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幕間 短話詰め合わせ二

『風になりたい』



「これで大丈夫だろうか…失敗して空の彼方へとかってならないよな?公星はどう思う?」

「モキュー?」


現在セボリーは誰もいない草原で魔導陣を使って苦手な風魔術を練習していた。


以前セボリーは中二病の代表格のひとつ、空を飛ぶ事に憧れて体を浮かす風魔術の初歩中の初歩『浮遊』を練習していた事があった。

しかしスキルを持たない属性の魔術魔法は例え唱えたとしても発動できないことが多く、発動できてもその威力は無いも等しい。

セボリーは風属性のスキルを持っていないため『浮遊』を唱えたとしてもその効果は微々たる物で、少し体が軽くなったかな?程度の効果しか出なかった。

その後も諦めず根気良く練習し続けたが結局その効果は変わらずじまいで、エアライズのスキルを持っている公星がいつの間にか風魔術と風魔法を取得しておりセボリーは何度も枕を涙で濡らす結果となっていた。


「今度こそ、今度こそは…!風を切るように飛びたいがまずは体を浮かす事からだ…そのために精霊達がこの魔導陣を俺の元へともたらしてくれたのであろう!」

「モキュー…」

「どうした?俺が失敗して魔術が暴走するんじゃないかと心配でもしているのか?フフゥ!今までの俺とは違うのだよ!俺は魔導陣と言う技を手に入れたのだ!今度と言う今度は飛んで見せるぞ!!いざあの広い大空へ!!!」


