94.帰還者同盟2、ハゲ男
ドライの作ったミサイルはとても日本では使えないが、せっかく、ドライが作ったものだ、どこかで役立つかもしれない。まちがって腕時計の文字盤を押し込んでしまったら大惨事では済まない被害が出てしまうので、ドライの寄こした腕時計は時限爆弾扱いで、とりあえずアイテムボックスの中に収納しておくことにした。
その腕時計はともかく、ドライに聞いた帰還者同盟のアジトの場所に、どのような組織なのか確認のため出向くことにした。俺が直接危害を被ったわけではないが、帰還者同盟に対して何らかの対応を取る必要がある。自分勝手に生きてどんな犯罪を犯そうがどうでも良いが、もしも俺の邪魔をするようなら早めにたたきつぶしてやる。
帰還者同盟のアジトの最も近い記憶済みの転移可能地点まで『転移』で跳び、そこから視認できる範囲で『転移』を乗り継いでやって来た場所は、東京湾沿岸のあまり人気のない公園だった。もちろん『ステルス』を発動し、メット付きで戦闘服も着ての接近である。
ドライがアジトの場所だというその場所は、過去、ゴミの埋め立て地として有名で、埋め立て完了後、公園として整備されたところだった。付近にはあまり民家などはないためいつも閑散とした場所だ。
公園の入り口といっても明確な入り口などなく、どこからでも樹木の植えられた公園の中に入ることが出来る。公園の中に入ってみたが、それらしきものは見当たらない。しいていえば、少し先に工事現場などに置かれる仮設のプレハブ事務所のような物があるだけだ。大きさから言って帰還者同盟のアジト?というには無理があるが確認は必要だろう。
プレハブの中を確認しようと、扉のノブに手を当てた瞬間、『ステルス』が強制的に解除された。こいつらはなかなかやるようだ。今ので『ステルス』を使える人間がここに来たことが相手に伝わったはずだ。さて、どうしようかと思案していると内側からドアが開けられ、迷彩服に軍靴のようなゴツイ靴をはいたつるっぱげの男が出て来た。
「ほう、全身黒ずくめ。キサマが霧谷か? 最近派手に暴れている小僧は?」
「だとして、おまえは誰だ?」
「俺は名乗るほどのものじゃないが、一応、爆炎竜の風間と名乗っている。リターナーズ日本支部の四天王の一人だ」
しっかり恥ずかしい二つ名付で名乗ってるが、リターナーズ? ああ、帰還者同盟のことか。音で聞くと鉄道鉄ちゃんと間違えるからな。日本支部と言うことはどっかに世界本部でもあるのか? こいつを締めあげて聞けば手っ取り早いが、今のところ敵対しているわけでもない相手を締めあげる訳にもいかない。どうもこいつは頭の方に難があるようだから、ここは平和的に会話で情報を聞き出すとしよう。
「その風間さんはなんでこんな場所のこんなプレハブ小屋にいたんだ?」
「この小屋な。ここの地下が俺らの拠点になってんだよ」
ほう。そうだったのか。気付かなかった。エレベーターがこのプレハブの中にあるとは思えないから転移陣でも設置しているのだろう。その程度の技術力はあるようだ。
「新入りが言ってたが、おまえ結構できるんだってな? いっちょうここで俺とやりあってみないか?」
「おまえとやりあって、なにか俺にメリットはあるのか?」
「俺に殺されるのが、今か、少し先かの違いだけだな」
その言葉と同時に俺に向かって、ウインドカッターのような魔法の斬撃が放たれた。至近距離かつ高温の斬撃だ。
こいつは、けっこういい根性をしている。放たれたのは魔法で作った斬撃だ。攻撃センスはなかなかいいものを持っている男だが、いかんせん威力に難がある。俺は放たれた魔法が肩透かしの低威力だったため、なにもせず素直に戦闘服がその魔法を吸収するに任せた。自分の放った魔法が何のダメージを俺に与えることもなく、着ている服に吸い込まれたところを見て、ハゲ頭が目をむいた。まさか、いまので決めるつもりだったか? なんだか、金田といいこの男といい、どこの異世界から帰還してきたのか疑問だ。まあ、あの程度の魔法でも、一般人相手ではオーバーキルになってしまう程度の威力は有るのだが、少し魔法耐性がある生き物や、生命力の高い生物に対してあれでは威力が低すぎるだろう。
「いまので、決めてやるつもりだったがうわさ通りタフなやつだ」
いや、タフは関係ないだろう?
「金田、俺の最強魔法を放つから周りをぶっ壊さないように、おまえの結界空間を展開してくれ」
どこに向かってしゃべっているのかわからないが、前回同様、あたりの景色が目がくらむように輝き始め、ぐにゃりと歪んだかと思うと、すぐに視界がはっきりした。そこは以前と同じ、周りが岩だらけで、それ以外何もない場所で、ハゲ頭と二人で立っていた。
ハゲ頭は、20メートルほど離れた場所、3メートルほどの大きさの岩の上に立ってなにやらポーズを取りながら、
「けっこうできるようだが、これはどうだ? ファイヤー・レイン」
面白そうなので、ハゲ頭の踊りを観ていたら、上空からドッジボール大のいかにも温度の低そうな火の玉が40個ほど俺に向かってゆっくり落ちて来た。雨というにはしょぼい数だが、ハゲ頭の頭の中ではレインらしい。
『ファントム・イルージョン』
ファントム・イルージョンは自律的に行動する幻影を作り出す魔法だ。幻影自身が自分で判断して動き回る。
ドライに以前貰っておいたスズメバチ1型もついでにそこに置いて、俺は『ステルス』からの『転移』で、先ほどのプレハブの前に戻った。俺の幻影はいまごろ、ハゲ頭の攻撃を受けて逃げ回っているだろう。せいぜい俺の幻影を攻撃してくれ。俺の幻影には3日は動き回ることができるマナを込めたのだが、ハゲ頭に幻影を破壊するだけの能力があるのかはなはだ疑問だ。しかも、スズメバチまでいる。スズメバチは俺と違って容赦ないからハゲ頭は死ぬかもしれんな。せいぜい逃げ回ってくれ。そういえば、スズメバチはどのくらい動き回れるのか聞いてなかったが、体の節々が白かったからマナを吸収して無限に動き回れそうだ。ご愁傷さま。
プレハブの扉はハゲ頭が開けたままだったのでそのまま中に入っていくと、案の定、がらんどうのプレハブの床の上に、巧妙に隠蔽されてはいたが、転移陣が仕込まれていた。




