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超空陽天楼  作者: 大野田レルバル
ニッセルツ奪還
21/81

《ウヅルキ》

 午後十一時五二分。

あと少しで次の日がやって来るであろう微妙な深夜。

これから起こる戦いのことなどご存じない、といった表情を浮かべて空は全てを見つめていた。






          ※






 ロズルド山脈地帯、午前零時。

交戦予定地域五十キロ手前。

まばらに地上の熱源がレーダーには浮かび上がっていた。

 大きさからしておそらく戦車だろう、と蒼は敵を予想する。

そのほかに映るものはなく見回りの交代、または制空を完了して引き上げたのか蒼達《超空制圧第一艦隊》の邪魔をする艦艇は存在しなかった。

《ネメシエル》達にとってこれほどの好都合はなく、敵にとってこれほどの不都合はなかった。


「はぁ……」


 曇った空、白く降りしきる雨そして茶色の地面。

憂鬱の代名詞ともいえるものを見て蒼は小さくため息をついた。

戦いに赴くには相応しくない天候。

真っ暗闇の中雨が激しく船体を叩く。

濡れた砲身からしずくが零れ、高大な甲板には雨水が集まって形成された河が流れていた。

 いつも分厚い雨雲は太陽を遮り、禿げた大地は雨に打たれている。

山から削れ落ちた土で茶色に濁った河はさらに川と山の高さを変えてゆく。

昔からここは晴れの方が珍しいと言われるほどの大豪雨地域だ。

詳しくはよく分かっていないが大陸から来る湿った空気が山にぶつかり分厚い雨雲を作っているらしい。

 標高が千メートルを超える山のすぐ脇には太い河が流れている

広大な盆地の隙間に雨水が流れ込みどんどんと掘り進む。

そうして何万年、何百万年をかけて今のロズルド山脈が出来上がったらしい。

茶色と黒い雲だけが支配するこの空間を蒼は案の定好きになれなかった。

どうせ飛ぶなら、突き抜けるような青い空がいいですよ……。

味方の規定周波数に受信機をセットし通信回路を開く。

次第に強くなる救助要請の場所へと進路を整え機関の出力を安定させる。


(全員生きているといいのだが……)


 《ネメシエル》の小さな声は降り注ぐ雨と雲に溶けていく。

雷が空から山頂をめがけて一気に落ちていった。

そして体の芯から揺らすような雷鳴が鳴り響く。


『大丈夫きっと。

 みんな助かる――たぶん』


 《タングテン》の副長、フェンリアが《ネメシエル》にそう話しかける。

いつも無表情の彼女はこの時も無表情だったが、声には不安が混じっていた。

今回の戦いの勝利条件は味方一定数の救助となる。


(だといいが……)


今までみたいに一方的に他を気にせずに殴り倒すという戦法は効かないのだ。

味方のことを気にせず敵を殲滅することは出来ない。

そのため蒼達は役目を分担することを決めていた。


「春秋と夏冬。  

 分かっていますね?

 あなた達二人が味方の援護を。

 私とフェンリアさんが敵の殲滅をするんですよ。

 そして、どちらかが艦内へと部隊を収容してコグレへ持ち帰るんです。

 いいですね?」


 味方を守りながら敵を殲滅。

敵の全滅を確認したところで《アルズス》と《ナニウム》が地上へと降り味方を艦内へと収容する。

ここまでが作戦の簡単な内容だった。

作戦と言っても結局は味方に気をつけながら敵を殴るだけ、といういつもと何も変わらないのだが。


『分かってるっすよ、蒼先輩。

 俺達が何としても敵を止めてみせるっす』


春秋はVサインを送りながらやる気を醸し出していた。

そんな妹と正反対なのが兄、夏冬だった。


『だが……たとえ味方を救出できたとしてもだ。

 その味方はどの程度の規模になるのかが不安だよな、やっぱり。

 もしかしたら全滅してるかもしれないんだろ?』


夏冬は不安そうに救難信号の発信場所を眺めた。


『やはり不安だな……』


残る距離はおよそ二〇キロ。

残り二〇キロでこの広大な戦場に《超空制圧第一艦隊》が飛び入ることとなる。


『でも、そうやってなんだかんだ考える方が無駄っすよ。

 それならちゃーっといって片づけてしまう方がいいっす。

 例え味方が残っていなくてもそっちの方が俺は楽っすもん』


 兄の弱気に妹が反論する。

夏冬は口を開いて思わず反論を投げかけたが口を開けたまま『そうだな』と顔を引き締める。

夏冬のらしくない態度に少し不思議な気持ちを覚えた蒼は作戦の支障となりそうな不安分子を取り除くため夏冬に話しかける。


「あなたらしくないですよ、夏冬。

 大丈夫ですきっと。

 私達《超空制圧第一艦隊》がそんな弱気でどうするんですか?」


『だが蒼さん。

 おいらたちは神じゃないんですよ。

 そりゃ不安にもなりますさ』


 夏冬はそういって手に持っているハンバーガーを頬張る。

ついでに何かしらの飲み物も持ってきているらしい。

ずぞぞぞ、と紙コップから伸びるストローを口に咥えている。


「そうですよ、私達は神じゃない。

 でも、神のようにふるまうことは出来ますよ?

