68.マッド・サイエンティスト
新たにでき上がった講堂並みに広い部屋の奥でドライが何をしていたのかというと、ガラス製に見えるシリンダー状の容器を何かの機械の上にセットしているところだった。容器の中にはその光の屈折具合から液体か何かが入っているようだ。既にガラスシリンダーがセットされた機械が十個ほど並んでおり、銀色のパイプや、黒いケーブルのような物がその機械の下の方から伸びてお互いに繋がっているように見える。
その透明のシリンダーの中を覗くと、拳大の何やら薄ピンク色をした得体のしれないものが入っているのだが、それが何なのかはわからない。
「おい、ドライ。このシリンダーの中に入ってるのは何だ? なんだか、うごめいてるぞ」
「ホムンクルスの胚ですー。だいたい今は3週間体ですから、あと1週間もしたら形がはっきりしてくるので大型の培養槽に移しますー。そこで、一月ほど成長させればホムンクルスが誕生しますー」
「何で、ホムンクルスなんて妙なものを作ってるんだ?」
「わたしの手伝いをさせるために、前々からホムンクルスを作りたかったんですー。でもいい材料がなかなか手に入らなくて延び延びになってたんですー。それがやっと生きのいい素材を手に入れることができたので、ホムンクルスを少し前から作り始めていましたー」
「そのいい材料だか素材とは何なんだ?」
「ひゃ、ひゃ、ひゃ。マスター、それは知らない方が良いんじゃないですかー?」
「いいから、言ってみろ」
「一月ほど前に手に入った人間の部品ですー。地面に落ちてたので拾ってきましたー」
「お前というヤツは悪趣味だな」
「そう言われると思って、マスターには話したくなかったんですー。われわれマキナドールには、マスターが感じるような死体に対する忌避感なんてありませんからー、可愛い素材ですー。この素材は元が魔導師だったそうなので、マナとのなじみが良くて助かってますー」
「好きにしてくれ。あと、そこらにちょろちょろ動き回ってるのは何だ? 蜘蛛型のゴーレムに見えるが?」
「あれは、2型の蜘蛛型ゴーレムの後継に作った3型なんですー。2型の弱点の攻撃力の低さを補おうと思って作ったんですが、攻撃力を思いつくまま上げてたら小さくすることができなくてー。それで、今はわたしの雑用係ですー。初めてマスターを見たので威嚇してるみたいですー」
「おい、俺を攻撃しないよな? 面倒だからよしてくれよ」
「大丈夫ですー。マスターを攻撃したらどうなるのかくらい分ってますからー」
「ふうん。結構賢いんだ。そうだ、2型の蜘蛛をあと何個か作ってくれないか?」
「2型ですかー? いま、4型を作ってますからそれにしませんかー?」
「4型は2型と比べどう違うんだ」
「2型同様の偵察能力とステルス機能を持って、なおかつ転移能力まで待ってますー。直接の攻撃力は微々たるものですが、爆弾持たせて転移で特攻なんかもできますー」
「ほう、それはよさげだな。それじゃあ、その4型を4、5匹頼む」
「でふゅ。マスターは『特攻』って言葉が好きですねー。了解しました。明日の朝までには作っておきますー。おまけにこれを先渡しでお付けしますー」
そう言ったドライが白衣のポケットの中から取り出したのは見た目はスズメバチだ。そいつがドライの手の上で動いている。
ちなみにドライの白衣のポケットはアイテムバッグになっている。正確には聞いていないのでわからないがかなりの容量があるはずだ。
「かわいいでしょう?」
「蜂に見えるが、ただの蜂じゃないんだろ。なんなんだ?」
「これはですね、スズメバチ1型と名付けたんですが、高速機動、物理攻撃特化の小型ゴーレムですー。このスズメバチ1型一匹で拠点周辺の領域警備をしているゴーレム兵10体程度ですと5秒もあれば撃破できますー。翅で動くので音速を超えることは有りませんが、高速機動時には翅の動きは音速を超えますー、ですので近くで戦わせるととんでもなくうるさいですー」
「うるさいくらいいいだろう。しかし、今警備用に使っているゴーレム兵はそんなに弱いのか?」
「いえ、先日の勇者一行ではゴーレム兵数体に手も足も出なかったみたいですー、それなりに強いんじゃありませんかー?」
「それじゃ、貰っておくか」
手渡されたスズメバチ1型をアイテムボックスに収納しておいた。
「どうぞ。わたしはあと200匹ほど体内に収納してますから必要なら言ってください」
今の話しだと、スズメバチが200匹いたらゴーレム兵2000体が5秒で斃される計算になるが、こいつはどこと戦争するつもりなんだ?
「あと、マスター、良いものをマスターに用意していますー」
「今度は、なんだ?」
「あの先に置いてありますー」
そう言って歩き始めたドライについて行くと、長さ2メートル、直径80センチほどのいわゆる酸素カプセルのような筒が壁際の床に置いてあった。
「これですー」
ドライがカプセルの脇のボタンを押すと、カプセルの上蓋が横にスライドした。中を覗くとやや青みを帯びた裸のマネキンがその中で寝ている。
「マキナドールじゃないか! お前が作ったのか?」
「作ったのはわたしですー、でも、これは正確にはわたしたちマキナドールとは違いますー」
「?」
「ほぼマキナドールなんですが、能力的にはまだまだわたしたちにはおよばないので、区別するためにドールって呼んでますー。ですが、これまでのゴーレムなどと違いわれわれ並みの自律行動が可能ですー」
「そいつは凄いじゃないか。それで、このドールは何に使えるんだ?」
「これの外見はご覧の通りマネキンそのものなんですが、マスターのお好みで自由に変更できますー」
「それで?」
「ですから、これの外見をマスター好みに変えて、マスターの夜のお供にどうかなーと。ひゃ、ひゃ、ひゃ」
「そのために、わざわざ作ったのか?」
「そうですー」
「ある意味すごいと思うし、ありがたいが俺にはそんなものは必要ないぞ」
「えー、そうなんですかー、せっかく作ったのにー。え、ええっ! もしかしてー。マスター。分かりました、このドールは男型にもできますー」
「バカ! 俺はノーマルだ!」
「失礼しました。それじゃあこのドールどうしましょうー?」
「お前の助手にでもしたらどうだ」
「今育てているホムンクルスでも十分ですが、分かりましたー」
「そういえば、お前、何か必要なものは有るか? 足りないものがあれば何とか俺が都合してやるが」
「わたしの体内貯蔵庫は、マスターのアイテムボックスには及ばないですが、それでもかなりのものですので今のところ問題ないと思いますー。それとですねー、マスターの納戸?の中にあった転移陣なんですが、わたしもあれを真似て1組作っちゃいましたー。拠点に片割れを設置すれば、この部屋からでも拠点と往復できるようになりますー」
「それじゃあ、その片割れを俺が預かっておいてやろう、あとで向こうに行って設置しておいてやる」
「マスター、お願いしますー」
「任せろ。あと、お前もこっちで生活するわけだから少し外に出てみないか? 俺の友達もそろそろこのビルの前に来ているはずだ。紹介してやろう」
「マスターのお友達? わかりましたー。ひゃ、ひゃ、ひゃ」
「それじゃあ、俺についてこい。くれぐれも人前で目ん玉を磨くなよ」
「了解ですー。関節を磨きたくなったら、手足を外してもいいですかー?」
「良いわけないだろ」
こいつ、本当に大丈夫かな?




