第百二話 剪定(2017.12.19修正)
やっぱりな。
この状況を見て予想はしてたんだが、この件に関して俺は物凄くいきなりだったから驚いたわ。
多分ロイズさんが俺を連れてきてもOKと言ったのは半分ウィルさんを拉致するためでもあったんだろう。
だって今のこの状態は余りにも準備が整い過ぎているからな。
事前にこの強制選定式が予定されてて、それに合わせる形でおびき寄せたって形だな。
「ンンンーーーー!!!」
ウィルさんはホーエンハイム公爵の答えでより一層抵抗をするが、ロイズさんの魔法が強力なのか全く解放される気配は無い。
「顔見せって言うくらいですからもう決まったも同然?」
「いや、あくまでも候補だ」
「でも今候補ってウィルさん一人しか居ませんよね?」
「私たちの役目は候補を選抜するだけだ。最終的に決めになるのは聖下だ。今回の候補者は7人居たが健康、気質、能力上の問題で弾かれた。それで残ったのがこれと言う訳だ」
ウィルさん、あんたこれ呼ばわりされてますよ…まぁ、俺はそれ以上に酷いこと言ってたんですけどね…
そう言えば前に3公爵が24家の直系の子供は当主就任を拒否する者が多いって嘆いてたけど、この状況でもし就任しても後で色々大変じゃないか?
だってウィルさんマジで嫌がってるからな、当主就任と同時にやめますとか言ったらそれまでじゃね?
そんな事を考えていると大司教らしき人が人の頭よりひと回りほど大きい玉を何処からとも無く取り出した。
なんぞあれ?
「問いたい事があるのは分りますが時間も押しているので早速始めましょうか」
『可!』
大司教の声に俺とロイズさん以外が一斉に声をそろえた。
え?何が始まるの?勝手に進行しないで欲しいんだけど。説明ぷりーずください。
「これより苗木剪定の儀を行う。真実の宝玉コルトザよ、この新たなる苗を視よ。精霊と国の手足と成り民の目と耳になり、大木の元の周りの者を育み、絶えやがて土に帰りし時この国の礎のひとつに足らん事かを」
え!?真実の宝玉?あれが!?
大司教が祝詞のようなものを唱えるとその玉は独りでに浮き上がりウィルさんの所まで移動して行く。
そして淡い光を放ちながらウィルさんの頭上へと上りさらに光りだした。
『どれ、ほほぉ若い時のジルガンテインとそっくりだな。名前は何と言う?』
「ンンンンーーーーー!!!」
『そうか。ふむ………馬鹿のようで頭は悪くない。正義感もある。民を思う気持ちも強い。小僧、お前は今幸せか?』
喋ったぁ!!玉が喋ったぁ!!!
ああ、そうか。真実の宝玉はヴァールカッサと同じように精霊道具って言ってたな。
『何故だ?』
「ン!?ンンーーー!!!」
つか猿轡されてるから喋れないに決まっとるやないか。
この状態で喋れって言われても絶対喋れないし、どこのプレイやねん!