 私達の助けを待っている味方がいるのならその味方を助ける。

 戦車の一台、歩兵の一人、少しでも多くの味方を。

 さあ、そろそろ予定交戦地域ですよ」


『迷う暇はない。

 やるだけだ』


フェンリアが夏冬にとも、春秋とも、誰に向けたのかも分からない言葉を投げかけたのを最後に会話は途切れた。






          ※






『味方か!』


 予定交戦地域に入って十分。

味方の識別番号を持つ地上から通信が入った。


「私は《超空制圧第一艦隊》旗艦ネメシエルの副長。

 空月・N・蒼です。

 あなた達はロズルド基地所属ロッカー大隊ですね?

 通信を聞いて、助けに来ました」


 蒼が言葉を切ると、ざざっと映像が入ってくる。

やせ細り土が顔にべったりと張り付き痩せこけているにも関わらず、光る瞳が生を手放そうとしない。

破れた野戦服にかろうじて張り付いた階級章でとベルカ陸軍のマークでようやく味方だと判断することが出来るぐらいにボロボロだった。

その男が口を開く。

希望をようやく見つけた人間の顔だった。


『《超空制圧艦隊》か!

 すまない、助かる。

 《ネメシエル》――《陽天楼》か?

 とにかく、助けてくれ!

 今俺達の大体は二つに分断されちまってる。

 敵の勢力は戦車やミサイル車とか、とにかく勢揃いしてやがる。

 ロズルド基地がやつらの根城になってる!

 俺達は今アズカ山の山頂だ。

 もう半分はアズカ山の隣のニンカイ山の山頂にいるはずだ。

 周りを敵に囲まれちまってる。

 頼む、早く助けてくれ!』


 兵士が話している後ろから赤い閃光が走った。

一拍遅れて、爆風と爆音が兵士達を躓かせる。

今、蒼と話をしている兵士との映像が切れて音声のみとなった無線だけが垂れ流される。


『た、退避しろ!

 来たぞ!』


『くそっクソどもが!!』


 銃声や戦車砲の咆哮。

蒼は急いでアズカ山、標高およそ千三百メートルの山へと向かった。

アズカ山の複雑な山頂に六台ほどの戦車が見える。

そして追い詰めるように山の麓には敵の戦車やミサイル砲台。

他にもレーザー迫撃砲など様々な地上兵器が勢ぞろいしていた。


『ほえーたくさんいるっすねぇ……』


『早く助けないとまずいな、なぁ《ナニウム》?』


(そうでしゅねぇえっ!

 早く助けないとまずいでしゅぅうう!)


『本当に何とかならないのかその声は』


『無理よ、《タングテン》。

 アホだもの、この兄妹』


『俺は関係ないじゃないっすか!

 それにフェンリアさんの《タングテン》の声も部品変えた方がいいっすよ!

 なぁ、《アルズス》?』


(うん、お兄ちゃん。

 某も本当にそう思うっす本当にそう思うっす)


騒がしい。


(なんていうか……私毎回さ。

 この旗艦としてやっていけるのかどうかが不安でな……)


あなたの不安ももっともですよ、《ネメシエル》。

私ももう、こいつらどうすればいいのかわかりませんから。

蒼はため息をのももったいないと、少し頬を歪めるだけにとどめた。

というかもう毎回すぎて私慣れましたもう。


『あ、ほら、蒼先輩が落ち込んでるっすよ!?

 お兄ちゃんもフェンリアさんも静かにした方がいいと思うっすよ?』


 春秋がその蒼の様子に気が付いたらしい。

蒼を庇おうと春秋は口出しした。

原因を作っているのは自分だということにまず気が付いていないらしい。

やはりここらで引き締めなければならないようだ。


「うるさいですよもう!

 どうしてこう、引き締めなきゃいけないタイミングであなた達は……。

 あーもう……いいです……」


言葉を繋げるだけでやたら虚無感が発生して蒼はそれだけ吐き出すと黙り込んだ。

そんな様子を知るわけもない味方の通信が蒼の鼓膜を震わせる。

味方地上部隊が展開している山頂付近にたどり着いたのだ。


『あ、あれが……《ネメシエル》なのか?

 《超常兵器級》をよりもはるかにデカくないか?

 それにあの模様、おい、《光の巨大戦艦》ってまさか……』


 《ネメシエル》を見て怯えた声をする味方兵士に少し悪戯を思いついてしまった。

機関のスピードを緩め、艦底に並ぶ砲塔を回しながら


「下がっていてください。

 巻き込まれても責任は持ちませんよ?」


と、唇に指を当てて笑う。


『っ――!

 さ、全員下がれ!』


(味方の通信は常に開いておく。

 なお、敵の回線に合わせることも成功した。

 ついでにつないでおく)


そして毎回恒例のように流れ出す敵の無線。


【っなんだありゃ!?

 バカみてぇにでけぇ戦艦だぞ!】


【おい、あれって噂の《鋼死蝶》じゃ……?】


【ば、バカを言うなお前ら!

