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第十二話 強くて偉い女王様

「えっ、何?」

「アカリがやろうとしてる事わかっちゃった! わたしも手伝うよ!」


 いや、オレは一人で戦うほうが楽だから手伝いとか別にいいんだけど……。なんて思っている間にもアオミの思う準備が進んでいく。

 そして、気が付けばオレは爆発ナイフを抱えたままボウガンのパイプへと押し込められていた。なんでも弾にできるくらいだから小柄なゴブリンくらい銃身に収まるってね。

 ……って、そんな事言ってる場合ではない。


「いや、ちょっ……何コレ!?」

「バネ式ジェットランチャーの勢いを使って捨て身の攻撃を仕掛けようなんてさすがだね、普通は思ってもできないよ」

「アオミさん? もしかして怒ってま――」


 ガコンと音がしてボウガンが勢いよく稼働した。


「おわああああ!」


 発明品の名前をぞんざいに扱ったから怒ったの? それとも悪意なく素でやったの?

 どちらにしてもアオミの作戦によりオレは弾丸となって飛んでいる。悪意の類は感じなかったから後者が有力かな。余計にタチが悪い気がするけど。


 ええい、こうなればやるだけよ! オレは凄い勢いで飛ばされながらナイフのスイッチを入れた。

 銃の扱いが上手いだけあってアオミの狙いは完璧だ。オレは赤熱を始めたナイフを構え、勢いそのままにギガスの首筋へと突撃する。全身全霊、パワーでもマギリアでもなんでも持って行きやがれと渾身の力を込めて突き立てた。

 ジュウと肉の焼ける音と臭い。刀身の長さを考えれば致命傷には至らないだろうが、その痛みは相当なものだろう。


「グルアアア!」


 ギガスは狂ったように暴れ始め、首に刺さるナイフを取ろうと手をのばす。


「おっと、まだもうちょいかかるんだ。待てでお願いするよ」


 しかしオレがそうはさせない。迫る手を切り払いナイフを死守する。そして時間を見計らってギガスの肩から大ジャンプ!


 ――しようと思ってたんだけど、予想外に爆発が早かった。


「やばっ……」


 予想外だったのは爆発までの時間だけでなく爆発の規模もだ。

 強烈な爆炎がオレの体を飲み込もうとしたその瞬間、自分の腹のあたりが妙に熱く感じた。炎で炙られているのだから当然かもしれないが、どうにも違うような気がする。なぜなら、気付けばオレはギリギリ炎の届かない範囲に脱出できていたのだ。


 ギガスは首のあたりが爆発によって大きくえぐれている。首の皮一枚なんて言葉があるけど実際には致命傷だよな。実際その通りでギガスはゆっくりと崩れるように倒れ、そして二度と動き出す事は無かった。


「ふう、終わったな」


 オレに大したケガはなく、勝利に安堵の息をふうっと吐いた。

 いやしかし、テンション上がってたとはいえこんなデカブツ相手によく戦ったもんだよ。


「アカリ、ケガはない!?」


 地面に座るオレの元へアオミが駆け寄ってくる。


「ケガはないけど、もうちょっとオレの話を聞いてから実行に移して欲しかったよ」

「あれ……? わたし、何か間違えてた? ご、ごめんね」

「まあ、勝ったからいいけどさ」

「ところでアカリ、さっき目の色が赤く……。あれ、いつも通りだね」

「何か変わってたか?」

「ううん、とにかく無事でよかった!」


 ほんと、ゴブリンの頑丈さは大したものだ。

 大立ち回りも終わったところでそろそろ帰ろうか。……いや待て、そう言えばオレはどうしてこんな所にいるんだっけ? 何か用事の途中だったような気がしないでもない。


 と、そこへ聞いたような声がオレに対しかけられた。


「やあやあ、お疲れさん」


 声の主はどこかで見たニヤケ面。派手なシャツにサングラスのあの女だった。


「あっ、お前……!」

「いや凄いね君、ずっと見てたけど術もなしにギガスを単独撃破できる子ってそういないよ~?」


 ここでオレの記憶が蘇った。思い出したい過去の記憶ではなく、弁当を盗まれたという直近の記憶なのが残念だが。


「こんにゃろ! さっきの続きやってやる!」

「あはは、スタミナも凄いね~」


 すると、女に飛び掛かろうとするオレの前にアオミが飛び出した。なんだよ、邪魔しないでくれ。


「ちょっと待ってアカリ!」

「止めないでくれ。こいつは弁当泥棒なんだ、ちょっと懲らしめてやらないと気が済まないんでね」

「この人が、クインさま! わたしたちゴブリンの女王様なの!」


 ……は?

 いやいや、そんなわけないじゃん。王様ってお城で立派な格好して政治とかしてる人の事でしょ? こんなチンピラみたいな格好でカジノにいるようなヤツなわけが……。


「どうもー、王様でーす。クインさまって呼んでね」


 ……ああくそ。この軽いノリに腹が立つ。


「そんな事言われてもな。そもそも本当にゴブリンなのかよ」


 この疑問には横でハラハラしているアオミが答えた。


「王族ゴブリンって言ってね、ゴブリンの中でも特に大きくて強い一族なの。その中でもクインさまは別格なんだけどね」


 王族ゴブリン……ねえ。種族を軽く超越しているような気がするぞ。


 信じがたい話に戸惑っていると、そこにもう一人誰かがやってきた。どうやらこの辺りを取り仕切っているらしきヒゲの老人だ。


「クインさま、ギガスを退治していただき有難うございました」


 老人の口ぶりからもこいつが王様だというのが真実だというのがわかる。ちゃんと街の連中から王として崇められてるみたいだ。なんか悔しい。

 あとギガスを倒したのはオレなんだけど。


「いいのいいの、民を守るのが王様の仕事だし」

「本当に助かりました。まさか街に三体ものギガスが現れるとは、クインさまがいてくださらなかったらどうなっていたか」


 ……え、何て言った? 三体だって? それってオレが倒したやつの他にも二体いたって事か。

 正直、新参者のオレにはそれがどういう事態なのかはわからない。だがわかった事もある。

 クインさまとやらはオレの戦いを見ていたと言った。それはつまり、残る二体を瞬殺してオレの戦いぶりを見物しに戻って来たって事だろう。

 ははっ……、こいつオレと戦った時は微塵も本気出してなかったんだな。


「どう? 信じる気になった?」


 老人が去った後、クインさまはサングラスを上げオレを見て笑う。


「わかったよ、あんたが底知れない強さだってのも理解したしな。信じるよ」

「そう、それじゃあ……」


 クインさまがぐっとオレに顔を寄せる。


「不敬罪で逮捕ねっ」

「……ん!?」


 その瞬間、首筋に何かが触れた感触があった。世界がグルリと回り、成す術もなくオレの意識はそこで途絶えた。

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