29.親と
ご指摘が有りましたので、報告をば。
前話の中で元カノ達の会話をほんの少し加筆しました。
もうすぐ、年が明ける。流石の野球部と言えど年末年始くらいは普通に過ごせるようだ。その分、年内最後の週のトレーニングは数段に濃い時間を過ごしたが。流石の俺も時々笑顔が消えたし、来年もう一度お楽しみが待っていると考えると真顔にならざるを得ないほどに。
雪が降っている事もあり、珍しく俺は何をするでもなく自分の部屋でゴロゴロと身体を休めていた。いつもなら、年末特番や紅白なんかを見たりしながら過ごし、眠気と戦いつつも年越しの挨拶と蕎麦を楽しんでから初詣へ。そんな過ごし方をしていたのだが…………
「何だろうなぁ……TV見てもそんなに面白くないし、初詣にも行く気にならないんだよな…」
理由は分かっている。が、敢えて口に出して自分を誤魔化す。例え懐かしむような事でも、思い出したくないからだ。
『晴樹〜!降りて来ないのー!?お笑い番組やってるわよ〜?』
母さんが俺を呼ぶ声が聞こえる。勘違いされてるのかも知れないが、別にお笑いがそこまで好きなわけじゃない。ただ、あいつが好きな番組だったから見ていただけで、今となっては気にもならない。
「別に良いや、年末の練習で疲れちゃった。初詣も多分行かないよ。蕎麦とかは、明日起きてから食べようかな」
そう伝えると、階段を登ってくる音が聞こえる。
「晴樹、あなた何かあったの?初詣だって、毎年欠かさずに行ってたじゃない。あ、さては……美香ちゃんと喧嘩でもしたな〜!?それで気まずくなってるんでしょ」
ぐっ………!我が母親ながら的確に傷を抉ってくるじゃないか……!いや、話そびれてた俺も悪いんだけどさ。なんか、仲のいい親同士にそんな話伝えるのって、気まずくないか?
「母さんには話してなかったね。実はさ……」
俺から一通りの事情を聞いた母さんは、直立不動のまま動かなくなってしまった。ちょっといきなり全部話すのはやり過ぎだったかな………?
でも、向こうが話してるかどうかは知らないがいずれ親同士のやり取りの中で伝わってしまう。それなら包み隠さずに話しておいた方が気持ちの整理もつくだろう。とはいえ、長い。気絶してるのかと思うほどに硬直してる…俺よりショック受けてない?
「おーい、母さーん、生きてるかー?」
「……ハッ!?私の可愛い息子が、クソ女に浮気されて傷付く夢を見てたわ…!」
いや、それ現実。てか、クソ女て。否定できないけどあの優しい母さんがそんな罵倒するとは…やっぱり混乱してるな。
「そう言うわけだからさ。お笑い見る意味も、初詣行く相手も居ないんだよ」
「それ………いつ頃の話なの?つい最近の話でしょう?」
「夏季大会が終わった直後くらいだから……4ヶ月前ぐらいかな。部活もないのに真夜中に帰ってきた事あったの、覚えてる?」
「覚えてるわ。夕方頃、買い物か何かに出て行った時でしょ?あの頃にあなたの様子が変だったのは、そのせいだったのね……。ごめん、そんな事になってるなんて思わなくて。無神経な事聞いちゃったね」
知らなかったんだから、そんな勘違いするのもしょうがない。そんな事を考えていると、急に母さんが真面目な顔で話し出す。
「あなたは、私の自慢の息子よ。昔から、好きな事に一生懸命で、誰よりも優しい。無意味に人を傷つけるような事はしないけど、しっかり咎める所は咎める。中学生の頃かしら。いじめを止めたことがあったでしょう?それが最たる例かしらね。その子たちの行動を怒りはすれど、本人や性格を否定するような事は言わなかったのでしょう?
そんな内面をしっかり見てくれる子は必ず居るわ。だから、そんな子が見つかったら、今度は絶対に逃がさないように、しっかり支え、支えられる関係を作りなさい。もし不安があるなら、自分の思いをちゃんと伝えるようにする事。そう言う事を余さず話してもらえると、相手は自分を信頼してくれてるんだって、そう思ってもらえるから。
だから、こんな言い方は酷かも知れないけど、そんな出来事はさっさと忘れて次に進みなさい。晴樹はそれが出来る強い子のはずよ。まぁ、すぐに全部吹っ切れとは言えないけど、変に思い詰めたりしちゃダメ!あくまで、自分自身を持ったまま、変わりなさい。
あ、でも………本当に救いようのない奴ってのは、いるものだから。そう言う相手に変な優しさは要らないわ。そんな子と万が一何か話すことがあれば……遠慮なく本音をぶつけなさい。同情や甘さはお互いの為にならないから」
あっれぇ〜………?途中まで良い話風だったのに、最後だけ急に声のトーン下がっておっそろしく冷えた声なんですけど………!
これは怒らせちゃダメなタイプの人だ。これからも真面目に生きよう……。
「ま、色々言ったけどさ。お母さんは何があっても晴樹の味方だから。野球、頑張んなさい」
「おう!まずはエースナンバー取って、母さんに甲子園で投げる姿を見せてやる!」
余計な心配かけたくないしな。きっぱり言い切って安心させたい。後は俺が裏切らなければ良いだけだ!
「あ、それとね……このタイミングって言うか、今更で申し訳ないんだけど……。そんな話知らなかったから、向こうの奥さん呼んじゃってるのよね」
「ええええーーーー!!マジかよ母さん!」
呼ばれて普通に家に来るって事は多分知らないってことだろ?じゃあ、このまま家にいたら、『最近どうなの〜?』とか、『どこまで進んだの〜?』なんて気まずい会話することになりかねない。
「ごめんね、一応町内の地区も一緒だし、その話から完全に縁切りとかは出来ないと思うの。打ち合わせなんかもあるし、どうしてもね…」
「仕方ないよ。学生と違って自分達の中だけで事が進むわけじゃないんだしね。ご近所同士で揉めたりしたら、風聞悪いだろうし……」
ううむ………仕方ない、一人で初詣にでも行くことにするか…………。




