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41.幼馴染みとの決別


最近、何だか隼人が冷たい気がする。


夏季大会のベンチ入りメンバーなのもあって忙しいのかもしれない。でも、それにしたって素っ気ない。そう感じるようになった。


以前なら、結構な頻度で他愛のないメッセージを送ってくれたり、デートにも向こうから誘ってくれていたのに………最近はほとんど出かけたりもしていない。


極め付けは、先日の決勝戦。完膚なきまでに晴樹に叩きのめされ意気消沈していたのかもしれないが、久方振りに約束したデートも簡単に中止にされてしまった。



才能にかまけてエースナンバーを取れないばかりか、格下と侮っていた男に完敗し、不貞腐れて手抜きをするようでは先はないだろう。


元々、寂しさを埋める為だけの関係の筈だった。晴樹は野球が最優先だったのでその邪魔はしたくない。でも、女の子としては普通にデートしたりイチャイチャしたりしたかった。


撫でてくれたり、自分から手を繋いでくれたりする事はあった。でもキスやその先……男女としての関係は一向に進む気配がなかったのだ。


だから、不安を覚えた。


『晴樹は私の事を女として見ていないのかも。仲良し幼馴染みの延長線としか思われていないのでは?』



そんな思いを抱え始めた頃だった。隼人と出会ったのは。最初は、中学生最後の試合の後に晴樹を労おうと球場の外で待っていた時だった。


『誰かを待ってるの?』


『えっと……貴方は、晴樹の対戦相手の?』


『見ててくれたんだ。嬉しいな!晴樹って、もしかして高橋君?てことは、彼女さんかな?』


爽やかな笑顔で話しかけられて、つい晴樹のことを忘れ普通に会話をしてしまった。


『うん。きっと落ち込んでるだろうから励ましてあげようかなって』


『優しいんだ。……ねぇ、僕と付き合わない?君に一目惚れしちゃった』


その時は、すぐに断った。だけど、連絡先を交換して何度も連絡をする内に、悩みを相談することになった。


『………って感じでね。私、女として魅力ないのかなって思っちゃったの』


『魅力が無いなんて、そんな事ないよ。凄く可愛い。ねぇ、お試しで良いからさ。僕と付き合おうよ。それで、決心がついたら本物の彼女になって欲しい』


イケメンで、晴樹にも勝った相手にそんな風に求められて、私は舞い上がっていたのだと思う。お試しだったら………バレなければ……そんな事を考え、了承した。高校でも野球を続けるのだから、その後でどっちを選ぶか決めようと。


でも、心の中では晴樹に気持ちは向いたままだった。だから、晴樹に別れを切り出された時は本気で焦っていた。隼人の悪口に同調して気を引こうとしてみたりもしたけど………しきりに身体を求めるような素振りを見せられ、後悔した。


(やっぱりもう、終わりにしよう)


晴樹は宣言通りに凄い結果を残した。今もう一度攻めれば、きっと受け入れてもらえる筈。隼人とはキスまでしかしていないから、バレる事もないだろう。



隼人との別れを切り出そうと彼の学校に顔を出したのだが…….グラウンドには誰も居ない。今日は部活はしていないのだろうか?きょろきょろと周囲を見渡していると……


「……紺野?」


「あれっ、真中君?随分と背が伸びたんだね。ちょうど良かった、天城君っているかな?」


良かった、顔のわかる人が居た。すぐに呼んでもらえるだろう。そう思ったのだが。


「天城は、いないよ。もう学校にはね」


え…………?学校には、居ない?


「ど、どう言うこと?あ、今日は体調不良でお休みとか!?それならそうと…」


「そうじゃない、あいつは学校を辞めたんだ。他校の子を脅迫して無理矢理に行為をしたのがバレてね」


「そんな……私だけだって、そう言ってたのに」


じゃあ、もし受け入れてたら、私も……?そう思うと怖くなった。


「騙されてたんだろ。それに釣られた馬鹿な君も同罪だけどな。何よりアイツを傷付けた事は絶対に許さない」


アイツ………?もしかして、晴樹?まさか……!


「晴樹も俺も、最初から全て知ってるよ。君が二股をかけていたことも、キスをしてた事も罵倒するような発言も、余す事なくな!」


「っ!!!」


自分から血の気が引いていくのが分かった。全部バレている……!?じゃあ、晴樹に別れを告げられたのは…….もしかして。


「だから、あいつの気持ちはもう君に向くことはありえない。最後まで罵倒すらしようとしなかったのは甘すぎると思うが」


聞きたくない。信じたくない!


