過去
「ほら、さくさく歩け!」
蒼達を兵士は、格納庫の近くにある倉庫へと連れてきた。
そこにはすでに大多数の“核”の姿がある。
《ジェフティ》をはじめとした《超常兵器級》から通常艦艇の“核”まで。
多数の種類の“核”が狭い空間に押し込められていた。
ただ、それでも《メレジア》の二人の姿は今だにない。
「この!
やめんさいや!
いたいんじゃけん!」
手錠が鎖とぶつかり金属音が鳴り響く。
「暴れるな!」
後ろで藍が大声を出し、それを兵士が押さえつける。
朱に至っては何も言わずただ指示に従うのみだ。
チャンスをうかがっているのだ。
蒼も抵抗せず、来るべき時を待ち構えていた。
※
「ご苦労、司令」
ご満悦だろう、これで。
「……ハッ。
何を偉そうに言ってやがる」
目の前にいるシグナエ制圧部隊の部隊長をマックスは睨みつけた。
何年ぶりだろうか。
最後にあったのはカエサナ臨国水都ガエスタの巨大湾岸要塞だからかれこれ八年になるのだろうか。
詳しい年号など覚えていない。
だがそれぐらいに会うのが久しぶりの人間が目の前にいた。
「お前も何も変わらないようで安心したよ、マックス」
顔に着けていた特殊バイザーを外し、こちらを見下してきた奴。
マックスは記憶に苦い思い出しか持っていなかった。
「ソムレコフ……」
「そうだよ。
まぁ、忘れてるわけないよなぁ?
この俺の顔をよ」
ソムレコフ・グリゴリー・イヤーリ。
彫の深い目元と高い花。
綺麗な白髪は、すでに相当の歳になっていることを示している。
かつてマックスと共に色々と学んだ男。
「はっ、あいからわずみたいだな。
このろくでなし野郎が」
かつてのマックスの親友であり、今では最大の敵である男。
この男と会ったら禄でもないことしか起きない。
しかも百パーセントの確率で。
マックスはそう思い、舌打ちする。
「しかし、いい身分になったなぁ?
部下殺しの異名があったお前も。
今もその名前は健全か?」
「………………」
マックスは黙る。
こうやって人の気分を逆撫でてくるのもこいつのやり口だ。
人は感情が勝ると思考が鈍る。
感情からボロを出すわけにはいかない。
「ふん。
軍事学校で落第級の成績は少しはまともになったらしいな。
湾内に対潜水網、あと機雷を仕掛けておくとはな。
お陰で少し肝が冷えたよ。
もっとも、シグナエの《超常兵器級》には敵わなかったようだが」
祖国が攻撃を受け、祖父母の住んでいた町が灰となった時も。
部下を自分の勝手で全滅させてしまった時も。
初めての妻を亡くした時も。
こいつはマックスの前に立ちはだかり、そして常に勝ってきた。
ライバル、というにはソムレコフはマックスに対して大きく能力が上回っていた。
マックスはソムレコフの顔を見てあからさまに嫌な顔をする。
「不吉だな」
できればもう見たくない顔だ。
その意思が言葉と表情を介してソムレコフに伝わったのだろう。
「そんなに人を死神みたいな顔で見るなよ。
全部お前の技量不足だろ?」
ソムレコフはそう言うと頭を小さく振った。
呆れかえっているのか。
いや、人を馬鹿にしているのだろう。
こいつはいつもそうだった。
「桜花も、何もかも――」
マックスはソムレコフの挑発にまんまと乗ってしまった。
「……てめぇ!
それ以上ガタ抜かすなよ!?」
ソムレコフの言葉を遮るように大声を上げる。
またこいつのペースに翻弄されている。
自分が勝つためには人の感情を軽く利用するこいつのペースに乗ってはいけない。
マックスは掌に爪を突き刺し、自分に冷静になれと呼びかけた。
怒りが身を突き動かそうとする。
「……すぐに怒る。
教官にお前の欠点は何度も何度も指摘されていたはずだ。
なのにまた……何で直さないのかね?
まあ、もう直しても無駄だがな」
銃をマックスの顎につき向け、ソムレコフは
「死ぬ前にもう一仕事してもらうぞ」
と、マックスへ言った。
「連れてこい」
ソムレコフが部下へ呼びかけ、その部下がマックスの目の前に連れてきたのはヒクセスへと放ったスパイの一人だった。
顔面には痣がたくさん表れて、下着しかつけさせられていない体のあちこちからは生々しく赤黒い血が出ている。
強く締め付けられた後、それに多数の傷。
「す、すいません司令……!
し、しくじってしまいました」
口を開いたスパイの口に生えているはずの歯は所々無く、血塗れになった唾液をしゃべるごとに床に撒き散らした。
拷問を受けたのだ。
ソムレコフはマックスのスパイを嘲笑うように背中に一発蹴りを入れた。
肉と金属の床がぶつかる音がしてスパイが唸り声と共に倒れる。
「やめろ!
