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PLS  作者: 城弾
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第9話「Just like Paradise」Part5

「な、な、何を」

 言葉の続かないなぎさ。思わず湯船を飛び出す。

 しかし仕切りを飛び越えて男湯に行くわけには行かない。

 だからといって男湯に正面から飛び込むのは論外。

「うー」

 文字通り指を銜えて見ている…聞き耳を立てているだけしかできなかった。それが焦れる。

「よるな。バカ。あ、チキショウ。何で僕はこんな狭いところに」

 壁越しに恐怖に引きつる恭兵の声が聞こえる。どうも追い詰められたらしい。

「ふふっ。ね。男の子同士でスキンシップ」

 反響するせいもあろうがとてもじゃないが優介の声は『男の子』という声音ではない。

「よせ。やめろ。近寄るな」

 本気で恐怖している恭兵の声。

「捕まえた。えい」

 軽い水音。そしてもつれ合うかの様な音。

「ひにゃああっ」

「うわぁ。やっぱり胸板引き締まって逞しいね」

 間違いない。抱きついている。

 それを確信したなぎさは、好きな男が裸で男と肌を合わせていると蒼白になり、恵子は美少年同士が肌を重ねていると興奮して赤面していた。だが

 ゴインという鈍い音。そしてばしゃーんという水の音。

「(他の客の)迷惑だ」

 どうやら大樹が優介を殴り飛ばして止めたらしい。

 ほっとするなぎさと残念そうな恵子が好対照だった。


 その後はのんびり湯になどつかっていられない。

 なぎさは大急ぎで出て出口で待ち構えていた。

 髪は軽くブラッシングしてポニーテールにして、それから浴衣に身を包んだ。

 男湯から出てこない面々にだいぶイライラしてきた。そこに呼びかける声。

「なぎささん」

 可愛らしい声で振り返ると髪を振り乱したまりあが立っていた。

 息を整えている。肩と胸が上下している。

「まりあ」

 あまりと言えばあまりの姿に毒気を抜かれる。

「随分早く来たね。他のみんなは?」

「わたし一人よ。なんだか嫌な予感がして飛んできたのよ」

(同性ながら「女のカン」は凄いな…)

 なるほど。優介の乱行を察知して飛んできたならこのタイミングは頷ける。なぎさはそうも考えた。


 やがて男湯から一同が出てきた。雄介は大樹の背中に背負われていた。

「優介!?」

 不安的中。そんなまりあの表情。

「優介。優介。大丈夫。ねぇ」

 問いただすつもりであっただろうに、すっかり心配顔である。

「湯当たりだ」

 さすがに自分が殴り飛ばして気絶させたとはいえない。

 それ以上に男に抱きついていたとはもっと言えない。無難なウソをつく。

「部屋で寝かせておくから。なに。ちょっと目を回しただけさ。高嶺は安心して風呂に入ってていいよ」

 裕生が言うが普段から危なっかしい男の「大丈夫」をとてもではないが信じる気にはなれないまりあ。逡巡する。

「本当のことを言えば?」

 基本的に女性の前ではいい格好をする恭兵が珍しく仏頂面だ。

「何? それ」

「キョウくん。大丈夫?」

 やっと目的の人物が出てなぎさが口を開く。

「ああ。ひどい目に遭ったよ。水木の奴。ハダカだってのに抱きつきやがって」

「!!!!!????」

 そのときのまりあの表情は、とてもではないが「学園のアイドル」と崇拝する面々には見せられないものであった。

「ひ…火野君。優介のこと抱いたの?」

「誤解を招く言い方はやめてくれっ!」

 まりあ相手というのに強い口調になる。相当不愉快だったらしい。

「まぁまぁ。相撲かプロレスみたいなもんじゃね?」

 お気楽に裕生が言う。

「だったら君が今度は抱きつかれてみろ」

(よかった…その程度ですんでたんだ)

