
「押し負けてたまるものですか!
私は《超極兵器級》ですよ!」
《ネメシエル》が敵閃光を抜けると《天端兵器級》はすぐそこだった。
【突っ込んでくるかぁ!
バカめ!】
《ネメシエル》と敵艦の距離はすぐに縮む。
「“イージス”及び“強制消滅光装甲”全開!
行きますよ!」
(さてどっちに転がるかな?)
艦首が《天端兵器級》の舷側に接触……しなかった。
レーダー上では間違いなく接触している。
だが、衝突の際の音すら聞こえない。
音もなければ衝撃もない。
「やっぱり!」
(攻撃が効かないのも当たり前なわけだ!
はじめからそこに何も無かったわけだからな!)
《ソウイワン》の船体に《ネメシエル》は接触することなく通り抜ける。
「立体ホログラフですか。
全く、嫌らしい艦ですねあなたは」
(艦橋のガラスに私の姿が映っていない所からよくまぁ気が付いたものだ。
流石蒼副長だな)
【ばれちゃあしょーがないなぁ】
ホログラフでの映像が消え、小さな三十メートルほどの球体が同じ場所に浮いていた。
「それがあなたの本体って訳ですね」
【ふん。
改めてはじめましてぇ。
《ソウイワン》だぁ。
まーよろしく頼むよぉ】
「嫌ですよ」
砲門を敵艦に向ける。
三十メートルほどの大きさなど一瞬で灰にしてやる。
馬鹿ですね。
あなたが本体を晒したらそれは、どうぞ狙ってください、と言っているようなものですよ。
「沈んでくださいよ」
放たれた百を越える攻撃は敵艦を覆う。
爆発、轟沈。
それがあってほしい流れだった。
【やれやれ、せっかちだなぁ!】
確かに当たったはずだ。
しかし敵はピンピンしていた。
(敵周辺に強烈な“グクス荷電障壁”の反応を確認。
ここまで強烈なのは見たことがないぞ……)
【こんなことも俺は出来るのさぁ!
何も攻撃しか能がないわけじゃあないんだぞぉ?】
球体の表面が四方向にスライドして開く。
その四方向から一本ずつ棒が延び、先端同士がくっつきあう。
【大きくても使えない戦艦よりこっちの方がいいと思わねぇかぁ?】
(高エネルギー反応!
まずい!)
次の瞬間、《ネメシエル》の艦橋をもぎ取るように敵の光が通りすぎた。
“イージス”が間に合わなかった後艦橋は耐えきることかできず融解する。
分厚い装甲で覆われていた部分はなんとか形を残したものの、ダメージが強く残る。
何より痛手となったのは後艦橋に収まっていた火気管制システムが焼かれ、全艦兵装とのリンクが切断されたことだ。
(まずい!
メイン火気管制システムがやられた!)
「っち、予備に切り替えを!」
メインがやられただけならば予備がある。
冷静に切り替えるように指示を飛ばす。
(……ダメだ!
回路が《ウェザーダウン》の攻撃でやられている!)
「そんな!?」
腹の奥がすっと凍ったようだった。
その冷たさはすぐに頭にまで到達し、思考回路を鈍らせる。
【あららぁ?
わりとうまくいってしまった系?】
今までオンラインを示していた緑の色が消え、オフラインの赤色が視界に増えていく。
全兵装がダウンする。
回路再構築にまでかかる時間は凡そ一時間。
(第五まであったはずの予備全てがダウンしている!
偶然とはいえこれは……!)
「っく……」
【降伏したらどぉだぁ、《鋼死蝶》?
どうせベルカは負けるわけだぁ。
ヒクセスだって、負けるう。
勝つのはシグナエよぉ。
いや、シグナエも違うかぁ……】
はっ、と息を飲む。
「シグナエも違う……?」
【ほら、もう一発いくぞぉ!】
襲いかかってくる攻撃をなんとか交わす。
艦尾を向け、出来る限り相手にバイタルパートを狙わせないよう左右へ揺れる。
「回路復旧の目処は?」
爆発、左舷機関部に損傷が生じる。
黒煙を吐き出すようになった機関から被害を食い止めるためにシャッターを降ろす。
(あと五十分。
なんとか逃げ切れそうか?)
