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異世界で魔王と呼ばれた男が帰って来た!  作者: 山口遊子


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85.サヤカとモエ、中学転入2


 なんだか、クラスの女子生徒たちの冷たい視線を浴びているわが妹だが、サヤカとモエの二人が自分の友達になってくれるというので舞い上がったのか、幸いにも周りの視線に気付いていないようだ。第三者だからよくわかるが、結構美登里に対する女子生徒たちのイジメは根が深そうだ。


 休憩時間も終わり、次の授業。ドライから聞いているわけではないが、ホムンクルスの二人は既に中学3年程度の学力は持っているのだろう。授業中に、教師からの質問にも軽く受け答えしているところが、いかにも秀才に見える。男子生徒たちからは羨望せんぼうのまなざし、女子生徒たちからは幾分嫉妬や戸惑いの混ざった眼差まなざしを受けていたようだ。そして2限も終わり、次の休み時間に入った。


 二人の並ぶ席に、一人の女生徒が近づいてきた。ベリーショートの髪が特徴的で右に流している。細目のせいか目つきが悪い。人を見た目だけで判断してはいけないが、第1印象は最悪だ。


「転校してきた二人に話しておきたいことがあるから、廊下まで一緒に来てくれる?」


 クラスメイトに対してではあるが、なんだか上から目線の言い様だ。それでも二人はその言葉に頷いて教室の外の廊下に出て行ったので、もちろん俺もついて行った。


「二人は転校してきてすぐだから知らないのも無理はないけど、私たちは霧谷とは口をきかないことにしているの。あなたたちもそうしてくれる!」


 おいおい、何なんだ? このガキは自分の言っていることを理解してるのか? 12、3歳でこれってどうよ。サイコパスが有るんじゃないか? こいつが俺の妹をイジメている黒幕みたいだぞ。


「あのう、どうして私たちがあなたの言うことをきかなくちゃいけないの? あなたの言ってることって、私たちにイジメの仲間になれって言ってるわけよね?」


 サヤカがあけっぴろげに大きな声で上から目線の女子生徒に思っていることを言い返した。いいぞ、もっと言ってやれ。廊下を歩く他のクラスの連中もこのやり取りを聞いて振り向いていく。


「あなた、何言ってるの。そんなこと言ってるとあなたたちもうちのクラスの中で無視されるようになるわよ」


 来ましたよ。ガキの脅し文句。


「そう。私たち別に全然かまわないわよ。これからもう口をきいてくれなくてもいいけど最後にあなたの名前教えてくれる?」


 今度はモエだ。口元に薄ら笑いを浮かべているところがいかにも人間臭い。この二人を造ったドライを褒めてやらなくてはいけないな。


「なによ。わたしの名前は海原清美うみはらきよみよ。覚えてらっしゃい!」


『覚えてらっしゃい!』どこぞのアニメの敵役かたきやくのような捨て台詞(すてぜりふ)を残し、プイっと頬を膨らませた海原清美と名乗る人相の悪い女子生徒が教室に戻って行った。


 海原? 珍しい名字だ。どこかで聞いたような。あっ! 海原病院の娘だとすると。モブAの妹か。兄妹きょうだい似るものだ。しかし、簡単に黒幕が出て来たことで美登里へのケアーがだいぶやりやすくなった。


 海原病院の娘と言うことが確認できたら、病院ごとぶっ壊してこいつもこの町に住めなくしてやってもいいのだが、あの病院を使っている人もそれなりにいるのは事実なので、今回はそこだけは大目に見てやるしかないな。



『おい、二人とも俺の声が聞こえるな』


 ホムンクルスの二人に具体的な指示をしておこう。


『はい、マスター』『はい』


 二人が小声で答えた。


『なかなかおまえたちよくやってくれている。ありがとうな』


『お褒めにあずかり恐縮です』『恐縮です』


『それでだ。いいか、さっきの海原清美をよく見張って、なにか美登里に仕掛けるようなら、美登里の身を守ったうえで、ちゃんと証拠になるような映像記録を取っておけ。それじゃあ教室に戻って、引き続き美登里を頼む』


『了解しました』『了解です』


 教室に戻ると、美登里が自分の席にぽつんと座っている。そこだけ真空地帯。そんな感じだ。ひどいクラスもあったものだ。


 そんな美登里に対して、教室に戻った二人が、


「美登里ちゃん、私たち今日のお弁当の用意していないの。お昼になったらこの学校の購買に案内してくれると嬉しいな。そしたら一緒にお昼を食べましょう」


 すごくいい笑顔をした美登里が、


「うん。案内してあげる。一緒にお昼を食べよ」


 実によくできた二人だ。これはドライを含めて大いに褒めてやらないといけないな。ドライは褒められるとすぐ図に乗るが、図に乗ったウザい顔も当面我慢だ。


 次の授業は数学で、授業中、教師に当てられた美登里が前に出て黒板の問題を解くことになった。俺からすれば簡単な問題だが、中1の美登里にとってはやや難しい問題だったようで、少し時間がかかったが何とか計算式と解答を黒板に書き終えた。


 自席に歩いて戻るため左右に並んだ机の間を進んでいくと、美登里の机の並ぶ列の前から2番目の席に座っていた海原清美の右足がすっと出された。美登里がそのまま気付かずに1歩を踏み出せばその足に引っかかってしまいコケてしまう。先ほどの二人のあおりで頭に来たのか、イジメがエスカレートしたようだ。その間教師は黒板の上の美登里の書いた解答の方を向いていたので、海原清美の行動は把握していない。


 もし美登里がコケるようなら俺が倒れないように受け止めてやろうと思って身構えていると、同じ列の一番後ろの席のモエが、


「海原さん、足をそんな風に机からはみ出していると邪魔よ」


 そう言って牽制けんせいした。それで、海原は自分の右足を引っ込めたため、美登里は事なきを得た。その時、海原はキッとモエを睨んでいた。教師の目を盗んで、足を出してから足を引っ込めるまでの海原の一連の動きは慣れたものだった。こいつは小学校からこんなことをしていたんだろうと容易に想像がつく。


 今度はホムンクルスの二人がこいつのイジメの標的になるかもしれないが、それはそれで願ってもない展開だ。


 中学1年生の授業をこれ以上見ていても苦痛なので、後はホムンクルスの二人に任せておけば大丈夫そうだ。


『俺は帰るから、後は頼むな』


『了解しました』『了解です』


 そのまま俺は『転移』で事務所に引き上げることにした。





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