第9話「Just Like Paradise」Part6
普段から使っているよれよれのジャージ姿。そんな姿の裕生がランニングから戻ってきたら部屋で女子が騒いでいた。
「どうした?」
「あ。風見君。詩穂理さんが」
「シホが?」
まりあの説明に怪訝な表情をする裕生。視線を向けると一つだけ布団が盛り上がっている。
中に誰かがいるのは間違いない。亀のように引っ込んでいるのだ。
「シホか?」
「ヒロくん?」
何処か怯えたような声色。
「暑いのに何やってんだよ」
言うなりいきなり布団を剥ぎ取る裕生。これには周囲も驚いた。
「……風見君。裸だったらどうすんだよ」
さすがにそれくらいの細やかさはあるなぎさが抗議する。
「他の男はいないだろ」
「あんたが見たら同じでしょ」
若干口調にトゲが出てくる。何でこの男はここまで鈍感なんだと。
同じ女として詩穂理に同情していた。
「なに言ってんだよ。オレもシホも幼なじみだぜ。ガキのころから一緒の風呂に入ったりしてたぜ」
「う……」
普通こんな理屈で論破などされるはずはない。しかしなぎさは自分も小さなころに恭兵と風呂に入った記憶があったので人のことをいえなくなってしまったのだ。
「ヒロ君…」
そこにはフルメイクをした詩穂理がいた。この顔を見せたくなくて布団に包まっていたはずなのにどうしてかここでは隠そうとしない。
「お。綺麗じゃねーか。シホ」
「え……本当?」
「ああ。昔なんかでしたときは似合ってなかったけどな。今だと随分似合うようになったな」
「……似合う……」
まりあたちは笑いをかみ殺すのに必死だった。
目に見えて詩穂理の態度が軟化しているのでおかしくてたまらない。
(あーもう。詩穂理ってばけっこう単純だね)
(でも好きな男の子に褒められたら無理ないかしら。優介じゃ間違っても言ってくれそうにないし)
(えへへっ。顔は綺麗だけどなんか可愛いね。シホちゃん)
そんな空気を読めない詩穂理ではない。軽くにらむとみんな視線をそらす。それすらも揶揄しているように取れる。
「ほら。シホ。腹減ったからメシいくぞ」
「ま、待って。ヒロ君。私お化粧落としてからいくから」
「そのままでいいじゃねーか。綺麗なんだし。ほら」
まったく考えなしに。単にせかす意味で浴衣姿の詩穂理の手を取る。
(あ)
握られたとたんに熱暴走。そして思考停止。
恥ずかしげに俯きつつ裕生の後ろについて歩き出す詩穂理。
裕生は決して強くは握り締めていない。どちらかというと詩穂理の方がギュッと握り締めていた。
そこまでいくと少女たちはからかうより羨ましくなってきた。
海でも大変な状況だった。
なにしろ詩穂理の顔立ちでメイク。当然だが泳ぐのでメガネは外している。元々裸眼でも歩く程度なら困らない。
とにかくメガネという仮面がないためフルメイクの顔を晒していた。
さらには背が若干低めだがそのプロポーション。
未成年にはとても見えず。大人なら問題ないと言うことか少し歩くとナンパされていたりする始末。
「申し訳ありません。私そういうのはちょっと」
堅物の詩穂理はいちいち頭を下げて断っている。
「何やってんだよ。あいつは」
いらつき、そして見かねた裕生が駆けつけ彼女の手を握る。
「ヒ……ヒロくん?」
「なんだ? てめーは」
人前で手を握られて動揺する詩穂理。だがナンパ男たちは邪魔されて裕生と険悪な雰囲気になっている。
荒事にならないように裕生の取った手段がまずかった。
「おい。オレの女に手を出すな」
言うなりほぼ裸の詩穂理を、ほぼ裸の裕生が抱き締める。
「きゃっ」
裕生本人にしたら「恋人のふり」のつもりだったろうが、本気で裕生が好きな詩穂理にとってあまりにも強烈な言葉と抱擁。
