49.戦え! 村田
運動公園の入り口で、飲み物を手にして休憩していると、チャラ男二人組が俺たちの方に向かって来た。
俺は薄ら笑いを浮かべてその二人組がこっちに来るよう願いながら彼らを見ていたのだが、俺の願いが通じたようだ。よしよし。
「おお! 可愛い女の子みーっけ!」
「俺っちもみーっけ!」
惚れ惚れするよーなチャラ男たちだ。春もこの時期になるとこういう手合いが湧いて出るようだ。
チャラ男たちに注意が向いている隙に飲みかけのコーラはアイテムボックスに収納しておいた。
「ねえ、ねえ。僕たちと一緒にドライブに行かなーい?」
「ねえ、ねえ。一緒に行こうよー」
凄いセリフに寒気がして鳥肌が立ってしまった。俺に鳥肌といえども身体的ダメージを与えるとは、こいつらはある意味そこらのヤの付く専門職の方々をはるかに超えている。
中川と吉田が後ずさって俺の方に目を向けるのだが、ここには村田もいるんだ。ベンチに座っている村田の方も見てやれよ。そう思って村田の方を向くと村田まで俺の方を見ているじゃないか。これはアカン。
『村田、しっかりしろ。俺が最期には何とかしてやるから、出来るところまででいいから女の子二人を護ってやれ』
小声で村田を励ましてやる。女の子たちの前だぞ、しっかりするんだ。男になるんだ。『最期』の漢字は雰囲気的にこっちかなと思っただけで悪気はない。
俺の言葉に勇気を持ってくれたのか、緑茶のペットボトルを若干震える手でベンチの上に置いて村田がゆっくりと立ち上がった。ちょっと内股で、膝も微妙に震えていたがそんなことは関係ない。さすがは俺の見込んだ男、村田英雄だ。
「僕ちゃんは何なのかなー? お兄さんたちはこれからこの娘たちと忙しいの、わかるかなー。だからお子さまはあっちに行ってくれるかなー」
「ガキはあっちに行ってろ! シッ! シッ!」
煽りもうまい。口元がほころぶのを必死でこらえないといけない。この二人組は俺にとってはある意味強敵だ。村田、後は任せた。
『アイアン・ボディ』
放っとけば、村田がボコられて終わりなので、保険を掛けておいた。これで村田は刃物までは防げるはずだ。まあ、体は硬くなっても着ているものが固くなるわけではないので刃物で切られたら服は諦めてもらうしかなし、ダメージは受けないが殴られれば吹っ飛ぶ。
これでチンピラ相手くらいなら大丈夫だろう。そこまで行く前に俺が何とかするつもりだが、手足の1、2本くらいいかれてもヒールポーション(強)で何とでもなる。死ななければ、エリクシールもあるから安心して見ていられる。
心配そうに中川が俺を見るので頷いてやったら安心したようだ。
その代り、吉田は俺のことを何も知らないので怯えてしまい、中川にしがみついている。ちょっとかわいそうかもしれないが、村田が男になるいいチャンスだ。ここは我慢してくれ。
『村田、殴られても痛くないはずだ。試しに自分の顔をはたいてみろ』
カカーン!
村田のヤツ軽くたたけばいいものを思いっきり両手で自分の顔をはたいたらしい。かなり高音質の音がした。自分でも驚いたようだが痛くないことはわかったろう。
チャラ男たちは今の音がどこか他所で鳴った音と思ったようだ。
「おい、ガキ。ガキはおとなしくすっこんでろ。お嬢さんたちはこっちに来た方が良いよー」
「村田くん、あんなヤツらやっつけてやりなよ」
俺は弱虫っぽく村田の後ろに隠れるようにしてお互いを煽ってやった。中川が妙な顔をして俺の方を見ているので、目配せしといてやった。
「吉田さん、大丈夫よ。村田くんが何とかしてくれるから」
さすがは、中川。俺の意図を理解してくれたようだ。
これで、村田も逃げられまい。窮鼠猫を噛んでくれよ。
「なに? ガキがイキがってるとケガするよ。黙って引っ込んどけば見逃してやっからあっちに行きな!」
「何言ってるんだ! この玉ねぎ頭。
村田くん、先に行ってくれ」
村田の後ろからまた俺が煽ってやった。人の身体的特徴をあげつらうのは好きではないが、ここは村田が男になるために心を鬼にしてチャラ男たちを煽るのだ。もう気分はお祭りだ。笑いを必死にこらえて煽るのだ。
とうとう村田も覚悟を決めたか。へっぴり腰ながらも前に1歩足を踏み出した。
「なんだー? 俺らに逆らうのか? デブのくせにいい度胸してるじゃないか」
「煩い!」
おお、村田。言っちゃったよ。男だよ。いまの『デブ』の一言が村田にクリーンヒットしたようだ。
いかにも喧嘩慣れしてなさそうな村田に煩いと言われ、チャラ男たちもむっとしてくれたようだ。片方のチャラ男、こいつはチャラ男Aだ。そいつが手を伸ばして村田の胸を小突いた。
見たぞ、見たぞ。
先に手を出したな。本当はここで一発村田を殴って欲しかったが、ここらが潮時か。村田、よく頑張った。
そう思って、村田の肩に手をやったのだが、村田はこれに気付かなかったようで、もう1歩前に出てしまった。
女の子たちというか吉田が怖がったままなので、そろそろチャラ男たちを片付けようと思ったのだが、村田が予想以上に男だった。それなら、俺は村田の男意気に感ぜねばなるまい。
「痛い目にあうといっただろ!」
さっき村田を小突いたのとは違うチャラ男Bが近づいてきた村田の両肩をもって腹を膝で蹴り上げた。
ゴリッ
嫌な音がした。これは痛い。見てる俺まで感じるぞ。これは、膝の皿が逝ったな。普通なら痛さで叫ぶところだがチャラ男Bはモブのくせに良い根性していたようだ。
あれ? そうでもないか、膝を抱えて地面に寝転がって騒ぎ始めた。チャラ男Aはどうしたらいいのかわからずキョロキョロしてる。
村田自身は両肩をチャラ男に押さえられたうえ、上に蹴り上げられた関係で吹っ飛ぶこともなくその場で立ったまま様子を見ている。いや、よく見ると両目は瞑っているようだ。村田は結局突っ立てただけだったがよくやった。
最近俺の近くに寄って来る連中はどうもカルシウムが不足しているようで、よく自爆して骨を折る。毎日200シーシーくらい牛乳を飲んだほうがいいんじゃないか。