ソムレコフ、お前……!」
「貴様の部下はまだまだド素人だな。
爪を剥いで、歯を抜いてすこーしいためつけたら……これだよ。
なぁ、お前ら?」
ソムレコフの周りにいる男達の低い笑い声が司令室にこだまする。
狂ってやがる。
人を嬉々として傷つけることがそんなに楽しいか。
軽蔑しながら
マックスはソムレコフに目をやり、スパイの元へ駆け寄った。
「おい、大丈夫か!?」
「し、司令……わたひは……」
スパイが何かを伝えようと口を開く。
そのたびに、口からは血の気泡が弾け飛んだ。
その有り様にいてもたってもいれなくなったマックスは
「喋るな!
傷がひどい!
ドクターブラドに頼んで治療を――」
そう言いドア付近の通信機のスイッチを押そうとした。
「それは許されない。
許されないなぁ、マックス?」
押すよりも前にその機械にソムレコフの放ったエネルギー弾が、機械から火を吹き上げた。
火花と煙を散らす通信機から離れマックスは懇願した。
「ソムレコフ、頼む。
部下を……部下を助けさせてくれ……」
ヒューヒューと喉を鳴らし、何とか生きている状態のスパイは早く治療しないと間違いなく死んでしまうだろう。
ソムレコフは笑った。
言った。
「駄目だ。
そいつには死んでもらう。
だが、そいつにはお前にしゃべってもらわなきゃいけない事がある。
おい、喋れ。
今しかないぞ」
ソムレコフはスパイの頭に銃口をきつく押し当てると、命令した。
スパイも今が最後のチャンスだと思ったのだろう。
「て、敵は……本当の敵はシグナエ連邦です……!
奴等は――」
口から血を吐き、部下は喋る。
「ヒクセスを、蹴落とし世界のバランスを崩そうと……!」
マックスはスパイの口元に耳を近づけ言葉を全て聞き取ろうとする。
「そのためにヒクセスの大統領を誘拐し、副大統領に――」
「おい。
タイムオーバーだ」
ソムレコフの声と共にマックスは叫んでいた。
「やめろ!」
スパイの頭に押し付けられた銃の下部が静かにスライドし、焼けた空のエネルギー薬莢を吐き出した。
銃口から放たれたエネルギー弾
焦げた肉の匂いとともに、広がる血の生臭さ。
「貴様……!」
マックスの制服についたスパイの脳。
抱き抱えたスパイの体がずっしりと、重くなった。
ぬるりとした血の感触と砕けた骨の入り交じった触感を手のひらに感じた瞬間、マックスはソムレコフへ殴りかかろうとしていた。
「ソムレコフ!
お前許さないからな!
殺してやる!」
それをソムレコフの部下三人で押し止められる。
「よくも、よくも俺の部下を!」
百八十を超える巨体は三人ですら抑えるのに苦戦をしているようだった。
ソムレコフはそれを見ると小さく鼻を鳴らす。
「マックス。
なぁ、マックス。
少し昔話をしようじゃないか。
お前の恋人と、お前の部下殺しの話をよぉ」
三人はマックスの手に手錠をつけ、司令室のパイプにくくりつける。
マックスは暴れ、息が上がっても抵抗をしたが
「暴れんなよ、なぁ、マックス?」
ソムレコフに顎を捕まれ、真っ直ぐサングラス越しに残った右目を見つめられると抵抗をやめた。
「この――クズが!」
そう、罵るので精一杯だった。
※
第二次世界戦争が終わって約十三年たった頃だった。
マックスは軍事大学に通う一人の学生をしていた。
ヒクセスとのハーフであるマックスだったが、それゆえに彼は虐められていた。
当然マックスは次第に学校へ行かなくなってしまっていた。
戦争で死んだ父親の残した保険と退職金で母と兄との三人での貯金を切り崩しての貧しい生活。
母は夜遅くまでスーパーでパートをこなし、兄は大学への進学を諦め新聞社で朝から身を粉にして働いていた。
高校を出て働くつもりのマックスを兄のケインは押し留め、大学へ進むよう説得した。
資金にゆとりはないマックスが国立で、学費の必要ないベルカ軍事大学へと進んだのは当然だったと言える。
学問が好きだったマックスは喜び、その軍事大学でマックスは改めて自分の外見を呪った。
深く、父の存在する否定する程に。
小学校から自分達とは姿の違うマックスのことを子供はバカにした。
それは中学、高校とずっと続いていたのだった。
ある日も、マックスは何時ものように学校へは行かず川の土手で寝転がって空を眺めていた。
軍事大学の授業はもうとっくに始まっているような時間。
「おい、マックス。
またサボりかよ」
ソムレコフ。
シグナエと、ベルカ人とのハーフ。
マックスと同じようにベルカ軍事大学に通う学生だ。
マックスと比べて異なるのは、成績と全員のソムレコフへの対応だった。
ソムレコフは常に五位以内に入るほどの優等生だったが、マックスは常に下から五位に入る劣等生。
それでもソムレコフはハーフという同じ境遇からか、いつも一人のマックスに付きまとうのだった。