……そう言えばジジもあいつ等にやってた覚えが…
『そうか。ならばそうなれるように努力を重ねれば良かろう』
え?ヤダ、あの人(?)一人芝居のような事して勝手に話し進めてる。
何この有無を言わせない進行…こんな所も強制なんだね。
「真実の宝玉は人の心の深層に潜って答えを読み取る。だから相手が嘘をついていたり黙秘してもその心の内が分るんだ。だから相手は喋る必要が無い。逆に下手な事を喋ると真実の宝玉の逆鱗に触れて罰を受ける事になる」
「そのための猿轡なんですか?」
「いや、あれは唯単に煩いからしただけ」
ロイズさんが楽しそうな笑顔で俺が疑問に思っていた事を解説してくれる。
が、この状態のウィルさんを見てこの発言が出来るって………この人鬼畜だわ…
ちょっとウィルさん同情してしまったよ…どうしよう。
「でももしこれでウィルさんが選ばれなかったらどうするんですかね?」
「その時はアライアス公爵家の傍系か他の24家の直系か傍系の人達のうち最も相応しい者に就かせるよ」
「もしそれでも出なかったら悲惨ですよね。揉め事とか起こらなかったんですかね?」
「過去に何回かあったらしいけどそれでも結局血縁の中から選ばれるみたいだね。例外もあったらしいけど」
「例外…ですか?」
「うん。聖下からの強制推薦」
「え?もしかして血縁じゃなくてもですか?」
「いや、血縁だよ」
「なんでそう言い切れるんですか?」
「聖下本人から聞いたから」
「………へ?」
「何も24家だけが聖下の血を受け継いでいる訳じゃないよ」
「それは24家の傍系から派生して忘れ去られていた血族と言うことですか?」
「それも居るらしいけどちょっと違う。聖下は長い時を過ごしてらっしゃるから時々は落とし種もいるって事だよ」
「………成る程」
「但しこれは本当に特例らしいよ。あくまでも当主になりえる者が居ない時のね。24家の当主達は家同士が争うとどうなるか分ってるから絶対に争わない。24家で戦を起こそうとして罰を受けた当主も居るからね。もし候補者同士が争うそぶりを見せた瞬間に存在自体抹消させてたらしいし。あ、この話聞けたって事はセボリーって情報開示の許可得てるんだね。もし受けてなかったら今の話聞くことが出来なかっただろうから」
確かに限定的な開示許可は受けてますよ。
でもね、確かに最初に質問した俺が悪いのは分ってる。
だけどぶっちゃけそんな生々しい話聞きたくなかったわ。
なんか俺無意識にどんどん自分から深みに嵌って行ってるような気がする…
「まぁでも、もしウィルがこの苗木剪定の儀をパスしても、その後聖下が直接当主に相応しいかどうか判断するからね。それで合格なら良し、不合格ならこの儀式と聖下にお会いした記憶を消されて日常生活に戻るだけさ」
あのぉ。本当にすんませんでした。
これ以上の情報は結構なんで。いや本当に。
これ以上はマジで勘弁してください。
つうかさ、今更だけど何で俺がここに居るの?
あの和食を食べた時の幸せな気持ち返してよ!!
それもこれもあのウィルさんのせいだ!!
もうとっととアライアス公爵になっちまえよ!!
「大丈夫だよ。ウィルは…だって僕が認めた男だ。それだけの能力と人望もある。人一倍優しいけど天邪鬼だからね、誰か背中を押して上げなきゃ」
「言ってる内容と顔があってないような気がするんですがね?」
「え?気のせいじゃない?だってウィルは僕の大切な友達だもん」
「ははは…」
ウィルさん。あなたの事を笑顔で友達と言った人の副音声がとんでもない事になっているんですけど。
確かに友達って聞いたはずなんだけど何故か同時に違う言葉も聞こえましたよ?
ウィルさん。あんたは本当にこんな人を友達と言って良いのか?
本人達が楽しければそれで良いかもしれないが、少しは友達選んだほうが良いと思うよ?
色々知りたくも無い事実が分り俺が力なく笑っている最中にも話はまだ続いていたようで…
『偉大な者になるには馬鹿になる事だが、その馬鹿が本物の馬鹿にならん事を祈る。』
「ンンン!!?」
『アライアスはこの国の盾、あのお方の盾の祖の家。光ある所闇があり、闇ある所光ある。苗が折れぬよう強風を和らげ新たなる芽を愛で、害から身を削り大木が育つまで見守る責を負う役目の家』
「ンンンンンーーーー!!!」
『アルゲア教アルグムン主教座大聖堂つき真実の宝玉コルトザはこの者を推薦する!』
『承った!』
「……………………」
真実の宝玉がそう告知し俺とロイズさん以外の人がそれを認めた後、ウィルさんは倒れるように気絶した。