そう言って書き上げた魔導陣に魔力を通すと魔導陣が書かれている紙が光りだす。


「アイキャンフラーーーーーイ!!!」


その瞬間、魔導陣が書かれた紙が一気に空の彼方へと飛び去っていった。


「……………………」

「モキュ?」

「…そうだった…術を施す対象を指定するの忘れてた…指定していないんだから紙自体に魔法の効果が出るのは当たり前だったな…テヘペロ♪よし!今度こそは!!」


今度は魔力で魔導陣を書き上げきちんと対象も指定する。


「さて、いざあの広い大空へ!」

「モキュー」

「何だその目は!?さっきのは予行演習だ!だから本番では同じ言葉を繰り返す!それの何処がおかしい!!」


ジト目でセボリーを見る公星を無視して魔導陣を完成させ魔力を通した。


「アイキャンフラーーーーーイ!!!」


セボリーは足元から湧き上がるような風の力を感じて必死に魔力のコントロールを行い、不恰好ではあるが体を2メートルほどの高さに浮かせる事ができた。


「よ、ほれ、よいしょ!コントロールが難しい!折角浮き上がったのにコントロールに全精力を注いでるから景色が見れん!!」

「モキュー♪」

「公星!やっとお前と飛べたぞ!でも今気を抜くと落下するか暴走するから集中させてくれ!ぶっちゃけ余裕が無いんだ!!」


セボリーと同じ高さに浮かび彼の周りを嬉しそうに鳴きながら回る公星、だがセボリーは必死で浮かんでおり公星に構う余裕は無い。

そのまま10分ほど浮かんでいるとだんだんと慣れてきたらしく、体のふらつきもなくなってきた。


「かなりしんどい。これはしんどいぞ公星。お前は眠りながら浮かんでる時だってあるのにな…どんな高等テクニック使ってるんだよ」

「モッキュ!」


……ペラ


どんなもんだい、と言わんばかりに胸を張る公星。

そんな公星の近くに先程の魔導陣が書かれた紙が落ちてきた。


「何これぇ?何で戻ってくるの?意思でも持ってるわけ?何それ怖い……って食うんかい!!」


そんな紙を公星はムシャムシャと食べ始めた。


「モキュ!ッキュー!!」

「え!?」


多分公星はエアライズでは無く紙に書かれた魔導陣を使い浮かび上がろうとしたのであろう、公星の体の周りに風が集まり始め、それと同時に公星の足は地面から離れた。

だが、10センチ程の高さまで浮いた瞬間…


「モ!?モキュウウウウウゥゥゥゥゥ……」

「こうせーーーーーーい!」


一気に浮き上がり、公星は空の彼方へと飛んでいったのであった。


その二時間後…

公星は飛び上がった場所へと戻って来れたが、とりあえず公星は無事であろうと踏んで一人帰寮したセボリーの置手紙に涙することになる。


『公星へ。おやつの時間過ぎたから今日お前のおやつ無しな。セボリー』

「モッキューーーーーーーー!!!」







『湖で水泳を。ポロリもあるよ』


「お!そうだ!もっと手足をバタつかせろ!」

「モ、モキュキュ。モキュ」


バシャバシャと音を立て水の中で手足を必死で動かす公星。

俺達は今、学園都市から出て1時間ほど離れた所にある湖に来ている。


何故来ているかと言うと、ユーリが生まれ育った国は雨季と乾季の差が激しく雨季の季節の川はとてもじゃないが泳ぐ事が出来ないほどに川は激流になり、乾季の季節はその川自体が干上がるので泳いだことが一度も無いと言うからだった。

フェスモデウス聖帝国はいくつもの大きな山や川の水源を誇り、一部の地域を除いては水が大量に存在する。

そのため水が豊富であり、サンティアス学園はもとより学園都市以外の学校でも体育の授業の水泳で泳ぎに親しんでいる。

そのため国民のほぼ全てが泳ぐ事が出来、かなづちの者など殆どいない状態であった。


「こ、怖いです!」

「直ぐに慣れる」


怖気づくユーリに同じ留学生であるヤンが問題ないと言うが、ユーリの水に足をつける姿がなんともぎこちない。


ヤンの場合生まれ育ったマハルトラジャ藩王国はチャンドランディア藩王国連邦の中でも水源が豊富であり、ヤン自身が王族で、住んでいた城の一角にプールが備付けられていたので普通に泳げるそうだ

そう言えば初等部での水泳の授業時は普通に泳いでいた記憶がある。


「大丈夫よユーリ。女は度胸よ!!」


そう言って自分がデザインしたビキニを着てゴンドリアがユーリを励ましていた。


無駄にスタイルが良いから見てしまうが、こいつは男だ。胸を隠す必要は無い。

下は見えないように布を巻いている。

正直パレオが無かったら攻撃魔法でも打ち込んでやっているところだが、本人もそこはちゃんと分かっているらしく腰にはブルーのパレオがしっかり巻かれていた。


ついでに今回の目的のメインであるユーリはショッキングピンクのワンピース型水着で、スカート部分にはフリルが大量にあしらわれているタイプだ。

二人の水着にツッコミポイントが多すぎて声大きく突っ込むことが出来ないのが残念だが、その姿は凶悪そのものであった。


俺は本日何度目かの現実逃避のために公星に水泳の練習をさせていた。


練習と言っても公星は泳げることは泳げる。

俺が風呂に入るときに一緒に入っているし、お湯に浸かる時は小さい桶の中にお湯を溜めてその中に入れていた。

しかし、こんな深い場所で泳がすのが初めてなので練習させていたわけだ。


ついでに水泳の練習に参加しているのは俺とゴンドリアとヤン、そしてユーリだけである。

残りのメンバーは各自自由行動をしている。

シエルはベッド型の浮きで水上日光浴を、フェディは湖畔で植物や動物のサンプルを採取し、ルピシーは湖に潜って食材を探していた。


数時間後、なんとかユーリも泳ぎのコツをつかめるようになり昼食時期に近づいてきた頃、ルピシーが採って来た食材と俺達が持ってきたスイカのような果物で昼食を取ろうとしていた。


「つ、疲れました…」

「じゃあ早速料理するわね」

「淡水湖だから刺身は無理か」

「寄生虫が怖いからやめたほうが良いと思う、うん」

「シンプルに塩焼きにしておく?」

「そうだな。簡単なのが一番美味い」

「薪もとってきたぜ!!」


魚を食べ終えて腹もくちくなった頃、食後のデザートで持ってきたスイカを切ろうとした時に俺はあることを思いついた。


「なぁ。これ目隠しして棒で割って食うゲームやらないか?」

「なにそれ?」


そう!スイカ割りゲームだ!!

