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第十話 お使い時々ケンカ

 メモに記された場所を目指し突き進む。だが……広い! 思ってたよりもこの街はだいぶ広いぞ。おまけに建物が歪だから道も迷路みたいで迷う!

 適当なやつを捕まえてメモの場所を聞いてみたりもした。住人は気の良いやつが多いようで親切に教えてはくれるんだけど、なにぶん道が複雑だから正確に理解できないのが難点だった。中には自分が住んでいる街なのにちゃんと把握してない連中もいたし。

 でもまあ、なんやかんやで近付いてはいる。賑やかな通りで道も少し広くなった、もう少しで辿りつけそう……な気がする。たぶん。


 また一人、道行く適当な通行人に尋ねてみた。


「なあ、ここに行きたいんだけど知らないか?」

「ああ、ムラーサの所か。その先の角を曲がった所にあるぞ」


 よしっ! オレの勘に狂いはなかった!

 教えてくれたおっちゃんに礼を言い、教えてもらった通りの角を目指し駆け出した。その角を曲がると……あった、それらしい建物が。メモに書かれた番地や特徴とも一致している、ここに間違いない!


 間違いない……んだろうけど、ここって何の店なんだろう。オレとしては料理屋にしか見えないんだけど。

 すると建物から一人のゴブリンが出てきた。

 いいタイミングだ、あいつに聞いてみよう。


「すまない、ちょっといいかな。ムラーサっての探してるんだけど、知らない?」

「ムラーサならワタシだヨ」


 わあ、ビンゴ。こいつだった。紫の髪をお団子に束ねたゴブリン、確かにムラーサって感じがする。

 おっと、用件を伝えないと。


「モモロモの代わりに来た、頼んである物を受け取りたい」

「ああ、モモロモの所ノ! 大変だったネ、ちょっと待ってテ」


 変わった喋り方だな。まあいいけど。

 急な事で疑われるかとも思ったけどすんなり話が通ってよかった。

 しかし……ムラーサってやつもエプロン姿だったし、やっぱりどう見ても料理屋だよなあ。準備中の札までかかってるよ。

 だがキーラとも繋がりのあるモモロモの事だ、こういった所でしか手に入らない薬の材料でもあるんだろう。


「お待たセ~」


 しばらくしてムラーサが戻って来た。

 手にはなにやら箱を持っている。これが貴重な素材か?


「はい、頼まれてた特製シュウマイ弁当だヨ」


 違った、弁当だった。


「お代、千六百ゴブルになりますネ」


 しかも代金はオレ持ちかよ! なんか高いし!

 ぐぬぬ……。おっといけない、歯を食いしばり過ぎて出血するところだった。

 幸いアオミに貰っておいたお金があったから良かったけど急にむなしくなってきた。なんでオレあんなに急いでたんだろうな?

 思い返したら腹が立ってきた、この弁当食っちまおうか。


 しかし頼まれ事を放棄するのも気が引けるし、なんだかんだ優しいオレは弁当を持って帰りの道を歩いている。手数料として何倍か吹っ掛けてやろうかな~なんて、ちょっとダーティな気持ちになりながら。

 急いでいたのがアホらしくなった分、帰りは余裕をもって歩いていられる。この辺りは店も多い、ぶらぶら覗いて回るのもいいかもしれないな。


 ――などと考えながら歩いていたその時だった。


「どうなってんだあ!? この店はよお!」


 いきなり耳に飛び込んできた大声。どこかで誰かが店にいちゃもんをつけているようだ。

 声のした方向に目をやると、煌びやかな看板と多くの機材が並ぶ謎の店が目に入った。看板の文字からしてカジノらしいけど、扉で仕切られているわけでもない店舗に乱雑に置かれたゲームマシンはどちらかと言えばゲームセンターのよう。


 で、さっきの声の主はそのゲームマシンに文句を付けているみたいだな。

 見れば派手なシャツを着た妙なやつが、店員らしきバニーガールのゴブリンに突っかかっている。どこにでもいるんだな、迷惑な客ってのは。


「さっきから全然当たりが来ねーぞ!」

「それはスロットじゃなくて占いマシンですから」

「そんな事はわかってる! でも今ここで大吉を三つ揃えてフィーバーさせた方が、ゴブリン社会の明るい未来に貢献できるってもんでしょうがい!」


 ……。

 違った、迷惑は迷惑だけどヤバい方向に迷惑なやつだった。


 どうしよっかな。正直なところ関わるのも気が引けるけど、店員さんも困ってるみたいだし。何より今ちょっと機嫌が悪いから暴れるのも悪くないかもって思っちゃってるんだよね。