 公共の場であるからそれでも充分に「破廉恥な行為」になるが、思っていたよりは軽くてほっとしたなぎさ。

 一方どこかに意識が行ってしまったようなまりあ。

 やっと我に帰り詰るべくヒステリックに「優介!」と叫ぶが大樹はとっくに引き上げていた。

「うーっっっ」

 やり場のない怒り。しかし口を尖らすもの顔立ちが愛らしさすぎて可愛さしかにじみ出ない。

 そして混乱した思考回路がとんでもない答えを導き出した。

「えい。間接ハグ」

 なんと抱きついて恭兵の胸板に自身の胸を押し付けた。

「うわっ」

 いつもなら自分から抱き締めようとする恭兵だが、この場は完全に予想外。

 しかもブラジャーこそしているが浴衣一枚越しに柔らかな感触。そして甘い香り。

 恭兵の怒りが霧散して、その分なぎさの怒りゲージがマックスに。

「うー。ダメだわ。やはり優介本人に抱き締めてもらわないと。いまのところはこれでガマンね」

 女性特有の直感的行動。理屈ではわからない。

「まりあぁぁぁぁっ。やっぱりあんたぁぁぁ」

 目の前で「裏切り」を見せられて大人しくなんてしてられない。

 宿というのに叫んでしまう。

「え? 何々? なぎささん」

 きょとんとしているまりあ。自覚ゼロ。

 そして意中の相手であるまりあに抱きつかれた恭兵は、これまた親衛隊にはとても見せられない緩みきった表情で幸せそうにしていた。

(はっ。せっかくまりあが勇気を出して抱きついてきたんだ。それに答えなくては)

 実際はあくまで優介の代替にすぎないのだが、ダメなポジティブで支配されたピンク色の脳細胞ではそんなことに考えなど及ばない。

 「返礼」すべく抱き締めようとした時だ。

「あら。二人ともどうしたの?」

 文字通りおっとり刀で美百合。そして由美香が。その端整な顔が渋面になる。

「なにアホヅラしてんのよ!?」

 言うなり実の弟の後頭部を平手ではあるがひっぱたいた。もう少しで抱き締めるところだったのを阻止された。

 まりあもそれで離れてしまったので二重に痛い。

「姉さん。何するんだよ。せっかくまりあに抱き締められた感触に浸っていたのに」

「あら。ずるいわ。高嶺さん。一人だけ」

 こちらも常人とは思考回路の違うお嬢様。

「「え?」」

 声を上げたのは恭兵となぎさ同時だった。

「それじゃ私も」

 美百合も恭兵を抱き締めた。上背と胸のサイズがまりあを大きく上回っていた。

 その柔らかく優しい感触と甘い香り。

 そしてまりあにはない「優しさ」が興奮より安らぎをもたらす。

「…………」

 全員言葉もなかった。

「セ、先輩」

「はい。なぎさちゃんに間接でお返し」

 恭兵を解き放つと今度はなぎさに抱きつく美百合。

 その優しく柔らかい母性的な感触に怒りが何処かに消えてしまったなぎさ。

 周辺の客の視線で我に帰り、赤面して逃げてしまった。

「あらあら。照れ屋さんねぇ」

 天使の微笑みで悪魔の所業の美百合。

「あんたほどほどにしないとそのうちレズって噂を流されるわよ」

 由美香が親友として警告する。

「由美香とだったら怖くないわ」

 まるで男に対するような表情。

「それをやめろといってんのよ!」

「あん。由美香のイジワル」

 「夫婦喧嘩」を終えて二人も部屋へ。ある意味台風一過。渦巻く怒気など吹き飛ばされた。

「さぁって。お風呂お風呂」

 まりあも女湯に消えた。残された恭兵と裕生。

「なぁ風見。僕は今日死ぬのかな? こんな立て続けにいいことが起こるなんて」

 恭兵の思考回路も既にまともとは言えなくなっていた。

「大丈夫じゃねぇ? 別に『帰ったら結婚しよう』とかいう死亡フラグは立ててないし」


 夕食を済ませ就寝時間になる。

 既に夕食の時点では宿の浴衣姿だったので着替えの必要はなく。後は寝るだけだった。

 男子五名は一番奥に。優介は一番女子よりに

 そのそばにまりあ。美鈴。詩穂理。なぎさである。

 とくにまりあと優介は隣同士。

 仕掛けたまりあ自身が緊張していたが、優介のほうは彼女を完全無視。

 男子のほうを向いて寝ていた。

 当然だが男子たちも優介の「要望」にこたえようとはしていない。

(えーん。せっかく一つ屋根の下で彼らと寝ているのに何にも出来ない…)

