第九十五話 俺の周りの男女の比率おかしくない?(2017.12.16修正)
俺はこの何年かずっと怯えているものがある。
そう!それは成人のお披露目会、デビュエタンで踊るダンスだ。
ぶっちゃけ前世からダンスなんて洒落たのなんて踊った事ねーよ。
学校行事でマイムマイムやオクラホマミキサなどのダンス?みたいなモノは踊った事があるが、ボールルームで踊るようなダンスなんて踊れるかヴォケェ。
え?エルドラドではマイムマイム踊ってたって?
あれはノリだノリ。
つーかさ、聞いてくれ…あのマイムマイム、まだエルドラドで踊られてるんだってよ…
この前ジョエル君とノエルちゃんが進級前にエルドラドの実家に帰ってたらしいんだけどさ、エルドラドの広場を出歩いた際に普通に広場で踊られてたらしい…
しかも何故か考案者が俺って話しになってて二人からキラキラした無垢なる尊敬のまなざしを向けられちゃってさ………もう嫌だ…今すんごい後悔してる。
しかしその数年後、エルドラドでセボリーが踊ったマイムマイムは聖帝国内で大流行し、セボリーは更に自らの首を絞めることになる。
首都のシルヴィエンノープルの広場にある記念碑に自分の名前が彫られた事を知ると、移転陣に飛び込みその記念碑を破壊するために工作しようとするほどの荒れ振りであった。
「ファッ!?」
「ファじゃないわよ。あんた二年次の講義のカリキュラム冊子見なかったの?教養の授業の必修よ」
「全然見てなかった…進級前はあのおっさんに嵌められた事にむかついて全精力を復讐計画に費やしてたから…」
「ふ~ん。ついでに言うとダンスは二年次と三年次の必修科目よ」
「はぁ!?何でだよ!」
「知らないわよ。デビュエタンに向けてでしょ?体育の単位も一緒に取れるからお得な感じするわよね」
「知らんわ!嫌じゃーーーー!!!俺は断固として拒否する!!!」
嫌だ嫌だ嫌だぁ!ダンスなんて踊れるはず無い!しかもペアの人どうするんだよ!
女の子誘うの?あれ?俺と良く面識のある女子ってリュピーとロゼとノエルちゃんだけなんだけど!
今気付いたわけではないが、ずっと見ない振りをしていた事実………俺の周りには女が少ない…orz
原因はなんとなく分っている。
聖育院からの女友達は何人かいるが、学園に入ってから外部組と組んで公星を見る目がやばかったから距離を置いていた記憶があるし、商会が忙しくて殆ど今のメンバーとでしか遊んでいなかったのが原因だと思っている。
なので公星のことは可愛がるが構い倒さないリュピー位しか交流が無いんだけど、そのリュピーも今や聖科が誇る殴って蹴れる聖職系グラップラーと化しているようだ。
つい最近推薦を貰ったらしく、迷宮冒険者資格を取りに行くらしい。
何故かシエル経由で知った話だ。
それに一番仲の良い女子だと思っていた奴が女装家の男だったりと踏んだり蹴ったりな爆弾事件が発覚し、周りの可愛い女の子がすべて男だったらどうしようと言う疑心暗鬼に陥った事も大きな原因の一つだと思う。
そんな訳で俺の人生の中で女と触れ合う機会は全くと言って良いほど無かった。
こんな事実改めて確認したくも無かった。
え?何この灰色の学園生活。ここって男子校じゃないよね?
誰か俺に薔薇色とは言わないからピンク色の青春ください。
「あんたその顔一緒に踊ってくれそうな女の子の顔探してるでしょ?心配要らないわよセボリー、男同士女同士でも踊れるのよ。どちらかが異性のダンス踊れば良いだけだから」
「祝いの席で男相手にくっついて踊りたくないわ!!」
「なら頑張って相手見つけなさいよ?」
「出会いの場がねーよ!」
「だからその祝いの席の会場が出会いの場なんじゃない。だから気合入れて着飾って、ダンスや教養の高さを見せびらかすんでしょうが。あんた前に現実逃避で自分でそう言ってたじゃないの。先輩達に聞いてみたら本当に会場で踊る相手を見つけるらしいし」
「ああ…そう言えばそんな事言ってた様な気がする…」
俺の異常な嫌がり方にロゼが目を丸くして不思議がっている。
あれ?ロゼは踊れるのか?
