42.作戦会議?
「はぁ………現地で応援したかったなぁ」
現地というのは、甲子園の事。当然、彼を応援するために貯めたバイト代を使って出来る限り滞在するつもりだったのだが………親の許可が下りなかった。
(理由を説明できない私もいけないんだけどね……)
『前は甲子園の試合なんて中継見て満足してたでしょ?急にどうしたの』
と問われ、口籠ってしまったのが良くなかった。正直に彼氏が出場するから応援に行きたい!と言えば良かったのかもしれないけど、まだ気恥ずかしくて報告できていない。
沙織ちゃんは部活で忙しく、真中君みたいな他の男の子と行くのは抵抗がある。かと言って高校の友達に野球好きな子はいない。結局、理由も一緒に行く人も用意できなかった私はお母さんを説得できなかった。
【それじゃあ仕方ないよ。俺だって瑠璃が1人で居るなんてナンパされたりしないか心配だもの。テレビの向こうで瑠璃が応援してくれてると思ったら俺頑張れるから!】
晴樹君はそう言ってくれた。私がナンパなんてされるかなぁ?と思ったけれど、心配してくれるのは嬉しい。向こうに届くように私、精一杯応援するからね!
とそんな事があり、夏休みだと言うのに家で甲子園の中継を見ている。現地に行く気満々だったので、課題は既に終わらせていて時間は沢山あるし、梨乃もまだ夏休みで家にいる。殆ど遊んでばかりなので心配に思わなくもないけど、中学生の頃なんてそんなものだよね。そして最終日に半泣きで課題に手を付け始めるのだ。
「おはよ〜瑠璃姉………こんな早くから何見てんのぉ……?」
梨乃が起きてきた。が、きっと遅くまで本を読むかゲームでもしていたのだろう。まだ寝ぼけている様子だ。
「おはよう梨乃。もう10時過ぎだから全然お早く無いけどね。あんまり夜更かしばっかりしてると学校始まった時大変だよー?体にもよくないし」
「大丈夫大丈夫……授業中に寝れば生活リズムくらい……ふわぁ…」
それは全然大丈夫とは言わないんじゃないかなぁ。ちゃんと授業は受けなさい!後々苦労するのは自分なんだよ?……まぁ、この子は賢いから本気で寝ればいいと思ってる訳じゃなさそうだし、あまり厳しくは言わないけどね。
「とりあえず顔でも洗って来なさい。暇ならその後一緒に試合でも見ましょうか」
「ん〜〜。そうする…………ん?試合?甲子園?もしかして高橋くんの試合!?こうしちゃいられない!顔洗って来るね〜〜〜!!!」
急にカッ!と目を見開いたかと思えばバタバタと慌ただしく洗面所に向かって行った。
「お待たせっっ!もう試合始まっちゃった!?」
「まだ始まったばかりだから大丈夫よ。先攻だからこれから投げる所」
相手のチームも投手がすごく良いようで、投げ合いになるんじゃないかなんて予想もされているらしい。実際その通りのようで、6回までお互い譲らずの攻防が続いていた。
「はぇ〜、やっぱスッゴいんだね高橋くんって。あれで顔も性格も良いなんてとんでもないよね」
「本当だよねぇ。あんな人が私の彼氏なんて信じられないくらい」
未だに夢を見てるような気分なんだよね。あの日を思い出すだけで幸せな気分になってきちゃうし!