(させないわよ。男の子にちょっかいなんてださせないわよ。もちろんわたし以外の女の子にも)

 とてもではないが「これから寝よう」という雰囲気ではない緊張感にみちていた。

 あまりの迫力にさすがのブラコン娘。双葉も大樹のそばにいけなかったほどである。


 大いびきの裕生に対して詩穂理はとてもじゃないが寝られる状態ではない。

 間に何人も挟まっているとはいえど、裕生と同じ部屋で寝ているのだ。

(子供のころはあったけど…そう言えばおままごとの相手もしてくれたっけ。大きくなったらヒロ君のお嫁さんになるなんて恥ずかしいことも言ってたし…)

 同じ部屋で寝ている現実の恥ずかしさから逃避すべく、幼い頃の思い出を掘り返したらもっと恥ずかしい想い出が出てきた。

(や、やだ。子供のころの他愛のない誰にでもある思い出じゃない。それにあの時はヒロ君だって私のことをお嫁さんにしてくれると言ってたし。うん。お互い様。そうよ。恥ずかしい思い出はお互い様なのよ)

 無理やり自己完結していた。

 ギュッと自分の体を抱き締める。同年代と比較して少々育ちすぎた胸元がその存在を弾力という形でアピールする。

(もう…子供じゃないんだなぁ…ヒロ君と私。これからどんな風になるのかな?)

 だが移動。そして海水浴の疲れで瞼が閉じていく。


 自分の傍らには大地双葉。そして何人かはさんだ状態でその兄であり、自分の好きな男。大樹がいる。

(お兄ちゃんと妹。血の繋がった二人なら結ばれるのは許されない。けど…大ちゃんと双葉ちゃんは血の繋がりがない)

 知ってからというもの彼女を悩まさせる問題である。

(双葉ちゃんが大ちゃんを実の兄としてではなく一人の男の人として意識しているように思える…もし二人が事実を知ったら…美鈴にはかなわない)

 美鈴はこうして大樹と同じ部屋で寝るのは小学校以来。

 だが双葉は部屋こそ違うが一つ屋根の下でいつも一緒なのである。

 皮肉にも大樹と同じ部屋で寝て、その事実を痛感する美鈴だった。


 ちなみになぎさは布団に横たわったとたんに眠りに落ちた。

 昼間も水遊びというレベルではないほどの運動量だったのだ。それでである。


 いくら体力のある高校生とて移動してきて海水浴だ。

 考え事をしていた面々も眠りに落ちた。


 翌朝。六時。なぎさはむくりと半身を起こした。そして「しまった」という感じで頭をかき始めた。

(あーもう。習慣って奴は。もうちょっとゆっくり寝ててもよかったのに)

 毎日のジョギング。そのために六時には起きている。だから自然と目が醒めた。

 寝なおそうとしたが眠れず。仕方ないから散歩に出ることにした。

 起こさないように移動するが初めて見た少女たちの愛らしい寝顔を目の当たりにして足が止まる。

(まりあってやっぱり可愛いなぁ。これじゃ男子が騒ぐのは無理ないかも)

 学園のアイドル。まりあの寝顔はまさに天使だった。視線を移す。

(綺麗だなぁ。大人っぽいよね。本人は嫌がっているけど)

 もちろん詩穂理を見ての感想だ。寝相がとてもいいのがいかにも真面目な彼女らしい。

(詩穂理もこのくらい無防備だと結構可愛いんだけどね。普段は硬いからなぁ)

 寝ているので素顔。そして力の抜けた表情。整った顔ゆえに寝顔は綺麗だった。

(あれ? 美鈴はもう起きたのか?)