「間違いなく無理ですよ……。
しょうがない。
味方《超極兵器級》に援護を要請してください。
長距離からの狙撃で攻撃されている間あいつは私には攻撃できないはずです」
このままでは勝てない。
それならばいくら戦いに水を差す結果になろうが味方に援護を頼むしかない。
これは蒼一隻では無理だ。
(本当に、いいのか?
今までずっと一人で――)
「そんなことも言ってられないんですよ……。
プライドを優先するよりも先に私は勝たなければいけない。
フェンリアさんのためにも……」
(――分かった。
こちら《ネメシエル》。
味方《超極兵器級》に、敵艦への援護射撃を要請する)
応答はすぐに返ってきた。
『援護……受諾……。
我ら……三隻で援護する……』
『そうそう、危ないときは私達めに援護を頼めばいいのですことよ?』
『炎天下よりの彼方、わちきの光を射んとするけんね。
死にさらしんさい!』
頼もしい味方の声。
【ふん、無駄だぁ。
その距離から何が出来るというんだぁ?
それにそっちがそのつもりなら……こちらも援軍を呼ばせてもらうぜぇ!!】
『ふーん?
やってみてはいかがかしら?』
味方《超極兵器級》から雨のように敵に攻撃が降り注ぐものの敵の“グクス荷電障壁”はまるで攻撃を通さない。
《超極兵器級》三隻分の攻撃だというのにびくともしていない。
やはり決定打にはならない。
主砲が使えさえすれば……。
オフラインになっている兵装コンテナをさらりと撫でる。
上から、下までオンラインになっているものは一つもない。
『蒼……よくやった。
我が艦隊は……前進……する……。
美しい……姿を。
受け入れるがいい…………』
『にしってもかったいやね!
なんねこいつは!?』
【増援を呼んだぞぉ!!
ふひひひへへへは!!
ルシアは皆殺しだ!!】
はじめから増援を呼ばなかったのはあいつ自信のプライドなのか、それとも呼べない理由があったのか。
《超極兵器級》と一般艦は耐久力が桁違いすぎて一般艦が邪魔になるから本当に必要なとき以外は増援を要請しない。
相手も《天端兵器級》だから増援など夏冬か《ウヅルキ》だと考えていたがそれは大きな間違いだとでも言うのか。
「なんにせよさっさとケリをつけないと不味いみたいですね……!」
【沈めぇ!
沈め沈め沈め沈めぇ!!】
敵艦からエネルギービームが真黒率いる艦隊へと向かう。
味方艦隊の被害は増えていくばかりだ。
《超極兵器級》四隻がかりでもあの“グクス荷電障壁”が破れないとは。
「あとどのくらいですか!?」
(あと四十分だ!)
とても味方艦隊が耐えれるとは思えない。
唇を噛み締めた蒼の視界にキラリ、と何かが反射した。
鈍く光を反射するそいつはまるで自ら蒼に話しかけてきたみたいだった。
「《ネメシエル》、あれ、使えますかね?」
そう言って蒼は地面で朽ちている《ウェザーダウン》を指差した。
片方の砲塔は吹き飛び形もなかったがもう片方はかろうじて原型をとどめていた。
一門でも使えればそれでいい。
「クラッキングして、私にあの艦のトリガーを……出来ますか?」
(可能だ。
すぐに取りかかる)
蒼は艦を《ウェザーダウン》の近くにまで降下させる。
敵の意識が味方艦隊へと向いている今がチャンスなのだ。
【ええいうっとおしい!!
一対一の戦いに手を出すんじゃあないよぉ!】
『断る……なぜなら……』
『私めは横槍が大好きなのですことよ?』
『大天使クラースよ……わちき達の世界を救いたまえ……清めたまえ……』
【話が通じないぃ!
なんだこいつらはぁ!】
爆発と炎上が敵の回りを覆っている。
(敵艦への接続を開始。
有機ポート解放、敵艦への接続を開始する)
「お願いしますよ……!」
目の前で繰り広げられる戦争に手を出すことが許されず、蒼は指をくわえて見ることしか出来ない。
『っぐ、大天使クラースの化身であるわちきが……こんなやつに!
漆黒の闇に散れ!』
【威勢だけがいいだけかぁ!?
はんっ!】
《ルフトハナムリエル》の舷側に敵の光が命中する。
爆発し、様々な部品が弾け飛ぶ。
大きな装甲が地面に落ち、土煙を上げる。
『藍、大丈夫ですこと!?
許しませんわよ!