 そんなものがベルカにあるわけないだろう!】


【じゃあ味方か!?】


【バカ野郎、ベルカの紋章が付いてるだろうが!

 敵だ、対空砲火準備、撃ち方はじめ!

 地対空ミサイル、あいつを狙え!】


【そんなもん持ってきてねぇよバカ野郎!】


 どうやら、ニヨの工作はうまくいっているらしい。

《鋼死蝶》という単語に少し頬が緩む。

我ながらなかなかかっこいいあだ名です。

その名前にふさわしい働きをして見せますよ。

蒼は夏冬と春秋に分かれるよう指示を下すと会敵の号令を吐き出した。


「作戦開始。

 味方の援護に回りますよ。

 《超空制圧第一艦隊》、全兵装解放許可。

 思う存分暴れてください」


『了解っす。

 《アルズス》全兵装解放!

 エンゲージっす!』


『了解。

 《タングテン》全兵装解放。

 エンゲージ』


(ああっ、《ナニウム》聞いた!?

 全兵装解放許可出てるよ!

 よーし行くよ、行っちゃうよ!

 《ナニウム》、全兵装解放!

 エンゲージ!!)


まったく、何をどうすれば夏冬のように気持ち悪い表現が出来るんでしょうか。

普通に出来ないんですかね。


「まったく……。

 《ネメシエル》、全兵装解放。

 ぶちかましますよ、エンゲージ!」


 蒼達は機関の回転数を上げて敵の地上部隊が放つ対空砲火のど真ん中へと突っ込んでいく。

地上から上がって艦橋のすぐ横で弾ける青色の煙が艦を揺らす。

下から上ってくる対空砲火は激しさを増すばかりで、すぐに《ネメシエル》達の周りでは青くはじける対空レーザーが展開され始めた。


("イージス"展開開始。 

 許可過負荷率百に設定)


 敵の数は地上だけ、数えるだけでも五百を超える数だった。

あまりにも膨大な数を相手にするに不足はなかったがそれは蒼達の話だ。

地上に展開している味方の多くはそういうわけにはいかない。

戦車たちにも“イージス”などのバリアが付いているとはいえ付け焼刃に変わりはない。

《タングテン》などに収容している間にやられてしまう可能性が大いにある。

総合的に考えた蒼はまず敵の数を減らすことから専念することにした。


(“イージス”過負荷率二パーセント。

 “強制消滅光装甲”展開開始。

 武装用電源始動。

 全武装にエネルギー伝達)


 機関から伝えられたエネルギーは《ネメシエル》の艦底に設けられた長方形と円を組み合わせた武装、“下部散弾爆撃光発射口”へと送られた。

《超空制圧艦隊》には見ての通り制圧という言葉が入っている。

制圧、とは力で敵を押さえつけること。

広範囲で敵を押さえつけたい時に使用する対地最強とも言えるのがこの“下部散弾爆撃光発射口”だった。

機関で生み出された莫大なエネルギーがその“下部散弾爆撃光発射口”の砲門へと送られてゆく。

 誤作動を防ぐシャッターが開き、露になった砲門奥の圧力が高まってゆく。

“下部散弾爆撃光発射口”の用意をしている間にも蒼はほかの武装へとエネルギーを送るように指示していた。

主砲と副砲を除くほぼすべての武装が駆動し、狙える敵をそれぞれ狙う。

艦底に設けられた“五一センチ六連装光波共震砲”や“六十ミリ光波ガトリング”などをはじめとする膨大な大小百を超える砲門が命を吹き込まれたように左右へと首を振り砲門を下へと向ける。

防水のため設けられているシャッターが開き、舷側の“五一センチ三連装光波共震砲”が三連装の砲門を構える。


「《ネメシエル》、撃ち方はじめ!」


 降り注ぐ雨のように地上へ向かって光が降り注ぎ始めた。

山に展開していた敵の戦車やミサイル砲台にへとその雨がぶつかっていく。

機銃は戦車の装甲に弾き返されたがそれを上回る直径十五センチのレーザーが装甲を射抜いた。

ミサイル砲台の装甲の薄いところを機銃の弾が射抜き誤作動した信管が爆発する。


【っなんだくそ!】


【焦るな、影に隠れろ!

 近辺基地に航空支援を要請しろ!

 それに艦砲支援もだ!】


敵車両はあわてて谷の隙間へと逃げ込み岩を盾とすることにしたのだろう。

逃げる車両を《ネメシエル》の砲塔が追いかける。


(敵車両は岩を盾にしている。

 岩ごと吹き飛ばすか?)


モニターに映る敵車両を《ネメシエル》は補足したまま蒼に指示を乞う。

地理学的にもここは価値が高いためあまり破壊は推奨されていない。

レーダーで位置を確認するとちょうど《タングテン》が狙えるところに浮いていたため隠れた敵は《タングテン》に頼むことにした。


「いえ、大丈夫です。

 フェンリアさん、お願いします」


『了解した』


 《タングテン》の主砲が旋回し、隠れた車両へと砲撃を敢行する。

“四十六センチ三連装光波共震砲”から放たれた三本の光は途中で一本に纏まり、小さな光を纏いながら敵戦車の装甲を抉り取った。

被弾、炎上した車体が爆発し形が残っている砲塔が空中へと大きく吹き上げられる。

燃え盛る車体の中から人間が飛び出してきたが《ナニウム》の放つ機銃の光に体をバラバラに撃ちぬかれた。


『敵車両を破壊!