「ソムレコフ……。
俺のことは放っておけと言ってるだろうが」
マックスは大学が始まって直ぐには完全に心を他人へと向けることなんてしなかった。
「マックス、あなたねぇ……」
そのマックスの心を開き、学校へ通わせるようにしたのがソムレコフと
「なんだよ、うるせぇな」
後にマックスの妻になる女。
桃山・HK・桜花だった。
マックスが学校姿を見せない日はこの二人が教授に言いつけられてマックスを呼びに来る。
何度も何度も追い返してもやってくる二人に、次第にマックスは心を入れ換えていった。
二人の協力もあり、何とか留年及び退学を逃れたマックスはきちんとした生活をおくるようになる。
当然成績も上がり始めた。
※
「これが俺の艦隊のマークだ。
中々にいかしてるだろ?」
大学を卒業し、自分の艦隊を持てるようになると艦隊のエンブレムを自由に作ることが許されるようになる。
ベルカだけでなくヒクセスも、シグナエもその方式は同じだ。
卒業して軍隊に入る前に仮申請としてエンブレムを作り、総司令部へ提出するようにとの課題が出たのだった。
ソムレコフとマックスはお互いにそのエンブレムを作成しては相手に見せびらかす。
その度に、お互いがお互いのエンブレムにケチをつけるのだった。
「俺はこんな感じだ。
どうだ、これもなかなかだろ?」
ソムレコフが、マックスに見せてきたエンブレムは星がついていた。
八つの星を蠍が鋏ではさんでいる。
北極八連星は地獄の象徴。
それを蠍で挟むことで平和を保つという意味なのだとソムレコフは説明する。
その一方でマックスは円と四角を組み合わせたような幾何学模様を作っていた。
特に意味はない。
考えることなくただ適当に作り上げただけだ。
「おー、似合う似合う。
じゃあこのエンブレムで申請出しとくか」
その意味のなさが逆にソムレコフのツボに入ったらしい。
マックスらしさが現れているのだと。
「戦場では見たくねぇなぁお互いにな」
ソムレコフはマックスのエンブレムをつつきながら呟いた。
「はは、全くだな」
※
大学三年生の夏、マックスは花火が上がる夜空の下で、桜花に告白した。
ダメだった時期からずっと自分を支えてくれた桜花にマックスは感謝すら覚えていた。
気がつけば彼女に引かれ、好きになっていた。
そのことをマックスがこの先悔いることはなかった。
また、それは桜花も同じだっただろう。
告白されたとき驚いていた桜花だったが、直ぐに小さく首を下げ
「お願いします」
と、かわいくマックスに微笑んだ。
正直この二人はお似合いと言っても過言ではなかった。
この頃にはもう大学での虐めは無くなっていた。
逆に成績優秀者として頼られるほどの存在になっていた。
ハーフの顔つきはいわゆるイケメンの部類に属し逆にマックスを好く女子生徒も多くなっていた。
ソムレコフは当時、別の女と付き合っており、大きなテーマパークへとダブルデートをしたりして楽しんでいたのだった。
あっという間に大学の四年間は終わり、マックスは大学を無事に卒業し。
超空制圧艦隊第四二高速駆逐艦隊提督に就任する。
その任命を受けた夜、桜花をレストランへと連れ出したマックスはベルカの帝都が一望できる窓際でプロポーズした。
「言いにくいな……。
なぁ、桜花。
そのー、そうだな。
俺と、結婚してくれないか?」
「ん?
なに。
うん、うん。
ええよ」
あまりにも軽すぎる返事に拍子抜けしたのをマックスは覚えている。
ソムレコフを相手に念入りに三時間ほど練習したのは一体なんだったのか、と思うほどに。
拍子抜けしたマックスの顔を桜花はニヤニヤ眺めて告白をOKしたときと同じ顔をして笑った。
「幸せにしてよね、あ・な・た?」
「ああ。
必ず」
それから三ヶ月後、マックスは式を挙げる。
ある《超常兵器級》一隻丸々貸しきり、その甲板で開いた結婚式は幸せに溢れていた。
ソムレコフも当然出席し、友人の代表でスピーチをしていた。
ここで感極まったソムレコフが、なぜか泣いている。
「よがっだ、よがっだなぁ!」
誰もが羨む夫婦とは正にマックスと桜花だろう。
結婚から半年ほどたっただろうか。
いつしか桜花のお腹の中には子供が宿り、幸せ一杯の生活に影を差すように不穏な空気が世界を包んでいた。
マックスの幸せに神が嫉妬したような、そんなタイミング。
歴史に刻まれ、一生暗い記憶として人類の間で語り継がれて行くもの。
第三次世界戦争が始まったのだ。
ベルカに住み、ベルカの国籍だったマックスはベルカに残ることができた。
だが、シグナエ連邦国籍のままだった留学生の立場のソムレコフはシグナエ連邦へと強制帰国させられてしまった。
「なぁ、マックス」
「ん?」
「国が喧嘩しても俺とお前は親友だ。
