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32.突然すぎる


先輩からエースとはなんぞや?という問いかけから、自分の目指すエース像の様を考え始めた俺。

思い付いたのは良いが、どう実行していけば分からない。


逆に考えよう。俺は、中学生の頃どんなふうに試合に臨んでいただろうか?…………覚えてない。て言うか、ただ全力で楽しんでいただけの様な気がする。それで良いのか、俺。


……ま、まぁマウンドにいる投手が明るいってのは、良いことだよな……?うん。とりあえず元気に声出して行こう。頑張って練習してるやつを見て嫌な気分になるやつは居ないだろうし。



それから数日後。突然、監督の元に呼び出しを受けた。え、なになになに!?俺なんかやらかしたのか!?テストの点数………は低かったけどいつもの事だし……いや流石にヤバイってことか…?


「呼び出される様な心当たりがねぇぞ……!やっぱ怒られんのかなぁ……」


それとも張り切り過ぎでウザいとか先輩方に言われたんだろうか。うーん、考えても仕方ない!とりあえず突撃しよう!そんで潔く謝ろう!


コンコン。ノックをするとすぐに『どうぞー』と返事があったので、入室して扉を閉めるが早いか頭を下げる。


「失礼します!そして、すいませんでした!!」


…………あれっ?何も言われない。呆れて声も出ないほど怒ってるんだろうか。おそるおそる顔をあげると………苦笑いしている監督の姿が。


「……ぷっ。あははは!いきなり何を言い出すのかと思えば……何やらかしたんだお前?」


「いや、特に心当たりはないですけど!てか何で浅倉先輩がここに!?」


何故か浅倉先輩もいる。めっちゃ爆笑してる。そんな笑わなくても………。


「………そろそろ本題に入っても良いか?お前たち…」


「「ごめんなさい!!」」



「それで、今回呼び出した理由についてなんだがな…………」


………ゴクリ。


「お前、今年の夏から1番つけろ。背番号1。エースナンバー。OK?」


んっ?何か今変なこと言われた様な気が。俺が背番号1を付ける?エースナンバーね。はっはっは。気のせいだよな。


「ってエースッ?俺が!?だっ、だって浅倉先輩は……他の人は!?」


「落ち着け、それを今から説明する。そのために俺も呼ばれてるんだ」


浅倉先輩………一体、どう言うことなんだ?


「高橋。俺は……この夏、投げられない。いや、ほとんど先発出来ないと言った方が正しいかな。肘の怪我が少し、な……」


「そう言うことだ。ドクターストップまでは行かなかったが、精々が一試合20〜30球程度。痛みが酷くなれば即交代。それがマウンドに上がる条件だ」


って事は……多くても2回?1試合2イニングしか投げられないのか?浅倉先輩が……!?


「おいおい、お前がショック受けてどうするんだ。だから聞いたろ?エースについて」


まさかあの質問はこの為……?自覚を持たせる意味で………?


「いや…だって、他の選手は……先輩達が納得しないでしょう!?」


「いや……この件について3年は全員納得してるよ。つーか、先発出来ない俺がエースの方が納得いかないだろ。自他共にさ」


「それに、浅倉は抑えの経験の方が多いからな。後ろにいた方が安心感があるだろう?……少し強引だがな」


確かに一理あるけど……理解が追いつかねえ!


「最近、みんなやけにバッティングに力入れてただろ?秋季大会で援護してやれなくて先輩として不甲斐ないって、張り切ってたんだ。今度は後輩に気負わず投げて欲しいって。だから、頼む」


監督は、先ほどからあまり口を挟まず、席で見守ってくれている。使える事は伝えた、後は俺の覚悟次第。そう言う事だろうか。


それに、自分だって悔しい筈なのに、頭を下げてまで浅倉先輩はこう言ってくれている。


ここまで言ってもらって覚悟を決めきれないようじゃ投手失格だ。


「分かりました!やります。俺がこのチームを甲子園に連れて行って見せますっ!」


もしかしたら、チームメイトは納得してくれても、保護者やその他の関係者には認めてもらえていないかもしれない。それなら、実力で納得させて見せよう。


『やっぱりあいつはエースに相応しかった』


そう言ってもらえるように、結果を残そう。




その夜。俺は複雑な気分で四条にメッセージで報告をした。


【こんばんは。まだ、起きてる?】


【こんばんは!まだ、起きてるよ〜。どうしたの?】


【うん、一応報告なんだけどさ。俺、今年の夏は1番付けて出場するとになったんだ】


【えっ、てことは!エースって事!?流石高橋君だよ!うわ〜凄いなぁ!】


【前までエースだった先輩が怪我しちゃって、その代わりだから手放しに喜べないんだけどね…。それに、周りに認めてもらえてるのか、不安になって】


【それは……。でも、いくらそんな事情があっても、実力や信頼の無い選手に大事なエースは託さないと思う!だから、自信持って!】


【そっか、そうだよな。俺が弱気になってたら、信じてくれる人に失礼だよな】


【そうだよ!私だって信じてるからね!また応援に行くからね^ ^ 】


【えっ、また?俺の出た試合、見たことあるの?】


【あっ、しまった!……実は秋季大会見に行ってたんだ。邪魔したら悪いと思って、声かけなかったんだけど】


【邪魔なんてとんでもないよ。寧ろ、嬉しい。けど、それじゃ打たれてカッコ悪いところ見せちゃったな。】


【そんな事ないよ。もちろん、勝った方が嬉しいけどね。でも、私は頑張る貴方を応援したかったの。初めて見たマウンドの姿、凄くカッコ良かった】


【えっ……?四条、それって……】


【深い意味は無いからねっ!それじゃ、おやすみなさい!頑張ってね!(๑˃̵ᴗ˂̵)】


【う、うん、おやすみなさい】


唐突にやりとりが終わってしまった。……ってか、可愛いな、顔文字。メッセージだとまた違う印象を受けるな、四条は。


面と向かってないからなのか、いつもより直球気味で照れそうな事を言ってくるんだよな。








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― 新着の感想 ―
[良い点] 自分と違う人生を仮想体験することも、小説を読む楽しみ。 エースとしての自負と不安とはどんなものなのか? 面白く読ませていただきました。
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