 美鈴の布団はきちんとたたまれていた。

(そういやアイツはいつも弁当を自分で作っているんだっけ。それじゃあたしと同じで早起きがクセなのかもな)

 いないものは仕方ない。それよりも愛しき少年の寝顔を見たい衝動に駆られる。だが

(うーん。当たり前だけど男で固まっているからなぁ。そんな中に飛び込んだらなに言われるか)

 いつも行動している面々だけならまだいいが、他にも多数の少女。さらには担任までいるのだ。

(やめとこ。それにもし女の子の夢でも見て鼻の下伸ばしてたりしたら嫌だし)

 なぎさはそっと出ていった。


 入れ替わるように恵子が起きてきた。

 実は悪巧みのために早起きしていたのだがなぎさに邪魔された形だった。

(あー。ビックリした。何でみんなこんな早起きなのよ?)

 普段の恵子は七時起床である。今回は枕元にケータイを置いておき、他者を起こさないように振動で目覚ましにしていた。

(さぁて)

 彼女は枕もとの荷物から化粧パレットを取り出した。


 ホテルの前の砂浜。海辺となると夏とて朝はさすがに涼しい。

 アスファルトよりは砂浜。そう思ったなぎさはそこを散歩しようと思い立つ。

 相変わらずのパンツルックだが真夏ではさすがに七分丈。ふくらはぎは見えている。

 上に至ってはキャミソールだ。

(この格好。あたしにしちゃ冒険だったよなぁ。まぁいいよね)

 普段はTシャツとジーンズという感じが多い。

「あ。なぎさちゃん。おはよー」

 突然甲高い声で呼びかけられて驚いた。しかしそれがいつも聞く声と認識したら落ち着きを取り戻した。

「美鈴。あんたも早いね」

「えへへへ。いつもお弁当作るからこの時間なの」

 しかしまさか弁当を作るわけには行かない。だから早朝散歩となった。

 美鈴の格好はロングTシャツとミニスカート。露出の高さがむしろ子供っぽく見えるのはかなり損をしていた。

 しかし幼い顔と甲高い声。そしてその小柄かつ華奢な体躯では子供っぽくまとめた方が様になっていたのも事実。

「夏休みだとお弁当作らないから楽でいいなって思ってたけど早起きは習慣なのよね」

「そりゃ何処かのお母さんの台詞だよ」

 言ってから二人で笑う。

「あたしも家がラーメン屋だから料理やるほうだけど、美鈴はいつからやってんの?」

「うーんとねー。家庭科の授業よりは早かったと思うけど」

「それじゃ割と長いかもね」

「そーだね。でもお料理だけじゃなくてお洗濯もお掃除も大好き」

「いいお嫁さんになれるよ。まりあに聞かせてやりたい」

「あはは。まりあちゃんはたぶん慣れてないだけなんじゃない?」

 少々好意的すぎる美鈴の見解だった。

 笑っていた美鈴の表情が変わる。彼女はなぎさを忘れたかのように顔の向きを変えた。

 釣られてなぎさが見ると巨漢がいた。

 Tシャツとハーフパンツというラフなスタイルにもかかわらず、リーゼントだけはきっちり決めていた。

(そりゃそうか。大地君だって自分で弁当作ってたんだっけ。同じように早起きでも不思議じゃないな。遅くなったのは……髪か)

 およそスタイルとマッチしないリーゼントに視線を送る。

 美鈴の方はそれどころではなかった。

「お、おはよう。大ちゃん」

「ああ」

 大樹とは双葉には及ばないまでも長い付き合いの美鈴だが、それでも恋する乙女である彼女にとっては緊張させる相手には違いない。

(あううう。どうしよ。言葉が続かない。そうだ。なぎさちゃん…いないの!?)

