25.練習試合
それから練習試合までの間。俺はブルペンでの投げ込みと外野手の練習の為、外野ノックへの参加を交互に繰り返した。投げ込みの方はシュートの制球も含め順調に行えているのだが、外野手の方に苦戦している。
当然だが本職の外野手と比べ付け焼き刃の俺では守備範囲に差が出る。足の速さとかではなく、培われた打球勘によるスタートの早さ、落下点を読む能力に打球の追い方。それらの能力がない俺では、際どい打球を追い切れず、投手に不安を与えてしまうだろう。こればかりは、数をこなして感覚を掴むしかないのだ、焦る必要はない。そう監督は言うが……
「最低限、普通の打球を普通に処理するぐらいは出来るようにしておきたいよなぁ」
幸い、地肩の強さと送球には自信があるので、ある程度しっかり捕球が出来ればタッチアップ等の阻止は可能だろう。
だが経験ばかりはすぐにはどうすることも出来ないのだ。出来ないことまで短い期間で為そうとしても、良い結果は産まない。ならば、自分に出来ることを丁寧にこなし、少しでも貢献できる様にした方が良い。今はノックを沢山受けて慣れるしかない。そう結論を出し、先輩達の動きなんかを観察しながらノックに集中した。
打球音やフライの角度から飛距離を判断して走るって、かなり難しいよな………
そして、練習試合の日がやって来た。
『本日は遠路はるばるお越しいただきありがとうございます。良い試合にしましょう』
『これはご丁寧にどうも。こちらこそ貴重な機会をいただきまして……色々と勉強させてもらいますわ』
監督同士がにこやかに挨拶を交わしている。……ように見えるが、実際はバチバチに火花を飛ばしあっているのだろうか。
こちらも練習試合だからと言って負けるつもりはない。まずは全力で投げ、市川に良い状態で繋げるように頑張ろう。
【相手side】
「……ったく、何が良い試合や。心にもないことを……。そんな試合に一年の新人投手を先発させるとか、ウチは舐められとんのか?」
先発投手が1年であることに気づいた相手の監督が、ベンチで悪態をつく。
「期待の新人かどうなのか分からんが………ウチの打線相手に一年坊なんぞ先発させて、打ち込まれて自信失ってしもても知らんで?」
中学ではエースナンバーを付けていたとはいえ、違う地区の新入生。知らなかった………というより侮っていたのは仕方なかったのかもしれない。だが、試合が始まると、ベンチが騒然とし始める。
「おい、あれ本当に一年なんか!?その割にかなりエグい球放っとらんか!?」
「あぁ……俺より速いかもしれへん」
「嘘やろ?一年でウチのエースより速いかもて、どんな化け物やねん」
その動揺に追い討ちをかけるように、晴樹の投球は勢いを増して行く。強力打線を自負する相手は、晴樹の球に的を絞れず、さらにヒット性の打球も好プレーに阻まれ得点に繋がらない。どう打ち崩せば良い?球種を絞って狙うか?そんな事を考えていると……
『選手交代!ピッチャーを市川に。高橋はライトへ入ります』
ここまで苦戦している投手を下げ、また別の一年投手に交代……?とことん舐められているのか、こちらは?打ち崩せていないのだから、何も言えないが。だが、新しい一年投手は平凡な印象を受けた。
これならここから仕切り直して勝てるだろう。が………
「さっきの投手よりは遅いから打てそうとか言ってたやつ誰や」
「お前やろが!こっちの投手のクロスファイヤーもほんまヤバいわ」
「しかもプレート踏む位置を変えて角度に幅を持たせとる」
晴樹とは違う、技巧派と呼べる市川にも翻弄され、凡打の山を築く。お互いに1点を争う投手戦の膠着状態はパスボールによって破られ、それが決勝点となった。
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『いやはや、今年の青城さんはとんでもない一年生が入りましたな。あれだけの逸材、さぞ育てがいがあるでしょう』
『いやいや、そちらこそ。そちらの選手の打球の速さには何度もヒヤッとさせられましたよ。なのに決して攻め一辺倒ではありませんでした』
攻撃力が売りのチームだと聞いていたが、守備力が低いと言うことは無かった。細かなミスはあるものの、常に明るくカバーし合って守り切る。大阪らしいと言う言葉が似合うようなチームだった。
すると、相手チームのエースと思われる人が話しかけて来た。
「お前ら、一年なのにええ球投げるな!めっちゃ驚いたわ!しかも楽しそうに野球するもんやから、俺も昔を思い出して懐かしくなったわ。また試合できるのを楽しみにしてるで!まぁ地区が違うからお互い甲子園に出場せな戦えんがな!お互い頑張ろな!」
そう言って彼は去っていった。練習試合とは言え、負けても笑顔で相手を認めて次に進む。そんな姿に好感を覚えた。
バスに乗り込み、帰っていく彼らを見送りながら今日の投球を振り返る。
全体的に球は走っていたし、何より常にストライクが先行してテンポ良く投げ込む事が出来た。何度かバックに助けられたお陰でもあるが、無失点で市川に繋げたのは上出来過ぎるだろう。
打席では相手のフォークを引っ掛けてイイトコ無しだった上、後半の守備ではバンザイかましてめちゃくちゃ恥ずかしかったが………。
某ウィルスのせいで溜まっていた仕事が一気に……
投稿できない日があるかもしれません。大変申し訳ない!