だからこそ、戦場であったら覚悟しておけよ?」
別れ際、シグナエ連邦へと向かう最後の《蒼天航行船》に乗る前ソムレコフはそう言った。
マックスはソムレコフの肩を軽く叩くと
「お前もな」
返事を返した。
ソムレコフは心残りなどない、と言うように微笑むと船に乗り去っていった。
大空に浮かぶ客船が小さく、遠くへ消えるまで手を振ったマックスは親友の手の温もりが残る右手をズボンで擦った。
出来れば戦いたくない。
その言葉をお互いにあえて言わないで飲み込んだようだった。
「じゃあな、親友……」
遠くへ消えていった客船の残した雲を見てマックスは小さく呟いた。
第三次世界戦争。
後に『人類最悪の悪夢』や、『人類絶滅の歴史』とまで言われるこの戦争はシグナエとヒクセスを支えてきたエネルギー源であるシュバイアルルを巡っての戦争だ。
二度の世界戦争よりも遥かに大きな規模で、人類の負の歴史。
滅亡への第一歩のターニングポイントとも位置付けられるほどの出来事だ。
あちこちで今までの兵器を無効化するほど桁違いの巨大兵器が運用され、その兵器の影響を真正面から受け止めた人類の人口は一気に減少していく。
巨大兵器の稼働で南半球の大部分の大地は汚染され人が住むのは到底無理になっていた。
全世界のほとんどの国は両国の戦争に巻き込まれ、最前線の国は特に大きな被害を受けた。
もはやこの世界に安全な場所は空よりも高い所、宇宙しかないとまでいうレベルだ。
しかしその宇宙へはこの時の巨大兵器ですら昇ることが出来なかった。
この戦争においてシグナエ連邦にとってのベルカは喉元に刺さった棘であり、ヒクセスにとってはシグナエ連邦の首を締め付ける首輪のような役目を果たしていた。
だからこそ、激戦区になった。
マックスは分隊を率いて国を守るため参戦した。
駆逐艦三隻の小さな艦隊を任されたマックスはヒクセスからベルカへの戦争物資輸送護衛の任務を与えられた。
駆逐艦三隻の小さな艦隊は、五隻の輸送船を守るために空へと飛翔していく。
レーダーで敵がいない地域をできるだけ狙ってマックス達は航行していた。
その任務もあと少しで終わる。
ラストスパートに入ったそんな時だった。
そろそろ、自分達の住む町が見えてくる、思っていた矢先の出来事。
「提督!
あれを!」
「どうした!?」
部下の声でマックスは乗っていた旗艦から自分の親と、桜花と自分の家がある町がシグナエの爆撃を受け燃え盛っているのを見つけてしまった。
「桜花――!」
暗い空に明るく赤い光が散りばめられている。
人の命を使って燃え盛る炎は大きく、立ち上がる黒煙は入道雲のように広がっていた。
そして艦隊の行く先を遮るかのように、戦艦一隻を含めた艦隊が立ちはだかる。
その戦艦のマストには見慣れた旗が上がり、見たことのあるエンブレムがついていた。
「……は?」
八つの星を蠍の鋏がはさんでいる。
地獄の証、北極八連星はマックスの目に強く光を残した。
マックスの頭に熱いものが登り、次の瞬間には冷水を浴びせられたように冷えていく。
「嘘だろ……」
敵艦隊の旗艦に乗っていたのはかつての親友のソムレコフであり、マックスの家族の住んでいた町を焼いたのもまた、ソムレコフだった。
考えるまでもない。
エンブレムがそれを語っている。
「ソムレコフ……!」
別れ際の言葉を思い出す。
決して許さない。
マックスは輸送艦隊の、護衛任務を放棄。
敵艦隊を――ソムレコフの艦隊を攻撃するために駆逐艦の砲門を開き――。
※
「なんだ!?」
突如、司令室が揺れた。
何か巨大なものが動いた、そんな揺れ。
マックスの頭の中に描かれていた過去の光景は全て砂のように消えていく。
過去の記憶と共に少し傷んだ片目を軽くなぞり、天井にため息を吐いた。
「状況を確認しろ!
何が起きた!?」
ソムレコフは、手に持った銃を構えドアから外の様子を伺った。
マックスも立ち上がり窓から外を見る。
突如、歓声のようなものが基地全体から沸き上がりスパナ等を手に持った整備班をはじめとした兵士がソムレコフの部下を殴ったり、蹴ったりして抵抗していた。
「制圧しろ!
さっさとしろ!
やむを得ないなら発砲を許可する。
いいか、制圧だ!」
『……………………』
「応答しろ!
くそっ!」
ソムレコフは胸元についた無線に話しかけたが反応はなかった。
奪われたか、壊されたのだろう。
「ソムレコフ、悪いが今の俺は部下に恵まれててな」
マックスは焦るソムレコフの顔を見て笑ってやった。
無線を足元に投げつけたソムレコフは、血管の浮いた顔をマックスに寄せると拳銃を抜き出しマックスの胸に当てる。
「お前のような部下殺しが部下に恵まれた?
馬鹿なこというんじゃねぇ。
お前のせいだ。
桜花が死んだのも、全部全部な!
