59.勇者、金田光
おお、居たのか。異世界帰りの勇者。服部が言っていた化け物のようなヤツというのはたぶん異世界帰りの勇者ってヤツだろう。異世界帰りが俺一人じゃない可能性は考えてはいたが、それが勇者だとはな。俺のいたあの世界の勇者が帰って来たのかそれともどっか別の世界から戻って来たのか興味がある。俺のいた世界から戻って来たのなら、フュアにアーティファクトの大剣を壊された勇者ということでいいんだろうか?
やって来た勇者とこの部屋で戦いなんかが起こってしまうと、かなりまずいんじゃないか? デカい魔法でも使えばビルが吹っ飛ぶぞ?
「おっさん、俺に何か用か?」
しばらくして現れたのは、俺のいた世界にいた勇者とは似ても似つかぬ男だった。ツンツン頭を金髪に染めて、耳にはピアスを沢山付けた、まさにチンピラといった男だ。しかも、顔に違和感があると思ってよくよく見ると眉毛がない。一応スーツを着ているものの、こういった一流企業にいていいような人間にはとても見えない。あっちの世界にいた勇者は真面目一辺倒で好感も持てたが、こいつは生理的にダメだ。こいつが本当の帰還勇者だとしたら、俺のいた世界とは違った世界からの帰還者らしい。
「金田、お前の力でこいつを捕まえてくれ。くれぐれもやりすぎて殺さないようにな」
ほう、こいつら人をこれまで何人か殺してきたような言い様だ。
しかし、ほんとにこのビルの中であばれていいのか?
俺が、ビルのことを心配していると、勝手に板野と金田でなにやら話を進めている。
「おっさん、こいつを捕まえたらボーナスはずめよ」
「わかっている。だから、さっさとこの男を捕まえろ」
「りょうかーい」
この男、何だか頭悪そうだけど大丈夫なのか?
金田という帰還勇者が一体何を始めるのか待っていたら、一瞬目がくらんだ。
視界がはっきりすると、俺のいる場所は、採石場の跡地のような周りが岩だらけでそれ以外何もない場所だった。戦隊もののロケ現場のような場所といえば分かりやすいか。
金田の能力で俺は座っていた椅子ごとこの便利空間に連れてこられたのだろう。この勇者、勇者というだけあって大したヤツじゃないか。こんな便利な能力だか魔法は俺も欲しいぞ。
目の前に立っている金田も俺と同じ早着替えが出来るようで、真っ赤な戦闘服を着たうえ、襟元に真っ白なスカーフを巻いている。どこかで見た様な? そうだ、これは、サイボーグ0〇9だ。ということは、こいつ、『加速』とかするのか? ジョーはイケメンだったが、こいつはただのイッちゃったヤツだ。
「おい、黒いの。殺すなといわれているんで殺しはしないが、ケガをさせるなとは言われてないんだ。わかるよな? それじゃあ、始めるか? お前、偉そうに椅子に座ってるが俺をナメてるわけじゃないんだろ? もしナメてるならボーナスを諦めてお前を殺ちゃってもいいんだぜ」
「……」
口だけは良く回るやつだ。喋っている暇があったらさっさと攻撃して来いよ。こんな悠長なヤツが異世界でよく生き残れたもんだ。こいつのいた異世界はそうとうヌルい異世界みたいだ。
椅子に座ってても仕方ないので、そろそろ俺も立ち上がるか。
『アイスニードル×16連』
椅子から立ち上がりざま、あいさつ代わりに勇者様に氷の針を16本撃ち込んでやった。こういった飛翔系の魔法は回避もしやすいうえ殺傷力が低く実戦ではほぼ無意味なのだが、目の前の勇者様は驚いたような顔をしている。ちょっと今のは挨拶代わりの攻撃としてはあまりにショボかったか? これは俺が悪かった。
よく見ると金田の手足から血が流れ出ている。あれれ? あんなので負傷しちゃった?
「黒いの、いきなり必殺技を繰り出してきたようだが、俺には効かなかったようだな」
今のが必殺技だったのか? 自問しても答えはノーのような気がするが。一体こいつは何を言ってるんだ?
勇者金田が、両腕を前に突き出して、両手の平を根元で合わせて10本の指先を大きく開いた。
「それじゃあ今度はこっちの番だ! 「紅蓮の炎よ、敵を焼き尽くせ」『ファイヤーボール』。喰らえ!」
真っ赤な火の玉が一旦金田が前に突き出して構える両掌の前で形作られ、それが俺に向かって飛んできた。
赤面物の呪文の後、ドッジボールほどのいかにも温度の低そうな『ファイヤーボール』がドッジボールほどのスピードで俺の方に飛んできたのだが、俺はこれをどうすればいいのだろうか? 「喰らえ!」と言われた以上、わざと当たってダメージを受けたフリをしなくてはならないのか? 忖度するのも地味に疲れるな。
一般人なら『ファイヤーボール』を見たら腰を抜かして動けなくなることもあるだろうし、火の玉が当たれば火傷もするだろう。しかし、小学生でもドッジボールの玉は簡単に避けられる。
何だか不完全燃焼して飛んでくる火の玉に当たると俺の着ている戦闘服にススでも付いてしまうと嫌なので、飛んできた火の玉を片手ではたいてやったら、火が消えてしまった。俺はもちろんなんともなかった。
「手加減しすぎたか」
本当に口だけ達者なヤツだ。
「おい、ツンツン頭、もうちょっと真面目にできないのか?」
「なにを! キサマは俺を怒らせた。これまでは手加減してやっていたが、もうボーナスが無くなってもいい。これからは本気でお前を殺しにいくからな」
そういうなり金田が背中に括りつけていた鞘から大剣を抜き放った。
「魔獣を斃せ、聖剣グラム。聖剣の一太刀を受けてみろ! 『フェンリル・スレイ!』」
おーい、俺は魔獣じゃないぞ。
金田に引き抜かれた剣は確かに聖剣なのだろう、『フェンリル・スレイ』の掛け声とともに大剣の表面にいわゆるルーン文字が浮き出て青白く輝き始めた。
剣そのものは素晴らしいのだが、どうも勇者となると剣の扱いが雑になるようだ。上段に聖剣を振りかぶった金田が俺の方に駆け寄ってきて、十分な間合いで聖剣を振り下ろした。そこは腐っても勇者というところか、結構なスピードで聖剣が振り下ろされたのだが、このままでは、聖剣が危ない。俺が危ないのではなく、危ないのは聖剣の方だ。
刃筋が振り下ろしの方向とずれているうえ、必要以上に力が入った振り下ろしだ。このまま聖剣が俺に当たれば聖剣がもたない。相手の持つ剣の心配までしなくてはならない戦いは初めてだ。
振り下ろされた聖剣の刃先を右手の親指と人差し指でつまみ、少しねじりながら勇者の手から聖剣をひったくり、そのままアイテムボックスの中に収納してやった。
「お、俺の聖剣をどうした?」
あの勇者金田光が帰って来た。ご存じの方がいらしたら嬉しいです。




