23.競馬1
競馬は法律で20歳以上でないと馬券が買えないらしい。それならどうするかといったら、森本のおっちゃんの出番でしょう。
秋山に、たかがU15ということを悟らせた学校帰り、最寄りの駅で村田と別れ、勝手知ったる森本興業にお邪魔した。
1階から4階までエレベーターで上っていき、おっちゃんのいる部屋に入っていく。俺が通ると、お兄ちゃんたちが道を空けてくれる。感心なことだ。社長の教育の賜物なのだろう。何だか俺をにらんでいるようなヤツもいたようだが、そいつの方を俺がふり向くと目をそらしてた。根性の無いやつだ。知らぬ仲でもないおっちゃんが俺に社員教育を頼んで来たら、ちゃんと面倒見てやろう。
「ごめんくださーい」
「なんだ。また来たのか。今度は何だ? もう、お前にくれてやる金はないぞ」
「くれる物ならもらうけど。そうじゃなくて、社長さん次の日曜暇だろ? 俺と競馬に行かないか? 儲けさせてやるよ」
「なんだ? 何かいい話でもあるのか?」
「いや、俺は20歳未満なもんで馬券が買えないんだよ。社長さんが俺の代わりに馬券を買ってくれれば、マージン払うぜ。種銭はこの前の慰謝料と薬代合わせて450万があるから相当大きな勝負が出来ると思うんだけど、乗ってみないか」
「わしも、今度のレースに顔を出すつもりだったから馬券くらい買ってやるよ」
「社長さん、あんがと。勝ったらマージンは払うから安心してくれていいよ」
「それじゃあ、当日。パドックの辺りにいるからな。これを持ってろ、わしの携帯の番号が書いてある」
おっちゃんに名刺を貰ったので、名刺を一瞥して書いてあることは全て覚えた。それでも、家に帰ったらスマホに登録しておこう。
「ところで、この前の薬だが、頼めば譲ってくれるか?」
「いいぜ。いつでも、いくらでも」
「いや、うちのもんでな、所帯を持って子供が出来たもんがいるんだが、子供の親が小指無しだと可哀そうだろ。それで、そいつのとこの出産祝いに、高い方の薬をやろうかと思ったんだが、あいにくこの前お前さんから買った薬は、別途で使っちまった後でな」
「そういう話なら、ほらよ。ただで譲ってやるよ」
「いいのか?」
「いくらでもあるから気にするな」
ポーション(中)をアイテムバッグから1本取り出しておっちゃんに渡しておいた。
学校の方は、授業中、教科書だけは机の上に置いて窓から外を眺めている。最初のころは、窓の外ばかり見ている俺に対して、先生が注意しそうになるのだが、その気配を感じ取り、注意される寸前のところでに先生の方を向くようにした。そのうえ先生に質問されれば、的確に応答するので、先生も俺が窓の外を眺めていても俺を注意するようなそぶりをしなくなった。あと、かわったところというと、途中、英単語と漢字の小テストがあったくらいか。当然俺は満点だった。
そんなこんなで、1週間が過ぎ、おっちゃんと約束した日曜日。
初めて競馬場にやって来た。予想以上に競馬場が広くてびっくりした。芝の緑もきれいだ。
パドックで待ってると言ってたが、パドックってどこだ? 人の流れについていけばいいのか?
人がそれなりにいて歩きにくいながら、なんとかパドックなるものを見つけた。
ここは、人が一杯だ。しかも、生え際の後退したおっさんがたくさんいる。こんな場所でスマホを使うのも憚られるので、おっちゃんを『サーチ』することにした。いたよ。紳士の嗜みのつもりなのかおっちゃん結構いい恰好をしてたよ。お金持ちのおじさまに見えなくもない。いや見えないか。
堅気の人間ではないと、その道の者ならすぐ分かる、そこはかとした気品?が体からにじみ出ている。
「おう、やっと来たか」
「社長さん、おはよう。それで社長さんはここで何してるんだ?」
「おめえは、競馬は初めてみてえだな。次のレースに出る馬がここでお客さんにアピールしてるんだ。毛並みの色つやや馬体なんかを自分の目で見て確認するんだ、こいつは行けるかってな。おっと、時間だ。そろそろ馬券を買わねえと」
「社長さんはどの馬の馬券を買うつもりなんだ?」
「馬連で2、4だな」
「どれが1番になるか賭けるんじゃないのか?」
「ほんとに、ド素人だな。馬連で2、4というのはな、2番と4番の組み合わせが1着と2着になれば勝ちだ。おめえのいうのは単勝って言う馬券だ」
「それじゃあ、社長さんに200万渡しとくから、2番で50万。単勝で買ってくれるかい」
「50万も単勝1点買いしていいのかよ。今のところ2番のオッズは6.5倍だ。このままのオッズなら当たれば325万だ。当たればな。ビギナーズラックってもんもあるから当たるかもしれんがビギナーズラックをあまり期待してもな。それじゃあ、買ってくるか」
二人で馬券の自動販売機?の前にやって来た。馬券の自動販売機は正確には自動発売機というらしい。
「まずはお前の馬券から買うか。単勝で2番だったな。このカードに印をつけてっと。それから金を入れて……。出てきた馬券を受け取る。ほらよ、お前の馬券、単勝で2番、50万だ」
「わしは、馬連で2、4。……10万から行くか」
「なんだ社長さん自信ないのか?」
「まあ、最初のレースだし、様子見だ、様子見。そろそろレースがスタートだ。スタンドの前の方に行くぞ」
「お前は2番だから騎手が黒の帽子をかぶってる。4番は青だ」
「遠くからでも見分けがつきやすいようによく考えてるな」
「まあな」
実際は正面に据えられた巨大スクリーンの大画面を見る方が分かりやすいのだが、そこはな。
[あとがき]
主人公のマネはダメ、ゼッタイ。良い子の約束だぞ。
主人公のマネはダメ、ゼッタイ。良い子の約束だぞ。
2020年3月12日
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短編SF『我、奇襲ニ成功セリ』
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