お前が愚かな証拠がその片目だ!」
ソムレコフはイライラした顔つきでマックスにすごい剣幕で迫ってきた。
だが、当の本人は涼しい顔だ。
なにも知ったこっちゃないという顔でソムレコフの暴言を受け止める。
「俺が、愚か……か。
だけどな、ソムレコフこれは言える」
マックスはソムレコフににっこり笑った。
「今回は俺の勝ちだ」
「ふざけんじゃ――」
大きな発砲音が聞こえ、二人してびくっと首をすくませる。
あの甲高い、空気を切り裂くような音はたしか……。
窓に駆け寄ったソムレコフは、驚愕した。
「《鋼死蝶》が、《鋼死蝶》が動いてるじゃねぇか……!」
そのソムレコフが見ている窓。
その窓の外では一隻のシグナエの戦艦が空から引きずり下ろされようとしていた。
話は約二十分前に遡る。
※
「……………………」
蒼は目の前をうろつく兵士をじっと眺めていた。
軍艦の使えない“核”なんて雑魚当然だと判断したのだろう。
装甲車二台と、見張りの兵士一人が今蒼達の回りに展開されている今のところの全兵力だった。
「はなしんさいや!
この大天使クラースの化身のわちきが憤怒する前に!」
そして暴れる藍を誰も注意しようとしない。
藍が暴れる事には理由があった。
「………………」
倉庫の天井、梁の部分に二つの影が動いていた。
《メレジア》の“核”二人だ。
メレジウムもジアニウムも敵が食堂に入ってきた瞬間にカウンターの中へと逃げ込み、そのまま脱出に成功したようだ。
愛想のいいおばちゃんと一緒に息を潜めていたらしい。
二人が同時に降りてきたタイミングに合わせて蒼が装甲車か兵士かを倒せばいい。
藍が暴れているのはメレジウムとジアニウムのたてる微かな音をかき消そうとしているためだった。
「まだダメですよ」
目で訴える蒼にジアニウムが返事をする。
「いいタイミングになっタラ、合図してくだサイ」
あくまで目での会話の為、多少は違うかもしれないがこのようなことをジアニウムは言っただろう。
兵士はしっかりと警戒し、藍を無視して“核”全員をしっかりと見張っている。
となるとどのように隙を作るか、ですが――。
ソムレコフの部下は、大した腕前らしい。
陸に詳しくはない蒼が見てもそのことだけはヒシヒシと伝わってくる。
「あの、私トイレに行きたいんですが――」
だが、男性だ。
こういう系には逆にたじろぐのではないかと思い、蒼は行動に移した。
「む、そうか……。
そうだな、少し待て。
今女の兵士を呼ぶ」
ソムレコフの部下が胸元にある無線機に手を伸ばした瞬間隙は生まれた。
片手ではあの大きな銃は扱えない。
「今です!」
号令と共にメレジアの二人が梁から飛び降りてきた。
片方はソムレコフの部下の首を降りてきた衝撃で砕き、もう片方は装甲車を“イージス”を展開して真上から潰す。
ガトリング砲が丸ごと落ち、メレジウムの攻撃をがっちりと受け止めた装甲車は、そのまま地面にぐったりと潰れた車体をのさばらせる。
それとほぼ同じタイミングで蒼は、“イージス”を展開しつつ目の前にいるもう一台の装甲車へと掴みかかる。
だが
「っ、何!?」
虫のような形の俊敏な装甲車は蒼の攻撃を軽く避けるとその肩のガトリングの照準を蒼へと定め発射する。
「面倒なことになりましたね――!」
ガトリングのエネルギー弾を避けつつ、何とか倉庫の隅へと身を隠す。
朱と藍が行動を起こしたのはちょうどのタイミングだった。
「朱!」
「あいよ!」
いつの間にかほどいていた手錠の鎖を引きずったまま、朱が装甲車の前に躍り出る。
「こっちやで、このポンコツ!」
そのまま朱は装甲車のセンサーのどれかを足で蹴り飛ばす。
混乱した装甲車のAIが朱に気を取られ蒼から照準を逸らした瞬間藍が装甲車の足にぶつかっていた。
四本のうち一本がへし折れ、鋼鉄の軋みが倉庫内に響き渡る。
残り三本で何とか立っていた装甲車だったが、そのうちもう一本を倉庫の影から飛び出した蒼が叩き折った。
“イージス”でねじ曲がった装甲のおかげで関節が崩れた装甲車は前のめりになって倒れる。
「蒼あんたは《ネメシエル》に急ぎんさい!
わちきと残りの“核”で味方を助けてくけん!」
藍は倒れてもなお、攻撃しようともがく装甲車を背に蒼へそう命令した。
「藍姉、危ない!」
その装甲車のガトリングが藍へ向かってエネルギー弾を放った。
朱が走り藍の前に飛び出すと同時に“イージス”を展開する。
「朱姉様!」
“イージス”を展開しながら突っ込んだ朱はエネルギー弾を多数跳ね返す。
一気に距離を詰めた後《超極兵器級》の“核”はガトリング砲の根元へ駆け寄る。
「嘗めんなや!