 この調子でいきますぜ、おいらは!』


対空砲火はさらに激しさを増し、“イージス”の過負荷率はじりじりと上昇を続けている。

味方への攻撃も敵は同時に行っておりたびたび飛び交うミサイルを蒼は撃ち落としてあげていた。

それでも激しい攻撃を受けて味方はじりじりと数を減らしていく。


(敵ミサイル破壊)


『すまない、助かった』


今も敵のミサイル砲台から発射されたミサイルを撃ち落としてあげたのだ。

味方から感謝の通信が入ってくる。


「いえ、当然のことです。

 それより近くの岩陰に避難してください。

 “下部散弾爆撃光発射口”を使います」


『わ、分かった! 

 おいみんな、早く逃げろ!

 でっかいのが来るぞ!』


(“下部散弾爆撃光発射口”にエネルギー伝達完了。

 撃てるぞ)


 《ネメシエル》の声と共に地上を現すレーダーにシーカーが展開される。

大きな円は効果範囲を現しておりその円の中に入った車両は散弾で装甲を射抜かれ使い物にならなくなる。

じりじりと五つの“下部散弾爆撃光発射口”が《ネメシエル》にはついており五つが重ならないように蒼は微調整を重ねていく。

シーカーの円の中に二十ほどの敵が入ったところで蒼は敵へと光を放つように命令を下した。

“下部散弾爆撃光発射口”の開かれた砲門の奥からオレンジ色の光の玉がそれぞれ地上へと向かって放たれた。

それらは地面に降りる寸前でさらにはじける。

大きな音と共に広がる爆炎と目を強く刺すような強い光が地上を覆った。


【なん……うぐぁああ!!】


【お、おい!

 くそっ、ルシア共の爆撃光だ!】


 地上に制圧の花が“下部散弾爆撃光発射口”の砲門の数だけ開く。

その花に止まるように《鋼死蝶》は空を優雅に舞う。

蒸発した鉄は霞となり空気と混じって消えてゆく。

直撃を受けた岩は溶岩となって川に流れ込むと水蒸気を空へと立ち昇らせた。


『くそっ、また敵が来やがる!

 誰か、助けてくれ!』


味方地上部隊からの通信で


『蒼さん。

 敵が多い、ここは分散して敵を減らすべきだと考えるがいかがか?』


地上に湧き上がる制圧の光を眺めながら夏冬が蒼に提案してきた。

一か所に固まるよりもばらばらに対応した方がいいのは確かだ。


「そうしましょうか。

 作戦変更、敵を全滅後に味方を収容という流れに。

 《タングテン》、《ナニウム》、《アルズス》の三隻は味方の状況を見ながら各自遊撃を。

 味方は必ず守るとともに無理はしないでくださいね」


『了解しました!

 《ナニウム》行くよ!』


夏冬はそういうと大きく進路を右へそらし、八キロほど遠くで地上の掃射を始めた。

《タングテン》も艦隊から離れ、《ネメシエル》や《アルズス》の手が届かないような遠くの敵を食らう。


【こっちに来たぞ!

 こいつが《鋼死蝶》か!?】


【違う!

 こいつはただのルシアの戦艦だ!】


【“イージス”め――!

 もっと撃て!

 撃ち尽くしても構わんからこいつを追っ払え!】


 “イージス”の過負荷率は次第に上がってゆき半分より上を指し始めた。

頻繁に船体の周りで弾ける対空砲火が主に負担をかけているのだ。

地上から光を撃ちあげてくる車両に狙いを定めて“下部散弾爆撃光発射口”の光を叩きつける。

蒸発し、消えたところでまた別のところから攻撃を受ける。

キリが無いものの、確実に敵は数を減らしていた。


『なんともまぁ、頼もしい味方が来てくれたもんだな。

 見る見るうちに敵が減ってきてるじゃねぇか。

 ありがたいぜ。

 さすが《陽天楼》だな』


映像は映らなかったものの地上からの通信は、声は聞こえる。


「うな、ありがとうございます。

 あまり褒められると照れます」


 そう返事を返して後ろに回り込んでいた敵車両を“五一センチ三連装光波共震砲”の光で岩ごと消し飛ばす。

味方地上部隊にミサイル攻撃を加えている車両を見つけると機銃の光をその周辺へと集中させた。

爆発、炎上する車両は誘爆を起こしばらばらと空へと消えた


【っち、なんだこの化け物艦隊は!

 あのでかいのが旗艦だ、あいつさえ落とせば!

 艦砲援護はまだか!】


『あ、蒼先輩。

 そのっ、俺は一応蒼先輩の側にいるっす。

 万が一があるかもしれないっすから』


「別にかまいませんが、邪魔はしないでくださいよ?」


『ういっす!』


【来ました! 

