第百二十八話 本物の…(2017.12.26修正)
暫くボロディンに身を任せていると城が大きくなってくる。後少しで着きそうだ。
でもさ。ねぇ。ここの敷地広すぎない?
ボロディンたちのスピード普通の馬よりずっと早かったと思うよ?
ぶっちゃけ車の体感スピードで50キロ以上は出てたと思う。
それなのになんで20分近く掛かってるの?
もうここ庭と言うか自然公園の間違いだろ!!
さっきの場所は第一庭園の端に近い所なのかもしれないけど、移動するまで大変だろうが!!
プライベートガーデンってレヴェルじゃねーぞ!!!
「何ここの広さ。馬鹿じゃないの?金持ちの考えてることって分らないわぁ」
「確かにね。僕も学生時代ウィルに招待されてこの庭来たけどさ。普通に野生動物っぽいのいたから」
「自然公園かと思ったらサファリパークだった件。庭に野生動物放つんじゃねーよ」
「この城の敷地に住み着いてる動物はボロディンがまとめてるから襲われたりはしないと思うよ。それに大抵の動物は第二庭園で過ごしてるし。襲われても殺ればいいだけだし」
「うん。サファリパークで密猟してる感じに聞こえてきた」
城に近づいてみて改めて感じたが、この建物厳つすぎ。
所々に彫られてる人や動物の彫刻がこっち見てるよ。マジで怖いんですが。
それで遠くから見て分ってた事だけど、この城横にも縦にもでかくない?
普通に高層ビルの高さなんですけど。
しかも高台の上に建ってるから最早超高層ビルの高さだし。
『ヒヒーン!ブルルルル』
「うお!!」
ボロディンが急に鳴き声を轟かせると重厚な扉が開き、ボロディンは俺達を乗せたまま建物の中へと入っていく。
中に入ると天井に空が見えた。
どうやら扉だと思っていたのは門のようでで、まだ外だったらしい。
更に進むと立派な建物が連なっており、まるで離れの宿のようだ。
走るスピードを落としつつ中へと進んでいるが、まるで前世で乗った遊園地のアトラクションのようにドキドキな体験だった。
「ここは?」
「所謂厩舎だね」
「厩舎ぁあ!?ここが!!?」
確かに良く見てみれば馬が干草を食んでいたり、寝ている。
馬の家にどんだけ金かけてるんだよ!
あ。でもいるのは馬だけじゃないらしい。
他の動物の姿もちらほらと見えるわ。
「あ。あそこが城の中に入る入り口の一つだよ」
移転した場所から走り続けて早三十分。
漸くゴールが見えて来たらしい。
うん。色々言いたいんだけど、まずは…
「ねぇ、ロイズさん?」
「何だい?」
「ボロディンに乗ってここまで来る時間と、正門から入って手続きする時間どちらが短いんですか?」
「後者だね」
「じゃあ正門から入れやぁぁぁああああああ!!!」
おい!この三十分って時間かなり貴重だぞ!!
それなのになんで態々遠い所から走ってこなきゃいけないんだよ!!!
「あ~…手続きだけは短いんだけどねぇ……ひとり厄介なのがいるんだよ」
「厄介?」
「セボリーはさ。好きでもない相手に無理やり言い寄られて、酷く突き放してるのにめげない相手ってどう思う?」
「う~~ん……相手よりもまず。モテる俺って罪だな、とかですね」
「それが同性相手でも?」
「あ、はい。なんで遠回りするのか分りました。ご愁傷様でございます」
「いい加減殺けたいんだよねぇ」
「気のせいだと思うんですが、避けたいが殺したいに聞こえた…」
なるほどな。確かに好きでもない、それも同性相手に言い寄られるなら遠回りしたくもなるわ。
俺だって逃げる。
俺は異性同性からもモテないから良かったわぁ。
……ごめん。自分で言っておいてなんだけどちょっと傷ついた…異性からはモテたいです。
「ボロディン、ありがとう」
ボロディンの足が城の中へと入る扉の前で止まった。
ロイズさんはボロディンの首を軽く叩いてお礼を言うと華麗に飛び降りた。
『全く、年寄りを扱き使うな』
「精霊道具に歳関係ないじゃないか。それに前年寄り扱いしたら怒ったくせに」
「ボロディン。ありがとうございます」
『また乗せてやるからの。その代わり今度良い女紹介しろ』
「どこのエロ親父だよ!」
何この馬(?)。物凄く加齢臭漂うおっさんみたいなんですけどぉ?
「じゃあ。今丁度後ろで馬から下りてるゴンドリアを紹介してあげよう」
『あれは男だろうが。匂いで直ぐ分るわい』
「な…なんだと!畜生…」
『何悔しがっておるんじゃ』
糞!動物(?)だからにおいには敏感なのか!?
ゴンドリアだったらボロディンを騙くらかして遊ぶ事出来ると思ったのに!
