102.ツバイ
すっかり元気になった美登里を連れてうちに帰った。その後1時間ほどして、サヤカとモエが美登里のカバンをうちに届けてくれた。二人とも美登里が連れ去られたことをかなり恐縮していたが、今回のことは二人の失敗という訳ではないし、俺にもある程度責任があることなので気にしないよう言っておいた。それで、すっかり元気になった二人は、美登里の部屋に入り込んで、しばらく三人で遊んでいたようだ。
高校の方も引けているだろうから、俺はまたドライのところに跳んで、コピーと入れ替わっておいた。
アインの話しだと、明日の午後には、ツバイがやってくるそうだ。
『魔王の鎌』ねー。どうなんだろうか。14才で罹るとという変な病気はあっちの世界にはないだろうし、そもそもマキナドールは病気には罹らないはずだし。
ツバイが来て、帰還者同盟のアジトが判明したら、適当にツバイを放流してアジトをつぶしていこう。俺と違って、ツバイはただ相手を殺すだけだから、ある意味慈悲深い。
明日も、コピーと入れ替わって、午前中に七三男を処分するとしよう。とりあえずの予定を決めてその日は眠りについた。
翌朝。
七三男の今いる場所は、どうも飛行機の中らしい。どこに向かって飛んでいるのかはわからないが、すこし泳がせた方が面白そうだ。コピーと入れ替わって七三男を処分しようとドライのところにいったん顔を出したが、入れ替わりはやめて高校に行くことにした。
アインはツバイをこちらに連れてくるため、向こうに行っているらしいので、武山薬品の方には今日はトップ二人が不在と言うことになる。そこらへんは服部がうまくやるだろう。
久しぶりの高校だ。毎日、コピーと情報交換しているので情報の齟齬はないと思う。
「おはよう、中川」
「おはよう、霧谷くん」
「おはよう、村田」
「霧谷くん、おはよう」
ホームルームも終わり、授業が始まった。午前中を無難に過ごし、いつものように食堂で、いつもの3人で食事をしている。
「すぐに期末試験だし、その先は夏休みなのだけど、霧谷くんはなにか夏休みの計画とかは立てているの?」
「何も考えてないな。最近はうちの美登里も旅行に行きたいとうるさく言わなくなったせいか家族旅行の話もないな」
「ねえ、こんど、みんなで海にでも行ってみない?」
「海か? 特に何かしたいことが有るわけじゃないから、別に俺は海に行ってもいいぞ」
「そう。村田くんはどう?」
「僕? 僕も行ってもいいけど、泳ぎも得意じゃないから」
「別に海に行ったからといって泳がなくてもいいのよ。太陽の光を浴びてのんびりするだけでも健康的だと思うわ」
「俺はいつでもいいから、中川が具体的に計画を立ててくれると助かるが。場所さえ先に教えてもらえれば、『跳んで』行くこともできるぞ」
「そう。それならば任せておいて。霧谷くんのアレはすごく便利だけれど、みんなで電車で移動するのも楽しいと思うから、電車でゆっくり行きましょう。
村田くんはちゃんと吉田さんを誘ってちょうだいね」
そういうわけで、今度はみんなで海に行くことになった。
学校が終わり、帰宅部の俺たちはそのままドライの要塞に直行した。試験も近づいてきたので、中川と村田は勉強をすぐに始めた。勉強が不要な俺は、二人を残し、アインがいつもいる部屋に跳んだ。
「マスター、久しぶり」
ツバイがいた。確かにだいぶ顔を見ていない気がする。後ろ髪を刈り上げて短髪、赤毛。今着ているのは、何かの革製の真っ黒い上下に黒いブーツに黒いグラブ。袖口や襟回りには飾りなのか真っ白い金具が突き出て周りを囲んでいる。こいつはどこの世紀末覇者なんだ。
「ああ、ツバイ、久しぶりだな。なんなんだ? その格好は?」
「いいだろ? マスターもこれが欲しくなったら言ってくれ、すぐに用意させるからな」
「そんな派手なの着るわけないだろ。おまえ、女性型のマキナドールだったんじゃないか? しばらく見ない間に、男型にでも変わったのか?」
「マスター、変われるわけないだろ。マスターにこのイカス装備が分からないとは思わなかったぜ。それで、俺を呼んだのは、どっかの連中を根絶やしにするってアインに聞いたが、チャッチャッとやっちまうから。場所を教えてくれよ」
「ツバイ、今分かっている連中のアジトの場所を教えますー」
ツバイとドライが目を合わせた。いまので情報交換が終わったのだろう。
「ドライ、ありがとうよ」
「ツバイ、頑張るのですー」
「わーってるよ。それで、マスター、徹底的にやっていいんだな?」
「なるべく、周りに被害を出さないようにな。後はいつも通りでいい。相手が弱すぎてツバイには物足りないと思うが、そこは我慢してくれ」
「ふーん、そしたら、マスター、この件が片付いたら、俺と勝負してくれないか? 当然マスターは収納禁止な。あれされると絶対俺じゃマスターに勝てないものな」
「おまえ、俺が収納を使わなければ俺に勝てるとでも思ってるのか? 知らないうちにずいぶんおまえも偉くなったようだな」
「いや、マスター、そういう意味じゃ。武者修行でどれほど俺がやれるようになったか確認したかっただけだから」
「わかったよ。それじゃあ、おまえが仕事を終えたら相手をしてやる」
「よーし、マスター、今の言葉ちゃんと覚えててくれよ。さー、張り切っていくぞー」
そういって、ツバイは転移で行ってしまった。
「あいつの自慢の大鎌を見せてもらうのを忘れたな」
「マスター、私は見せてもらいましたが、想像以上に大きな鎌でした。あれはかなり目立ちます。『魔王の鎌』という二つ名らしきものが生まれたのもうなずけます」
「アインから見てもそんなにすごいのか? 次に会ったら忘れずに俺も見せてもらおう」