 航空支援です!】


《ネメシエル》のレーダーに大量の影が投入された。

数は二百と少し、距離はおよそ五千。

黒く広がる雲のせいで視界は悪く、“パンソロジーレーダー”のフィルター無では見えない。

 《アルズス》、《ナニウム》、《タングテン》の形成する弾幕をかいくぐり、一目散に《ネメシエル》を目指してやってくる。

敵戦闘機は春秋達を狙わずに《ネメシエル》だけを狙っているようだった。

全ての戦闘機が大量のミサイルや爆弾を積んでおり蒼達の直上から一気に近づく。

《ネメシエル》達よりも高い高度から敵攻撃機の黒い影が襲い掛かって来た。


「対空砲、撃ち方はじめ!」


(了解。

 対空砲火、弾幕形成開始。

 撃ち方はじめ)


 舷側、甲板に並ぶ機銃やガトリング砲、高角砲の砲身が雨を滴らせながらぐいっと上を向く。

機関から直に送られてくるエネルギーが甲板の不思議な模様を光らせるとエネルギーを受けた砲門が空へと光を吐きだし始めた。

ある程度の上空まで行くとそのレーザーは弾け弾幕を形成する。

その弾幕をかいくぐって《ネメシエル》の直上千ほどの距離から敵は翼につけた爆弾を投下し始めた。

それらは、甲高い独特の音を立てながら《ネメシエル》に牙をむく。

雨よりも大きな、流線型をしたそれらを眺めつつ“強制消滅光装甲”の展開を確認する。

いい度胸です、私を狙うのがどれだけアホなことか思い知らせてあげます。

《ネメシエル》に当たるよりも前に“強制消滅光装甲”が爆弾を輪切りにしてゆく。


【爆発しないぞ、クソ!

 “強制消滅光装甲”だ。

 飽和攻撃だ、急げ!】


【過負荷率は無限じゃねぇ!

 でけぇぶん当てやすいはずだ!

 怯むな、勝てるぞ!】


 “強制消滅光装甲”も"イージス"と同じく過負荷率が設けられている。

当然飽和攻撃を何度も受けたら"イージス"、”強制消滅光装甲”共に《ネメシエル》の船体から引き剥がされあとは装甲で持ちこたえるしかなくなるのだった。

少しずつ、少しずつだが過負荷率は上がってゆき今では両方とも半分よりも上へと達している。

この過負荷率は基地に帰るとようやくに専用の機械で解放することが出来る。

それまでリセットは出来ずある分だけため込むことしか出来ない。

《ネメシエル》達のバリアを剥ぎ取るのに最も簡単なのは迎撃できない距離からの攻撃、か“イージス”“強制消滅光装甲”ともに展開出来ないいわゆる内側にまで近づくか、飽和攻撃を何度も仕掛けるかのその二択しか存在しないのだった。


『くそっ、蒼さんに何を!』


 《ナニウム》が山頂にとどまったまま《ネメシエル》の上空に砲門を向ける。

夏冬は対空砲火に“四十六センチ三連装光波共震砲”を切り替えるとターゲット上空へと発射した。

バケツを蹴飛ばしたように広がる光に飲み込まれ五機ほどの敵機が飲み込まれる。

それでもなお敵機はひるまずに《ネメシエル》へと爆撃を続ける。

爆弾が落下し、“強制消滅光装甲”としのぎを削る。


「私はいいです。

 あなたはそれに集中してください。

 それにこいつらは私の獲物です」


『しかし……!』


「私を誰だと思っているんですか?

 私はいいから味方地上部隊を助けてあげてください」


【やれやれ!

 もっとやっちまえ!】


 地上へと分散させていた意識を空中にすべて注ぎ敵機を睨む。

その意識を保ったまま“衝撃波散弾弾道ミサイル”の発射を《ネメシエル》に命じた。

赤い光が脈を打つように鼓動し甲板に並ぶ四角い箱へとエネルギーが伝えられる。

弾道ミサイルと名前があるものの実際蒼達“核”はそのような使い方は一切していなかった。

元々は対地用のこのミサイル、爆発すると大きな範囲に衝撃波を生じさせる。

その衝撃波は戦闘機など小さな兵器を落すのには最適なのだった。

対地用なのにもかかわらず対空用の方が大きな効力を発揮するなど珍しい。


「春秋、夏冬、フェンリアさん。

 “衝撃波散弾弾道ミサイル”を使います。

 “イージス”を厳とし、衝撃に備えてください」


『了解!』


《ネメシエル》の最上甲板に並ぶ四角い箱、VLSの蓋が上下左右へと開く。

エネルギーがミサイルへと蓄えられると光を背面から吐き出しながら何本ものミサイルが箱の中から飛び飛び出す。


『《アルズス》、《ネメシエル》の影に隠れろ。

 《タングテン》、対ショック体制』


『り、了解っす。

 《アルズス》対ショック体制、来るっすよ!』


『へ、なんだ?

 何が来るんだ、春秋』


『衝撃波っすよ!

 とりあえず兄ちゃんは関係ないから別にいいっす!』


【ミサイルだ!

