80.スポーツ・ジム
拠点のことはアインとドライに任せておけば大丈夫そうなので、その日はそのまま高校に登校した。
先日のサッカーのPK勝負は結果的に俺のすごいところをサッカー部員たちに見せつけてしまったようだ。
4月に秋山の蹴ったボールをボレーでシュートを決めたときには、サッカー部からの勧誘はあからさまではなかったのだが、今回は元U15代表の秋山を文字通り圧倒したせいで、休憩時間などうるさいくらいサッカー部の上級生たちが教室に訪ねて来て俺をサッカー部に勧誘するようになった。
そのたびに顔じゅうに絆創膏を貼った秋山が教室から出て行く。この状況はかなり本人には堪えるだろう。
サッカー部の上級生の話によると、4月の時点で俺をサッカー部に勧誘するため、秋山に俺を説得するよう指示していたらしいが、秋山が上級生に対して、俺はサッカーなど全く興味がないのでサッカー部には入らないと答えていたようだ。
俺の気持ちを代弁してくれるのはいいが、勝手に代弁してほしくはない。
今回は上級生に対しては適当にはぐらかし、なおかつ秋山の卑劣さを強調するような感じで入部を断ってやった。秋山も、サッカー部に居づらくなるだろうが、自業自得だ。
昼食時、いつもの3人で、学食で食事をとりながら村田に新しく作った戦闘服ができたことを告げた。
「ほんとうかい? 霧谷くん、ありがとう」
「まあ、今でも着ようと思えば着れないこともないと思うが、体の線がはっきり出る服だからまだまだトレーニングを続けないとカッコ悪いと思うぞ」
「今まで以上に頑張るよ」
「あと、今日の学校帰りにでも二人に紹介したいんだが、アインという女性がドライと一緒に事務所に住むことになった。事務所に住むといっても、ドライの作った部屋の方だけどな」
「そのアインさんも、名前から言って、玲奈ちゃんと同じマキナドールなわけ?」
「ああ、その通りだ。日本名は氷枝冴子という」
「その人、美人なの?」
「気にしたことはないが、見た目は美人なんじゃないか?」
「やっぱり、そうなんだ」
中川の口調が急に変わったような気がしたが、気のせいかな?
授業が終わり放課後、
昼食時中川と村田に話したように、二人をアインに引き合わせるため事務所に向かった。
事務所に入り、俺が先頭に立って例の扉を二人の前で開けたのだが、当然二人は俺以上に驚いてくれた。この二人の顔を見られただけで、今日二人を連れて来たかいがあった。
「……」
「前に見える建物に入ってみるぞ」
声もなく立ち尽くす二人をせかして、朝方は櫓が何本か建っていただけだった場所にでき上がった管理棟に向かった。見た目はコンクリートむき出しのように見える灰色のゴツイ建物で、壁面のところどころに穴があいているのだが、窓ではないようだ。その建物が地面というか床面に接している部分は四角く見えるが、上の方になるにつれて丸みを帯びている。高さは30メートルくらいあるので相当デカい。これそのものが要塞のようだ。
俺も初めての建物なので、中がどうなっているのかわからない。行けば何とかなると思い、3人で歩いていると、管理棟の出入り口からアインが出て来た。
アインの服装は、注文していた衣料品はまだ事務所に届いていないようで、向こうで着ていた紺色の細身のスラックスに白いシャツ。その上に同じく紺色で何カ所かにポケットの付いた短めの上着を着ていた。足元は黒いパンプスのような靴を履いている。戦闘服ではないのでマナ吸収用の白いラインは入っていない。
「マスター、マスターはこの建物は初めてなのでご案内しようとお待ちしていました」
「ありがとさん」
「それで、そちらのお二人が、ミストレスとご学友の村田さま?」
「アイン、そのミストレスの呼び方はドライに聞いたのか? 中川が困るからやめてくれ」
それ見ろ、中川が顔をそむけたじゃないか。
「了解しました」
「それでだ、中川と村田、これが昼間話したアインだ。日本名は氷枝冴子」
「冴子さん、中川です。よろしく」
「氷枝さん、村田といいます。よろしくお願いします」
「中川さんに村田さん。こちらこそよろしくお願いします。
マスター、中は、住居区とドライの研究室、それに未稼働の中央指揮室しかありませんから、住居区の応接でお茶菓子でもお出します」
