57.荒事のプロ2
「止血できたようだな。それじゃあ、続きを始めるか」
音もたてずに、今度は男の左手首を切り飛ばしてやった。俺の動きはもう追えなかったようだ。自分が何をされたかも気付いていないらしい。
「左手首も飛んでったけど、何とかして止血した方が良いんじゃないか?」
俺の言葉で、やっと自分の左手首から先が無くなってしまったことに気付いたらしい。痛みは思考を鋭くするが、失血は限度を超えると思考を鈍らせるからな。
「早くしろよ」
「助けてくれ」
「ふーん。助けるねー。ここでいま死んでくれてもあと4人いるから何とでもなるからなー」
「頼む。何でもする」
冷や汗をかいてうずくまってしまった男が俺に頼み込むのだがどうしたものか。何が荒事のプロだ。昔の忍者なんかは敵に捕まったら舌を噛んで自決してたぞ。テレビの話しだけどな。
何でもするねー。そうだ、いいことを思いついた。
切り飛ばした左右の手首を拾ってきて、
「腕を出してみろ、くっつけてやるから」
右腕の傷口に拾ってきた手首をくっつけて、アイテムボックスから取り出したヒールポーション(弱)を振りかけてやった。傷口がわずかに光りながら繋がっていったのだが、(弱)1本では足りなかったようで、もう1本(弱)を取り出して振りかけてやったらしっかりつながった。つなぎ目がなんだか凸凹しているような気もするがそんなもんだろう。もう片方の手首も同じようにして繋げてやったので、結局ヒールポーション(弱)を4本使うことになってしまった。
「ほら、くっ付いたぞ」
ん? 両手を並べて見比べてみるとなんだか見た目が変だ。
あれ、右と左と取り違えてしまったか? まあ、出血は収まって命の危険も無くなったんだ。これはこれでちょうどよさそうだし、少しくらいの不便は我慢してもらおう。
男は、切り飛ばされた手首がすぐにつながったことに驚いたようだが、それが左右逆だったことにさらに驚いたようで俺を睨んできた。
「俺は、手首をくっつけてやるとは言ったが元通りにくっ付けるとは一言も言ってないぞ」
詭弁ではあるが、立場を分らせるにはちょうどいい。
「お前は何でもするといったが本当だな? 嘘なら嘘でも構わんが、どうなんだ?」
「ああ言った以上は何でもする」
「せいぜい頑張れよ。それなら、これから俺の言うことを一生きくんだな。まず最初にお前たちは誰に雇われている?」
「俺たちは、武山薬品の総務部所属ということになっている」
「総務部な。それじゃあ、俺がクレームに行くとするとそこに行けばいいのか?」
「いや、俺達を直接使っていたのは、板野という副社長だ」
「そうか。それじゃあ、そいつのところに今度行くとしよう、そういえば、お前の名前を聞くのを忘れてた」
「俺の名前は服部だ、服部凶一だ」
「それじゃあ、なんで、俺の喫茶店にちょっかい掛けようとしたんだ?」
「横浜の倉庫が爆発したって話を知ってるか? あそこは実は大陸系マフィアの紫幇という組織の持ち物だったんだが、それが潰れたんで武山薬品じゃあ裏の取引が急にできなくなったってわけだ。それで会社の上層部が、あんたの飲み物の噂を聞いて次の収益源にと強引に話をつけようとしたわけだ。
そういや、シャンハイにあった紫幇の本拠地がぶっ壊れてしまったみたいだから、もうあそことの取引は当分出来ないだろう。最初はマフィア同士の抗争かと思ってたが、マフィアじゃあそこまでできないから本当に事故か何かだったんだろうな」
身に覚えのある話ばかりじゃねーか。なかなか面白い。話した感じ、こいつは信じてもいいかも知れんな。
「よくわかった。お前のその手じゃ流石に不便だろうし、傍から見たら気味が悪いから直しといてやるよ、両手を出してみ」
両手を服部が出したので、そのまま、両手首をスティンガーの一振りで切り飛ばしてやったら泣きそうな眼をして俺をまた睨んできた。直してやるんだからちょっとくらい痛いのは我慢してもらいたいものだ。切りたてだからヒールポーション(中)でいいだろう。
「ほら、これを残さず飲め。言っとくが1本50万の薬だからな」まあ、売り値だけどな。
そう言って、蓋を取ったヒールポーション(中)の瓶を服部の口の中に突っ込んで飲ませてやった。むせながらも全部飲んだようで淡い光が傷口を覆い、そこから新しい手首が生えてきた。ものの1分で両手が生えそろったのには本人も驚いたようだ。
「今ので減った血もかなり回復したはずだ。ありがたいと思えよ」
「すまない。だいぶ具合が良くなった。もうひとつ、お前に忠告しておく。板野の下に化け物のようなヤツがいる。そいつには気を付けろ」
「ほう。化け物のようなというとこは、人間なんだろ? 面白そうじゃないか」
「お前のような正真正銘の化け物からすると面白いで済むのかもしれんがな」
そろそろ自宅に帰らないと母さんが心配するので潮時だ。服部にこちらから連絡することもあるだろうと思い、名刺を1枚頂き退散することにした。
「服部、ここらの血の掃除と、お前の手首をちゃんと始末しとけよ。いや、待て。やっぱり手首は使い道が有るから俺が貰っとく。あと、俺に用事があるときはスマホにメールで連絡してくれ。お前、スマホ持ってるだろ? ……じゃあな」
メールアドレスを服部のスマホに送ってやって、部屋の隅に落っこちていた服部の2つの手首をアイテムボックスに収納して、俺は会議室から出て行った。
そこから先は、いつものように『ステルス』からの『転移』でうちの近くに転移して、人気のないのを確認後ステルスを解除してうちに戻った。