あなたのケツをガバガバにして差し上げますことよ!』
【遠慮申すわぁ!
次はお前だ!!
はっはっはっは!!】
「まだですか《ネメシエル》!」
ぐずぐずしていたらそれだけ味方が追い込まれていく。
早く、早く、早く。
(臨時接続完了!
視界を“レリエルシステム”に同期!
クラッキング続投、このまま制御系まで掌握する。
なおこの主砲を動かすためのエネルギーはこちらから送るように設定する)
狙うのは相手が防御に入っているとき。
その時は“グクス荷電障壁”を張るために攻撃と推進のエネルギーを防御に回しているのが分かる。
あれだけ小さな船体なのだから仕方のないことだ。
急に視界が乱れ、アラートが出現しはじめる。
それは火災であり、浸水であり、機関損傷であり、様々な異常を伝えるアラートだ。
壊れた《ヴェザーダウン》が《ネメシエル》を同期を始めた証拠だ。
「っ――これが《ヴェザーダウン》の……」
《ネメシエル》で見るのとはまるで違う空が広がっている。
真っ赤な視界はアラートで埋め尽くされており、辛うじて照準を表すポイント付近だけがクリアだ。
《ネメシエル》からの不正アクセスを示すもの、不正な《超極兵器級》というユニットを接続された《ヴェザーダウン》の悲鳴にも聞こえる。
緑色のマーカーが画面中央にあり、それを動かすことで照準が定まる、といった仕組みのようだ。
視界を赤いアラートが覆い尽くす以外を操るのとなんら大差はない。
「っう……」
とっさの吐き気が身を襲う。
あわてて歯を固く噛み締め、飲み込む。
ここまでの拒否反応があると思ってもいなかった。
(どうだ?
いけそうか?)
瞳を閉じ、視界を少しだけシャットダウンする。
少しだけ安静したことで込み上げた吐き気はだいぶましになった。
《ヴェザーダウン》の視界に触れたまま蒼は少しだけ照準をずらしてみる。
《ヴェザーダウン》のトリガーの引きの強さ、射程、初速。
巨大兵器を動かしていたシステムの片鱗が一気に頭の中に流れ込んでくる。
破壊していたつもりだったがまだ生き残っていた各種センサーと少しずつ歩み寄り、風速、風向き、全てを把握していく。
「いいから私に黙って従うんですよ……」
そっと話しかける。
それを合図のように《ネメシエル》が《ヴェザーダウン》の主砲セキュリティを掌握した。
(同期率、百パーセント。
《ヴェザーダウン》システムに完全接続完了)
《ネメシエル》を拒絶し、不正ユニットとして検出していた証拠のアラートが消え始め、視界が少しずつクリーンに戻っていく。
「任せてください。
私を誰だと思っているんです?」
(はいはい。
さっさと終わらせよう蒼副長。
しかし、壊れているからこそシステムに介入できてよかった。
普通ならこんな荒業無理だ)
《ネメシエル》は蒼を見て言う。
さて、なんのことでしょうかね。
《ネメシエル》の中に残る戦車のプログラムは見ないようにする。
「全艦に告げます。
我が艦はこれより敵艦への砲撃を行います。
予想射線軸を全艦レーダー上に表示します。
射線軸に入らないよう注意してください。
なお《超極兵器級》三隻は後進しつつ、敵艦への攻撃を続行。
足を止めるようにしてください」
『了解!』
『了解っす!』
《ヴェザーダウン》の主砲はエネルギーを貯める必要がない。
トリガーを引く。
そうすれば弾は飛ぶ。
『大天使クラースの裁き!
食らいんさいやぁぁあああ!!』
『……死ね』
『ケツにファックを決めてあげますことよ』
三隻は攻撃しつつ後退していく。
【くっくおおうっとおしいいいい!!!
邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔ぁ!!!!】
敵艦をズームする。
照準にかかれたメモリを読み、そこに風速等のデータを重ねていく。
《ヴェザーダウン》の主砲が動き、砲門を開く。
その先には球体の小さな《天端兵器級》が“グクス荷電障壁”を、張るのに全エネルギーを回している。
「………………沈んでください」
静かに蒼はトリガーを引いた。
爆音、空気が揺れる。
鋼鉄の大口径の弾は衝撃波を纏いながら空気を切り裂き、《天端兵器級》の“グクス荷電障壁”に接触する。
【っな!?】
一瞬にしてその“グクス荷電障壁”は破れ去る。
《天端兵器級》は敵に毒づくこともできず、その船体をバラバラに砕けさせた。
球体の形など残ってはいない。
当然中にいたはずの“核”すらも存在ごと消し去られてしまっている。
その船体は半分以上が消えていた。
大半が蒸発してしまったのだろう。
《ネメシエル》だからこそ一発耐えれた主砲をくらった《ヴェザーダウン》は一瞬にして蒼達が苦労した《天端兵器級》を葬り去ったのだった。
流石は巨大兵器級。
大昔この星を滅ぼす一歩前にまで追い込んだ兵器の末裔といっても謙遜ない威力だった。
『よくやりましたことよ、蒼!』
『暗黒大剣烈で葬ったのはほんと、見事やったで!
大天使クラースですら、あれは難しいなはずやけん』
『……美しかった』
次々届く味方からの称賛の声で戦闘が終わったのを感じる。
ほっと、ため息をつこうとした蒼だったが鋭い警告音に否応なしに戦闘に引き戻される。
(《ヴェザーダウン 》の崩壊が始まる。
蒼副長、離れるぞ)
「了解です」
あの一発が、ただですら崩壊していた《ヴェザーダウン》に更に追加の攻撃を与えたようだった。
主砲を支えていた最後の鋼鉄がへし折れ、傾きが酷くなっていった《ヴェザーダウン》が更に傾いていく。
脚が本体から外れ、本体が地面につくと上空八百メートル付近にまで土煙が吹き上がった。
昇る黒煙はその範囲を広げていく。
「まさか、最後の最後でこの艦が役に立つなんて思いもしませんでしたよ」
(全くだ。
まー、敵艦を沈めてこそ生きた心地がするものだしな。
勝ちは勝ちだ)
負った損傷はまだ鈍く蒼に痛みを送り続けていた。
「さぁ、《ネメシエル》。
帰りましょうですよ」
(……ん?
戦闘空域に近づいてくる敵の反応あり)
『そういえば……』
「援護を呼ぶって言ってましたね」
『まぁ、たかが五隻ぐらいじゃろ?
この大天使艦隊に敵うわけないわ!』
藍がからからと笑う。
レーダーの光点は五つ程度。
これならば《ネメシエル》一隻でも余裕で……。
「あれ?」
レーダーの光点が増えていく。
次々増えていくその数。
艦載機まで頭数に入れたら千を軽く越える。
『さすがに……我達でもこれは……』
『キツイですことね……』
反応からしてヒクセスの《超常兵器級》も、シグナエの《天端兵器級》も入っているだろう。
百を超えた光点は更に増える。
百三十、百五十……そして二百でやっと止まった。
細かい光点まで入れると、数は五千を超える。
国一つを滅ぼすことが出来るほどの数。
敵までの距離およそ二百キロメートル彼方。
しかしあのスピードなら三十分後にはもうこの帝都にまで来て交戦が始まるだろう。
あの大艦隊が帝都に居座ったら奪還はほとんど不可能といってもいい。
今ある艦隊全てをかき集めても、数は到底届かないのだから。
それを傷を負った四隻の《超極兵器級》と、残存艦で相手をするなんて。
「流石にこんなの……!」
主砲を使ったとしても四分の一、落とせるかどうか。
残りの《超極兵器級》だと、おそらく射程、威力、共に足りない。
【あーあーあーあ。
残念だー実に残念だー。
なぁ!?
《鋼死蝶》が潔く沈まないからー】
変なリズムとともに通信が入る。
《ウヅルキ》だ。
【だから俺様達は数で押すことにしました!
いつかの巨大戦艦も数で押され沈んだ!!
数の力、思い知れ!!】
「うるっさいですよゴミカス。
少し眠っててください」
【蒼さん。
本当に残念です】
とても残念そうには見えない夏冬の表情はとても見て取れない表情をしている。
むしろ、嬉しそうだ。
「夏冬……。
私は貴方に残念ですよ……」
【全艦目標《鋼死蝶》。
殲滅が完了次第、残る《超極兵器級》を落とせ。
以上だ】
【じゃあな、《鋼死蝶》!
ははははは!!!!!!】
「夏冬……」
あの表情、嬉しそう、とも言えませんでしたね。
あいつは――夏冬は期待しているんですよ。
私がこの全てを沈めて、また現れるのを。
「面白いじゃないですか……夏冬……」
『面白くないですことよ!