俺は知っての通り前世では農家の息子である。

そんな俺は昔からスイカなど腐るほど育て、そして食ってきた。

ぶっちゃけ言ってスイカにそんなありがたみを感じたことは無かったのだ。

しかし!しかしだ!!

大学に入学するために上京して彼女や友達と海に行った時、俺はカルチャーショックを受けた。

そうスイカ割りだ!!

あのビーチで男女がワイワイ騒ぎながら楽しむゲームに俺は衝撃を受けた。

今までスイカとは夏に毎食のように食う甘味としか思ってはいなかった。

ありがたみなんて感じたことは無く、むしろ大量に育ちすぎてどう消費して良いか分らず困っていたほどである。

まぁ、その余ったスイカは母ちゃんがスイカ糖にして瓶詰めで売り出しかなり儲けたらしいが…母恐るべし。


とにかくあんな単純なのに何気に盛り上がるゲームも少ない。

それを今世でやろうというのだ!

男しかいないけど…


ちゃちゃっとスイカ割りの説明をし、シートを敷いてスイカを載せて準備を整えた。


「うし。スタンバイOKだ!やっほーーーい!!」

「何でセボリーこんなにテンション高いの?うん」

「最近研究が行き詰まってるからだろ?何も言わずに生暖かく様子を伺うのが正解だ」

「好き勝手言いやがって…よっしゃ!準備は整った!ルピシー!お前がやってくれ!」

「俺か!?」

「そうだ。このゲームは何気に難易度が高い。きちんとした方向感覚に高い集中力、果物を割る適度な力加減、そして何よりも美味しく食べたいと言う気持ちが大事なんだ!お前が適役だ」


そう言って布でルピシーの目を隠し、丁度良い棒が無いのでルピシーに鞘の付いた剣を持たせる。


「良いか、ちゃんと誘導に従えよ。さ~て皆様!寄ってらっしゃい見てらっしゃい!本邦初公開!スイカ割りゲームの始まりだよぉ!」

「また訳の分らない事言い出したよ、うん」

「いつもの事だよね」

「そうね。いつものことね」

「えぇい!煩い!じゃあ行くぞ!スタートォオ!ルピシー!まず剣を軸にして30回まわれ」

「おう!!」


良い返事を返しルピシーは回りだした。

回り終えると剣を構えふらふらと歩き出す。


「ルピシーさん!反対方向です!」

「ルピシー、もっと前だよ前!」

「ああ!左よ!左に行くのよ!」

「行きすぎだ!戻れ!」

「あれ?何気に楽しいかも、うん」

「こんなゲーム初めてです」

「これがスイカ割りの魅力ぞ!!!」

「だぁぁああ!うるせー!俺の勘でやる!!そこだぁぁああ!!」


仲間の言葉に振り回されるルピシーは、段々とイラついてきた様子で剣を振り上げた。


振り上げる前に数歩走って移動したのだが、近くにいたのはゴンドリアで…


「キャァアアーーーーー!!なにすんのよ!!」


見事にパレオに当たってパレオが取れ、パレオの下にあった水着もズレていた。


「ゴンドリア!早く隠せ!!汚いもの見せるな!!楽しいスイカ割の」

「元々お前が提案したゲームのせいだろうがぁぁあ!!!」

「鬼神が再臨したぞ!!皆逃げろ!!」


その後、水着を攻撃したルピシーとゲームを提案した俺は、当然ゴンドリアにボコボコにされた。

持ってきていたスイカのような果物も鬼神ゴンドリックが黄金の左手で殴り割り、見るも無残な姿になったのであった。

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