「そんな、嘘!だって晴樹は野球に集中する為だって言って別れた!きっと私の気を引くためにそんな事したの!」


「それは君への最後の情けだ。晴樹にはもう新たな目標も大切な人も見つかったんだ。君が出る幕はもうない。お終いだよ」


「嘘嘘嘘!!晴樹が私を見捨てたりする訳がない!絶対信じないから!」


そうだ。きっと彼は私の邪魔をする様に誰かに頼まれてるんだ。そうに違いない……!


『あーあ……ずっと一緒だったから気付けなかったのか?君に向けられていた優しさは、一番大切な人にだけ向ける特別な好意の現れだったのに。それを裏切った。自業自得だな……って、もう聞こえてないか』


走り去る彼女に投げかけられた呟きが届くことはない。そして、その裏切りによって大切な人の枠から外れてしまった彼女に、晴樹が優しさを向けることはもうない。それに気付かないのは彼女だけである。




『悪い、紺野を追い詰めすぎたかもしれん。もしかしたらそっちに行くかも。気を付けろ』


光からそんなメッセージが入っていた。こっちに来ると言っても……もう美香に対して何の好意もないし、どうでも良いんだが。


「どうしたの、高橋君。何の連絡?」


「あぁ、光からなんだけどさ………」


掻い摘んで光からの連絡の内容を伝えると、四条も厳しい顔になる。


「勝手すぎるよ……!自分で裏切っておいて今更元の鞘に収まろうだなんて!彼女として、一言言ってやらないと気が済まないよ!」


「気持ちは嬉しいけど……逆恨みで何かされたら危ないからな。俺がメインでしっかり話をする。今の俺の彼女は四条で、もう離れるつもりはないってな」


「高橋君……もうっ、カッコよすぎだよ!」


そう言って腕に抱き付いてくる四条だったが……何かに気付いて立ち止まる。つられて俺も立ち止まり、後ろを振り向くと………


「晴樹…………その子、誰?」


「美香……。この子は四条瑠璃。今の、俺の彼女」


「ふーん。ま、良いや。それより、甲子園出場おめでとう晴樹!凄かったよ!これでまた私と付きあえるね?」


何を言ってるんだ?さっきの話、聞いてなかったのか?


「ふざけんな。俺の彼女は瑠璃だけだ。もうお前と付き合う気はない!」


「そんな演技しなくても分かってるって!私の気を引きたくて恋人のフリしてるんでしょ?そうじゃなかったらそんな貧相な体の子を好きになるはずないもの」


「俺達は本当の恋人だ。第一、体どうこうなんてくだらない事で俺が女の子を選ぶ訳がないだろ」


「嘘!!だって野球に集中したいって言ったじゃない!私に良い所を見せて気を引きたかったんでしょ!?そうだって言ってよ!」


なんだ?どうして美香はこんな情緒不安定になってるんだ?困惑する俺を他所に、ずっと黙っていた四条が口を開いた。


「ははーん。さては浮気相手の彼氏さんに見捨てられちゃったのかしら?どっちが本命だったか知らないし興味もないけど。それで慌てて有名になり始めた元カレに擦り寄って来たの?」


「なっ……!!」


煽るような発言に、美香が顔を真っ赤にして反応する。


「あら、図星?だとしたら随分と身勝手ね。自分を大事に思ってくれる晴樹くんを裏切って傷つけておいて………自分は楽しく男遊び。その間晴樹くんがどれだけ苦しんだか貴女に分かる?」


言葉の端々から抑えきれない怒気が滲んでいるのを感じる。どうやら、かつてないほどに怒っているらしい。


「それは、だって……!寂しかったの。晴樹が何もしてこないから!女として見られてないんじゃないかって………こうしたら晴樹が嫉妬して、もっと激しく求めてくれるんじゃないかって!」


なんだよ、それ。そんな理由で俺は裏切られたのか?四条も同じ事を思ったようで、怒りにプルプルと震えているのが分かる。


「そんな理由で……?そんなくだらない事のために晴樹くんを傷付けたの!?ふざけないでよ!」


「くだらなくなんか……!」


「そんなの、自分でどうにかしたら良いじゃない!自分から迫る事も、共通の友人に相談する事も出来るでしょ!?そもそも、晴樹くんに相談すれば真摯に応えてくれるはずなのに!それすらせずに二股なんか……大好きな子がそんなことして、怒り、悲しみ、呆れ。それ以外の感情なんか出る訳ない!」


あまりの剣幕に、美香さえ言葉を失っている。これ以上は良くないと思い、二人の間に割り込んで話を引き継ぐ形を取る。


「瑠璃の言う通りだよ、美香。正直、あの時は失望と怒りで狂いそうだった。だって、俺はしっかりお前に想いを伝えて来たつもりだったから」


「だって……キスの一つもしてくれなかったじゃない!」


「覚えてないか?2年の秋くらいだったかな……帰り道、そういう雰囲気になった事があったろ?あの時、俺はお前にキスをしようとしたよ。でも………お前が震えてるのを見て、止めた。あのまましてたら、お互い後悔すると思ったから」