また機能停止した(笑)
そしてその「らぶらぶ」はどんな朴念仁にでもわかるものだったらしい。
最低でも詩穂理の方は本気。それを察したナンパ男たちは舌打ちをして去っていく。
「大丈夫か?」
「う…うん」
「まったく。鬱陶しい。近寄せないために恋人のふりをするからオレの手を離すなよ」
「は、はい」
化粧しているのにとても初々しさを感じさせていた。
(ふりじゃなくていつか…)
これは同行した面々も見ていた。
「チヒロチヒロ。お兄さんプロポーズするデスか?」
アンナが興奮気味に尋ねる。
「アニキよりシホちゃんが勢いでしちゃいそうだね。シホちゃんが義姉さんならあたしとしてもいいなぁ」
飛躍しすぎの千尋。やはり当てられたらしい。
「いいなぁ。私もお兄ちゃんと」
双葉の危ない発言で一気に浮かれ気分のなくなった二人であった。
(やるなぁ。風見がとはねぇ。よし)
プレイボーイの彼が朴念仁に触発された。その気になる。恭兵にとってむしろ得意の手。
まりあか美百合にと思って見渡すがさっそくまりあが優介と追いかけっこを開始していた。
どうやら手をつなごうとした攻防の末らしい。
「……学校と同じことをここまできてしなくてもいいだろう……」
諦めて美百合を探す。見つけたが
「ねぇ。由美香。手をつないでてくれる?」
「……だからあたしはそっちの趣味はないんだってば」
水着なので女性的な印象はあるもののどちらかというと「男前」な由美香。
美百合は由美香に「彼氏」になってもらいたいらしい。
「良いじゃない。ゆうべは肌を重ねた仲でしょ」
「風呂場であんたが抱きついてきたんでしょうが」
邪険にしつつ逃げる気配のない由美香。じゃれあいだ。
(こっちもラブラブだな……)
「ホモ」と「自分の姉」に意中の相手を持っていかれてとぼとぼと歩く色男。その手が不意につながれる。
(おおっ。この優しく柔らかい感触。僕にも天使が)
振り返るとなぎさだった。顔を真っ赤なして精一杯の勇気を振り絞ってつないだのだ。
「何してんだ?」
一気に冷たくなる恭兵のことば。
「…………風見君と詩穂理。見てたら羨ましくなって…おねがい。あたしと手をつないでくれない?」
本当に恥ずかしいのだろう。目に涙まで浮かべている。
そのしおらしさに恭兵はドキッとなる。ましてやなぎさはビキニである。
普段はストッキングやパンツで隠れている白い太ももが刺激的だった。
「ばーか」
手を振り解いて彼は沖に顔を向ける。赤くなった顔を見られたくなかった。
「キョウくん!?」
振りほどかれてなきそうななぎさ。声が震える。
「らしくないんだよ。お前ならこうだろ。あの沖まで競争して勝ったらとかな」
いうなり彼は海へと走りあっと言う間に泳ぎだす。
「あー。ずるい。よ、よーし。負けないよ」
まさに自分の得意のジャンルに向こうから。自然と元気になるなぎさはあっと言う間に海に飛び込みそして追いついた。
しかし追い抜きだけはせず。そして恭兵もスピードを緩めた。それはほんの気まぐれだったのかもしれない。なぎさとしてはそれでもよかった。
今は二人きりで一緒に泳いでいた。
美鈴も手をつなぎたいと思うのだが、どうしても人前でこれ見よがしに手をつなぐ勇気が出ない。
そして欲のなさすぎる彼女は朝に二人で歩いただけで満足していた。
海水浴場にいるのが水着の人間ばかりではない。
長袖のブラウスとパンツルックの女がいた。帽子までかぶっているから日に焼けたくないらしい。
メガネに汗がたまり、それをティッシュで拭う。
(うーん。中々いい娘がいないわねぇ)
持ち歩いているのはかなりごついカメラ。いかがわしい趣味ではない。
(あら?)