 それじゃまあ、行ってみるか。


「なああんた、周りに迷惑だよ」


 迷惑客に近付き、座っている客のその背中に声をかけた。


「んん?」


 こちらに気付いた迷惑客が振り返りながら立ち上がる。

 サングラスに黒い姫カット気味な長髪の女……だけど、なんだこいつは。


「君、見ない顔だね~。どっから来たの? ゴブリンどうしアタシと政治情勢について語り合ったりしちゃう? わたあめ好き?」


 妙な事を言っているがそんなのはどうでもいい。……いや、どうでもよくない部分もあるか。

 こいつ……ゴブリンなのか? 耳とかそれっぽい特徴はあるけど、どう見てもデカい。おそらく百七十は余裕であるだろう。キーラは百四十ちょいのオレの事を大柄だと言っていたから、普通に考えればありえない体格だ。


「いや、あんたゴブリンじゃないだろ」

「……! ええ~、どう見ても可愛いゴブリンでしょうよ。そんな事言われるなんてちょっとショック、このままじゃ好きなスポーツとか聞き出す気分になれないわ」


 言葉の最初に一瞬間があったのが気になるが、言ってる事は相変わらずめちゃくちゃだ。

 どうしよう、ケンカも辞さないつもりだったのに相手のペースに巻き込まれちゃってやる気がなくなってきた。……アホらしくなってきたしやっぱ帰るか。


「……じゃ、オレはもう行くけどあまり迷惑かけないようにね」

「あらそう? んん~、やっぱムラーサの特製シュウマイは美味しいわ! 一緒に食べていけばいいのに~」

「どこからそんなもの出したんだ。……ん?」


 おい、ちょっと待て。お前の食べてるそのシュウマイ、本当にどこから持ってきたんだ?

 嫌な予感がして確認してみる。お、おいおい、肌身離さず持ってたはずのシュウマイ弁当が無くなってる!? なぜ? いつ!?


「おまっ、その弁当オレのだろ!」

「んー? 落ちてたからもらっちゃった」


 やっぱり、どう考えてもオレのだよな。

 あー……なんか腹立たしい事が思い出されちゃった。そんな事するくらいだから覚悟はできてるんだろうね。


「……ブチのめす!」

「ははん、いいよ。遊びましょっ!」


 怒りを露にするオレに対し向こうもやる気のようだ。面白い、余裕ぶってるその顔にキツいの入れてやるぜ。

 ……と見せかけて、最初は腹に一撃入れてやる。体格差もあるしな。


「おらっ!」

「ほい右」


 バシッとヒット音が鳴り、オレの拳が吸い込まれるように相手の手の中へと収まった。

 あれ? 確か腹を狙ったと思ったのに、どうしてこんなに狙いがズレているんだ?


「はい左、今度は右。もうちょっと早く~」


 それから何度拳を繰り出そうとも、狙いに関係なく次々にキャッチされてしまう。

 くそ、これじゃ稽古をつけてもらっているようなものじゃないか。


「こ、のっ!」


 狙いを変えて膝めがけた蹴りを放つ。今度は狙い通りに放つことができたものの、残念ながら相手の姿が無くなっていたので空を切る事となった。


「こっちこっち」


 呼ばれるままに振り返ると、いつの間に移動したのか少し離れた場所に座っているのが見えた。


「ねえ君、武器の扱いが得意な感じ?」

「ああ? あ、それは……!」


 女が手に持ったナタを眺めながら質問してきた。

 これまたいつの間に取ったのか、このナタもオレの持っていたものだ。


「また掠め取って行きやがって、返しやがれ!」

「もちろん。君がコレを使って本気出してくれるんならね」


 そう言うと女はナタをオレに向かって投げて寄こした。危険な行為だがオレの実力ならキャッチするのは問題ないとの判断だろう。実際そうだしな。


「お前も武器を使うって事か?」

「いいえ、使いませんことよ。アタシはいつも通りやるだけ~」

「舐められたもんだな。そう言われてもオレは優しいんだ、殺気も放ってない丸腰の相手に本気で武器を振るうほどイカれてないんだよ」

「えー、お姉さん素敵な君の事が知りたいのになあ。……じゃ、コレでどうかな」


 ちょっと残念そうにため息をついた後、女がサングラスに手をかけ少しだけずらした。

 ――その瞬間。


「……!?」


 思わず大きく後ろへ飛び退いていた。ザワザワと後頭部の毛がまだ逆立っている。

 な、なんだ今の!? とんでもない殺気の塊をぶつけられたような、心臓を思いきり握られたような、そんな得体の知れない感覚に体が自然と動いていた。


「君は殺気に敏感なんだね。アタシからも攻撃していけば本気出してくれるのかな~?」


 女はまた陽気な表情へと戻っていた。

 ははっ……、一瞬とはいえなんて目しやがるんだ。さすがに冷や汗が出たぞ。


 ……さて、そんなにも求められちゃ応えないわけにはいかないな。

 オレはナタの握り具合を確かめるように振った。


「リクエストに応えようじゃないか。後悔すんなよ!」



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