アインに連れられ、管理棟の出入り口を通り、まっすぐな通路を歩いて行く。通路にはところどころにわき道や階段、扉などが並んでいた。
案内された部屋は20畳ほどの部屋で天井もかなり高く4メートルくらいある。部屋そのものは漆喰を塗ったような白基調の部屋だ。部屋の真ん中にこぢんまりと木製に見えるテーブルがあり、椅子が6脚置いてあった。
「それでは、飲み物などを用意しますので失礼します」
そういって、案内してきたアインが席をはずしたので、
「適当に座ってくれ」
俺の座った席の向かいに中川と村田が座った。
「霧谷くん、冴子さんってきれいな方ね」
「見た目はな。あいつはドライ同様、戦闘特化型じゃないからそれほどでもないが、それでもあいつをどうにかできる人間は俺以外にはこの世界にはいないと断言できるぞ」
「霧谷君、アイン、ドライと二人いるんなら、No2のツバイっているの?」
「やはり村田なら分かるか。いるぞ、ツバイ」
「どんな人なのかな?」
「一言で言うと、戦闘狂だな」
「戦闘狂⁉」
「まあ、俺たちの世界には連れてくる気はないがな」
「俺たちの世界?」
「あれ、言ってなかったか。俺は言うところの、異世界帰りなんだ。そんな変な顔して俺を見るなよ、照れるじゃないか」
「そうなんだ。言われてみれば納得だ。霧谷くん、何事にも動じないし貫禄あるもんね」
「ん? 中川どうした?」
「あなたが言うことだから冗談ではないのでしょうけれど、やはり驚くわよ。いつだったか、自分の昔ばなしは気持ちのいいものじゃないって霧谷くん言ってたけど、異世界でかなり苦労したの?」
「まあな。正直、アインが居なかったら俺は向こうで死んでたな」
「そうなんだ。霧谷くんの部下なのか何だかわからないけれど玲奈ちゃんはかわいいし冴子さんは美人だし」
「見た目はな。見た目がムサイ男よりか良いだろ?」
「それはそうかもしれないけど……」
なんだか、中川が言い淀んでいる。
「お待たせしました」「お待たせしましたー」
アインがドライと連れ立ち、ワゴンに乗せたティーセットとお茶菓子を持って来てくれたので変な雰囲気にならずに済んだようだ。
「ミストレス、こんにちはー、村田さんもこんにちはー。ついでにマスターも」
「玲奈ちゃん、こんにちは」「猿渡さんこんにちは」
ドライは勝手に俺の椅子の隣に座り込んでしまった。給仕するのは必然的にアイン一人となったので、中川がすかさず、
「お手伝いします」
そういって、アインが小皿の上に取り分けたケーキをみんなに配り始めた。実によくできた女子である。それに比べ、俺の隣に座っているこのおこちゃま体形は。
「アイン、よくお菓子があったな」
「いえ、これは、さきほど外のケーキ屋さんで買って来たものです。この格好ですと少し目立ちますが、隣なら平気かと思い買ってきました」
「それじゃあ、食べてるうちに、村田に戦闘服を渡しとくか。いつか渡したアイテムバッグ持ってるか?」
「ごめん、うちに置いてる」
「そうか。それじゃあまた今度渡してやるよ」
「がんばって痩せるから」
「頑張れ」
「そういえば、マスターたちはトレーニングしてるんでしたねー。大した手間ではないので、ここに、フィジカル・トレーニング用の施設を作っちゃいましょー」
「フィジカル・トレーニング用の施設? ドライ、意味は分かるがどんなのを考えている?」
「わたしの知識ですと、400メーターのトラックを中心とした陸上競技用のグラウンドですかー、あとは、テニス場ですかー」
「ほう。それは面白そうじゃないか。ついでにウェイトトレーニングもできる設備もあればいいな」
「任せてくださいー」
「それができたら、村田は毎日1時間汗を流せばすぐに目標の65キロまでやせられるだろ。あ、そうだ、シャワー室とビジター用にロッカーもいるな」
「当然ですー」
「この際だ、50メートルのプールも用意するか?」
「わっかりましたー。その程度ですと、明日の午前中にはでき上がってますー」
そういったノリでスポーツジムを作ることになった。当面利用するのは、ここにいる人間3人と、吉田くらいだろうが別にかまわないだろう。