この数を私達めの艦隊で相手は――。
正直キツイですことね。
せめて……』
せめて……。
あともう一隻だけでも……。
朱姉様がいてくれたら。
(レーダーに反応あり。
味方増援が――)
『せめてあともう一隻《超極兵器級》がいればいいのに?
ってそう思うたやろ、真白姉ぇ?』
「朱姉様!」
『みんなお待たせや!
朱、ばっちり復活したで!
いやーほんま、夢うつつの時間は暇で暇でしょーがなかったわ!
何とか意識を取り戻させてくれたブラドに感謝って感じやな』
『朱!
暗黒闇穴からの帰結出来たんかいね!?』
『せやで、藍姉ぇ!
でも喜びは後や!
とにかく目の前の敵を潰さなあかんのやろうけど……。
この数はちょっときついんやけど――』
「ですよね……」
朱が来ても変わらない。
それほどまでに状況は最悪だ。
『……蒼。
アレを……やるぞ。
敵の本拠地が……見えるまで……やりたくはなかった……が。
もはや……ここで……全滅するわけには……いかない』
それしか手はないですよね。
最終決戦でお披露目のつもりでしたが……。
なにより五隻そろっていないと出来ないんですから。
『――長男のいう事は絶対じゃけんねぇ。
わちきらの力をあいつらに見せつけるチャンスやね』
藍は少し不安そうだ。
シュミレーション上で行っただけで実際に行ったことは無いのだから。
「……了解しました。
全艦に告げます。
これから、“超光波砲”の起動、発射体勢に入ります。
射線軸を表示します。
ここに入らないようにしてください」
《超極兵器級》を除く残りの艦艇を下がらせる。
もし少しでも《超極兵器級》の前に来ていたら、攻撃の煽りを食らって沈んでも文句は言えない。
『やっとこの時が来ましたのね。
私め、ずーっとずーっと楽しみにしていましたの。
この極太を敵共に叩きつけて、イかすことが出来るなんて。
夢のようですことよ』
『あ、朱姉ぇ……。
あいからわずのその下ネタはどうにかならへんの……』
『なりませんわ』
『全艦……フォーメンションを……築け』
《ネメシエル》がちょうど、敵艦隊のど真ん中に陣取る。
Xの字の形に《ネメシエル》の右上、右下、左上、左下と残りの四隻が移動する。
お互いに艦橋から顔が見えるほどの距離だ。
間隔は百メートルもないだろう。
(なんだ、蒼副長。
ようやく“超光波砲”を使うのか)
「そうですよ《ネメシエル》。
少し不安ですが逆にここで使わないでいつ使うんだ、って感じですからね」
(あいにく、合体ユニットは損傷していないしな。
じゃあ始めようか、蒼」
「はいな。
《超極兵器級》、コード0203を使用。
プロセスを実行してください」
『了解……だ……。
いいな、四人……とも……。
失敗するわけには……いかないんだ……』
長男の言葉に四人とも頷く。
それを確認した長男も珍しく少しだけ笑う。
『コード……020……3始動……。
《ネメシエル》と……接続を……開始……せよ……。
じゃあ……蒼……ここからよろしく……頼む……』
「行きますよ!
