45.2人きりの帰路
投稿日の日付指定が間違っていました。ごめんなさい。
ドタバタの告白騒ぎから脱出した俺は、瑠璃に成績についての相談をしながら帰路についていた。
「勉強を?私が晴樹君に教えるの?」
「お願いできないかな?特に数学が苦手なんだよ………解けなかったら自分で調べられる暗記系の教科とかと違って、解き方が分からないとサッパリなのがなんとも………」
実際、現国や歴史なんかは高得点とは言えないかもしれないが、60点前後は平均して取れている。今時の小説や漫画なんかを読むだけでもある程度知識が付くからであって、勉強して取った点数では無いのだが。
「そう言うことなら任せて!これでも学年では上から数えた方が早いくらいの成績なんだから!」
「本当か!?助かるよ!……それに、彼女と勉強会なんて高校生カップルの定番って感じで、憧れてたんだよな〜」
喫茶店やファミレスなんかでのんびりとコーヒーとかを飲みながらノートを広げて、それぞれで得意な教科を教え合ったりしてさ。瑠璃には教えられそうもないけど。馬鹿でごめんね。
「そっ、そうなの?私も、晴樹君とだったら何だってやってみたい!」
「俺もだよ。色んな所行って沢山の事しような。勿論野球と完璧に両立してみせるけど!」
補習になって練習に参加できないとかなったら申し訳が立たないしな。それに、瑠璃に責任を感じさせるような事にはなりたくない。
「勉強ばかりは、瑠璃に頼るしか思いつかなかったんだけどさ……」
(晴樹君の役に立てるなんて!頑張って勉強してきて良かったぁ〜!さっきの『俺の瑠璃』ってのも聞き間違いじゃないよね!?どこまで好感度を上げるつもりかな!?)
ふいっと瑠璃がそっぽを向いてしまった。何か小声で独り言を呟いているようだけど………?
「おーい、瑠璃ー?」
「はいっ!貴方の瑠璃ですっ」
貴方の瑠璃って……さっきは勢いで小っ恥ずかしいこと言っちゃったかなとも思ったけど、気に入ってくれたんだろうか。めちゃくちゃ良い笑顔。
「本当に可愛いなぁ瑠璃は。誰にも渡したくない」
「私も、晴樹君以外と付き合うつもりなんてないもんねっ」
そう言って、指を絡めてくる。俗に言う恋人つなぎってやつだ。ただ手を繋いで歩いているだけだというのに、何故かとても満たされているような気分になる。
(渡したくない……俺の瑠璃…晴樹君だけの私……えへへへへ……)
すっごい幸せそうに微笑んで……ほわほわとしたオーラが漏れ出ているかのようだ。成る程、同級生の男子諸君はこれにやられてしまった訳ね……納得。確かに癒されるなぁこれは。
「それでさ、もし瑠璃が忙しくなければこの後早速……と思ったんだけど、どうかな?」
「もちろん大丈夫!折角晴樹君が誘ってくれたのに断る訳ないよ!」
「本当か?嬉しいけど、無理はしないでくれよな。こんな事頼んでる俺が言えた義理じゃないけど、それで瑠璃が体調崩したりするのは嫌だから」
「本当に大丈夫だよ。元々勉強の時間は取れてるし、人に教えながらやったほうが自分も覚えやすいらしいよ?って、テレビか何かの受け売りだけど」
それは俺も聞いた事がある気がする。なんでも、教える相手が理解できるように整理してしっかりと説明をする事で、自分の中での理解も深まるとかなんとか。
「それじゃ、お願いしちゃおうかな?場所はどうしようか。夕飯も食べるなら、ファミレスの方が良いか?」
あまり遠慮して気を使い過ぎるのも瑠璃に失礼だろう。断られたら断られたで、軽く凹みはするんだろうけど、瑠璃はそう言うところで嘘は付かないだろうと信じている。それに、逆に下手に取り繕わずしっかり言ってくれた方が安心できる。
「そっそそれなんだけどっ!もし、晴樹君さえ良かったら………私の家に来ませんかっ!?」
えっ、瑠璃の家で…………!?それって所謂お家デートってやつでは?つーか、テンパって口調がおかしいぞ、無理してないか!?