「呑気なこと言ってちゃ駄目だよ瑠璃姉ー。これで益々人気者になっちゃうんだから、ガンガン攻めていかないと横から掻っ攫われちゃうかもよ?」
「晴樹くんが浮気なんてするはずないもん!」
「もんて……歳上のスタイルの良いお姉さんに無理矢理迫られてあんなことやこんなことされて。高橋くん真面目だから責任取らなきゃ……!とか言い出したりして……」
確かに、晴樹くんにあしらわれて業を煮やした肉食な子達が強引な手段に出ないとは言い切れないかも……。
「そんな……嫌だよぉ。せっかく初恋が実ったのに……でも晴樹くんが幸せなら私はそれで……。やっぱりやだぁ……グスッ」
「そっ、そんな弱気じゃ駄目だよ瑠璃姉!色仕掛けでも甘え倒すでも何でもいいからゾッコンにしちゃえば良いんだよ!」
姉を焚きつける為の冗談だったのだが、予想以上に真剣に考え始めてしまい困惑する梨乃。あちゃー焚きつけ方ミスっちゃったかな。と冷や汗を流しながらフォローするのだった。
「だってこの間貧相な体って言われちゃったもん……男の子って色々ボリュームがある方が好きなんでしょ………」
「そうとは限らないよっ!瑠璃姉だって大きくはないけど微にゅ……美乳と言えるスタイルだと思うし!なんなら『男の子って胸が大きい方が好きなんでしょ?私はそんなにないから……晴樹くんに大きくして欲しいな♡』とか言って迫っちゃえば!?」
晴樹くんから優しげな声色で『瑠璃……俺もう我慢できないよ』なんて言って迫られたら私もう………!狼な晴樹くんにメチャクチャにされるのも悪くないかも……。
「おーい……帰ってきて瑠璃姉〜」
「はっ!?ダメダメっ!そう言うのはもっと段階を踏んでからするものよ!そりゃあ晴樹くんが求めるならいつだって受け入れちゃうけど……」
「満更でもないんじゃん……でも、時と場所は弁えてよ?路地裏とか、学校の校舎裏とかでしちゃ駄目だよ?」
「そっ、そんなこと出来る訳無いじゃない!もう、ふざけたこと言ってないで試合見ないと!」
あれこれ言い合ってる間に、試合はもう最終回に入ってしまっていた。1点リードの状況で相手の最後の攻撃だ。
「あっ、高橋くん交代しちゃうんだ」
「やっぱり慣れない暑さとキツい投手戦は疲労も桁違いなのかなぁ……でも先輩さんだって良い投手なんだもん、心配ないよ!」
「いや、瑠璃姉それフラグってやつじゃ………」
「「あっ」」
何と2アウトからエラーで出たランナーを置いて、6番バッターの打球はレフトスタンドへ……まさかの逆転サヨナラ2ランに先輩さんはマウンドで崩れ落ちてしまった……。
「高橋くん達……負けちゃった……」
「あんな漫画みたいな事があるんだね……晴樹くん、落ち込んでるかなぁ」
「それだ!チャンスだよ瑠璃姉。『元気出して晴樹くん……私が励ましてあげるから♡』とかって抱きついて」
「だから無理だってばっ!ハードルが高いよ!」
でも元気付けてあげたいのは事実なんだよね。どんな事してあげたら喜んでくれるかな。晴樹くんも男の子だもん、やっぱりちょっとえっちな………無理。恥ずかしくて死んじゃう。差し入れとか、お料理とかが無難かなぁ?
「まぁ色仕掛けとかは冗談にしてもさ。どんどんアピールして仲良くなってよね!私だって高橋くんの事好きだったけどさ、瑠璃姉みたいに励ましたり一緒に何かしたりなんて出来ないし。その分2人がラブラブで居てくれたら私も嬉しいし、辛いのも忘れられるから」
好きって、えっ?梨乃が晴樹くんの事を?それって異性としてって事よね?じゃあ、梨乃は自分の気持ちを我慢してまで私の事を応援してくれてたの?
「ごっ、ごめんね梨乃!私、あなたの気も知らないで惚気話したりして……そんなつもりじゃなかったの、ごめんなさい」
「良いの良いの!好きでやってるんだし、家事も仕事も出来ない私にはこれくらいしか出来ないもん。でも、絶対高橋くんを悲しませるような事はしないでね?そんな事したら瑠璃姉でも怒るよ」
そんな風に思ってくれてたんだ……やっぱりこの子は賢かった。お調子者なのも、演技で………。
「うん、誓う。絶対晴樹くんと添い遂げられるように頑張る!………え、えっちな事は別だけど」
「締まらないなぁ……瑠璃姉だって密かに人気なんだから、告白の断り方も考えておいた方がいいよ?この間私を迎えに来てくれた時、クラスの男子とかに問い詰められて大変だったんだから」
えっ、嘘でしょ?晴樹くん以外に告白なんてされても困っちゃう。と言うか、いきなりそんなこと言われてもまともに受け答え出来る気がしないんだけど…………!?