全艦、合体シークェンス開始!」
《超極兵器級》四隻の装甲の部分部分が開き、《ネメシエル》へと数々の太いパイプが襲来する。
そのパイプはまるで自らが収まる場所を知っているかのように各々の規格に合った穴へと向かう。
《ネメシエル》側もその全てのパイプを受け止めるために舷側部品装甲を展開し、パイプを受け入れる。
太さは一本でおよそ二メートル前後あり、このパイプは全艦の姿勢を制御するためのものやエネルギーを移動させるもの等数々の機能を全て《ネメシエル》と同期するためのものだ。
『固定パイプ展開開始。
所定箇所への移動を確認――』
『第二十三パイプに亀裂を確認。
無視出来る範囲――』
他の艦のAIも蒼へと報告を続ける。
《アイティスニジエル》も《ネメシエル》を口説くほど余裕はないと見える。
続いて、固定の為の鋼材が四隻からまた伸びると《ネメシエル》の舷側部に差し込まれる。
《ネメシエル》の舷側に設けられている数々の部品の全てはこの時の為のものだ。
旧ではとても耐えることのできなかったであろうこのプロセスは今だからこそ使うことが出来るのだ。
(コード接続、完了まであと五秒。
二……一……完了。
続いて艦固定、完了。
“イージス”及び“強制消滅光装甲”の展開を停止する)
「次のプロセスを実行。
全艦を同期します。
“レリエルコード”の委託を受諾。
全艦との同期を開始」
ゆっくりと、だが確実に頭の中に《超極兵器級》四隻の情報が流れてくる。
《ヴォルニーエル》の鼓動、《ニジェントパエル》の息吹、《ルフトハナムリエル》の感覚、《アイティスニジエル》の力。
一度、機関が停止する。
甲高い音の消えた空に静けさが戻る。
『第五機関の鼓動係数に揺らぎあり。
停止させ、不足分エネルギーを他機関により捻出』
(機関同調起動開始。
全艦、鼓動係数を二百に設定。
上限拘束具を停止)
ゆっくりと今までバラバラだった五隻の機関音が重なりはじめる。
(鼓動ニュートラルから接続。
全艦エネルギーの貯蓄を開始せよ)
鈍い金属音と共に甲高い音が再び空を支配した。
空気を震わせるほどの衝撃波が残ったビルのガラスを割り、土埃が五隻の下で沸き上がる。
《超極兵器級》の舷側に幾何学な模様が今までにないほど強く浮き出した。
「無事に第一プロセスが終わりましたね」
(ああ。
続いて第二プロセスへ移行する。
エネルギー貯蓄率予定を凌駕。
全艦“超光波砲”の発射形態に移行せよ)
『うふふ。
見て驚け、ですことね』
『これが……大天使の姿を捨てた暗黒神クラースの力よ。
さぁ、恐れんさいや。
怖がりんさいや』
変形はまず《ヴォルニーエル》と《ニジェントパエル》から始まった。
ブザーが鳴り響き右上と左上に位置する二隻の艦首が左右に開き始める。
所々にプラズマを纏わせ、輪切りのようにも見えるその姿は異形の存在だ。
続いて右下の《ルフトハナムリエル》、左下の《アイティスニジエル》の変形が始まった。
こちらも左右に艦首が開く。
この四隻は左右に艦首が開ききると今度は上下に開き始める。
四方向に開いた艦首を固定するために鉄橋が伸び、ロックするとこんどは内部の装甲が展開を始める。
(エネルギー指方向ライフリング展開開始。
全艦の変形を百パーセントにまで持っていくぞ。
特殊回路の生成、全艦の艦首統括システムをスリープへ)
平行四辺形の形に装甲が立つと、まるでそれらは《超極兵器級》が持つ歯のように並ぶ。
その平行四辺形が立つと、ほぼ同時に円形のエネルギーライフリングが四つ立ち上がった。
まるでパイナップルのような形をしたライフリングは右方向へ回転を始める。
四方向に開いた艦首の奥には一つの砲門が見える。
オレンジ色に光る輪のような形の構造物があり、そこには次第にプラズマが生じる。
『第四十二隔壁遮断。
自動追尾装置のシャットダウンを開始。
続いて自己修復装置の――』
『エネルギーライフリング一番から四番まで検査完了。
システムオールグリーンを維持。
ベント解放完了。
バラストにて、姿勢制御を――』
他の《超極兵器級》からの報告も続く。
回転を始めた構造物は莫大なエネルギーを目の前の、空間に溜め込み始める。
艦首付近の装甲が開き、排熱が始まる。
揺らいだ陽炎が船体を揺らす。
蒼の視界に四隻の稼働率、ダメージ率が図で表示される。
全艦、安定を示すグリーン……とは言えないものの運行に支障をきたさないと判断し、続行する。
蒼の頭の中には《超極兵器級》みんなの考えや思いが流れ込んでいた。
それは蒼だけでなく真黒も真白も藍も朱もみんな同じだ。
今、《超極兵器級》は一隻の《超極兵器級》となっているのだから。
(砲身、変形開始。
発射管制を全艦に同時委託。
緊急停止システムには、すぐに手を伸ばせるように。
プロセスZ開始を最終認証する。)
「変形開始です、《ネメシエル》」
この四隻はいわゆる薬莢だ。
最後に変形したのは真ん中の砲身の役割をする《ネメシエル》だ。
舷側に光の筋が走るとそこを起点として上下に艦首が開き始めた。
主砲を発射するときとは違う変形の仕方だ。
隠れた二基の主砲が引っ込み、変わりに六基のエネルギーライフリングが展開する。
その六基のエネルギーライフリングから鋭い針のようなものが上下左右に展開される。
これは薬莢からエネルギーを受けとる役目を果たすものだ。
続いてエネルギーの方向性を決める平行四辺形のナクナニア整流板が上下左右に二十枚広がると、上下に別れた艦首を固定するための鉄橋が四本伸びる。
(各箇所の隔壁を解放。
艦内回路を変形に対応させると共に機関部の移動を開始する。
排熱版の展開を開始する)
《ネメシエル》の舷側のシャッターが開き、中から排熱版が現れる。
排熱版は赤色に発光し、熱を吐き出している。
(第二プロセス完了。
全艦最終プロセスへと移行する。
照準マーカー展開)
《ネメシエル》の声と共に蒼の視界に緑色の大きな円が現れた。
直径二十五キロほどの大きさのそれは“超光波砲”の威力が及ぶ範囲を示している。
『でも全然足らへんなぁ……
どないする?