 フレアを出せ、避けろ!】


 敵戦闘機の後ろから赤く燃えるフレアが放出される。

それを追うほど《ネメシエル》から射出されたミサイルは機動がよくなかった。

ミサイルという名前が付いていながらも元々は対地用のためそれほど動きがよくない。

そこである程度の高度にまで登ったところで爆破を命じ爆発させる。

弾頭にため込まれた大量のエネルギーが信号に反応しその身を熱へと変換する。

弾頭の薄い金属を破り大気に触れると光は熱を生み出し一気に力を増す。

空に白い衝撃波が波のように広がるとさらにその衝撃波が散弾に恥じないぐらいの広範囲へ広がってゆく。


【っ、なんだってんだあの化け物は!】


【メーデー!

 助けてくれ、敵は《鋼死蝶》だ!

 あいつだ、あいつらだ!

 ニッセルツを落したのはあいつら《鋼死蝶》だ!

 噂は、本当だったんだ!】


 衝撃波はマッハを大きく越えるスピードで大気圏中に広がり空を飛ぶ鋼鉄の鳥たちを落とそうと食らいつく。

展開していた小バリアが破られ、みえない足に蹴飛ばされたようにバランスを崩す戦闘機から炎が上がり黒煙が曳かれる。

大きく逆三角形を画いていた主翼がもげ落ち、六枚ある翼が胴体から剥げてゆく。


【くそっ、ダメだ……!】


『あいからわずすごい威力っすねぇ』


絶望に打ちひしがれた敵の通信を聞きながら今度の勝利を確信する。

つまらないですね。

爆風から逃れた敵機も戦う意思を無くしたのか高度を大きく上げ、戦線を離脱してゆく。


『撃破。

 アン山脈周辺の敵は完全に排除しましたよ』


夏冬がそう言って映像越しに蒼にウインクしてくる。

レーダーに映る地上の敵の姿は《ナニウム》周辺から完璧に姿を消していた。


「お疲れ様です。

 引き続き周辺の敵の掃討をお願いします」


『了解ですぜ!

 《ナニウム》、もうひと踏ん張りだよ』


(でもぉぉぉ、ご主人様ぁぁ。

 おなかへりましたよぅぅう。

 それにぃ、過負荷率もうやばいですょうう)


『もう敵はいないんだ。

 別に大したことはないさ』


《超空制圧第一艦隊》の攻撃により地上からも空からも攻撃してくるやつらはほとんど消え去り、赤茶けた土だけが風に乗って舞う。

そんなもともとあるべきの姿を晒す区域になっていた。


『敵脅威率の低下を確認。

 そろそろ俺達が収容に向かうっす。

 ロッカー大隊、聞こえるっすか?』


『ああ、聞こえる。

 予定収容ポイントへそろそろ向かうとする。

 ぎりぎりまで援護を頼む。

 こっちはもう瀕死の狐だ。

 最後の最後まで世話になる』


 今回もあまり大した敵は出てきませんでしたね。

蒼は残り四十ほどにまで減ってしまった敵の反応を眺めてつまらなそうに息を吐く。

圧倒的勝利ばかりもぎ取って来たせいか、如何せん退屈になりつつあった。

残りはフェンリア操る《タングテン》に任せ、味方を収容するのを眺めることにする。


【…………】


【………………】


 しばらく前から敵の無線は途切れ今では雑音を垂れ流すだけになっていた。

敵を駆逐していた《ナニウム》が戻ってきて予定収容地域に向かう。

《ナニウム》、《アルズス》が谷の付近まで下降、待機し、その巨体を谷の間にめり込ませる。

本来なら《ネメシエル》がその役目を担当したかったが幅が七百メートルを超える谷などあるわけもなく諦めてその役目をこの二隻に譲ったのだった。


『慎重にな、春秋』


『んぬぬ……くっ!』


《アルズス》が風にあおられ少し傾く。

傾いた船体が尖った岩にぶつかり、岩盤が剥げ落ちる。


『くっそ、あぶねぇっす……!

 狭すぎますぜここはっ……!』


(お兄ちゃん、頑張って!

 《アルズス》応援してるから!)


『おう、頑張るっすよ俺は!』


 《アルズス》自身の奨励に、にかっと笑い春秋はそのまま慎重な作業を続ける。

船体の半分ほどを谷に無事収めると《ナニウム》も《アルズス》も舷側についている収容口を開いた。

これで山頂から降りてくる味方地上部隊を収容することが可能となる。


『すまないな、本当に。

 助かるよありがとう』


「まだ感謝するには早いですよ。

 私達の任務はあなた達をコグレへと連れて帰ることですから」


 確かに存在している味方地上部隊の通信を聞きながら蒼は作戦の最終段階に入ったことをコグレに伝えた。

雨はその間もずっと降り続け、谷のそこで濁った川の勢いをさらに強めていた。

山頂からゆっくりと痛んだ体を引きずり、ボロボロの戦車に乗って《ナニウム》と《アルズス》へと乗り込むために移動する味方を眺めながら蒼はまた空を見上げた。

真っ暗の雨雲がのんびりと流れていて隙間から雷が放電しているのが分かる。


『全然いいって。

 早く乗ってくれよ、な。

 コグレに帰ったら手当も修理もしてやれるからよ』


 夏冬が地上部隊を眺めながら持ってきたポテトチップスを齧る。

戦いが一段落するといつもこれなんですから。

夏冬の大食いっぷりには蒼すら舌を巻く。


『《ナニウム》に《アルズス》……か。

 いい船だな……りがとうよ』


『ささ、蒼先輩たちが上で守ってくれてるからって安全ってわけじゃないっすよ。

 できる限り、急いでくれっすよー。

 まぁ来たところで蒼先輩が落とすだけっすけどね』


でしょ?と目配せしてくる春秋に蒼は小さく頷いて手に入れていた力を抜いた。


(お疲れ様だな。

 今回もまったくもって歯ごたえのない相手ばかりだった)


