31.中川春菜2
俺と村田は中川よりも先に食べ終わったので、俺は気を利かせて配膳口の横にある自動給茶器から3人分のお茶をトレーに乗せて持ってきた。
「霧谷くん、ありがとう」
「霧谷くん、結構気が利くのね」
「そうかい。普通だろ」
話してみると、中川の今住んでいるところは俺の最寄り駅に近い場所だった。したがって同じ駅を利用していたことになる。
遅れて食べ始めた中川も、食べ終わったので揃って下膳口に食器を返し教室に戻った。
今日の午後一は体育だ。今日から体育は講堂を兼ねた体育館でバスケットボールをするらしい。
相変わらず、村田は準備運動だけでもへばってしまうので、軽く『スタミナ』をかけながら、様子を見て『ヘイスト』もかけてやった。アフターフォローもバッチリという訳だ。
今日の体育では、バスケの基礎練習だけをしているはずなのだが、秋山だけは派手な動きをして無駄にアピールしていた。何をアピールしているのか俺にはまるで理解できない不思議な生物である。
と思っていたのだが、俺も、秋山のマネをしてちょっとだけいいカッコをしようと思い、ドリブルからのシュート練習の時、1度だけバックボードにワザとボールをぶつけ、それをジャンプしながらキャッチしそのままダンクで決めてやった。自分ではかなり派手なシュートだと思うのだが、残念なことに誰も見てくれてはいなかったようだ。
結局今日の体育はパスやドリブル、ドリブルからのシュートなど基礎的な練習をして無難に終わった。
そんなこんなで今日の午後も無事終了。
俺は、今週から教室の掃除当番となったのだが、偶然、村田も中川も同じく教室の掃除当番になった。真面目に掃除をして、ゴミ箱のゴミを焼却炉に突っ込んで本日の清掃は終了。3人とも帰宅部だったので、同じ駅の中川も一緒に帰ろうということになった。
中川も、ずいぶん俺たちに打ち解けてきたようで、校門を出て駅への帰りの道すがら、
「こう言っては村田くんには悪いけど、村田くんが足の速いのは不思議だわ。すごく、不思議。今日は、霧谷くんも一度だけすごいシュートを決めていたけど、あなたたちすごいのね」
どうやら、中川は俺のシュートを見ていたらしい。村田が何か言ってくれという風に俺の方を向いたので、
「ちょっと、ふにゃふにゃすれば村田くらいにはすぐなれるぞ」
「あら、ふにゃふにゃって何よ?」
「中川、それを知りたいなら覚悟がいるぞ。いいのか?」
「何をもったいぶってるの? 何の覚悟がいるのか知らないけれど、村田くんはもちろん何だか知っているんでしょ?」
「は、はい」
「それなら、私だって大丈夫よ」
「わかった。それじゃあ、そうだなー」
俺は、帰宅中の生徒たちがこちらを注目していないことを確認して軽く『レビテート』を自分にかけ、5センチほど浮かび上がった。
「中川、俺の靴の下を見てみろよ」
「えっ、霧谷くん、浮いてる!?」
中川が下を向いて俺の足元を見て驚いたようだが、一緒に村田も驚いたようだ。村田にも初めて見せたからな。
「こら、大きな声をだすな。言っとくがこれは手品じゃないぞ。俺はいろいろ魔法が使えるんだ。今のはレビテートと言って空中浮揚だな」
そう言いながら『レビテート』を解いて、地面に両足をついた。
「わかっただろ、この前の100メートル走の時は村田に速く動けるようになる『ヘイスト』をかけたわけだ。適当なところで減速させようと思っていたんだが、村田のおかしな走り方に見とれてしまって、危うく世界新記録を出すところだった」
目を見開く中川。
「俺は、別に魔法専門の魔法使いという訳じゃないから、魔法以外にもいろいろ出来る。そこは追々《おいおい》教えてやるよ。そろそろ、電車が来る時間だから駅まで走って行こう」
村田に『スタミナ』を軽くかけたついでに中川にも『スタミナ』をかけておいた。中川が俺を見る。急に体が軽くなった気でもしたのだろう。
「な、便利だろ」
そう言って俺が駆けだしたので、二人も慌ててついてきた。
駅まで駆けてきたおかげで余裕をもってプラットホームにたどり着き、やって来た電車に乗ることが出来た。
電車の中で、
「ねえ、霧谷くん、私も魔法使えるようになれるかな?」
村田も俺の方を向く。
「村田には言ったかもしれないけど、悪いがこればかりは俺じゃあどうにもならないんだ。その代りいわゆる『魔道具』的なものは作ってやれるぞ」
これに、村田が食いついた。
「霧谷くん、僕にも作ってくれないか? お金なら何とかするから」
「村田は、どんなもんが欲しいんだ?」
「そうだなー。物覚えが良くなるとか?」
「あー、そっち系か。それなら魔道具じゃなくてポーションになるな」
「そんな、ポーションがあるんだ」
「ああ、いろんなのがあるし、作れるぞ。普通は怪我や病気を治すポーションが主流だし、ニーズがあるな」
「ねえ、霧谷くん、病気を治すポーションって言うのはどんな病気にでも効くの?」
「大概の病気は何とかなるんじゃないか。治癒系の最上級のポーションは『エリクシール』って言うんだけどそれだと死んでなければ何でも直るぞ。まあ、大概の病気は『エリクシール』を使うまでもなく上級ポーションで直るけどな」
「『エリクシール』ってほんとにあるんだ」。オタクはそりゃ食いつくわな。
「ああ、ある。俺でもそんなに数は持っていない。数あるポーションのなかで『エリクシール』だけはどういう理屈かわからんが光ってるんだ」
「まさにファンタジーだね」
「ねえ、霧谷くん、……。いや、何でもない」
「中川、どうした?」
「何でもない。気にしないで」
中川も俺の話に食いついたようだ。身内に病人でもいるのかもしれないが、さすがにそこまで踏み込めない。それなら別方向から攻めてみるか。
「中川、お前、人生を俺に賭けないか? 秘密を守る覚悟があるなら、俺がお前を一生雇ってやってもいいぞ。電車の中でするような話じゃないから、駅に着いたら駅前のスタ〇にでも寄って俺の話を聞かないか?」
「なっ!」。なんだか中川が赤い顔をして横を向いてしまった。
「悪いようにはしない。村田もついて来るなら、ついてきていいぞ」
「いや、僕はさすがに遠慮しとく」
「うん? どうしたんだ二人とも?」




