39.夏祭り 前編
(………はぁ、まさかあのタイミングで俺に告白してくる子がいるなんてなぁ)
結局、あの後四条と話す事は出来なかった。と言うのも、木下さんと言う女の子の告白をどう断ろうか悩んだ挙句、下手に取り繕っても傷つけるだけだと思ってストレートに伝えようとしたのだが……
『ごめんね、気持ちは嬉しいんだけど……俺、好きな人がいるんだ。だから君の気持ちには答えられない』
『ううっ、じゃあじゃあ!!せめて連絡先だけでも教えてくださいっ!そしたら潔く諦めますから〜っ。お願いじまずぅぅぅ!』
泣きながら懇願され、あまりの勢いに押され連絡先を教える事になってしまった。これで諦めてくれるん……だよな?
そして、断るのに時間をかけ過ぎて呼び戻されてしまい、そのままバスで学校に戻って解散になったので四条と話すことができなかったという訳だ。
(なんとかして、甲子園が始まる前に返事をしたい)
幸いにも、この地区は他と比べて予選の終了が早かったので、2週間程は時間がある。さらに慣れない甲子園の気温や湿度で体力を奪われやすい為、練習を軽めにして体を休められるようにしてくれている。どこかのタイミングで四条を誘えると良いのだが………。
どう誘ったものかと頭を悩ませていると、着信が入った。表示された名前は……光か。
「もしもし、どうした?」
『おー、こないだはお疲れ。ったく、試合前は俺のこと無視しやがって!完敗したから何も言えねえのがまた悔しいが』
「悪い、集中しすぎて気づかなかったんだよ。んで、本題は?そんなこと言うために連絡してきたんじゃないだろ」
「あぁ。もしタイミングが合えばだけどよ、夏祭りに行かねえか?沙織は誘ってあるから、四条さんも呼んでさ」
夏祭り!そうか、その手があったか!確か週末に初詣で行った神社とその周辺でお祭りがあったはずだから、その事を言っているんだろう。
最後にはかなりしっかりとした花火があったと思うから、そこで返事をするのはどうだろう。
「良いな、それ!そこでだ光、親友のお前を見込んで頼があるんだが………!」
『なんだぁ?ははぁ、さては四条さんに告白されて、その返事を夏祭りでしたいから協力してくれって?』
「何で分かった!?エスパーか!?」
『いや、分かり易すぎだからお前!んじゃ、適当なタイミング見計らって2人きりになれるようにしてやるよ』
そこまで簡単に理解されるとそれはそれで恥ずかしいんだが………まぁいい。
「すまない、助かるよ」
『貸し一つ、だからな?今度は俺の時に協力してくれ。……そういうことなら、沙織を通して誘った方が良いな』
こいつなら上手くやってくれるだろう。さて……俺は俺でどんな返事をするかしっかり考えようかな。
――――――――――――――――――――――――
夏祭りの当日。夕方に駅前集合の約束だったが、まだ姿が見当たらないが……あ、来た来た。
「おーい、光!」
「晴樹か、すまん待たせたな!」
「ごめんねー、ちょっと私と瑠璃の浴衣の着付けに時間かかっちゃって!」
「遅れてごめんなさい、高橋君………高橋君?」
そう言って3人が謝ってくるが……言葉が出ない。
うわ………浴衣すっげぇ似合ってる!薄紫の花柄って言うのかな?とにかく可愛い!
「…はっ!?いや、俺も今来たばっかりだから全然大丈夫!!」
慌ててごまかしたが、清水が何やらニヤニヤしながらこちらに寄ってくる。
「はっは〜ん、さては高橋ぃ、今瑠璃に見惚れてたねっ!?」
ばっ!声がでかいっ!………ほれ見ろ、四条が俯いちゃったじゃないか!
「ま、私が選んだんだから当然だね!それで?私の浴衣はどうよ?ほれほれ〜」
「清水も似合ってるよ。……でも清水は俺より褒めて欲しい人がいるんじゃないのか?ん〜?」
「ちょばっ!何言ってのそんな訳ないじゃん!やだなぁも〜!ほらさっさと行くよ〜!」
ちょっとからかい返しただけなのになぁ。チラッと光を見て『褒めてやんないの?』と目で訴えるも無理無理無理!とジェスチャーで返される。なんでこう言う所は奥手なんだよ。
「あっ、待ってよー沙織ちゃん!」
便乗するみたいに四条もついて行ってしまった。
「俺たちも行くか」「そうだな」
さて、どのタイミングで切り出そうか……出来たら花火は二人で見たいなぁ。それまでに上手く行くかな?