《ネメシエル》も自分の持つ力の大きさを感じているのだろう。

つまらなそうにそうぼやく。


「まぁ、それでいいんですよ。

 簡単に祖国を取り戻せるほうが楽ですから。

 《ネメシエル》、全兵装拘束。

 念のため周辺区域のサーチを……」


続けて指示を出そうとしていた蒼の言葉を《ネメシエル》の絶叫が遮った。


(高エネルギー体接近!

 まずい、蒼副長!)


「なっ……!?」


 雨雲に穴をあけ、《ネメシエル》の船体を囲むように大きく真上から九本のレーザーが落ちて地上に突き刺さった。

オレンジ色の目を焼くような光が蒼の視界に残る。

そしてそのオレンジ色の光は


『なん――ぐぁぁああ!!』


『嘘だろ!

 くそっ……!』


味方地上部隊がいた山頂を二か所とも焼いたのだった。

自分の目の前で起こった出来事を蒼は疑った。


「このっ……!」


ぎりっと歯を噛みしめ《ネメシエル》のレーダーを睨みつける。

だが何も映りはしない。


『そんなっ――嘘っすよね……?』


『バカな――!』


春秋も夏冬も目の前に来ていたというのに一瞬にして全滅した味方地上部隊の残骸を眺め表情をこわばらせる。

目を大きく開き、何も言えない。


(やられた……!)


 《ネメシエル》のレーダーがあってなお敵の接近を探知できないなんてありえない……。

そう心の隅では思っていたがもう一つの結論を蒼は頭の中で出していた。

ありえなくはない。

味方の識別信号を持ち、ベルカの得意とするステルスを備えているのなら。

今蒼の頭の中をよぎった一つの単語は決してありえないと鷹をくくっていたものだった。

そしてその単語はずっと無言だったフェンリアの口を通してこぼれたのだった。


『まさか……《超常兵器級》……?』


 ぞくっとした悪寒が背筋を撫でていった。

《超常兵器級》、《超極兵器級》ほどではないもののベルカ最強の艦艇としてもともと存在していた既存の兵器を超える戦艦たちの総称のこと。

《超常兵器級》が二隻、いや三隻いれば一つの都市を。

あるいは一つの小国を落すことが出来るとまで言われた戦艦のことだ。

 《ネメシエル》や《アイティスニジエル》をはじめとする《超極兵器級》のもともとのコンセプトとなった巨大戦艦。

どうして気が付かなかったんでしょうか。

国が落ちたということは自国の兵器も敵に落ちた可能性があったということ。

そしてそれがこの戦争に使われるわけがない、だなんてどうして決めつけていたんでしょうか……!

自分の不注意さ、現実から目を背けていたことを叩きつけられ蒼は動揺していた。


『蒼先輩!

 敵を目視で確認したっすよ!

 真上、真上っす!』


春秋が真上を指差すのに釣られ蒼も上を見上げる。

破れた雨雲の隙間から一隻の戦艦が艦底についた大量の砲門をこちらに向けていた。

そして、不思議なことに蒼はその艦底を何度か見たことがある気がしていた。


「くっ……!

 《ネメシエル》全兵装解放っ!

 敵へ全砲門を向けてください!

 同時に敵の解析も急いでください!

 エンゲージ!」


《ネメシエル》の“五一センチ六連装光波共震砲”の砲身が真上にいる敵を狙う。

だがそれよりも早く敵の砲門が火を吹く方がはやかった。


(敵艦発砲!

 ベルカの“光波共震砲”とパターン一致。

 口径は……《ネメシエル》と同じ五一センチだ!

 蒼副長、避けるんだ!)


「っち――!?」


 《ネメシエル》の翼の光が強くなり、蒼の足元で“ナクナニア光波集結炉”が唸り声をあげる。

攻撃の意志を捨て、回避行動に映った《ネメシエル》の“イージス”と敵の“光波共震砲”の光がぶつかった。

《ネメシエル》の艦橋内につんざくようにサイレンが鳴り響き、“イージス”の残り許可過負荷率を現すメーターが一気に赤色で埋め尽くされる。

地上部隊の攻撃を受けて残りが少なくなっていた“イージス”の過負荷率が一気に許容量を超えたのだった。

《ネメシエル》の巨体から“イージス”のバリアがはぎ取られ裸の船体が露になる。


(“イージス”許可過負荷率ゼロ!

 まずいぞ!)


