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33.夏大会開幕


監督達からの呼び出しと、突然のエース宣言。

その後の全体練習が終了した後のミーティングの中で、事情も踏まえて監督から説明があった。


元々3年生には説明があったと言う事なので、表面上は落ち着いている。同級生達は、多少ざわついている物の、どちらかと言えば怪我の程度や登板の有無に付いての心配の声が多いようで、少し安心してしまった。


だが、ミーティングが終了し、帰り支度をしていると樋口先輩を含め数名の先輩に囲まれる。

これはもしや、漫画でよく見る吊し上げの展開か!?などとビクビクしていると………。


「よう、高橋。エースナンバーを背負った気分はどうだ?って、まだ投げてないから気分も何もないか?ははは!」


「まぁ、それはそうですけど………でも、重いな、と思います。みんなの思いに応えられるように、精一杯やるだけです」


「おいおい、気負いすぎるなよ?お前が変なプレッシャーを受けないように、俺達が大量得点して楽に投げさせてやるからな!」


「頼りにしてますよ、先輩!……簡単に失点するつもりは有りませんけどね!」


「頼もしいな。そんだけの事が言えるなら心配なさそうだ。俺達3年は泣いても笑っても最後の夏だ。悔いの残らないように全力でやり切る。よろしく頼むぞ、エース!」


「はいっ!」


他の先輩達も、口々に激励の言葉をかけてくれたり、優しげに肩を叩いたりして帰って行った。

さっきまで、不満や恨み言の一つも言われる物かとビクビクしていた事が少し恥ずかしい。

そうだ、この信頼には投げることで報いないといけない。いちいちこんな事でビビってるんじゃねーぞ、俺!



そして、エースナンバーを背負って初めての夏が始まる。


――――――――――――――――――――――――




試合当日。ウチの高校は、今日の第3試合に1回戦が行われる。朝一の第1試合を行うのは、星道高校。


あまり目先の相手以外に注目するのは褒められた物ではないが、否が応でも意識させられてしまう。地区同士のライバル。かつての相棒。そして、あの男のいるチーム。絶対に負けたくないと言う思いが吹き上がる。


自分達の試合までまだ時間があるが、早めに球場入りした俺達はスタンドでその星道の試合を観戦している。事前に用意しておいた大会の冊子を確認し、星道のベンチ入りメンバーと背番号、スタメンを照らし合わせる。すると、ナイスタイミングで選手紹介のアナウンスが入る。


《………3番、キャッチャー、真中君。背番号2》



流石はあの光だ。2年生ながら既に正捕手の座を射止め、声を張り上げてシートノックの指示を出している。打順もクリーンナップを打っており、チームの要となっているのだろう。親友として誇らしく思うべきか、強力な敵だと歯噛みするべきか。



そして…‥あの男は。グラウンド上には見当たらない。と言うことはスタメン、レギュラーではないのだろう。冊子を確認すると……いた。


【天城隼人 背番号10】


エースナンバーこそ付けていない物の、2番手として登録されている。複数の女にかまかけながらもベンチ入りを果たす辺り、実力は未だ健在らしいな。腹立たしいのか、リベンジの機会が得られそうで嬉しいのか、複雑な気分だな。


『プレイボール!』


そんな事を考える間に、試合が始まった。さぁ、どんな試合を展開する?じっくり観察させてもらうぜ、光!





結果から言えば、圧勝だった。星道は7回コールドで1回戦を突破した。エースナンバーをつけた左投手が、強豪ではないとは言え相手打線に付け入る隙を与えなかった。

オードソックスな左スリークォーターで、最速144kmの直球とスライダー、チェンジアップを駆使する。光のリードも手伝い、打者は的を絞れない。



そして、7回裏。打席に立った光は、何かを狙うように粘っていた。そして、何球目かの外角高めストレートを、綺麗にレフトスタンドへ運び、サヨナラホームラン。


ベースを回る光が、俺の方を見た気がする。そして、ニヤリと野性的な笑みを浮かべる。


(ヤロォ………わざわざ狙いやがったな、あのホームラン……!)


光が打った、あの球。あれは光が以前苦手としていたコースのはずだ。それをわざわざ狙い打って、苦手を克服したぞとアピールをしたと言うことか。やってくれる。


(苦手な物はそのままにしないって言ってたもんな。有言実行して宣戦布告か?見とけよ、俺も以前とは違う)



さぁ、俺達の1回戦が始まる。まずはこの試合を完投して、チームを勢いづけてやる、そんな決意をしながらプルペンに向かい、アップを始める。


「ナイスボール!今日も直球が走ってるな。まず1回戦、気負わず投げろよ」


「そんなこと言われたら、余計緊張しちゃいますって」


そう言いつつも、コンディションは良好だ。初回からバッチリ抑えて、インパクトを与えてやる。


マウンドに上がり、主審の掛け声で試合が始まる。

昔、テレビで何度も聞いた試合開始のサイレン。それを1番を背負ってグラウンド上で耳にできた事に高揚しつつ、第1球を………!


『ストラーイク!』


外角低め一杯にビシッと決まる。よし、絶好調。

多分、相手の打者はボールが目で追えていない。1人のランナーも出さず、27人で試合を終わらせる。そのくらいの気持ちで投球を続ける。そして……



『ゲームセット!』



………うん。コールド勝ちになってしまった。先輩達、めちゃくちゃに打ちまくるもんだから、5回でコールド。一応、ランナーは出してないけど……完封勝利とは、なんか違うよな。


「出来るだけ楽に投げさせてやりたいと思ってな、ついつい張り切りすぎた!多少失点したって、取り返してやるからな!次も勝とう!」


9回投げ切るぜ!なんて思っていたのが先輩達を信頼していなかったようで恥ずかしい。ま、まぁ普通に勝つより勢い付いただろうし、負担を減らしてやると言う気遣いは素直に嬉しい。


比べるもんじゃないけど、お前らより早く試合を終わらせてやったぞ。打席でも一応3安打3打点を記録している。ホームランは打ってないけどな。


負けねえぞ。スタンドの光に、そんな意趣返しの意味を込めて目線を送る。バチバチと2人の間に火花が散る様子が見えるようだ。


さぁ、決勝戦まで後3つ!全部コールドで勝ち上がるくらいの勢いでやってやる!




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― 新着の感想 ―
[良い点] こういう作品好きです [気になる点] 面白くて一気に呼んでみたんですが元カノが思いのほかクズでしたね 主人公がどういう風に解決?するのか楽しみです [一言] 野球のことはよく分からないんで…
[一言] 主人公が甲子園に出場・活躍してスターになったら、「野球に集中して結果を出すのをずっと我慢して待ってたよ。もういいでしょ、また付き合おう。」などと、幼馴染みは、しれっとよりを戻そうとするのでは…
[一言] 環境がエースを育てるからね。いい先輩に恵まれたといえるでしょう。でも全試合投げるわけにはいかんので市川(だっけ)や他の投手の先発もありそう。あんまり入れ込みすぎないように。 天城との勝負にな…
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