あたいらは《超極兵器級》やでぇ!」
朱は頭より大きく上げた足を下へ振り下ろした。
“イージス”の密度により空間の空気が圧縮され、それが装甲車にぶつかった瞬間解き放たれた衝撃波が一気に広がる。
ガトリング砲が放つエネルギー弾が“イージス”の消えた朱を狙い、噛みつく。
「っ――!」
朱の顔が痛みに歪む。
だがもう朱は止まらない。
「うりゃああ!」
押し切る。
体の重みを、装甲車の装甲へと、スピードを借りてエネルギーを叩きつけた。
次の瞬間には装甲車がまるで軍艦に上から潰されたようにペチャンコになった。
一拍おいて、車体が深くコンクリートの地面にめり込む。
ばらばらと倉庫の中に装甲車を形作っていた部品が散らばり、光っていた目の部分の光が消える。
「朱姉様!」
朱は、装甲車の上にぼとりと腐った木の実のように落ちてきた。
蒼はあわてて朱の所に駆け寄り、助け起こそうとする。
その時、ぬるりとした感触が手のひらに広がった。
朱から流れ出る血液は蒼の手を伝って地面に滴り落ちる。
「朱姉様……?」
痛みに顔を歪めた朱は蒼の顔を見るとにぃ、と笑った。
「どや……し……しばいたったで…………?」
自分の仕留めた獲物を朱は震える手で撫でると少し目を瞑った。
藍が静かに朱の元へとやって来て、妹の髪を撫でる。
死んではいない。
だが、このままだと死ぬ。
「蒼、あんたは《ネメシエル》の所に行き。
はよいくんよ」
藍の表情は分からなかった。
蒼から朱の体を支える役目を変わると、朱を抱き締める。
「無事に残りの捕虜も解放できマシタ。
旗艦、引き続き命令をお待ちしてイマス」
メレジウムが蒼に報告し、蒼は無言で頷いた。
朱を抱き締める藍の後ろに立つ。
「私は……朱姉様も藍姉様も心配です。
だから……」
ここに残る、の言葉を言うよりも前に否定が藍から突き付けられた。
「ダメじゃ。
はよ、行きんさいや。
じゃないと時と時の空間が合わさることになるじゃろ?
なにしよるんね、蒼。
走れ。
走れ!
この、セウジョウを悪魔からわちきらの手に取り戻すんじゃ!」
藍の表情は分からない。
だけど、藍は行けといった。
「朱のことはまかせんさい。
わちきが絶対に助けるけぇ」
藍は蒼に背を向けたまま言い放つ。
その背中からは藍の強い意志が昇っている。
「藍姉様、すいません――。
各艦、捕らわれた味方を救助!
その後各自自分の艦にて待機せよ!」
二人の姉を置いて蒼は走り出した。
自分の艦へと。
《ネメシエル》のある第五乾ドックへと。
「おい!
《鋼死蝶》が逃げたぞ!
追え!
捕まえろ!」
倉庫を出て走るとすぐに相手に見つかってしまった。
エネルギー弾の着弾の痕跡が蒼の回りあちこちに飛び散る。
分厚いコンクリートが砕け、破片が巻き上げられる。
そんなこと当然気にすることも出来ず、蒼はひたすらに第五乾ドックへと進む。
第五乾ドックまではここから一本道。
湾岸に浮かぶ敵潜水艦からサイレンのようなものが鳴り響く。
どうやらばれたようだ。
「五番、構え!
よく狙え!」
通路の先に敵装甲車が一台展開される。
倉庫の天井に居て警戒に当たっていたのが降りてきたのだ。
ガトリング砲とは違うまた別の大口径砲が装甲車の背中から飛び出す。
あれを食らったらいくら“核”と言えど、死ぬ。
脇道に逸れるか、それとも戦うか――。
蒼は歯を食いしばり、全面に“イージス”を展開した。
一か八か、やるだけやってやるしかない。
装甲車に向かって猪のように突進していく。
「避けろ!」
その場に突如響くタイヤの音。
ベルカの装甲車が倉庫の壁をぶち抜いて飛び出してきた。
乗っているのはきっと……。
「隊長さん!」
装甲車はスピードを上げると敵装甲車へとぶつかった。
そのまま敵装甲車を引きずるようにして装甲車がコンテナへと、衝突する。
「行け!
早く!」
コンテナと装甲車の間に挟まれた敵装甲車が
押し返そうと兵装を起動し、砲台が装甲車へと向く。
「早く行け!
うぉおおおおお!!」
装甲車の装甲が開き、中から莫大な推進力を生み出すブースターが四本現れる。
本来泥濘などに入ってしまった時に抜け出すための装置。
ブースターに走る奇妙な模様に光が強く通った時、装甲車の、敵装甲車を押し返す力が倍以上になって返ってきた。
轟音と共に、装甲車の後部から衝撃波が吹き出しプレハブ倉庫の壁を吹き飛ばす。
そのブースター目がけ戦車の砲が火を吹く。
一気に二つ、持っていかれたがそれでも装甲車は止まらない。
ミリミリ、と鋼鉄のコンテナがへこんで行き敵装甲車についている多脚が限界の火花を上げ始める。
「セウジョウを、救うんだ!
