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異世界で魔王と呼ばれた男が帰って来た!  作者: 山口遊子


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26.更地2


 花菱組ねー。


 森本のおっちゃんにちょっと花菱組がどこにあるか聞いてみるか。もういい時間だからおっちゃんも競馬から戻ってるよな。


「社長さん、俺。ちょっと教えてもらいたいことがあって電話したんだけど」


『なんだ、お前か。言ってみろ』


「社長さん、花菱組って知ってるだろ。どこにあるか教えてくれるかい」


『大まかにいうと駅の西側が森本興業うちのシマで東が花菱組のシマでな、花菱組の事務所は駅の東口に出て正面の大通りを南に1本ずれた通りを100メートルばかし行くと、うちと同じようなビルがある。なんの用があるのか知らんが、花菱組の連中はすぐ刃物を持ち出すから用心した方が良いぞ』


「俺は刃物でどうこうできるようなヤワな体じゃないから大丈夫。それでも忠告ありがとう。これから、『花菱組』を潰しに行くだけだから問題ない」


『おい、おい、『花菱組』を潰す?』


「ちょっと訳ありでね。それじゃ、社長さん」


 場所はだいたい分かった。さーて、どうしてやろうか。



 おっちゃんに言われた通り、駅の連絡通路を渡って東側までやって来た。大通りを、南へ1本。この道か。曲がり角で、ヘルメット付きの戦闘服に早着替えしておく。


 人通りもまばらな裏通りをしばらく進むと、なるほど、森本興業のビルとよく似た5階建てのビルが建っていていた。そのビルの出入り口に一人、お兄ちゃんが立っている。


 建物には看板が見当たらないが、おそらくここだろう。これからすることを考えると、間違えると大変まずいことになるので、出入り口につっ立ってるお兄ちゃんに確認ことにした。


「すみません、ここ『花菱組』のビルですか?」


 取りあえず、初対面のお兄ちゃんなので、下手に出てみたところ、


「なんだ? ここはお前みたいな野郎が来るところじゃねー。とっととどっかに行け!」


 こういった兄ちゃんの悲しいさがなのか、相手が下手に出るとマウントをとった気になるようで、居丈高いたけだかに返事をされてしまった。下手に出たのが間違いだった。それならこちらも態度を変えよう。


「このビルが『花菱組』のビルなのかと聞いたのが分かんないのか? 兄ちゃん、日本語分かれよ」


 そう言いながら、ヘルメットを取って自慢の伊達メガネを外してにらみつけてやったら、後ずさってしまった。


 しっかし、俺の目つきはこの業界でかなり重宝するな。いや、全然嬉しくはないけどな。


「兄ちゃん、ここが『花菱組』でいいんだな」


 今度は頷いてくれた。手間を取らせるなよ。


 騒がれるのが嫌なので『スリープ』で兄ちゃんをその場で眠らせてやった。ある意味この兄ちゃん運がいいよな。


 さーて、そろそろ始めちゃいますよ。


 バババババシャーン!!


 5階建てのビルで道路側に向いている窓ガラスのすぐ外に空気の圧縮弾を転送してやり、ビルの内側に向かって窓ガラスを吹き飛ばしてやった。下から上に向かって圧縮弾を打ち上げると、角度があるので、ガラスの破片が天井に向かってしまいそうな気がしたので手間暇かけてやったわけだ。うめき声やら何やらわからない声が窓から聞こえて来た。効果ありと見た。


 気配的には12、3人ビルの中にいるようだ。だらだらせずにすぐにビルから出て来いよ。


 さーて、次に行きますよ。


『イリュージョン』。いい夢を見ろよ。


 火事の中で取り残された幻影を見せてやることにした。ガラスの破片で血まみれになったおっさんたちがわめきながらビルから飛び出してきて、ビルを振り返って見上げている。おっさんたちには、ビルの窓から煙がモクモクと吹き出しときおり炎が上がっている情景を目にしているはずだ。


 おっさんたちは、放っておいて、俺の方は仕事に取り掛かるとしよう。火事に焼かれて金目のものが燃えたりしたら大変だからな(笑)


「トウ!」


 毎度の無意味な掛け声をかけて、ガラスの吹っ飛んだ5階の窓までジャンプし、そのままビルの中に進入してやった。いまだに幻影を見ている連中には俺の姿は目に入っていないはずだ。


 圧縮弾の爆風で、部屋の中の机やらなにやらがひっくり返ってえらいことになっていたが、血の跡がないところを見ると、人はいなかったらしい。


 目ぼしいものがないかと思って見回したら、有るじゃないか。森本興業のおっちゃんのところにあった金庫と同じような金庫がありましたよ。


 さっそく金庫をアイテムボックスに収納。これって窃盗じゃないのかって。いえいえ、たまたま歩いていたら、ビルの中で拾ったものですから、遺失物の拾得です。100年先にでも警察に届ければ問題ありません。


 そのまま進んで階段で4階へ、3階へと下りて行ったが、結局、目ぼしいものは5階の金庫だけだった。


 これから本格的にビルを壊すにあたって、周りを巻き込まないよううまく調整しなければいけないので、『解析』で視てみることにした。


『解析』によると『花菱組』のこのビルは鉄骨製ではなく、鉄筋製だった。


 と言うことは、梁の鉄筋を抜いていってやると、自重による引っ張り力に梁の下側が耐え切れなくなって、ビルが内側に向かって畳まれながら、崩れていくだろう。


 よーし、一気にいっくぞー!


 ここが、メインになっている梁だな。あたりをつけた梁から鉄筋を1本ずつ『収納』していく。『収納』は『解析』と連動させているため、肉眼では見えない鉄筋を把握し『収納』することができる。建材の中に隠れて見えない梁の状態も知覚可能だ。


『1ぽーん、2ほーん、3ぼーん、……』



 コンクリートの梁は直接は見えないが、引っ張り力の働く梁の下側に亀裂が入り始めたのが知覚できる。亀裂がだんだん大きくなり、小さく破砕したコンクリートが砂状になって亀裂から落ちて床に降りかかる。


 梁の上側は下側と違い、曲がりにより圧縮力がかかるため破壊は限定的だが、しわが出来始めている。鉄筋の抜かれた場所に応力が集中しコンクリートの内部の破砕が進行していくのが発生し続けている微細音で分かる。いい塩梅だ。


 そして、俺はかまわず鉄筋を抜き続ける。


 ピキピキ、ビキビキ、バキーン!


 ドドドドドー。


 主梁が一気に破断した。大きなコンクリートの塊が足元に落下する。


 主梁で支えていた力が一気に他の梁に分散され、破壊が伝播していく。


 バキーン! バキーン! バキーン!……。


 いたるところで梁が折れていき、ビルの側面が内側に畳まれていく。

 基礎部分の柱がビルの重みを斜めに受けることで発生したせん断力に屈し、下部からの崩壊が加速しながらビル全体に波及。ビルそのものが下に向かってずり落ちていった。辺り一面舞い上がった砂煙と砕けた建材の粉塵でビルの周辺も含んで視界が閉ざされた。



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