19.地上げ2
まあ、今回の件は、俺の身内と知らずに地上げをしてたんだろうから、手を引くように言うだけにしておこうか。
『森本興業、森本興業……』
電話番号出てないなあ。スマホで検索してみたが森本興業の電話番号はわからなかった。
腹がへってきたが、もう一度、森本興業に行くとするか。
ステルスモードで、森本興業の入り口前に転移。周りに人眼がないことを確認して、ステルスモード解除。
ステルスモードと言っているが、実際は、透明人間になっているわけではなく、認識阻害と、不可視化の魔法を使っているだけである。不可視化だけだと、はたから見ると黒い影のようなものがうごめいているように見え、昼間だとはなはだ不気味だ。それで、その黒い影に注意が向かないよう認識阻害を掛けているわけだ。
「たのもう!」
入り口の前で大きな声で取次を請う。
すぐにチンピラが出てきて、4階に案内された。4階の窓は修理されていた。さすが土建屋もやっているだけある。
今日はおっちゃんが一人だけだ。案内役は隣部屋で待機中。
「社長さーん。そんなに身構えなくてもいいのに。浪岡町で高層マンション作ってるとこ知ってる? その場所の横の方に一軒家があるんだけど、その家、俺の叔父さんの家なの。あとは、わかるよね、大人なんだから。今回はお宅も知らなかったんだろうから何もしないけどね。忠告するけど、あんまり俺の地元で派手なことはしない方がいいと思うよ。今回みたいにどこに地雷があるかわからないからね」
『えっ! あそこの家。そういえば、『霧谷』っていう名だったか。まずい。まずい』
「わかった。手を引こう。金村建設にもあの土地には手を出さないように俺の方から連絡しとくから」
「じゃ、そういうことで、社長さんお願いな」
おっちゃんがさっそく、電話の受話器に手を伸ばそうとしたところで俺は営業活動をすることにした。
「ところで、社長さん。この小瓶見てくれる?」
アイテムボックスからヒールポーション(弱)を1本取り出す。薄っすら緑色の液体が入っているガラス製のポーションである。
アイテムボックスから取り出したものはいったん上着のポケット経由で取り出している。何もないところから取り出すと奇術と思われるからな。
「なんだ?」
「これはヒールポーションっていうんだ。骨折程度ならこれを飲むなり振りかければすぐ直るよ。社長さんのとこだと仕事がら怪我人がよく出るだろ?」
おっちゃんが怪訝な顔をしているので、実演販売だ。
「よく見てくれよ」
そう言って、アイテムボックスから黒々と禍々《まがまが》しいオーラを放つダガーナイフを取り出して自分の左手に突き刺す。おっちゃんは目を剝いていたが、携帯禁止の刃物については突っ込まれなかった。
さすがは物理防御を無視して対象に貫通する絶対貫通能力を付与した黒曜石のダガーナイフ、スティンガーだ。普通なら突き刺した刃物の方が壊れる俺の体に突き刺さった。スティンガーを引き抜くと、ジワーとちょっと赤黒い血が湧き出してくる。痛くはないがちょっとグロい。
そこで、口で蓋を取ったポーションを傷口に4分の1ほど振りかける。吹き出た血にポーションが混ざり、傷口が薄くだが一瞬光った。
口にあった瓶の蓋を吐き出し、左手を軽く振って、血とポーションで濡れた手を拭う。
傷口は何事もないようにきれいにふさがっている。
それを見ておっちゃんは口を開けている。
「ちょっと残ったから、社長さん飲んでみなよ。結構おいしいぞ。ガラスでケガさせたお詫びにあげるからさ」
恐る恐るポーション瓶を受け取ったおっちゃんが一気に残ったポーションを飲み干し自分で手に貼った傷バンをはがす。そこには傷跡のなくなったつるつるの皮膚が再生されていた。
「な。すぐ直っただろ。社長さんこれ買わないかい? 今なら、1本1万でいいぜ。
そうだ! こっちもあるんだ」
さも急に思い出したように、アイテムボックスから今度はヒールポーション(中)を取り出した。
「こっちは、さっきのよりちょっと高級な薬。これだと、部位欠損も元に戻せるぜ。特に欠けた小指なんかにいいんじゃないか? 小指がなくなるって、社長さんの業界の職業病だろ。こっちは1本10万でいい。今なら何本でも売れるけど買わないかい?」
「よし! 今手持ちが50万しかないから、高級な方を4本ともう片方を10本買おう」
おっちゃんがわき机の引き出しを鍵を使って開け、札束の入った袋を取り出し、俺に差し出す。
まだ、お金を隠し持ってたのか。
渡された瞬間、いくら入っているかは鑑定で分かったがいちおう様式美として1枚1枚目の前で数える。
「ひー、ふー、みー、……10万。 ひー、ふー、みー、……20万。……はいきっちり50万。毎度あり。社長さん、今だけのお試し価格だから。次から、正規価格で売るからな」
「正規価格?」
「高級な方が50万、安い方で10万だ」
「そいつはずいぶんだな」
「効果を考えたらそんなものだろ」
「まあ、そうだな」
札束をポケット経由でアイテムボックスに入れ、反対に、机の上にヒールポーション(中)を4本、(弱)を10本並べる。
実演がショッキングだったのか、目の前の高校生のポケットにはどれだけものが入るんだろう? という疑問は、おっちゃんには浮かばなかったらしい。
「新しい傷だったら様子を見ながら安い方を少しずつ振りかけて。傷があんまり深いようなら飲む方がいい。古い傷だったら1本丸々飲めばなんとかなるだろ。昔、小指と泣き別れたっていうなら高い方を丸々1本。小指がちょん切れてすぐなら、切り口を合わせて、安い方を振りかければ少しくらいずれててもきれいにくっつくから安心していい。
あと、注意事項な。高い方を丸ごと飲んだら入れ墨が消えると思うから消したくない奴は飲まない方が良いと思う。入れ墨って社長さんの業界じゃあ、ある種のステータスなんだろうし商売道具なんだろ」
取りあえず、用法、用量をおっちゃんに教えてビルを後にした。ビルを出るまで何人かとすれ違ったが、みんな通路の壁にピッタリくっ付いて俺を通してくれた。ちゃんと社員教育してるらしい。さっきのダンプの運ちゃんは俺を知らなかったようだけど。下請けの派遣社員だったのかな?
まあいい。今日も臨時収入があった。
『……影山さん、そういうことで、あそこの土地はどうにもなりませんよ』
『森本社長、もうあの土地を含めて設計も終わってるんですよ。資材も手当てしてるし。あの土地が必要なんです。あの土地が手に入らないといったいいくら損失が出ると思ってるんですか?』
『何を言われても、ありゃまずい物件なんです。ヤヴァイんですよ。命あってのものだねなんですから。申し訳ありませんが、うちはこの件からは手を引かせてもらいます』
『わかりました。この件はこちらで別途対応します。森本社長、あなたは霧谷という高校生をやたら怖がってますが、世の中にはいくらでももっと怖いものがあるんですからね。それじゃ』
おっちゃん脅されてるよ。金村建設のいう『別途対応』ってなんだか知んないけど、期待してるよ。
家に帰って、地上げについて調べてみたところ、昔は、ダンプトラックで相手方に突っ込んだりずいぶんエグイことをしていたらしい。今では、そこまでトンデモ業者はいないそうだが。
叔父さんはちゃんと警察に通報したのだろうか?
森本興業はオハナシすればわかってくれるところだし、今はいいお得意さんだからな。