 なぎさに助けを求めようとした美鈴だが、そのなぎさは気を回していなくなり二人だけにしていた。

「美鈴」

「は、ハイッ?」

「朝市がある。行くぞ」

 料理がらみか…とはいえど二人で同じ物を見に行くのは願ってもない。二人は砂浜から消えた。


(うまくやりなよ。美鈴)

「同胞」に「Good Luck」と心で告げる。

 そして当初の予定通り一人で散歩と思っていたら足音がした。

「?」

 振り返るとパーカー姿の少年が走っていた。

 ランニングのようだ。砂浜を走るのは足を痛めないためか。

(う…うそ)

 なぎさの心臓の鼓動が跳ね上がった。恭兵を見間違えるはずがない。

 そして恭兵の方もなぎさに気がついた。

「なんだ? お前もランニング…じゃないな。その格好」

「え。あ、その」

 彼女は急に恥ずかしくなった。露出の高いキャミソールを着たのを後悔した。

「きょ、キョウくんは走り込み?」

 一見間抜けな質問だがなにしろ海水浴できているのだ。早朝ジョギングはちょっと雰囲気にそぐわない。

 ましてや偏見がまかり通るならこの恭兵。そういう「努力」をするタイプに見えない。

「日課だからな。何もしないで(サッカー部の)レギュラーでなんていられないし」

 なぎさ相手だからなのかややぶっきらぼうな口調。普段の演じているようなところがない。素を晒していたのは相手が幼なじみゆえか。

 それに本人も気がついた。

「こうしているからこそこの美しい肉体は保てるのだ」

 照れ隠し。それ以外の意味を見出せない「ナルシス発言」だった。

 彼もまた素を晒して恥ずかしくなってきた。

「おい。このことは誰にも言うなよ」

「え。何で?」

「努力をアピールするなんてかっこ悪いからに決まってんだろ」

 恭兵なりの格好付けだった。

「うん。わかった。あたしたちだけの秘密だね」

 なぎさは笑顔で右手の小指を差し出す。

「……なんか変な言い回しだが…そういうことだ」

 指切りは他の女の子ともすることが多いせいか、意外に抵抗なく小指を絡めてきた恭兵だった。


 汗を流すために大浴場に向かった恭兵と別れてなぎさがホテルの部屋に戻ると大騒ぎだった。

「み~~~~~け~~~~~」

 恨みの声を上げる優介はファンデーション。口紅。チーク。アイシャドー。マスカラなどで見事にメイクアップされていた。

「似合う。似合うよ。水木君」

「ほんと。ステキよ。水木君」

 化粧した犯人。恵子が面白そうに言い、うっとりしたように瑠美奈が追随する。

「ちっきしょー。優奈ねえや優香ねえにやられている夢を見ていたと思ったら…油断した」

 たまに自宅で姉たちに悪戯されるのだ。つまり「慣れてしまっていた」から「寝顔にメイク」が「特別なこと」でもなかったから起きなかったのだ。

 優介は手を突き出した。化粧のせいで普段以上に怪しい雰囲気だ。

「落とすからクレンジング」

 用件だけを言う。本当に女相手には愛想がない。

「えー。せっかくしたのに」

「そうよ。美しいのに」

 熱暴走を起こしたような瑠美奈の発言。

「優介様。これを」

 差し出したのはまりあのメイド。雪乃だ。

「サンキュ」

 必要以上にべたべたしない雪乃相手だけにこちらもやや態度を軟化させる優介。

「ちぇー。快心の出来だったのにな」

(しょーがない奴だな)

 苦笑してその様子をなぎさは見ていた。

「まぁいいや。傑作はひとつだけじゃないもん」

 まるでそれが合図であったかのように起き上がる少女。

 たわわに実った胸元。そして流れるような黒髪。

(!?)

 優介相手のときは呆れて言葉が出ないなぎさだったが、今度は別の理由で絶句する。

 他で見ていた面々もその女優のような美しさに言葉を失う。

「あ…おはようございます。みなさん」

 まだ少し寝ぼけた詩穂理が、フルメイクされた顔で美貌を見せ付けていた。

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