千葉だというのに東京で出会ったことのある少年の姿があった。
そしてその少年が連れている美女に興味が移る。
(す…凄い。あのボディ。そして白い肌。メイク栄えするのが遠目でもわかるわ)
どうやら知り合いの少年の相手らしい。だから彼女はその少年を呼び止める。
「裕生くーん」
呼び止められた裕生が待つ間に彼女は追いついた。
またメガネに汗がたまっている。
「安曇さん? どうしたんです。こんなところで」
「ホント偶然よね。こんなところで知り合いに会うなんて。お父さん元気?」
「ええ。稽古場じゃバリバリですよ」
学園の主席とも言うべき詩穂理だがあまりメカには興味はない。
それでも彼女が使うカメラが素人の扱うものではないとなんとなくだがわかる。
(ヒロ君のお父さんの取材であったのかしら?)
そんな推理がでる。
「シホ。紹介するぜ。この人は安曇瞳美さん。特撮雑誌のカメラマンとしてオヤジの取材きたことあってな」
裕生の父。哲也は現在は一線を退いているがかつてはスーツアクターであった。
それでもたまに取材に来る。
両者が互いを覚えていたのは特撮に関する話で盛り上がったせいであった。
「それで裕生君。この娘は君の彼女?」
「そうっすよ」
ナンパ男たち対策がまだ生きていたのかそう返答する。
「あ」
芝居とわかっていても公然と恋人扱い。詩穂理は照れて赤くなる。それがなんとも色っぽい。
その艶っぽさが瞳美に決心をさせた。
「お願い。裕生君。彼女の写真を撮らせて」
「はい?」
まりあと優介の鬼ごっこは果てしなく続いていた。
あまりのしつこさについに優介がたまらず立ち止まって向き直り尋ねる。
ここは遊泳禁止エリアの砂浜。客もいなければ「海の家」もない。誰もいない。
だから大声で叫べた。
「どうしてだよ。なんでぼくをそんなに追いかけるんだ」
「なんでって」
突然の質問にまりあも戸惑う。
「認めたくないけどお前、学園のアイドルみたいなもんだろ。いくらでも男の子が寄って来るじゃないか。それなのにどうして逃げるぼくを追いかける?」
人のいないビーチに声が響く。波の音が相槌を打つ。
そしてまりあはさも当然のように言う。
「そんなの優介が好きだからに決まってんじゃない」
まったくぶれがない。まりあの気持ちに揺らぎはない。
これをはじき返そうとしたら多少は強く言わないといけない。
普段しつこく付きまとわれているのもあり、ここぞとばかしに言葉を叩きつける。
「ぼくはお前なんか嫌いだ」
「ゆう……すけ……」
まりあの顔から表情が抜ける。あまりと言えばあまりな言葉。
そしてこれは事もあろうに言い放った本人が心をずきずき痛めていた。
「(まさか「良心の呵責」を感じるとは…でも甘い顔をしたらいつまでたっても付きまとってくる。もっときつく。嫌われるために)お前なんてどこかに行ってしまえ」
言われたまりあは無表情だ。整った顔ゆえに人形のようだ。
「そう……」
泣き喚くかと思ったら彼女は踵を返す。
(割と簡単に引き下がったな)
そう感じていたのもつかの間。優介は仰天した。
まりあは遊泳禁止エリアだというのに波打ち際から沖へと向かっている。
その様子は入水自殺を彷彿とさせる。
(あてつけに自殺でもする気なの?)