「…ロゼは踊れるのか?」
「え?あ、はい。父にそれなりに仕込まれましたから。最初は何のために覚えなきゃいけないんだろうと思ったんですけど、そのデビュエタン?でしたっけ?それのためだったんですね」
「ユーリも女子のパート覚えたいって言ってたよな」
「私はもう覚えましたよ。去年から習いに行ってました」
「なんですと!?」
聞いてみると、ユーリは学業と商会のデザイン業務の傍らダンススクールに通っていたらしいのだ。
ダンススクールと言ってもしっかりとした習い事ではなく、所謂青空教室のようなものらしい。
暇を持て余したご年配の方達が趣味で踊り、下の者にダンス指導する程度の物のようだ。
日本でも仕事も定年で一線を退き、趣味でダンスをする人が集まる会があったが、どうやらそんな感じの所でおばあさんに女パートを習っていたのだという。
「マジか…」
「シエルとフェディとヤンは最初から踊れるから心配要らないけど、あたし達のような養い子や平民の子達は踊れない事が多いらしいから早めに教え込んじゃうんでしょ?だから二年間にわたって必修になってるんだと思うわ」
「そんな気遣いいらないわぁ~」
「ははは、でも覚えていたほうが良いと思うけどね。もしかしたら将来必要になる時もあるから」
そこで今まで黙っていたシエルが口を開いた。
「必要?ダンスが?」
「うん。もしも生徒の中で国の官僚や外交官とか目指す人がいるのならば絶対に必要になってくるからね」
「え?なんで?」
「他国の社交界やダンスパーティに出る可能性があるし、もしかしたら一代貴族の爵位を貰える人もいるかもしれない。そんな人がダンス踊れなかったら様にならないでしょ?」
「な、成る程…」
「…セボリーなんてもしかしなくても一代爵位貰えそうだし…(ボソ)」
「ん?今聞こえなかったけどなんて言ったんだ?」
「独り言だから気にしなくて良いよ」
そこで俺はふっと気付いた事がある。
ゴンドリアはどっちで踊るのだろうか…
ユーリは完全に女パートで踊る気満々だが、こいつは一体どっちで踊るつもりなんだろう。
「なぁ、ゴンドリア?」
「なぁに?」
「お前はどっちで踊るつもりなんだ?」
「両方に決まってるじゃないの。まずは女の子と組んで男パートで踊って、次は男パート踊れる女の子探して女パートを踊るわ」
そう来たか。
こいつならマジでやるだろうな。
「そのためにもう女パートはユーリに習ってるの!後は男パートを習って完成度を上げるだけよ!」
「なんでそんなにやる気満々なんだよ…」
「ダンス自体はおまけよ。あたしの目的はドレスよ!どんな礼服!そしてどんなドレスにしようかと昔からの構想が爆発するわ!」
「爆発するんかい」
「正礼服を作るのが今から楽しみだわ!」
「正礼服?なにそれ?」
「はぁ?正礼服よ。フォーマルの最上級の服装。お祝い事やお悔やみごとの冠婚葬祭、更には外遊先でのパーティや儀式と何でもござれな服装よ!」
「へ?普通の制服じゃ駄目なの?」
「あんた何馬鹿言ってるのよ!デビュエタンよ!確かに学生の時は制服がフォーマルとして扱われるけどデビュエタンなのよ!!デビュエタンの正礼服は色だって決まってるんだから!!それ位知っておきなさいよ!!」
「そんなの知るかよ!!無茶ぶりしてんじゃねーし!!!色も決まってるってデビュエタンで一回しか着ないのに勿体無いだろうが!!」
「あんた本当に馬鹿!馬鹿が余計馬鹿になってどうするのよ!!」
「うるせー!俺は馬鹿じゃない!馬鹿はルピシーだ!それに百歩譲って馬鹿でも愛され系の馬鹿だ!!」
「それこそ知らないわよ!!デビュエタンの正礼服の色は男女揃って白って決められてるの!だから染め直しも簡単なのよ!!それに同じ白でもいろいろな種類の白があるのよ!!だから何処にどの白い生地を選んで使うかって楽しみがあるのよ!!マントも男女揃って白と決められてるけどそれも染め直して次のパーティで使う事も出来るってわけよ!!」
「次なんてないし!!ぜってー箪笥の肥やしになるだけだっつーの!!!」
「安心しなさい!素敵な正礼服作ってあげるから!!」
「安心できる要素がどこにもねーよ!!!」
今から想像するだけで億劫な行事だ。
別に出そうとは思っていないが溜息が次々と出てくるよ。
はぁ…俺もダンスを躍らなければならないらしいな、腹をくくらなければ…でもその前に。
「おい、絶対ルピシーは道連れにするからな。ゴンドリアも全力で手伝えよ」
「ふふふ、当たり前よ。完璧な正礼服を仕上げてやるわ」
黒い笑顔で笑い合う俺達に、他のメンバーは苦笑するのであった。
暫く話し合いは続き昼食の話になると、ロゼは遅れを取り戻すため午後からの授業に出るので、そのための準備と友達へのお礼回りがあるからお暇しますと元気に商会から飛び出て行った。
うん。やっぱり可愛い子は笑顔でいるのが一番だ。
そんな事を思いながら立ち上がると、いつものように煩い声を上げてルピシーが商会に帰ってくるのであった。




