91.粛清人事
株主総会のあった日の翌朝。
顔を洗って、食堂兼居間に入ると、父さんがダイニングテーブルでいつものように焼き魚とみそ汁の朝食をとっていた。
「父さん、おはよう」
「おはよう。誠一郎、この新聞を見てみろ、おまえと同姓同名の高校生が今度、武山薬品の社長になったみたいだぞ。すごいとは思うがどうなってるんだろうな。あそこの副社長ってのがまた相当な悪だったみたいだな」
父さんが渡してくれた新聞を見ると、1面の横の方に武山薬品の社長交代の記事と、板野が武山薬品から告訴された記事が載っていた。
『副社長を今日にも逮捕。特別背任、インサイダー、その他余罪を追及か?』
いいあんばいの記事だ。まだ、実名報道はされていないようだが、逮捕されれば実名報道に切り替わるだろう。会社側が報道機関に対して実名は避けるよう金を積んだわけじゃないからな。
『会社側は、損害賠償請求を行う見込み。株主からも副社長個人に対し株主代表訴訟の可能性も』
そりゃそうだ。きっちり払うものは払ってもらうよ。まあ、すぐに自己破産して、負債は帳消しにするんだろうが、すっからかんにはしてやるからな。
1面をめくると、
『若年社長誕生。霧谷氏とはいったいどんな人物か』 憶測記事がかかれていた。
こんな人間ですよ。
「誠ちゃん悪いけど、美登里ちゃんを起こしてきてね」
「わかった」
「美登里、朝だぞー」
「今起きる。もう少ししたら起きる。きっと起きる。……」
美登里は相変わらず美登里だった。
事務所にいったん顔を出し、コピーと入れ替わった俺は、アインと連れ立ち、武山薬品に出社する。学生服で出社するわけにはいかないので、アインに用意させ昨日の株主総会でも着た黒を基調としたスーツを着ている。襟はやや詰襟風で、その襟からフロントにかけてマナ吸収用の白いラインが入っている。要するにいつもの戦闘服がライダースーツから、ビジネススーツ風に変わったようなものだ。
今回はアインを連れ、地下の駐車場に『転移』で跳んだ。服部から役員証をアインと二人分昨日用意してもらっていたので、それをカードリーダーにかざして屋内に入った。これをしていないと、社内のいたるところでセキュリティーチェックがかかり、警備員が飛んでくるそうだ。直接社長室に『転移』する方が何かと便利なのだが仕方がない。俺だけの例外を作るのはそれだけコストがかかるのだろう。
社長室にはいると、すぐに服部がやってきた。アインの部屋は昨日まで板野の使っていた部屋になるが、今は俺と一緒に社長室にいる。社長室の扉は出入りしやすいよう、いつも開放しておくことにした。
「社長、おはようございます」
「おはよう」
「何か特別な指示はありますか?」
「午後から、部長クラスの面談をする。準備しておいてくれ。黒確定と面談する必要はないから対象の部長は黒くないヤツだ。海外にいる部長クラスは順次帰国出張させてくれ。いまのところ、それくらいだな。あとは予定通り会社の膿を出していくだけだ。早いうちに、首にする取締役の後任を決めなくちゃならんから適当におまえの方で人選してくれ」
「今までの役員たちとそりが合わず、有能だったにもかかわらず不遇だった連中に心当たりがあります。新社長が彼らを引き立ててやれば、社員たちの士気も上がると思います」
「ならそれでいってくれ。それと服部、おまえに渡していたポーションだがそろそろ底をついただろう。これを渡しといてやるから有効に使ってくれ。身内や部下に使ってもいいからな。ポーションを売っぱらって私服を肥やすようなおまえじゃないだろう?」
アイテムボックスの中に入っていた小型のアイテムバッグにケガ用のヒールポーション、病気用のキュアポーション、スタミナポーションをそれなりの数入れてやった。
「いま渡した入れ物は、見た目の何十倍も容量があるからな。うまく使ってくれ」
「社長、ありがとうございます」
俺に深々と頭を下げて服部が退出し、間を置かず女性社員が社長室に入って来て、アインと二人分のお茶を置いていった。
「アイン、取り敢えずおまえは、この会社の経理的なことを調べておいてくれ。おまえの権限で社内の大抵の資料は目を通せるだろ。ここまで役員連中が好き勝手していたのは監査会社にも問題がある気がする。問題がはっきりすれば監査会社を取り換えるからな」
「了解しました」
まず、俺がこの会社で最初にすることは、株主総会でも言ったことだがこの会社の膿を出し切ることだ。
服部からの報告によると。監査役を含めて20数名いた役員たちの内、グレーは3名のみで後はブラック。グレーの3人も詳しく調査すればなにがしか黒いものが出てくるかもしれないが、調べるにしても手間がかかる。面倒なのでその3人には辞表を受理し、勇退という形で会社から去ってもらい退職金は規定額支払うことにした。残りの連中は、ベルトコンベヤー式に懲戒解雇、刑事告発、損害賠償請求という流れに乗ってもらうことにする。
グレー3人組を見逃した代わりに服部たちが会長と相談役2名を詳しく調査した結果、この3人もいい線いっているらしい。まもなく証拠もそろうようだ。
板野を副社長にしたばかりに俺に目を付けられたわけだ。運がなかったと諦めてもらおう。なーに、身ぐるみはがされても、ちゃんと刑務所の中で三食付きで暮らせるんだ。野垂れ死ぬわけじゃない。
問題なのは、今の部長連中だ。部長の中にも役員に取り入って甘い汁を吸っていた連中がそれなりにいるようだ。この黒確定の連中は、次の異動で降格の上、僻地の事業所へでも飛ばしてしまうとするか。処分する役員に比べ悪さの規模は小さいので、告発は勘弁してやろう。告発するにはそれなりにコストも労力もかかるからな。それに、あんまり実戦部隊の首を一気に切ると会社が動けなくなるので僻地に飛ばした後でゆっくり解雇していけばいい。
服部からの報告によると今回の一連の首切りで、だいぶ人件費が浮くそうだ。人件費が浮くならその分残った社員たちに還元するように指示を出しておこう。社員数5000名に対して、一人頭50万は還元できるようなので、準備出来次第、特別ボーナスを支給してやるのも悪くない。