さすがに無視は出来ず彼はひたすらまりあを追いかけて海へと。
裕生と詩穂理と瞳美。妙な緊張感が走る。
「えーと。記念写真でも?」
「そんなわけないじゃない。ああ。説明飛ばしてたわ。あたし今はこういう状態なの」
何冊かの男性向け週刊誌を取り出す。そしてグラビアページを開いてみせる。
様々な女性が色とりどりの水着で笑顔を振りまいていた。
「あの…これは?」
「あたしの仕事。いかがわしい写真でないことを証明するために持ち歩いてんのよ。女同士ということもあってけっこうこれでOKしてくれる娘もいるのよね」
そこで一旦言葉を切る。相手が察するのを待つが詩穂理は自分の容姿にある価値をわかっていない。
つまりありえない話と思っていた。
察してもらえないと理解した瞳美はストレートに切り出す。
「ねぇ。おねがい。今週号の特集は素人娘なの。写真撮らせて」
「えーと…それって私がモデルになるということですか?」
「そうよ」
その言葉を反芻して詩穂理は顔を赤らめた。裕生の後ろに隠れてしまう。
「あららら。どういうリアクションよ」
「む、無理です。私そんなことできません」
「どうして。とても綺麗よ」
本当は「大人びている」とつけたかったがそれは飲み込んだ。
他者からみて褒めるポイントが当の女の子にとってはコンプレックスというのは自分の経験でもわかっていたからだ。
「あたしの二十歳くらいのときはそんな立派な胸してなかったもん。まぁ今でも全然ないけど」
「二十歳……」
少なからずショックを受ける詩穂理。
「あれ? 実はまだ未成年?」
「…………16です」
誕生日は九月十二日だった。八月ではまだ16である。
「ええっ。大人びているから大学生くらいかと…」
慌てて口を押さえる瞳美だがもう遅い。詩穂理はズンズン沈んでいく。
(あっちゃあーっ。これはもう無理ね。でも)
「わかったわ。裕生君の彼女さん。今日は諦める。でも気が向いたら連絡して」
彼女は名刺を差し出すが二人とも水着でしまうところがない。
「裕生君の家に名刺はあるからそこに連絡してね。それから」
瞳美は詩穂理の肩に手をかける。素肌に触れられているが相手も女ということでさほどの嫌悪感は抱かない詩穂理。
「あなたが綺麗だと思ったのは本当よ。カメラマンとしていろんな女の人を撮っているあたしの目を信用してくれる?」
「……」
どう反応していいかわからない。ただ相手が男だったら下心を勘繰るが、同性ということでそこまでは至らない。
「それじゃね。連絡待っているわ」
撮らせてもらえない相手に執着してても時間の無駄。彼女は当面のモデル探しに戻る。
(綺麗…プロのカメラマンがそういってくれた)
自分のプロポーションに対するコンプレックスが幾分軽くなった詩穂理である。
そんな空気の読めない裕生。体育会系ののりでいう。
「さて。今日もみっちり教えてやるからな」
元々が詩穂理のコーチ目的である。
「ヒロ君。手を離したら嫌よ」
「ああ。絶対に離さないさ」
水泳のコーチでの話しとは理解していながら、こんな台詞を言われると勘違いをしてしまう…むしろ自分から勘違いをしたくなる。
腰に浸かる深さのところで優介はまりあに追いついた。
「まりあっ」
力強くその肩をつかみ自分のほうを向かせる。
まりあは泣いていた。ショックがない筈はなかったのだ。
「放してよ。泣き顔なんてみんなに見られたくないわ」
「だから泳いで戻るつもりだったのかよ」
自殺でないと知って安堵する優介。同時に戸惑いが生じる。
(あれ? こいつが消えれば良いといつも思っているはずなのに、自殺すると思ったら止めるぼくって……)
まりあがいなくなると思ったらたまらず駆け出していたことになる。
(そんなはずはないよ。ぼくはコイツ嫌いなんだし。ただ人道上さすがに自殺は止めただけで)
優介はワケがわからなくなっていた。そして自分でも理解不能な行動をとる。
まりあの手を握って砂浜へと歩き出したのだ。
「優介?」
「ここは遊泳禁止だよ。帰るなら砂浜を歩け」
ぐいぐいと引っ張る。
「……うん」
