20.学食
週が明けて月曜日、今日から高校の授業が本格的に始まる。
もらった教科書は家で一通り目を通した。したがって全て頭の中に記憶済みである。なので学校に教科書を持っていく必要などないのだが、教科書を持たずに朗読でもしたら、不審に思われるし面倒なので、机の中にしまっておこうと今日は全部の教科書をアイテムボックスの中に入れて持参した。授業中の内容は黒板の板書も含め、すべて無意識でも記憶出来るはずなので、ノートは買ってすらいない。筆記用具だけは中学で使っていた物を教科書と一緒に持って来たので机の中にしまっておいた。
思った通り、俺の主意識は授業中だと窓の外を眺めているのだが、副意識というものが勝手に先生の言葉を聞き、黒板に書かれた文字を読み、それをすでに記憶済みの教科書に関連付けていく。一度、授業中に先生に質問されたが当然簡単に答えることが出来た。
そんな感じで無難に午前中の授業が終わったので、今日から再開したという学食に行ってみることにする。もちろん母さんに作ってもらった弁当は持参しているので、それも持って行き学食のメニューと一緒に食べることにした。
「霧谷くん、一緒に学食に行ってみないかい?」
ちょうどいいところに村田が俺を誘いに来てくれたので一緒に学食に行くことに。
隣の席の中川は昼食初日の今日は弁当のようだ。かわいらしい布巾に包まれた小さめの弁当箱と水筒をカバンから取り出している。こいつも今のところクラスの中で浮いているようでかわいそうな気もするが、まだ学校が始まって3日目である。そのうち友達も出来るだろう。
いよいよ友達が出来ないようなら、隣に座ったよしみで俺が何とかしてやろうじゃないか。いや、特に下心が有るわけではないぞ。
クラスのほかの連中は、学食に行く者、持参した弁当を広げるもの、コンビニパンをかじるものとまちまちだ。
教室から廊下に出て少し行くと渡り廊下がありその先が学食だ。
この学校の学食はかなり広い。入り口に券売機があり、お金を投入して好きなメニューを選ぶと発券されるようだ。交通カードも使えるらしい。さすが高校。
俺は、弁当持参なので汁物でも頼もうと思いを『豚汁』を選択した。村田は『稲荷寿司』と『きつねうどんセット』を選んだようだ。『きつねうどんセット』はきつねうどんに稲荷寿司がセットになったものだ。村田はよほど油揚げが好きらしい。どちらかというとキツネというよりタヌキの雰囲気のある村田だが。
出てきた食券を持って、配膳口まで進むと、横の方に四角い箱が置いてある。前に並ぶ生徒を見るに、どうやらその箱の中に食券を入れ、代わりにトレーに乗ったメニューを受け取るらしい。
食券を入れてしばらくすると、トレーを器用に二つ持った小太りのおばちゃんが、奥から出てきて、
「お待ちどうさーん。はい『豚汁と稲荷』それと『きつねうどんセット』」
トレーを配膳口に置くとすぐに奥に引っ込んだ。『稲荷』を『きつねうどんセット』の置かれた村田のトレーに移す。
席はまだ半分くらい空いていたので、配膳口の先にあった給水機からコップに水を入れて、村田と二人で空いた席に座って食べ始めた。
「午後一の体育は体力測定だそうだよ。僕は憂鬱だよ」
きつねうどんをすすりながら村田がこぼす。体力測定なら、村田は腹いっぱいになるまで食べない方が良いんじゃないか。
「村田、もう少し食べる量を減らして運動してみないか?」
「むりむり。今でも腹ペコだし、運動は苦手だし、すぐにつらくなるからいやなんだ」
俺はそれを聞いて苦笑いしかなかった。
食べるから、その体形が維持されて、その体形のせいで運動するのがつらくなる。運動しなくてもお腹がすくのがいけないのだろうが太った人は得てしてそんなものなのだろう。村田は卒業するまでいまの体形を維持しそうだ。いや、維持できればいい方で、もっと横の方に成長しそうだ。
村田よ。そんな生活を続けていたら早死にするぞ。
待てよ。運動が苦手で、運動嫌いの村田に『ヘイスト』をかけてやったら面白いんじゃないか?
「村田。ちょっと、面白いこと思いついたんだけど」
「何?」
「実は、俺は、いろんな魔法が使えるんだよ。村田なら知ってるだろ、『ヘイスト』とか」
「そりゃ当然知ってるよ。ネット小説とかラノベによく出てくる、速さを上げる魔法でしょ。僕は自他ともに認めるオタクだよ。バッファーって地味だけどかっこいいよね。バフの出来で勝敗が決まるみたいなとこ。僕は、ログ・ホラ……」
ここでオタク談義が始まったら面倒なので、村田の話を遮るように、
「じゃあ、次の体力測定で俺が村田に『ヘイスト』かけてやるよ。あんまり強くかけてオリンピック記録出したらまずいから軽くな。軽く」
「少しでも運動が楽になるんだったら、何でもお願いするよ。ハハハ」
普通は冗談と思うよな。村田が100メートル10秒台で走ったら見ものだぞ。10秒切ってしまうとそれはそれで問題だから、ちゃんと調整はしないとな。
周りの驚く顔より本人の驚く顔の方が面白そうだ。
「任せとけ」