そんな、速射が出来るわけでもあらへんやんな』
朱が言うことも最もだ。
敵艦隊は左右五十キロにも渡って展開している。
この“超光波砲”を使用しても半分程度にしか減らせないのだ。
「どうしましょうか《ネメシエル》……」
何処に命中させるかを考えていた蒼だったが、真白からの交信で目から鱗が落っこちた。
『問題ないですことよ。
《ネメシエル》が発射を十秒から十五秒にまで延長。
それと同時にサイドスラスターを展開し凪ぎ払えばいいんですことよ』
「なるほど……これなら……」
急に話に飛び言ってきた声。
紫の心底驚いている声だ。
【てめぇら!
何してやがる!】
「何って。
見てわかりませんか?」
【そんなもの……!
知らないぞ俺様は!】
心なしか少し震えている気がする。
『言って……ないから……』
敵艦隊との距離は凡そ八十キロ。
【子供みたいな理由を述べるんじゃねぇ!】
(“超光波砲”弾倉内正常加圧中。
ライフリング安定を確認。
アンカー射出」
五隻の超兵器から錨が落ち、地面へと突き刺さる。
主砲とは比べ物にならないほどの衝撃の強さが船体にかかることが予想される。
そのため一隻だけではなく五隻すべての錨が、地面へと降ろされた。
(アンカーロックを確認。
最終安定確認を開始――。
オールグリーン。
トリガーを蒼へ委託する)
針の生えたエネルギーライフリングが回転しはじめる。
青色の光が時々光り、内部機器を不気味に映し出す。
【蒼さん。
あなたもしかして……】
「帝都は……帝都は返してもらいますよ。
夏冬」
【……面白い】
「何も面白くないですよ。
あなたに言われると面白いものも面白く無くなります。
でも、これで全てがゼロです。
必ずあなたには沈んでもらいます。
“超光波砲”発射!」
薬莢の四隻からオレンジ色の光がプラズマのように光り、《ネメシエル》の艦首付近へと集まる。
一瞬、その光りが消えたかと思うと、《ネメシエル》のライフリング中央から一気にオレンジ色のレーザーが吐き出された。
五隻の《超極兵器級》を起点として、爆風が広がる。
大空の雲が見える限りすべてが消し飛び、強い日光が差し込む。
青空が見える程の快晴が帝都のあった場所を覆う。
錨の鎖がたわみ、総重量二億トンを軽く超える質量が揺らぐ。
放たれた閃光の直径は二千メートルほどにまで膨らむと、七十キロ彼方の敵艦の右端へと着弾する。
「サイドスラスター点火!
このままビームで薙ぎ払います!」
右舷のサイドスラスターが開き、《ネメシエル》の船体を左へと押し流す。
当然、《ネメシエル》の船体に続くようにして“超光波砲”の光が右から左へと流れる。
そのビームの先に飲み込まれた敵艦は爆発、轟沈する道しか残っていなかった。
This story continues.
ありがとうございました。
お待たせいたしました。
これでもうやりたいこと全部です……。
いや、まだまだでも書きたいこといっぱいあります。
いやーすごい気持ちいい。
書きたいものが書けるっていうのはいいですねぇ!
ではでは、ありがとうございました!