華奢に見えても力強い男の子の手。まりあはそれに自分の右手を預け、泣き腫らした目を見られないよう俯き加減に後ろをついていく。
その日の夜。まりあが異様に上機嫌だったのは言うまでもない。
「それでねそれでね。優介がわたしの手を強く握り締めてくれたの」
「……高嶺先輩。三回目ですよ。そこ」
風呂場で聞かされてうんざりしてきた千尋。
「いいじゃない。恋の話しは嫌い?」
「嫌いじゃないですけど」
前夜同様の面々で入浴。まりあ。美鈴。千尋。アンナ。双葉。瑠美奈だった。
瑠美奈は不機嫌丸出しであった。
「まったく。同じ話を延々と。手をつないだ程度でアドバンテージ取ったとでも?」
瑠美奈も優介を好きになっていた。だからまりあのこの話しは面白くない。
「小さいけど大きな前進よ」
「どっちですか? 日本語難しい」
アンナが本気で悩んでいた。
「自慢するならせめてキスでもしてからにしたら」
無論いえる性格でないのはわかってての当てこすりだ。
「将来的には優介のお嫁さんになるわ。優介の赤ちゃんだって産むもん。でもその前に恋人になりたいの。キスはもっとじっくりと」
ここで想像してしまったのかへらへらと笑い出すまりあ。
「意外にのんびりやさんなんだね」
肩まで浸かっている美鈴が素直な感想を言う。
「結婚式の誓いのキスがファーストキスだとロマンチックだと思わない?」
一同は言葉も出なかった。お嬢様の思考は「庶民」と違いすぎる…と。
そのころの男湯。周りは裸の美男子ばかりという彼にとってパラダイスな状況にもかかわらず沈んでいた。
(何でまりあの手なんか握っちゃったんだろ? 気の迷い? やっぱそれかな)
「やらかしたこと」を顧みていた。
(決めた。もうアイツに甘い顔は一切しない)
「おい。水木。お前まりあと何があった?」
女湯から聞こえてくる黄色い声に恭兵も気が気でない。
また絡まれるリスクを冒して優介に詰め寄る。
「まりあなんてどうでもいいじゃない。それよりぼくと…」
まるで女のような妖しい目つきで迫る。
慌てて離れる恭兵であった。
「優介。一緒に戻ろうっ」
温泉の出口。既に恋人気分のまりあが妖しい美少年に向かって手を差し出す。
「勝手に帰れ」
彼女のビジョンと裏腹の答えが出た。
「な、なんでよ。海では手をつないでくれたじゃない」
「勘違いするな。別にお前のことを気にしていたわけじゃない」
男相手には愛想がいいが女。特にまりあ相手には冷たい優介の本領発揮。
性別逆だが典型的な「ツンデレ」台詞だった。
その夜の夕食は微妙な空気が漂っていた。
さらに帰京前のひと泳ぎでも。
そして帰路。
若い少年少女たちもさすがにハイテンションに騒ぎすぎた。
ほとんどが眠りに落ちていた。
優介とまりあも例外ではない。
行き同様に隣同士に座った二人は例によって優介が完全無視を決め込んでいたがやがて目を閉じる。
そしてまりあも同じころに夢の世界へと旅立った。
ふたりは寄り添うように互いに身を寄せて眠っていた。幸い瑠美奈は眠っていたので騒がれずにすんだ。
まりあと優介だけではない。裕生と詩穂理。恭兵となぎさ。大樹と美鈴。それぞれ寄り添って眠っていた。
仲睦まじいカップルに見える。
「こうしてみると仲のよいカップルに見えますね。まりあお嬢様」
さすがに眠ってはいないメイドたち。メガネ娘の八重香がそっと感想を告げる。
「わがままなご主人様ですが、幸せになっていただきたいと思います」
雪乃の言葉が敬語なのはもう一人の主。秀一相手だからだ。
「そうだね。僕も兄として妹の恋を応援してあげたいけど」
優介の自分に対する態度とまりあに対する態度の開き。前途多難と感じていた。
「それじゃ出来るだけ起こさないように静かな運転を心がけるとしますか」
運転中の陽香まで口を挟む。
夢の中では恋人同士。それを妨げないようにということだ。
東京に着くまでのつかの間の「恋人」だった。
次回予告
蒼空学園。女子空手部。鬼の女主将・芦谷あすか。そのもう一つの顔とは?
そして成り行きであすかに関わった大樹たちは?
次回PLS 第10話「Fighting」
恋せよ乙女。愛せよ少年。