 蒼は船体のバリアがはぎ取られた事実を頭の片隅に入れ飲み込む。

機関をフル回転させて高度を上げ、反撃の光を打ち上げた。

回避運動を取りながら次第に高度を上げて艦底の“五一センチ六連装光波共震砲”も使って敵を殴る。

だが敵もまた“イージス”を持っているらしい。

《ネメシエル》の放つ矢は弾かれて虚空へと消えてゆく。


「春秋、夏冬、フェンリアさん!

 逃げてください!

 あなた達の艦じゃ奴の攻撃には耐えれません!

 こいつは私が食い止めます!」


『で、ですが……!』


春秋が食い下がろうとするのを蒼は一喝した。


「はやく!

 あなた達が戦域を離脱したのを見たら私も離脱します!」


『了解した。

 《タングテン》行くよ、機関全速』


『フェンリアさん!?

 蒼先輩を見捨てるつもりっすか!?』


春秋がフェンリアに信じられないといった表情を向ける。

だがフェンリアは春秋を睨み


『私達がいても何もできない。

 ならば少しでも蒼様の負担を減らしてあげたい。

 邪魔になる。

 だから撤退する』


『春秋、その通りだ。

 おいら達は今ここに居ても意味がないんだ。

 早く、早く逃げるぞ!

 あいつは《ネメシエル》にしか目が無いみたいだしな』


味方の話す内容を聞きながら蒼は敵不明艦へと艦を近づけてゆく。


「“艦対艦ナクナニアハープーン”撃ち方はじめ!」


(了解、自動追尾装置ロック。

 撃ち方はじめ!)


《ネメシエル》の艦橋付近に並ぶ“艦対艦ナクナニアハープーン”の砲門が開き、次々と光が敵へと向かって撃ちだされてゆく。

だがやはり“イージス”に弾かれてしまい、当たらない。


「“五一センチ六連装光波共震砲”装填急いでください!

 準備ができ次第、斉射!」


蒼は敵と戦いながら味方の撤退状況を確認する。

《タングテン》も《ナニウム》も《アルズス》も、覚悟を決めたらしい。


『……蒼さん、お元気で。

 死なないで』


『蒼先輩……』


『蒼様、私達には旗艦が必要です。

 死なないでください』


 そういう通信が入ると、機関をフルで回した三隻は最高速度のマッハ三で戦線から離脱していく。

これで邪魔者はいなくなりましたね。


(敵艦発砲!

 ダメだ避けれない!)


「っち……!」


近距離からぶち込まれたレーザーは避けるには距離が足りなさすぎた。

距離はおよそ二千にまで近づき大体の大きさや形が目視でも分かる。

その敵からオレンジ色の光が近づいてきたかと思うと船体が大きく揺れ蒼の体を痛みが突き刺したのだった。


「――っ!」


痛みがこみ上げて来て、《ネメシエル》の被害報告が頭を突き抜ける。


(被弾、第二、第四、第九二ブロック大破。

 左舷第四装甲まで破られた。

 自動修復装置作動、自動消火装置作動。

 第四一機銃大破。

 機関異常なし)


 この戦争で初めての被弾だった。

《ネメシエル》の左舷を突き刺した“光波共震砲”の光は約百六十センチ、第十まである装甲の第四装甲までを貫いたのだった。

《ネメシエル》だからこそこの被害で済んだのであって春秋達が操る《ラングル級》だったら一撃で沈められていただろう。


(蒼副長、大丈夫か!?)


《ネメシエル》の心配そうな声に大丈夫、と返事をして敵を睨みつける。

砲塔を動かし敵へと大量の砲門を向けて光を放つも“イージス”が跳ね返し効果がない。

“イージス”があるのとないのとでは大きな違いだった。


【貴様だな、ニッセルツを取り返したのは】


「……《ネメシエル》?」


(敵艦からの強制介入通信だ。

 切断不能!)


 《ネメシエル》の報告と共に蒼の視界に敵艦の“核”であろう人物が現れた。

美少年、とでも言えばいいのだろうか。

左目を覆うほど長い髪の毛。

髪の毛の色は蒼や朱とまったく同じ色。

紫色の濁った瞳。

頬には薄気味悪い笑みを張り付けている。

体はすらっとしていたがその肉体にはしっかりとした男とも言える筋肉がついていた。

少年といった表情にはまだ幼さが残っている。


「あなたは……?」


【俺様の名前は、むらさき

 空月・U・紫だ。

 この艦の名前は《ウヅルキ》。

 《超極兵器級超空要塞戦艦ネメシエル級二番艦超空要塞戦艦ウヅルキ》だ。

 《ネメシエル》、お前の姉妹艦だよ。

 そして《ネメシエル》を沈める俺様の戦艦さ。

 覚悟してもらうぞ《陽天楼》。

 こんな湿気た場所に光る目障りな太陽は沈む時だ】






               This story continues.


ありがとうございました。

《ネメシエル》級の二番艦、《ウヅルキ》です。

蒼のライバルです。

戦争において怖いのは自国の兵器を使われることですよね。

そしてその技術を盗まれる。

量産された兵器は自国の技術で滅ぼされる。


そんな皮肉ってないですよね。

なにはともあれ《ウヅルキ》の登場となります。

《ネメシエル》被弾しました、やばい。

痛い。


一隻VS一隻の真剣勝負。

次回をお楽しみに!

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