美香も思い出せたのか、目を見開いている。


「その時、焦らずに行こう。俺達はまだ一緒にいられる時間が沢山あるんだから、ゆっくり関係を進めようって言ったと思う」


「………私とはキスしたくないんだって、そう思って」


「そんなはずないだろ。大好きな彼女だったんだから」


そう………()()()。あんな事をされて許せるほど俺はお人好しじゃない。


「貴女、幼馴染みなのに何も分かってないのね。彼がそんな嘘をつくはずがないでしょう?まぁ、ちょっとヘタレだけど………でもそれは大切に思ってくれているからこそだって何で分からないの?」


「うるさい!だったら、私の思いにも気付いてよ!」


「晴樹くんは、言葉にして伝えたでしょう。それに対して貴女は何か本音を伝えたの?察してちゃんで気付いてもらえる訳がないでしょ」


再度投げかけられた四条の発言に返す言葉がないのか、黙って俯いてしまう美香。てか、俺なんか貶されてる気がする。汚名返上していかないと………!


「うるさい……!アンタが余計な事吹き込んだんでしょ!?私に良い所見せようとした晴樹に助けられただけの癖に!アンタなんかずっと虐められてれば良かったのよ!」


四条に向かって振り上げられた手を、咄嗟に握り潰すようにして掴む。今、なんて言った?ずっと虐められてれば良かっただと……?どうやら会話で穏便に収めようとしたのが間違いだったようだ。


「良い加減にしろ!お前がそこまで最低な奴だとは思わなかった。もうお前とは関わりたくない」


「晴樹…………?」


初めて向けられる俺の怒りに、絶望したような表情の美香。


「寂しい思いさせたのは悪かった。気付いてやれなかったことも!だけど、俺の彼女まで貶すのはやめろ。瑠璃に手を出したら絶対に許さない」


「ご、ごめ……ごめんなさい……!もう二度とこんな事しないから……!!晴樹の事だって疑ったりしないから……だから!」


四条を抱き寄せた俺を見て、慌てたように謝罪をし始めた美香。けど、もう遅いんだよ。


「これが最後だ………美香」


「嫌ぁ………嫌だよ…!見捨てないでよぉ……晴樹ぃ……!!」


「さようなら」


泣き崩れた美香を尻目に俺達は帰路に着く。もうこれで本当にお終い。幼馴染みどころか友人ですらない。あいつがこの先どんな道を歩もうが、俺には関係のない事だ。



「ごめんね、高橋君。結局我慢できなくて口出ししちゃった。それに、見せつける為に名前で呼んじゃったのも………」


「良いんだ。俺の為に怒ってくれたんだ、嬉しいに決まってる。俺もどさくさ紛れに名前で呼んじゃったしな」


多分そうだろうなと思って意図的に名前で呼んでみたが、正解だったようだな。


「あの……もし良かったら、これからは名前で呼んでも良いかな?……晴樹くん」


「あぁ、勿論。俺も呼ばせてもらうよ、瑠璃」


あれだけの言い合いをした後にこんな話をしてるのが照れ臭くて、二人して笑ってしまう。


「因みに、私はいつでも準備出来てるからね?」


「準備ってなんの……んむっ!?」


突然、瑠璃が唇を重ねてきた。軽く触れるだけだったのに、感触をしっかりと感じてしまった。


「おまっ、いきなり!」


「待ちきれないから私からしちゃった!でも晴樹くんにされる事なら怖くなんてないから。たまには晴樹くんから来てくれると嬉しいな」


顔、真っ赤じゃないか………でも、そんなに想ってくれてるんだよな、瑠璃は……。


「なぁ、瑠璃」


「なーに、晴樹く……んっ!?」


「さっきの仕返し。俺ももう遠慮しないから」


さっきよりも長く口付けを交わした。爆発しそうなくらい真っ赤になりながらも、幸せそうに笑う瑠璃を見て………今度こそ寂しい思いなんてさせないと、そう誓った。














更新が遅くなって申し訳ありません。


今後は野球に関しては軽く済ませつつ、晴樹と瑠璃二人の話を書く予定です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] なんで寝取られたのか良くわかるご都合加護付き聖人系主人公w [気になる点] 女だからって主人公の対応が甘過ぎて胸糞悪いわ、、、 もっと酷い目に合わせないと浮気繰り返して相手のためにもならん…
[一言] その後の浮気クズ二人も見たいな。
[一言] キスまでしかって頭イカれてるの?よくまぁこんなもん女と付き合ったもんだ
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