行け!!」
とうとう力を受けきれなくなったコンテナが砕け、敵装甲車と装甲車が共に倉庫の中へと消えてゆく。
大きな爆発音のようなものと敵の怒濤の声が流れ出す。
「あとで助けに来ますから、それまで生きていてくださいですよ!」
聞こえたかどうかは分からない。
蒼は振り返らず隊長が作ってくれた道の先を見据えた。
すでに第五乾ドックは見えていた。
そこへひたすら走る。
巨大な第五乾ドックまで五分程度全力で走って何とかたどり着いた。
「はぁ、はぁ……」
展開していた“イージス”をいったんひっこめ第五乾ドックの中へ入る扉をこじ開ける。
厚い装甲板の重みで軋む扉の、奥へ進み《ネメシエル》の艦橋へ繋がる廊下へ足を踏み入れた。
背後、一つ下の階の扉が開き
「《鋼死蝶》はここに来る!
探せ!
この化け物を起動させるな! 」
後を追ってきた兵士達が多数のハッチから飛び出してきた。
数は五人。
咄嗟に廊下に、伏せたお陰でまだ見つかってはいないらしい。
第五乾ドックの中は天窓から入ってくる日光とライトの明かりだけがぼんやりと照らすだけの薄暗い空間。
隠れていれば見つからないと判断する。
とは言え相手はプロ。
これぐらい慣れているに決まっている。
あまり時間はありませんね。
蒼は隠れたまま艦橋へ通じる廊下の影から様子を伺った。
「《鋼死蝶》!
大人しく出てくることだ!
こんな所でお前のような上物を失いたくないからな!!」
隊長らしきやつを殺せば、部隊の活動が停止するとは思えませんね……。
機械ならまだしも五人程度の小隊は頭をとってもなお活動を続ける。
となると、全員を殺すしかない。
「そうだぞ、《鋼死蝶》!
つまらん意地を張ってないでさっさと出てこい!!
鬼ごっこはつまらないだろう?」
うまく艦橋へ行って《ネメシエル》で吹き飛ばす手もある。
どちらにせよ、この五人だけは早いこと……。
いや、変に刺激して応援を呼ばれる可能性も……。
「いたぞ!」
敵の声に弾かれたように蒼は艦橋へ向かって走り出した。
とっさの判断だった。
さっきまで自分が居たところに大量のエネルギー弾が叩き込まれていく。
「逃がすな!
あいつを《ネメシエル》に乗せるんじゃない!」
廊下の手すりに当たったエネルギー弾が弾け火花のようになって蒼を照らす。
“イージス”を展開しつつ、艦橋へ向かって走る蒼の髪をぐいっと何者かが掴んだ。
「あうっ!」
転倒した蒼の額に銃口が突き付けられる。
一人、隠れていたのだ。
「逃げんなよ、《鋼死蝶》!」
銃口が火を吹く瞬間に、背中のバネと“イージス”を利用して蒼は起き上がった。
腰につけたナイフを取りだし、敵へ向ける。
「はっ、この小娘が!」
敵も銃を捨てると蒼に向かってナイフを取り出した。
そのまま勢いを借りるように挑んでくる敵のナイフを“イージス”で受け止め、引っ張る。
バランスを崩し、倒れてくる敵の顔面に膝を入れる。
ゴキッ、となにかが砕けた感触が伝わり敵の鼻からは大量の血が流れ出した。
「うがぁぁぁぁぁあ!!」
痛みにのけぞった敵の隙を狙って足へ、ナイフを突き立てる。
蒼の力ではそんなに深く刺さらなかったが一瞬なりとも行動不能にすることぐらいは出来るだろう。
肉を切ったその感触の気持ち悪さに吐き気を催しながら止めを刺そうと“イージス”を腕先に集中的に展開する。
“イージス”の軌道をねじ曲げる反動で壁へと叩きつけようというのだ。
だが、応援がもう近くにまで来ていた。
「くっ!」
止めを刺すことを諦め、艦橋の扉の横にある印を右腕でなぞった。
蒼の“レリエルコード”を読み取った《ネメシエル》が扉を開き中へと招き入れる。
「《鋼死蝶》!」
蒼の頬を掠めたエネルギー弾が目の前の装甲に着弾する。
応援が、五人廊下の先にまで来ていた。
「逃がすかぁぁぁぁぁあ!!!
待てぇええ!!!!」
《ネメシエル》の中に飛び込み、閉めるのボタンを連打する。
装甲扉が閉じ始め、五人のスピードがさらに早くなる。
「はやく!
《ネメシエル》!」
あと少しで閉じる、人一人分の隙間が狭くなっていく。
「逃がすかボケぇ!!!」
銃口。
扉の隙間から覗いたその穴は最後の最後に敵がねじ込んだ殺意の現れだった。
光、閃光が迸り狭い艦橋の廊下の中でエネルギー弾が荒れ狂う。
「死ね!!