ゴンドリア…お前はまだまだ修行不足だぞ。もっと気合を入れて女装しろ!!
「さて。中に入りますか」
「うぃ~」
ロイズさんの言葉に他のメンバーも続こうとした時、扉が音を立てて開きだす。
中から知らない男が出て来るのが見えた。
「氷弾」
「うわ!」
そして急にロイズさんがその男性に攻撃魔法を放ったのだ。
おい!あの魔法結構威力あるぞ!
もし当たったら唯では済まないんだけど!!
おい!逃げろ!!
「よっ」
そう思った瞬間に男は軽快なステップで攻撃魔法を避けた。
「……へ?」
「光の矢」
男性が避けた瞬間にロイズさんはまた違う攻撃魔法を発射する。
「こいしょ」
またもや男は攻撃魔法をかわした。
「ロイゼルハイドぉぉぉおおお!会いたかっブヘェ!!」
そして交わした勢いのままロイズさんへと襲い掛かるように飛んできた男は、ロイズさんの華麗な回し蹴りで撃沈された。
蹴られた瞬間非常に嫌な音が耳に残った。
あ。死んだわ、これ。見事に頚椎に入ってる。
明らかにしてはいけない音が鳴ったよ、これ。
「………………あのぉ?この方は?」
「さっき僕が言ってた変態だよ」
「ああ…これが……」
「クッ!今日もまた良い蹴りであった!」
「え!?嘘!?生きてるぅ!!」
「あんなんで死んだら苦労はないよ…」
苦悩の表情で言うロイズさんに少し同情してしまった。
「ハァハァ…ハァハァ。やはりロイゼルハイドの蹴りはたまらんなぁ。ハァハァ…」
「うん。変態決定」
おい。その熱い吐息をやめろ。非常に不愉快だ。
「違う!俺は変態ではない!変態と言う名の紳士だ!!」
「自分で変態って言ってるじゃねーか!!!」
どう見ても変態です。ありがとうございます。
「ウィル坊ちゃんが帰ってきたからロイゼルハイドも来ると思って、この通用口を張っていて正解だったな」
「死ね」
「うん。こんな不機嫌なロイズさん初めて見た件」
ロイズさんがメッチャ不機嫌なんですけど!
それはもう黒いオーラが体の周りに漂ってるのが分るよぉ!!
怖いよぉ!恐ろしいよぉ!!
「おい、ゴンドリア。お仲間だぞ」
「よしてよ。あたしは女装癖以外はノーマルよ」
「それだけで十分変態だろうがぁぁあああ!!」
「あー…ロロッジかぁ…」
シエルはこの変態の正体を知っているようだ。
別に知りたくもないから言わなくて良いよ。
「この人アライアス公爵家に長年仕えてる家の当主の息子なんだよねぇ。確かかれこれ7千年位仕えてる家系だよ」
「ロロッジ・ヘンター・イデス・ド・トッティモだ。アライアス公爵家に忠誠を誓っている」
「うん。とっても変態ですね」
名前からしてアウトじゃねーか!!
こんなあからさまに名前からして変態な人初めて見たわ!!!
まずは姓名改名してから出直せや!!!
『こいつの家系は数代に幾人かこんなのが生まれてくるから困る』
あ~…ボロディンも認める変態なんですね。わかります。
「とりあえずロイゼルハイド!!俺を蹴ってくれ!」
「行こうか」
「「「「「「「は~い」」」」」」」
無視だ無視。こんなのに構ってたらひとたまりも無い。
本物だ。本物の変態だよ、あれ。
俺今まで変態を知ってると思ってたけど間違いだったよ。
本当の変態はあんなもんじゃなかったんだな…
出来れば知りたくも無かった…
今まで俺が変態呼ばわりした奴に謝っておかなくちゃ。
ごめんなさいマゾワンさん。
「ロイゼルハイド!!俺を甚振ってくれ!!」
「………」
「ロイゼッ……」
あ。やっぱりロイズさんって無言詠唱と言うか詠唱破棄や魔法陣消して術を発動できるんだな。
変態の体が氷に包まれてくよ。
お願いだからもう出てこないでね。
「強烈なのに遭遇した…マゾワンさんはやっぱり変態じゃなかったんだ…」
「いや。マゾワンさんは十分変態だと思うぞ!!俺前に追いかけられたし!!」
マゾワンさん…ルピシーを生贄においていくから俺を狙わないでくださいね。
「ロロッジは有能なんだけどねぇ…あれがあるから…」
「変態は直らない、うん」
「ちょっと!フェディ!あたしを見ながら言わないでよ」
「ついでにあれでも結婚して子供も居るからね」
「「「「「「「ウソォォォオオオオオオオオ!!!」」」」」」
俺達の叫び声がベルファゴルの城の中に響き渡った。




