44.堂々と宣言
なっ………ななっ、何だって!?付き合ってください、だと!?
付き合ってください。つきあってください。ツキアッテクダサイ。
【付き合う】
①自分以外が何かをする時に一緒に行動したりする
事。
例として『買い物に付き合う』『無駄話に付き合う』等々。
②交際をする。恋人関係になる事。
男性から女性にこの言葉を伝える場合、通常②の意味を指す事が殆どだろう。つまり彼らは、意中の女性にアタックをかけていると言う事になる。
なるほどなるほど……….ってそうじゃねぇ!言葉の意味を考えてる場合じゃないんだよ。何故瑠璃が告白をされているのかが重要なんだ。
確かに、瑠璃はめちゃくちゃに可愛い。さらに性格まで良く、非の打ち所がないくらいの子だ。そりゃモテる。そんな子が俺の彼女だなんて誇らし——そう言うことでもなくて!
普通、恋人のいる子にアタックするなんてそうそういないだろう。そりゃ諦めずに突撃するやつもいるにはいるだろうけど、こんな数人が同時になんてあり得ない。
って事は、恋人がいる事を知らない?あるいは親しい人にのみ伝えている?
フリーだと思われているなら納得がいく。なんだろう、この何も悪い事はしてないのに気まずい気分は。どのタイミングで出ていけば——
「君は突撃しないの?」
「わひゃあぁっ!!」
突然後ろから肩を叩かれて、驚きのあまり情けない事この上ない声を出してしまった。体感10メートルくらい飛び上がった気がする。
「あははははは!見た目に似合わず可愛い悲鳴あげるんだねぇ、君!」
ほっとけ。
「って、君はさっきの。帰ったんじゃなかったのか?」
「いやぁ、何か面白いことになりそうだから見にいこうかと」
その為にわざわざ戻ってきたのかよ……。
「人の告白を面白がるなんて趣味悪いな」
「なんだよー、君だって覗いてるじゃんかー」
「いや俺は……タイミング逃して入りにくくなっちゃって。まさかあんな事になってるとは……る——四条さんって、前からあんなにモテるのか?」
この子、ただの同級生と言うよりは親しげな感じを受けたので、話題転換を兼ねて聞いてみる。
「んー……確かに前から人気はあったんだよね。あんだけ可愛くておしとやかなら、そりゃね」
やっぱりそうだよな。でも、何か含みがある言い方だな?
「でも、ちょっとした噂があったから。表立ってアピールされたり告白受けたりは無かったんだよね」
「噂?まさか良からぬ噂じゃないだろうな」
「ちょっとちょっと、顔が怖いって。そんな変な噂じゃないよ。好きな人がいるってのと、男の子が苦手なんじゃないかって話」
あぁ、良かった。そんな噂か………まぁ、7〜8割合ってるな。ただ、男子が苦手と言うよりはあいつらを思い出させる軽薄そうな奴が苦手なんじゃないか。しってか知らずか、告白してるのは真面目そうな奴等ばかりだが。
「へぇ……そうなんだ。それが何で急に告白されるようになったんだ?」
「元々男子にあんまり話しかけたりしない子だったんだけどね。最近になって、なんだかずーっと幸せそうな雰囲気でニコニコしてるのよ。その笑顔で挨拶とかされるもんだから、落ちちゃったのね……多分」
それって………いや、やめとこう。自分で考えるのは何か自惚れてる感じがする。
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実際、瑠璃は晴樹以外の男子には興味がなかったので最低限の挨拶以外で近づいたりはしなかった。更に晴樹と付き合う前の時折見せる儚げな雰囲気から男子の中でも不用意に接近するのは良くないと思われていたのだ。
それが晴樹と結ばれ、告白の言葉やあれこれを思い出しては幸せな気分に浸って無自覚に幸せオーラを振り撒いたことで…………
『(校内の)意中の男性と仲が進展したから上機嫌』
なのだと思われてしまい、最近瑠璃と挨拶や会話をした生徒が勘違いして告白に踏み切った。
初恋が実り多少の苦手意識も払拭されたことで多数の悲しい男子を生み出してしまったのは皮肉かもしれない。
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「ねぇ、急にボーッとしてどうしたの?行くなら早く行かないと、話終わっちゃうよ?」
ハッと我に帰った。そうだ、俺と瑠璃は恋人なんだ。何をコソコソする必要がある!堂々と宣言してやるくらいで丁度いい!