死ねぇ!!!」
狂気のようにも感じるその言葉は蒼の耳にもしっかり届いていた。
“イージス”を展開し、跳弾から身を守りつつ《ネメシエル》に強制閉鎖を命じる。
装甲扉が銃口を、ねじ曲げながらゆっくりと閉じやがて銃口はドアに潰された。
(お疲れさまだな、蒼副長)
「《ネメシエル》……。
全く……ど、どうしてあなたは……。
はぁ、大事なとき……に使えないんですか……ね?」
(し、仕方ないだろう?
“レリエルシステム”の通信を遮断するジャミングがだな。
このセウジョウを薄らと覆ってるんだから!)
「気合いで……なんと……かなったんじゃ、はぁ……ないですか?」
助かった。
なんとかなった。
その思いと安心で肋骨の中で暴れまくる心臓を抑える。
荒れた呼吸を整え、どっと沸いてきた疲れで背中を壁につけ少し休む。
装甲扉の向こうから聞こえる音。
何やら命令を出しているようだ。
この扉を爆弾か何かで壊せとでも言っているのだろう。
少し休み、疲れを振り払うように蒼は《ネメシエル》の操艦室へ向かった。
(蒼副長、さっきの話だが。
気合いもなにも私は軍艦だ。
だから、そんな曖昧で抽象的な……)
「はいはい」
少し気を緩めることが出来るこのタイミングで蒼は体のあちこちに擦り傷が、出来ていたことをはじめて認識した。
全く、お嫁にいけなくなったらどうしてくれるんですかね。
ぼやきながら自分の空間へと足を進める。
操艦室の中はいつもと同じ空間。
《ネメシエル》の蒼の居場所がそこにあった。
操縦席に座り、“レリエルシステム”へ接続する穴に両腕を突っ込む。
「《ネメシエル》起動開始。
セウジョウを救いますよ」
自分の椅子に座り、思い出すのは二人の姉のことだった。
あの二人はうまいこと逃げれたのだろうか。
死んだりしていないだろうか。
(各種兵装チェック。
動作確認開始――)
蒼の視界が外のカメラを通した映像に切り替わる。
五人の兵士は《ネメシエル》のエンジン付近にいた。
何かをするつもりらしい。
カメラ拡大を命じ敵の持っているものを確認する。
「……そんなものが私に効くとでも思っているんですかね……」
設置式の爆弾だ。
それを危なっかしくエンジン付近の桟橋から船体へつけようとしている。
(オールグリーン。
蒼副長、いけるぞ)
……吹き飛ばしてあげますよ。
「《ネメシエル》アイドリングチェック。
回転数あげてください」
(了解した)
回転を始めたフライホイールと、強く光始めた機関が轟音を奏で吼える。
アイドリングの出力だけでセウジョウの《超極兵器級》を除く全艦艇の合計をも上回る力が第五乾ドック内部を揺らした。
固定されていないものは吹き飛び、荒れ狂う。
第五乾ドックの中に小さな台風が起きたようだった。
エンジン付近にいた五人はその風の影響を思いっきり受けた。
木の葉のように空を舞い、鋼鉄の壁に叩きつけられる。
(敵驚異を排除。
行くぞ、蒼副長)
「言われなくとも。
《ネメシエル》、全兵装解放!
エンゲージ!」
第五乾ドックの巨大な装甲扉が左右へと開き、海水が雪崩れ込んでくる。
湾内には敵潜水艦がまだ浮かんでいた。
その潜水艦の上には一隻の戦艦が浮かんでいる。
戦艦は暴動の制圧に気をとられとてもこちらを見る余裕は無いようだ。
「目標敵戦艦。
“ 三百六十センチ六連装光波共震砲 ”一番から三番まで用意」
第五乾ドックから出た《ネメシエル》の甲板に並んだ“ 三百六十センチ六連装光波共震砲 ”が巨大で美しい砲身を持ち上げた。
赤い模様が光を強め、砲門にはオレンジの強い光が溜まり始める。
「自動追尾システムロック。
以後設定は《ネメシエル》に委託します」
(了解。
目標敵戦艦。
自動追尾システムロック完了。
一番から三番、エネルギー充填百パーセント。
特殊軌道形成システムグリーン。
兵装、準備完了)
「一番から三番、撃ち方始め!」
猛威を振るう敵戦艦の装甲を“光波共震砲”の光が下から貫いた。
後部エンジンをもぎ取られた敵戦艦はその場で爆発を起こす。
小さな爆発だったためか船体は形を保っていたが、高度を維持することは出来なかった。
紐か何かで引っ張られるように艦尾を下にして敵戦艦はセウジョウへと不時着する。
多数の軍事施設を重さで砕きながらも敵戦艦は地面へ大破着底した。
「両舷全速。
セウジョウを救いますよ」
《ネメシエル》の全兵装が空を、セウジョウを睨んだ。
「あれが、《鋼死蝶》――?」
シグナエの兵士が初めて見る《ネメシエル》の姿。
それは美しくも、自分達に死を突き付ける死神だった。
This story continues.
ありがとうございました。
うーん、マックス。
ええ、マックス。
さあ蒼行け!!
セウジョウを!!
ベルカを助けるのだ!!
戦え、ネメシエル!
負けるなネメシエル!!




