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46.忘れてた!


俺は今、四条家のリビングで何故かソファーに座り、ガチガチに緊張している。


『ちょ、ちょっとお部屋の片付けをしたいからここで待っててくれるかなっ!?』


そう言われてさっさと部屋に飛び込んでいった瑠璃を尻目に、俺は取り敢えず勧められたソファーに座ったのだがなんとも落ち着かない。


(初めて上がった瑠璃の家……。凄く綺麗な家だ。セキュリティ面でもしっかりしていて、落ち着いた雰囲気がある)


玄関のオートロック式の鍵や庭に監視カメラが設置されてることもあって犯罪の被害に遭う可能性は低そうなのは安心だ。


室内は母親があまり帰ってこないと言うのと関係があるのか家具はシンプルで使用感の少ない物が多く、あまり女性だけで住んでいる家とは感じない。


しかしそれと同時に、フワッとした花のような香りが鼻腔をくすぐりここは確かに瑠璃の家なんだと実感する。


思えば、2人きりで女の子の家に入ったのは初めてだ。美香とは幼い頃からお互いの家を行き来する間柄だったので、あまり女の子の家と言う感じはしなかったし親が一緒のことも多かった。


歴とした1人の異性の部屋に上がろうとしている。それに気付いてしまった為に、今頃になってそわそわドキドキしてしまっている。なんとも情けない。


(落ち着け、別に変な事をしにきた訳じゃないんだ。何をそわそわする必要があるんだ)


そう自分に言い聞かせ、考え事をして気を紛らわせる事にした。


(片付けって、何を片付けるんだろうか)


男だったら、ちょっとアレな本だとか散らばったゲームや漫画に脱ぎ散らかした服なんかを慌てて引き出しやクローゼットに押し込むシーンが想像できるが、瑠璃の部屋は普段から綺麗に整理整頓されているイメージがある。


まぁ、女の子と言うのは大変なのだ。ちょっとした髪の乱れや制服のスカートの長さなんかを数センチ、数ミリ単位で調整して完璧な見た目を演出したりするらしいからな。きっと瑠璃もホコリひとつすら気になるくらい綺麗好きなのだろう。


 ⌛︎⌛︎⌛︎


そんな事を思われているとは全く知らない瑠璃は、今更になって焦っていた。


(危なかったぁぁ!そう言えば今日は朝寝坊して慌てて家を飛び出したんだった!)


目の前に広がっているのは慌てて着替えた為に放り投げられたパジャマや、ベッドの上に置かれた寝落ちするまで読んでいた小説が………。


こんな所を見せて幻滅でもされようものなら、もう生きていけないかもしれない。そんな事を思いつつ全力で部屋を片付けて行く私。


実際この程度見られたところで晴樹は『瑠璃にもこんな面があったんだ。俺も片付け苦手だから何だか親近感が湧いちゃうなぁ』ぐらいの事は平気で言ってのけるだろうが、そこは微妙な乙女心、少しでも自分を良く見せたいのである————


(もう、昨日の私のバカバカっ!何でしっかり片付けてから寝なかったのっ)


過去の自分を叱責してみても部屋は片付かないが、そう思わずにはいられない。

何故今日に限って寝坊をしたのか。それは夜遅くまで恋愛小説を読み耽っていた為に、限界を迎えていつの間にやらアラームをセットする事もなく熟睡してしまったせいである。


それも主人公とヒロインがひたすらにイチャイチャラブラブするタイプの小説で、甘ーいセリフやちょっぴりHなハプニング有りのデートシーンを読んで自分に置き換えて悶絶していた事も思い出して恥ずかしいやら焦るやら大変だ。


しかもそんな事を思いながら寝落ちしたせいか、夢の中でまで晴樹とイチャイチャして、遂にこれから————と言うタイミングで目を覚ました。


『もう一度寝れば夢の続きが見られるんじゃない!?』


そう考えて夢の世界へダイブしようとするも、ウトウトするだけでそれは叶わなかった。そして気づけば遅刻寸前、半端に進んだ夢を見てしまったせいで悶々としてしまい、欲求不満なのかと自己嫌悪。


でも先に進みたいのも事実なので思い切ってアピールしてみた所、前向きな返事を貰えて一安心。……とは行かず、また別の懸念が湧き上がる。


(うぅ〜!はしたない子だと思われたらどうしよ〜!でも、嫌な顔一つしなかったし魅力的だって言ってくれたもん、大丈夫だよね)


ふと自分の身体を見る。スタイルは………悪くはないハズ。その、知識は全くと言って良いほどないし胸もそこまで無いのだが。


色々と悩んだが、こればかりはどうしようもないと悟り、瑠璃は考える事をやめ晴樹を呼びに行くのであった————


 ⌛︎⌛︎⌛︎


「お、お待たせっ」


「随分早かったんだな」


まだ10分かそこらしか経っていないが、瑠璃が戻ってきた。やっぱり問題がないか確認してただけなのかな?


