表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/50

35.あの日から


『エース君はさ、どっしりとベンチで構えてなよ。君を温存出来るように僕達が頑張るからさ』


少し挑発的ともとれるような態度で、市川が俺に話しかけてくる。


「はは、大きく出たな?それじゃあ決勝戦ぐらいまで期待しちゃおうかな?」


それに対して俺も軽口で返す。実際のところ、1番をつけているからこいつより上などとは思ってはいない。都合上1番は1人しかいないだけで、左右1人ずつのダブルエースで勝ち上がるチームは少なくない。


「まぁ、僕達があまりにも目覚ましい活躍をしちゃってさ。高橋君の登板の機会がなくて来季は僕がエースになっちゃうなんて事もあるかもね?」


「何かあったら心配だからな。俺も初回からブルペンで肩作っておこうかな、エースがプルペンで準備してたら相手も焦るだろ」


少し意趣返しをしてみる。お互い本気でそんな事を思ってるわけではないので、からからと笑い合う。まぁ、猛アピールの機会を狙ってるのは本当だろうけどな。


「まぁ、冗談はさておいてさ。何故だか君が星道相手に並々ならぬ執念を燃やしてるのは見てて丸わかりだからね、さっきのは本心だよ。チームとして去年の雪辱を晴らしたいとか、そんな所かな?エースだった古谷先輩とも親しかったみたいだしね」


個人的な因縁とかもあるのだが、概ね間違いではないので首肯する。


「だからさ、お膳立て……って言ったら負けを認めてるみたいで癪だけどね。君は決勝戦に向けて力を蓄えておくと良い。万全な状態でぶつかりたいからさ」



その宣言通りに、続く2.3回戦では気迫の投球で無失点。準決勝で俺と交代した後も、ランナーをほとんど出さず綺麗に締めくくった。

俺とは違う方向で、あいつも燃え滾っているようだ。まぁ、来週の決勝戦では他の誰かにマウンドを明け渡すつもりはないほど俺も燃えているけどな。


まずは勝負の舞台に無事たどり着くことが出来た。後は、全力でぶつかるだけだ。早くも気持ちの昂りが抑えきれず、落ち着かないでいると………。


ピコンッ


(ん、メッセージの新着通知……?誰だろ…四条?)


四条からのメッセージだった。今日の試合でライトに下がった時、偶然外野寄りの席に居る四条を見つけた。らしくないと思いながらも手を振った所、真っ赤に照れながら手を振り返してくれた事を思い出して自分の顔が熱くなるのを感じた。


【明日の夕方、バッティングセンターに来れないかな?少しお話ししたい事があるの】


そんな内容のメッセージ。元々まっすぐ帰るつもりだったが、お誘いがあったなら行くしかない。


【うん、良いよ。元々行くつもりだったしね】


わざわざ俺が予定を変えたなんて言ったら、彼女はきっと申し訳なさを感じてしまうだろう。それならこの方が印象がいいだろう。


ん……?でも、なんで俺ってばこんなにメッセージ1つに気を使ってるんだろう……?


女の子とやり取りしたことがそんなにないからかもしれないが、もっと【おっけー】とか【りょ】とか淡白な返事しか送った事なかったのに、なんでだろう。


まぁ、いっか。何の話か分からないけど、大事な話ならしっかり考えられるように今日は寝よう。



翌日の夕方。バッティングセンターに顔を出した俺は『ごめんね!ちょっと長引いちゃってて、すぐ終わらせてくるから!』と言って仕事に向かう四条に


「慌てなくていいよ。バッティングでもして待ってるからさ」


そう伝え、のんびりと過ごしながら四条が来るのを待った。


30分ほどした頃だろうか?自販機でスポーツドリンクを買い、ベンチに座りながら休憩していると声をかけられる。


「ごめん、お待たせしました!さ、帰ろっか!」


なんだ?今日の四条は少し様子が変な気がする。変に元気を出そうとしてるような、緊張してるような……気のせいかな。


「そう言えば、今日は髪型、いつもと違うんだな。なんか新鮮だ」


そう、今日の四条は髪型をポニーテールにしていた。控えめに言って、めちゃくちゃ可愛い。


「か、可愛いって……あ、ありがと…もしかして、ポニーテール好きなの?」


え?もしかして声に出してたのか俺?恥ずかしすぎる。まぁ事実だから否定しないんだけど。


「うん、正直一番好きな髪型かも。あ、でも普段の四条も好きだよ……って、四条?どうし……っ!」


みるみる内に顔が茹で上がっていく四条。


「す、すすす、好きって…!」


「ちがっ、そういう意味じゃな……普段の方が似合ってるよって言いたかっただけで………!」


「そっ……そうだよね。高橋君がそんなこと言うわけない、もんね…」


あれっ……なんか急にショボーンって効果音が聞こえてくるんじゃないかってくらい沈んじゃったけど……な、なんか悪いこと言ったかな………?



俺の失言から、なんだか気まずくなってしまったまま、以前話をした公園に差し掛かる。


なんとなく無言のままブランコに座って数分間ブラブラとしていただろうか?四条が立ち上がって目の前に立ったので、俺も漕ぐのをやめ、立ち上がる。


「…………あ、今日って何か話あるんだよな?何か困りごと?俺で良ければ、相談に乗るよ」


もしかして、恋の悩み?試合会場で、誰かに一目惚れしちゃったから、野球繋がりで連絡が取りたいとか………まさかね。


「困りごと……って、言うのかな。あの、恋愛…相談に、なるのかな」


えっ、まさかのビンゴ?野球部のツテで知り合いたいとか?………なんで今少しイラッとした?


「そ、そうなんだ。好きな人…ってこと?どんな人なの?」


「うん…えっとね、その人は凄く優しくてね、誰よりも大切な物に真摯な人なの。


でも、その分自分の事には疎くて、少し繊細で。


自分の傷より誰かを助ける事を選んじゃうような人。


大事な人に裏切られても、その傷を乗り越えて進もうと頑張る、とても強くてカッコいい人」


顔を赤く染めながらも、真っ直ぐに俺を見つめる綺麗な瞳に、吸い寄せられてしまう。


(まさか、四条の言う好きな人ってのは……)


今更になってようやく気付いた俺に、四条は


「あなたの事だよ、高橋君。私は、四条瑠璃は。


君のことが、好きです。あの日、いじめから助けてもらったあの時から、ずっとずっと、高橋君の事が大好きでした。


辛い出来事も乗り越えようと頑張る君をみて、前よりもっともっと好きになってしまいました。



私と…………付き合ってください!」



全てを変えるかもしれない告白を、振り絞った思いを、俺に伝えてきた。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 告白キタ━(゜∀゜)━!!!!! 早く次回が読みたい!
[良い点] うおおお!! ついに言った!! どうする!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