「そうだな。ちょっと行ってくる!」
そう告げ、瑠璃の元へ歩いていく。足音に気づき、彼等はこちらを一瞥するも興味無しと言うように瑠璃の元へ向き直った。瑠璃は無言だが目を見開いて驚いているのが分かる。
「それで四条さん、返事をもらえるかな?この中で誰が選ばれても恨んだりしないから」
「えと、あの………」
何で自分らが選ばれる前提で話してんだ!瑠璃は俺の彼女だ!!………そうか、俺が告白されるのを見てた瑠璃もこんな気持ちだったんだな。いや、これは分かっててもモヤッとするものがある。
「気持ちは嬉しいんだけど——」
「そんな!」
芳しくない雰囲気を感じたのか1人が瑠璃に詰め寄ろうとしたので、流石に見過ごせない。間に割り込む形で防ぎ、瑠璃に耳打ちする。
「ごめん……余計なお世話かと思ったんだけど、我慢できなかった」
「ううん、嬉しい。ちょっと困っちゃってて……」
「おいお前、今俺達が——」
急に現れた俺が気に入らなかったのか、さっきの男が剣呑な雰囲気で声を上げるが、それを遮るように告げる。
「大変申し訳ないけど、俺の瑠璃にちょっかいかけるのはやめてくれないか?」
「はぁ?てかお前誰?告白の邪魔しないでくれよ」
「普通に玉砕するだけなら邪魔する気はなかったけどな、手を出そうとするなら話は別。瑠璃は俺の彼女だ!手は出させない」
「は?何言って………四条さんに彼氏なんて話は」
「そっ、そう言う事なので!ごめんなさいっ」
そう言って瑠璃は急に俺の手を取り走り出した。唐突な恋人宣言に固まっていた男子達は——
「「「ええええええええええ!?」」」
大声を出して地面に崩れ落ちていた。なんかゴメン………。
正面玄関付近まで走ってから立ち止まると、再度声をかけられた。
「驚いた……。まさか君が瑠璃の彼氏だったなんて」
「あれっ、優子ちゃん?帰ったんじゃ……」
「いやぁ、モテモテ瑠璃ちゃんの告白現場を一目見ようと………」
やっぱり友達っぽい感じかな。それもかなり仲が良さそうだ。
「もう、恥ずかしいから来ないでって言ったのに!」
「なはは、ちょっと心配でさ!ほら、逆上して危ない目に合わないとも限らないじゃん?あの人数だし」
確かに、俺が止めたとは言えそうなってもおかしくはなかった。面白がってたわけじゃなく、この子なりに心配して見守ってたのか。いい友達じゃないか。
「それよりさー、紹介してよ!瑠璃の愛しの彼をさ」
「もう、優子ちゃんてば……!この人が私の初恋の人、高橋晴樹君です!で、こっちが篠崎優子ちゃん。高校に入って初めてのお友達」
「どうも、高橋晴樹です」
「篠崎優子でーす!気軽にゆうちゃんって呼んでね!」
いや、初対面の女の子をあだ名呼びはハードル高いって。
「さっきは自己紹介もしてなくてごめんね、彼氏さんだなんて思わなくて。いやぁ、瑠璃がまさかこんなイケメン君を射止めてるとは」
「……?どう言う事?優子ちゃん、晴樹君と何か話してたの?」
「瑠璃に会いたいからどこに居るか教えてほしいって言われてね。場所を教えたりしただけだよ」
「そうなんだ。晴樹君、何か用事でもあったの?メッセ送ってくれたら私が向かうのに」
「ちょっと瑠璃にお願いしたいことがあってさ……。まぁそれはメッセで良かったんだけど、会いに来たかったし、驚いてくれるかなって」
「私に会いに………嬉しい」
満面の笑みで腕に飛びついてくる瑠璃。そんなに喜んでもらえると来た甲斐があったってもんだ。
「うわぁ……あの瑠璃がこんなにデレッデレになるとは!私、ちょーお邪魔じゃん?お邪魔虫は退散しますかね……瑠璃、またねー!」
「あ、うん。またね、優子ちゃん」
篠崎さんはダッシュで帰っていった。清水と梨乃ちゃんを足して2で割ったような感じの、元気な子だったな。あんな子が近くにいるなら心配ないかも。
「それで晴樹君、私にお願いってなーに?何だって手伝うよ?………あっ、え、えっちなのはちゃんと準備させて」
「違っ!その、実は————」