「で、でも……大丈夫なのか?梨乃ちゃんとか、お母さんとかは」
梨乃ちゃんは——知っててもおかしくないけど、お母さんにはきっとまだ俺たちの事報告してないよな?
「梨乃は今日お友達と遊んで帰ってくるから遅くなるって言ってたし、お母さんは休みの日以外あんまり帰って来ないから大丈夫。それとも、晴樹君は私の家に来るの、嫌……?」
「そんな訳ないだろ!その、いずれは……とは思ってたし、実際に言われたら凄く心が躍ってるし!行ってみたいよ!」
こんな美少女に涙目になりながら上目遣いで問われて、NOなんて答えられる人がいるだろうか。いや、いない。
なんか古文の授業で聞いたことあるような言い回しだね。もう勉強会が始まっていたのだろうか。
「それじゃあ、決まりだねっ!2人っきりで、ゆっくりお勉強しよっ!」
あ、もう軌道修正は効かないっぽい。現実逃避してる場合じゃなかった。
さらっと言ってくれたけど、女の子が誰も居ない自分の家に男子を呼ぶって、人によっては勘違いされかねない行動だからな?彼氏だから問題ないのかも知れないけど………いや割と問題な気がするな。
本当にそのつもりなのか、俺がそんな短絡的な行動はしないと思ってもらえてるのか。どちらにしても信頼の証だと思うと、嬉しいんだけどね。
「「………………」」
それから、お互い暫し無言。多分、俺が動揺して顔が赤くなったのを見て、自分の発言の危うさに気付いたのだろう、無言で俯いてしまっている。綺麗な黒髪から覗く耳が赤くなっているのを見るに、顔の方もきっと……。
「あの……瑠璃?一応俺も男の子な訳でして……あんまり無防備で可愛いと我慢できなくなっちゃうと言いますか……」
「しなくても……良いよ?」
「えっ?」
「我慢なんて……しなくて良いよ。私、晴樹君になら何をされたって幸せだもん!なんだったら、今すぐにでも構わないくらい」
そっか……そこまで思ってくれてたんだな。瑠璃といる時に別の女の事を考えるのは失礼だと思ってあえて思い出さないようにしていたけど……大事にし過ぎる余りにかえって美香を不安にさせた。
そんな不安を持たせない為にも言葉で、行動で示さなければいけないんだ。
「瑠璃は、凄く魅力的だよ。すぐにでも抱きしめて押し倒しちゃいたいくらい」
「晴樹くんっ?ななな何を急にっ」
どストレートに正直に返されるとは思わなかったのか面白いほど狼狽える瑠璃。
「だけど、しっかり準備をしてからでないと瑠璃に悲しい思いをさせちゃうかもしれない。だから、もう少しだけ……待ってくれる?」
主に心の準備とか、必需品の購入だとか。
「うん……待ってる。でも、早くしてくれないと私が我慢出来なくなっちゃうかもしれないからね!」
なんだか少しホッとしたような、それでいてガッカリしたような表情に見えるのは気のせいだろうか?
全く手を出されないのは不安だけど、狼のように襲い掛かられてしまうのもそれはそれで怖いとか思ってるのかな。
お互い初めての相手になるのなら、不安は当然あるだろう。そういった事の不安は破局に繋がりやすいと聞いたことがある。舞い上がって自分本意な行為にならないように気を付けないといけないな。
瑠璃が怖がったり、痛がったりしないように……瑠璃の事を第一に考えて事に及べるようにしたい。
「男としてそれはカッコつかないし、まずはテストでしっかり点をとって憂いを無くさないといけないな」
「そうだねっ。自分の為にもビシバシ行くから覚悟しておいてよね〜っ!」
「お、お手柔らかに頼みます四条先生…………!!」
そんな新たな決意と一抹の不安を胸に、瑠璃の家へと歩いて行く俺達だった————