「お客さんを長々と待たせるわけに行かないからねっ」


「突然押し掛けたのは俺なんだから、そのくらい気にしなくても良いのに。ただでさえ勉強教えてもらう立場だしさ」


「それを言ったら私が誘った側だよ!それに今まで散々お世話になってるんだから勉強教えるくらいじゃとてもとても……」


「いやいや」 「いやいや」


「「……ぷっ」」


「「あはははは!」」


俺こそ——私こそ——と何度目かのやり取りの後、急におかしく思えてきて2人して声を出して笑い合った。なんか、こんな他愛無いことで楽しめるって良いな。


「お互い感謝してるって事で良いよな」


「そうだね。どっちが〜とかじゃなくて、大事なのはどれだけ想ってるかだもんね。さ、勉強始めよっか!」


笑い合って緊張が解れたのか、瑠璃の部屋に入っても変に意識する事はなく机に向かう事が出来た。





…………嘘です。タンスの端から女の子が上半身に着ける衣類と思わしき布がはみ出しているのが目に入ってしまい、鋼の意思で机の上を凝視してます。


ここで変な態度を取って俺が気付いてることに気付かれたらまずいような気がする。どう考えたってこれは女の子にとって『絶対見られたくないもの』に入る物だろうからだ。


特に女の子に対しては、気付いたら言ってあげた方が良いことと、気付いたとしても触れてはいけない部分がある。何でも指摘することが正しい訳ではないのだ。


これは確実に後者だし、仮に指摘したとして『変態!』と罵倒されたりビンタされたりしてもおかしくないのでここは見て見ぬ振り一択だ。


「……くん、晴樹君、聞いてる?」


「あっ、ごめん!ボーッとしてた。何の話だっけ?」


気が付くと瑠璃が俺の顔を覗き込むようにして声をかけて来ていた。危ない危ない、早速怪しまれるところだ。


「何の教科からやろっか?って聞いたの!いったい何を考えてたの〜?」


「いやっ、瑠璃の部屋に入ったら緊張しちゃって……なんたって彼女の部屋なんだし」


「へ、変なこと考えてないよねっ?もう、早く勉強始めるよ!まずは苦手だって言ってた数学からっ」


なんとか誤魔化せたみたいだし、勉強に集中しよう。よし、まずは一人でやれる所までやってみるか!1から10まで教えてもらってたんじゃあ意味がないもんな。



〜数分後〜


「うぐぐぐぐ……!」


早速つまずいた。次のテスト範囲になりそうなところを重点的にやろうと思ったのだが、公式の説明文を読んでる時点で既にもう意味が分からない。


つーか、数学って将来何に役立てるんだよ。わざわざめんどくさい公式を使って答えを導き出すとかさぁ……。


「四条先生〜!助けてくれぇ〜!」


ついつい愚痴っぽくなる思考を打ち切って瑠璃に泣きついた俺。なんと残念な彼氏なのだろうか。


「今どの辺をやってる所なのー?あ、ここだね。確かにこれは難しい所だから仕方ないね」


「俺からしたら大体の問題は難しいんだよな……」


「でも、ここの辺りはちゃんと解き方を覚えたらもう簡単だよ。まずこれを——」


瑠璃の説明は簡潔ながらも分かりやすく、すっと頭に入ってくる感じだ。


「つまりこれがこうで………これで合ってるかな?」


「はい、正解です!よく出来ましたっ」


おお、なんと。解き方が分かるとこんなにも簡単に答えが出せるのか。


「しっかり解き方を覚られると、意外と数学って簡単なんだよ。答えがササっと出るようになると段々と楽しくなってきたりするしね」


「流石は四条先生………勉強になります」


「このくらいは出来なくちゃね。運動はからっきしだからせめて勉強くらいはと思ってやってきたから」


そうは言ったって馬鹿な俺にもここまで分かりやすく教えられるって、もしかしたら瑠璃は教師の才能があるんじゃないだろうか。スーツ姿で眼鏡な女教師の瑠璃……ゴクリ。って、馬鹿な妄想するんじゃない。


「やっぱ凄いよ瑠璃は。ともかく、これで解き進められる!なんか出来そうな気がしてきたよ」


それから暫くの間は、カリカリとノートにペンを走らせる音だけが静かな部屋に響いていた——

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