とりあえず、久しぶりの夏祭りを楽しもう!
「うわぁ、結構スゴいもんなんだな……」
そんなに大きなお祭りじゃないと思っていたのだが、相当人が来てる上に歩行者天国になって警備員なんかもそこら中に待機しているようだ。
でもその分、出店や出し物なんかもかなり多くて期待できそうだ!………ってあれっ?光は?
『おっちゃん、焼きそば2つ!』
早速焼きそば屋に突撃してやがる!しかも2つ買っといてもう半分食い終わりそうだし!
『光〜、いきなり焼きそば?もっと色んなところ見てからにしようよ』
『まだまだ食えるから大丈夫だ!それに、他の店より美味そうだったし』
『……確かに美味しそう。私も買ってこようかな』
『ん?沙織も食うか?ほれ、あーん』
『ひょえっ!?こんな所で!?』
普段ツンケンしてるのにデレッデレじゃないか清水……これ俺が手伝う必要ある?つーか服装を素直に褒めるのはダメなのにあーんがOKなのはどう言うことだよ。あれか、幼馴染み特有の距離感ってやつか?
………俺も四条にあーんしたい。ダメ元でやってみるか?
「なぁ、四条。俺達も焼きそばとか——」
「あっ!わたあめだ、懐かしいなぁー!」
それ以前の問題だこれ。でも可愛いから問題ないな、
気を取り直して攻めて行こう。良さげな雰囲気になったらいっそここで言っちゃうか?
が、その後も――――――――
「四条、あそこのお店の」
「あっ!?りんご飴!今なら一つ食べ切れるかなっ」
⌛︎⌛︎⌛︎
「なぁ、あそ「楽器の演奏だって!聞きに行こ!」
会話の糸口すら掴めない。もしかして避けられてないか俺?あまりにも情けなさすぎて愛想尽かされちゃったのかなぁ……?ううっ、自信無くなってきた。
⌛︎⌛︎⌛︎
『ちょっと瑠璃、何やってんのよー。流石にあれは露骨すぎるよ、見なさいアレ!捨てられた子犬かってレベルの顔してオロオロしちゃってるじゃない』
『だってだってぇ!不安と緊張でどうにかなっちゃいそうだよぉ〜!』
『大丈夫だって、自信持ちなさい!アレ相手に変な態度取ってると、あらぬ誤解されて取り返しつかなくなるよ!もう既に馬鹿なこと考えてる顔してるよ?』
『ううううっ……分かった、ちょっと向こうで頭冷やして来るね……』
あれ……四条がどっかに離れて行ってしまった。やっぱり嫌がられてるのかなぁ。
「高橋ー、光から話は聞いてるよ。上手いことやってあげるから、男見せなさいよ」
「でも何か避けられてる気がするんだけど俺」
結局ほとんど話しかけられてないし。
「そんな事ないわよ、照れてるだけ。今少し頭冷やして来るって言ってたから、大丈夫よ」
「本当か?ありがとう清水、頑張るよ」
よし、このくらいピンチのマウンドに比べたらなんて事ないさ。なんだか行けそうな気がする!
「あれっ?四条さんはどうした沙織。……さては晴樹ぃ、お前やらかしたな?そんで気まずくなグボァッ!何すんだよ沙織!!」
あれ、やっぱり無理かもしんない。大人しく帰ろうかな俺………。
「余計な事言うなこのバカ!!!これで上手く行かなかったらあんた本当に許さないからね!?」
「えっ何が!?何で沙織はブチ切れてんの?助けてくれ晴樹っ!」
「いや無理だわ。じゃ俺四条迎えに行って来るから頑張って生き延びてくれよな」
怒った清水マジこえーんだもん。アレを止める勇気は俺にはない。ってか、何だか清水が親指立てて『上手くやってこいよ』って視線を送ってきてる気がする。
そう言うことか、ありがとう清水。そして光、お前の犠牲は無駄には『助けて晴樹ー!!』お前の事は忘れないよ。安らかに眠れ。
さぁ、覚悟を決めて四条を迎えに行こう!




